このブログについて
高齢親の囲い込みとは、認知症や要介護状態にある親について、一部の家族が「親を守る」という名目で、面会、連絡、医療・介護情報、財産管理、施設との連絡窓口を独占し、他の家族を遠ざけていく状態をいいます。
親を守ることは大切です。
しかし、その言葉が、親本人の意思を見えにくくし、家族を排除し、情報や財産の出入口を一人が握るために使われるなら、それは保護ではなく支配に近づきます。
このブログでは、高齢親の囲い込みを、個人批判ではなく家族内支配の構造として考え、親の尊厳と家族関係を守るために何が必要かを考えていきます。
第20回 施設・病院が一人の家族の説明だけで判断する危うさ――介護・医療現場に求められる慎重な視点
高齢親の囲い込みは、家族の中だけで完結する問題ではありません。
親が施設に入所している場合。
病院に入院している場合。
ケアマネジャーや介護サービスが関わっている場合。
成年後見人や専門職が関わっている場合。
そこには、必ず外部の人が関わります。
本来であれば、外部の専門職が関わることで、親本人の生活や意思、財産管理、家族関係について、一定の透明性が生まれるはずです。
ところが、現実にはそう簡単ではありません。
施設や病院が、窓口になっている一人の家族の説明だけを聞き、その説明を前提に対応してしまうことがあります。
「この家族が主に介護している」
「この家族が入所手続をした」
「この家族が費用を払っている」
「この家族がいつも連絡してくる」
「この家族が親本人の意向を説明している」
そのため、施設や病院は、その家族を中心に対応しやすくなります。
もちろん、現場には現場の事情があります。
施設や病院は多忙です。
個人情報保護にも配慮しなければなりません。
家族間の対立に巻き込まれることを避けたいという事情もあります。
親本人の安静や安全を守る必要もあります。
ですから、施設や病院を一方的に責めることはできません。
しかし、それでも考えなければならないことがあります。
一人の家族の説明だけで判断してしまうと、他の家族との関係や、親本人の本当の意思が見えなくなることがある、ということです。
1 窓口になっている家族が、必ずしも中立とは限らない
施設や病院にとって、家族の窓口が一人に決まっていることは、実務上は便利です。
連絡がしやすい。
説明がしやすい。
緊急時の判断を仰ぎやすい。
書類や費用のやり取りもしやすい。
そのため、自然と「この人が家族の代表なのだ」と見られることがあります。
しかし、高齢親の囲い込みでは、この「窓口」が問題になります。
窓口になっている家族が、本当に親本人の利益を中心に動いているとは限りません。
もちろん、本当に親のことを考えて、一生懸命対応している家族もいます。
介護の負担を背負い、施設や病院との連絡を担い、親の生活を支えている家族もいます。
その努力は尊重されるべきです。
問題は、窓口であることを利用して、他の家族を排除する場合です。
親に会わせない。
親の状態を教えない。
施設や病院の情報を共有しない。
他の家族からの問い合わせを拒む。
「親が会いたくないと言っている」とだけ説明する。
自分に都合のよい情報だけを施設や病院に伝える。
このようなことが起きると、窓口は単なる連絡係ではなくなります。
親と外部世界をつなぐ出入口を、一人で握る存在になります。
施設や病院は、そのことに慎重である必要があります。
2 「親が会いたくないと言っている」は、慎重に扱うべき言葉
高齢親の囲い込みで、特によく使われる言葉があります。
「親が会いたくないと言っています」
「親が嫌がっています」
「親が混乱するので会わせられません」
「親の体調に悪いので連絡しないでください」
これらの言葉は、一見すると親本人を守るための説明に聞こえます。
もちろん、本当に親本人が面会を望んでいない場合もあるでしょう。
体調が悪く、面会を控えた方がよい時期もあります。
認知症や精神状態によって、刺激を避ける必要がある場面もあります。
しかし、その判断が本当に親本人の意思や利益に基づいているのかは、慎重に確認されるべきです。
誰が親の意思を確認したのか。
どのような場面で確認したのか。
親本人は、誰について何を聞かれて答えたのか。
誘導的な聞き方はなかったか。
親の判断能力や認知機能の状態はどうだったのか。
他の家族と会う選択肢を、親本人にきちんと示したのか。
窓口になっている家族の意向が、親本人の意向として扱われていないか。
ここを確認しないまま、「親が嫌がっているそうです」とだけ受け止めてしまうと、親本人の意思が見えなくなります。
とくに認知症や判断力低下がある場合、親の言葉は周囲の影響を受けやすくなります。
強い口調で説明された後に聞かれたのか。
一部の家族について否定的な情報を聞かされた後に答えたのか。
その場に利害関係のある家族が同席していたのか。
親が不安から近くにいる人に合わせて答えた可能性はないか。
「親が会いたくないと言っている」という言葉は、重い言葉です。
だからこそ、一人の家族の説明だけで処理してはいけないのです。
3 施設や病院が知らないところで、家族関係が操作されていることがある
施設や病院は、家族の長い歴史を知りません。
親子関係。
兄弟姉妹関係。
介護が始まる前の関係。
相続をめぐる不安。
過去の対立。
誰がどのように親と関わってきたのか。
こうした背景は、外からは分かりにくいものです。
そのため、窓口になっている家族が、施設や病院に一方的な説明をすると、それが家族関係の全体像として受け取られてしまうことがあります。
「あの家族は親に悪影響を与える」
「あの人が来ると親が混乱する」
「あの人はお金のことばかり言っている」
「あの人とは関わらない方がよい」
「親も会いたくないと言っている」
このような説明が繰り返されると、施設や病院は、知らないうちに一方の家族の見方に引き寄せられてしまうことがあります。
もちろん、説明が事実である場合もあります。
しかし、事実かどうかを確認しないまま、一人の家族の説明だけで他の家族を警戒対象のように扱うことには危うさがあります。
高齢親の囲い込みでは、他の家族を悪者化することがよくあります。
「親を守るため」
「親の安静のため」
「親が嫌がっているから」
「トラブルを避けるため」
そのような言葉によって、他の家族との接点が断たれていくことがあります。
施設や病院がその構造に気づかなければ、結果的に囲い込みを強めてしまうことがあります。
4 個人情報保護が、情報遮断の口実になることもある
施設や病院が家族に情報を出すとき、個人情報保護の問題があります。
これは当然重要です。
親本人の医療情報、介護情報、生活状況、財産に関わる情報は、慎重に扱われるべきです。
しかし、高齢親の囲い込みの場面では、「個人情報保護」という言葉が、情報遮断の口実のように機能してしまうことがあります。
たとえば、ある家族が親の状態を知りたいと施設に問い合わせる。
すると、施設側は「窓口の方を通してください」と答える。
その窓口の家族に問い合わせると、何も教えてくれない。
結果として、親の状態はまったく分からない。
この場合、形式的には個人情報保護に配慮しているように見えます。
しかし、実質的には、一人の家族が情報の出入口を完全に握ることになります。
もちろん、施設や病院が誰にでも自由に情報を出してよいわけではありません。
親本人の同意や法的な関係、契約上の立場などを確認する必要があります。
ただ、それでも大切なのは、情報を完全に一人の家族に集中させないための工夫です。
親本人が可能であれば、誰にどの範囲の情報を共有してよいか確認する。
家族関係が複雑な場合は、記録を残す。
他の家族からの申し出を無視せず、内容を記録する。
必要に応じて、地域包括支援センター、成年後見人、弁護士、家庭裁判所などの関与を促す。
個人情報保護は、親本人を守るためのものです。
一部の家族が親を囲い込むための壁になってはいけません。
5 面会制限は、本当に親本人の利益のためなのか
施設や病院では、面会制限が必要になることがあります。
感染症対策。
体調不良。
治療上の必要。
認知症による混乱。
本人の強い拒否。
安全確保。
こうした理由で、面会を制限すること自体はあり得ます。
しかし、高齢親の囲い込みの場面では、面会制限が一部の家族の意向によって行われていないかを慎重に見る必要があります。
本当に医療・介護上の必要があるのか。
親本人が明確に拒否しているのか。
拒否の理由は何か。
面会の方法を工夫する余地はないのか。
短時間、職員同席、オンライン、手紙、写真、音声メッセージなど、別の方法はないのか。
窓口になっている家族だけが強く拒んでいるのではないか。
面会制限は、親本人の生活や人間関係に大きな影響を与えます。
親が会える人、会えない人を、実質的に決めることになるからです。
だからこそ、面会制限は慎重であるべきです。
単に「家族間トラブルがあるから会わせない」ではなく、親本人の利益を中心に、具体的な理由と代替手段を考える必要があります。
6 施設・病院に求められるのは、どちらかの味方をすることではない
施設や病院は、家族間の争いの裁判官ではありません。
どちらが正しいかを決める立場ではありません。
相続争いの判断をする立場でもありません。
家族の過去の関係をすべて調査する立場でもありません。
それはその通りです。
しかし、だからといって、一人の家族の説明だけで対応を固定してよいわけではありません。
施設や病院に求められるのは、どちらかの味方をすることではありません。
親本人を中心に置くことです。
親本人の意思はどうか。
親本人の安全はどうか。
親本人の生活の安定はどうか。
親本人の人間関係はどうか。
親本人が孤立させられていないか。
親本人の意思を、誰かが過度に代弁していないか。
この視点を持つことが大切です。
家族間に対立があるときこそ、施設や病院は「家族の代表者」と「親本人」を同一視しないことが重要です。
窓口家族の意向は、親本人の意向そのものではありません。
ここを分けて考えるだけでも、対応は大きく変わります。
7 記録に残すことが、現場を守る
施設や病院にとっても、家族間の対立は大きな負担です。
どちらの家族にも配慮しなければならない。
個人情報保護にも気をつけなければならない。
親本人の安全も守らなければならない。
職員が責められることもある。
感情的なやり取りに巻き込まれることもある。
だからこそ、記録が大切です。
誰から、いつ、どのような申し出があったのか。
面会希望はいつ出されたのか。
誰が拒否したのか。
拒否の理由は何だったのか。
親本人の意思は、いつ、誰が、どのように確認したのか。
窓口家族からどのような説明があったのか。
他の家族からどのような反論や要望があったのか。
施設や病院として、どのような対応をしたのか。
これを記録しておくことは、家族のためだけではありません。
施設や病院自身を守ることにもなります。
後から問題になったとき、「誰か一人の言うことをそのまま信じた」のではなく、「親本人の利益を中心に、確認し、記録し、慎重に対応した」と説明できるからです。
高齢親の囲い込みでは、記録が非常に重要です。
それは当事者にとっても、専門職にとっても同じです。
8 他の家族からの声を、迷惑扱いしないでほしい
親に会えなくなった家族、情報を遮断された家族は、施設や病院に連絡することがあります。
親の様子を知りたい。
面会できるか確認したい。
手紙を渡してほしい。
親本人の意思を確認してほしい。
窓口になっている家族の説明だけで判断しないでほしい。
そのような連絡を受けたとき、現場は困るかもしれません。
家族間トラブルに巻き込まれたくない。
窓口家族との関係が悪くなるのではないか。
どこまで情報を出してよいか分からない。
業務が増える。
その大変さは理解できます。
しかし、他の家族からの声を、単なる迷惑やクレームとして扱わないでほしいのです。
その声の背後には、親に会えない苦しみがあります。
親の状態が分からない不安があります。
親本人の意思が見えない違和感があります。
一人の家族にすべてを握られているという恐怖があります。
もちろん、感情的な言い方や過剰な要求には、冷静な対応が必要です。
しかし、その声の中に、囲い込みのサインが含まれている可能性があります。
「会わせてもらえない」
「情報を教えてもらえない」
「親本人と直接話せない」
「施設名を教えてもらえなかった」
「窓口家族がすべてを決めている」
こうした訴えがある場合には、少なくとも記録に残し、慎重に扱うべきです。
9 親本人の人間関係も、生活の一部である
施設や病院では、どうしても身体的な安全や医療的管理が中心になります。
転倒しないこと。
薬を飲むこと。
食事を取ること。
治療を受けること。
感染症を防ぐこと。
穏やかに過ごすこと。
もちろん、これらは非常に重要です。
しかし、人間の生活は、身体的な安全だけで成り立っているわけではありません。
誰に会えるか。
誰と話せるか。
誰に近況を伝えられるか。
誰から手紙や写真を受け取れるか。
自分の人生に関わってきた人たちとのつながりを保てるか。
これも、親本人の生活の一部です。
高齢になったからといって、認知症になったからといって、施設に入ったからといって、その人の人間関係が一部の家族によって管理されてよいわけではありません。
親本人の安全を守ることと、親本人を孤立させないこと。
この二つは、どちらも大切です。
施設や病院には、親本人の身体だけでなく、人間関係にも目を向けてほしいのです。
10 まとめ
施設や病院が、一人の家族の説明だけで判断することには危うさがあります。
窓口になっている家族が、必ずしも中立とは限りません。
「親が会いたくないと言っている」という説明が、親本人の自由な意思とは限りません。
家族関係が、一方的な説明によって操作されていることもあります。
個人情報保護が、結果的に情報遮断の壁になることもあります。
面会制限が、本当に親本人の利益のためなのか、慎重に確認する必要があります。
施設や病院に求められるのは、どちらかの家族の味方をすることではありません。
親本人を中心に置くことです。
親本人の意思。
親本人の安全。
親本人の生活。
親本人の人間関係。
親本人の尊厳。
これらを守るために、一人の家族の説明だけで判断しない慎重さが必要です。
高齢親の囲い込みは、家族の中だけで起きているように見えて、実際には介護・医療の現場とも深く関わっています。
だからこそ、施設や病院、ケアマネジャー、地域包括支援センター、成年後見人などの専門職には、次の視点を持ってほしいのです。
家族の中に力の差はないか。
情報が一人に集中していないか。
親本人の意思確認は十分か。
他の家族の声は聞かれているか。
面会や連絡の制限は、本当に親本人の利益に基づいているか。
記録は残されているか。
高齢親を守ることは大切です。
しかし、親を守るという言葉のもとで、親の人間関係が狭められ、他の家族が排除され、情報が一人に集中していくなら、それは保護ではなく支配に近づいていきます。
施設や病院がその構造に気づくこと。
それが、高齢親の囲い込みを防ぐための大切な一歩になるのです。
プロフィール
高齢親の囲い込み解放コンサルタント 白岩俊正
白岩会計事務所 代表/公認会計士・税理士/株式会社みらい 代表取締役
〒422-8005 静岡市駿河区池田616-2パレス葵102
お問い合わせはまずはメールで release.advisor@gmail.com
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