前稿では、卵子の成熟の一般論についてお話しいたしました。
では、穿刺卵胞あたりの卵回収率や、卵の成熟率がよくない場合は、どうしたらよいのでしょうか。
 
卵胞があり、きちんと穿刺できたのにもかかわらず、卵子が回収できないことを「空胞」といいます。
ここで注意したいのは、空胞とは、あたかも「卵子がなかったので取れなかった(カラだった)」という表現に聞こえますが、超音波では卵子があったかなかったか判断することはできませんので、「卵子があったが、何らかの事情で取れなかった」も「卵子がなかったので取れなかった」も、どちらも空胞といいます。この点を勘違いされている方がかなりいらっしゃいますのでご注意ください。なお、いつも卵子がとれない状態の方のことを空胞症候群(empty follicle syndrome)と言ったりします。
 
卵がとれない主な理由としては、
①そもそも穿刺したものはcyst(嚢胞)であり、卵胞ではなかった
②卵胞ではあったが、卵子や卵子のまわりの細胞(顆粒膜細胞)の成熟に難があり(未熟あるいは過熟)、それにより卵が得られなかった
③卵巣が遠くてうまく卵巣に針が刺さらないなど、採卵の技術的な問題(卵胞のはじっこにしか針が到達しない等の場合は回収率が下がる)
の3つが主に考えられます。
 
実際に卵がとれなくて原因がはっきりせず、問題になるのは②が大半と思われます。穿刺卵胞あたりの卵回収率が悪いのも、卵の成熟率が悪いのも、原因としては似たようなことが起こっている可能性が考えられますので、基本的には卵の成熟率対策を実施します。
 
対策は主に3つあり、
①まずは、卵胞の成熟(卵子や顆粒膜細胞の細胞質成熟)を促す意味では、卵胞が大きくなってからトリガーを打つ(通常は18mmくらいでhCG注射をするところを、20mm、25mm、場合により30mm以上でhCGを打つ)ことが大切です。ただし排卵しないよう、しっかり抑えて行く必要があります。
注意したいのは、月経から何日目にトリガーを打つのかが重要なのではなく、卵胞の大きさからして、トリガーのタイミングはどうなのかという部分が重要ということです。(たいてい有効)
②トリガーの種類ですが、成熟させる力が強い順に、ダブルトリガー(hCG注射+GnRHa点鼻)>hCG単独>GnRHa点鼻のみ となりますので、アンタゴニスト法、低刺激、自然周期の場合は、ダブルトリガーにするのが基本です。(たいてい有効)
③トリガーから採卵の時間を延ばす(たいてい有効)
④ミオイノシトールの内服。卵成熟率のためには1日4gの内服が推奨されます(たいてい有効だが人による)
⑤トリガーから採卵までの間の約36時間の間にもう一度ダメ押しのトリガーをやっておく(ブースター)(中には効く人もいる)
⑥採卵時の針の太さや吸引圧を変える、あるいは自動吸引器ではなく手動吸引してみる(効果ははっきりしないことが多い)
⑦その他、卵巣刺激を変更したり、HMGの薬剤の量や種類、トリガーもhCGやGnRHa点鼻だけでなく、リコンビナントhCG、GnRHaの注射等があり、その組み合わせや量はさまざまです。このような工夫・試行錯誤の中で、それぞれの勝ちパターンを見つけていくことになるわけです。
(有効性についての最後のカッコ内の記載は筆者の主観です)

すぐに効果が出る方が多い一方、なかなか成熟卵が得られない方もおられますが、色々試す中で答えにたどり着いた時の「やったぜ」という思いは、何物にも代えがたいものがあります。リプロダクションクリニックには、たくさんの治療の選択枝の引き出しがありますので、成熟卵が取れなくてお困りの方は、ぜひ一度当院での治療をご検討ください。
 
卵子の成熟については、いったん「完」となります。今後も、知りたいが、どこかに書いていそうで書いていない内容を、お送りしていきますので、お楽しみに。