今日はあまりなじみがないと思われる、排卵誘発における low dose hCG療法についてお話してみます。

 

だいぶ以前の記事(「u」の正体(HMG製剤とFSH製剤))で、排卵誘発剤の注射には大きく分けて2種類あり、HMG製剤とFSH製剤に分類されることを書きました。

 

要約して再掲すると、HMGとは、Human Menopausal Gonadotrophin の略で、直訳すると、ヒト閉経期ゴナドトロピンです(閉経後ヒト尿を精製して製造)。つまり、HMGという言葉は、その製造方法からのネーミングということになります。HMG製剤の成分はFSHとLHであり、その割合は製剤により異なります。例えば、HMGフェリング・HMGあすか(旧名称HMGテイゾー)は、FSH:LH = 1:1、HMG「F」(当院ではHMG富士と記載)は、同 = 1:1/3、uFSHあすか(旧名称ゴナピュールは)、1:<0.0053、フォリルモンPは、1:<0.0003です。

 

上記排卵誘発剤を総称として(広義の)HMG製剤と呼ぶこともあれば、その中で特にLHが多いものを(狭義の)HMG製剤、LHがほとんどないものをFSH製剤と呼ぶこともありますので、HMGと言ったときにどちらを示すのかは文脈から判断することになります。すなわち、フェリング、HMGあすか、HMG富士はHMG製剤、uFSHあすか、フォリルモンは、本来はFSH製剤と呼ぶがHMG製剤と総称してしまうこともよくある、と言った形です。

 

一方で、ゴナールエフは、尿由来製剤ではなく、リコンビナント製剤(遺伝子組み換え型製剤)であり、これはリコンビナントFSH製剤(rFSH製剤)と呼びます(これに対して、uFSHあすかや、フォリルモンは尿由来ということでrFSHと区別する場合は、uFSH製剤と呼ぶこともあります)。生殖医療を専門とする医療従事者がゴナールエフまでHMG製剤と呼んでしまうのは不正確なのですが、実際には説明の複雑さを避けるためにHMG製剤の総称に含めてしまうこともあります。

 

HMG製剤の〇〇単位というのは、成分の量ではなく、同じ体の反応=同じ単位数、というのを目指したものであり、LHの含有割合等が違う薬剤だが、150単位ならどれを使っても大体同じ効き目になるように設計されている・・・はず、なのですが、ゴナールだけはどういうわけか別で、効き目が他の薬剤と比べて1.2~1.5倍くらいあります。薬価は少し高いのですが、その分効き目も強めとなっており、単純な比較はできないので、一概に150単位というだけではなく、rFSHの150単位なのか、HMGの150単位なのか、uFSHの150単位なのか、本来はちゃんと区別して考える必要があります。

 

ところで、LH含有HMG製剤のLHは、閉経後ヒト尿にもともと入っているLHが入っているのですが、昔はuFSH製剤にhCGを敢えて混ぜて注射をする方法をとることがありました。HMG150単位~300単位に対してhCGを50単位あるいは100単位程度の割合で毎日注射するものです。トリガーとしてではなく、排卵誘発としてhCGを注射するという方法が存在したのです。これは、普通にHMGを注射をしてもなかなか育たないような場合に使われたようです。

 

この流れを汲むHMG製剤がHMGフェリングです。他のLH含有HMG製剤は、もともとの閉経後ヒト尿のLHでLH活性を確保していますが、HMGフェリングだけは、一度精製によりLHをある程度排除してFSH製剤に近い状態にした上で、そこにhCGを混ぜて製造しています。LHよりもhCGのほうが半減期が長いため、安定してLH活性を維持できる面があります。実際にHMGフェリング300単位を毎日注射をしている方に対してhCG濃度を測定すると、2~3 mIU/mL程度の濃度を示します。自然周期系のクリニックや、duo stim推しのクリニックからは、「排卵誘発にhCG残存などもってのほか」などと嫌われ者のhCGですが、程度問題ではありますが、実はこの程度の濃度ならむしろ排卵誘発に有用な可能性もあるのです。ですから、前回の周期が採卵で、採卵前のトリガーのhCGが血中に若干残っている状態で月経を迎えて連続採卵しようという場合でも、2~3程度ならまず問題にはなりません(実際には遅延法に移行してhCGが下がるまで一応待つことが多いですが)。

 

なお、HMGフェリングの登場によりlow doe hCGの必要はほとんどなくなったため、稀に見聞きしますが、今なおlow dose hCG療法を行っている施設は、ほとんどなくなりました(当院でも行っておりません)。

 

ということで、今日は、low doe hCG療法についてお話しました。次回もお楽しみに!