高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。


私は、高齢になり介護を受けるようになった親を、きょうだいの一人が囲い込み、他のきょうだいに会わせない――いわゆる「高齢親の囲い込み」でお困りの方をサポートしています。

 

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74. 「親が元気かどうかさえわからない」不安の正体

 

――はじめに

 

電話は鳴らない、LINEは既読にならない、施設や病院に問い合わせても「ご家族の代表の方から」と繰り返される。

 

たった数行の近況でいいのに、それすら届かない時間が続くと、人は自分の足元が崩れていくような心細さに襲われます。

 

「親が元気かどうかさえわからない」——この状態は、単なる心配を超えて、心の安全基地を失う体験そのものです。

 

専門家としてお伝えしたいのは、あなたが感じている胸のざわめきには理由があり、言葉を使えば確かに扱える、ということです。

 

 


見えない“空白”が心に与えるもの

 

人の心は、関係の“手応え”で落ち着きます。

手応えとは、声の温度、息づかい、短い相槌、たとえ「今日は眠いからまたね」であっても、行き来があること。

 

連絡が途絶えると、心は空白を埋めようとして最悪の想像に走ります。これが不安の正体です。

 

不確実さは、そのままではただの“分からなさ”ですが、長引くと「拒絶されたのでは」「何かを隠されているのでは」といった意味づけが始まり、自分を責めたり、誰かを責めたりする気持ちが膨らんでいきます。

 

さらに厄介なのは、この不安が身体の反応として現れることです。

眠りが浅くなり、通知音に過敏になり、スマホを何度も更新してしまう。

 

こうした反応は弱さではありません。心が「大切な人に異変はないか」と見張りを強めている証拠です。

見張りは短期間なら役に立ちますが、長引けば生活を蝕みます。

 

だからこそ、“今できる小さな確実”を手元に置き直す必要があるのです。

 


エピソード①:窓辺の報告書(志穂さん・仮名)

 

志穂さんは、入所先の窓口が一本化されたことで、母の様子がほとんど分からなくなりました。

兄が連絡の主体になってから、「今は忙しい」「落ち着いたら知らせる」とだけ。

 

最初の数週間、志穂さんは怒りと不安で眠れず、夜ごと長文のLINEを打っては下書きのまま消しました。

 

ある晩、彼女は窓辺の小さなノートを開き、こう書きました。

「今日の空は高くて、雲が糸みたい。お母さんは朝ごはん、食べられたかな。」声に出して読み、ノートを閉じる。

 

翌日も、その次の日も、一行か二行だけの“報告書”を重ねました。

 

二週間後、ケアマネから短い電話が来ます。

「この頃、お母さまは食事の前に窓を見上げて、外の空の話をされるんです。」直接の因果はわかりませんが、志穂さんは「私の言葉は届かない」という無力感から、「私の言葉は私を支えている」へと、足場の置き換えに成功しました。

 

以後、連絡が来ない日はノートを開き、来た日は感謝を一文添える。

小さな儀式が、彼女の一日を守る柱になったのです。

 

 


エピソード②:三十秒の現在形(悠人さん・仮名)

 

単身赴任中の悠人さんは、父が一人暮らしを続けることに不安を抱いていました。

週末に電話を試みても、つながらないことが増える。

焦りから矢継ぎ早に質問をぶつけると、父は黙り込み、会話はすぐに途切れました。

 

ある医師の助言で、悠人さんは“最初の三十秒だけ現在形”を意識するようにしました。

 

「今、駅から歩いてる。風が冷たくて気持ちいい。父さんはどんな景色見てる?」

質問よりも、まず自分の状況を短く共有する。

 

情報を取りに行くのではなく、手のひらを見せるように話し始めると、不思議と父の声がほどけました。

 

「今、味噌汁温め直してる。出汁がちょっと薄いかもな。」

以降、連絡がつかない日が続いても、悠人さんは三十秒だけ現在形のメッセージを残し、翌朝に一文の近況をSNSへ。

 

「心配」を「共有」に翻訳し直す癖が、父との連絡そのものを温め直し、悠人さん自身の不眠も軽くしていきました。

 


不安を扱う言葉の置き場所

 

不安は、消そうとするほど濃くなります。

大切なのは、広がりを止める“囲い”を用意すること。囲いとは、言葉・時間・場所の三点です。

 

長文が書けない夜は、一行で良いから“いま”を言う。

たとえば「朝は食欲がなかったかも、と思う自分が怖い。今日はここまで。」時間は、連絡を試みる“窓”を決めて守る。

 

たとえば夕方の二十分だけ連絡を試し、それ以外は携帯から意識的に離れる。

場所は、あなたの心が柔らかくなる定位置。窓辺、台所、駅のベンチ——どこでもいい。

そこでだけ、不安を言葉にしてよい、と決めます。

 

SNSを使うなら、公開の広さを自分で選びましょう。

鍵をかけた小さなスペースでも、匿名のメモでも構いません。

 

ハッシュタグを一つ決めると、時系列が見返しやすくなり、気持ちの波の“地図”ができます。

「#今日はここまで」と結ぶのもよい方法です。終わりを自分で宣言できると、反芻は短くなります。

 

 


伝える相手がいるときの“やわらかい交渉”

 

家族内の調整や施設とのやり取りが必要なとき、攻めの言葉は早く届くようでいて、実は道を狭めます。

 

目的は、相手を変えることではなく、情報の行き来を回復すること。

 

そのためには、相手が動きやすい“幅”を渡します。

「今日の様子を三点だけ、二分で教えてください」「水曜と日曜の夕方に、三十秒だけ電話をお願いできますか」——短く、具体的に、感謝を添える。

 

可否と代案を引き出せる余白を残す。

やり取りの温度が上がれば、あなたの“分からない”は少しずつ“分かる”に変わります。

 


「わからなさ」と共存するための視点

 

ときに、どれほど整えても、情報が来ない日が続きます。

そのとき覚えておきたいのは、関係は連絡だけで出来ているわけではない、という視点です。

 

同じ空を見上げる、相手の好きだった音楽を流す、食卓に一皿分をよける。

これらは未練ではなく、関係の“現在形”を保つ営みです。

 

わからなさの中にも、できる関わりがある。

そう気づくと、あなたの一日は、再びあなた自身の手に戻ってきます。

 


おわりに

 

「親が元気かどうかさえわからない」——この言葉の重さは、あなたが親を大切に思ってきた歴史そのものです。

 

不安は、愛情の裏返し。だからこそ、飲み込まず、言葉にして置き場所を与えましょう。

 

ノートの一行でも、三十秒の音声でも、静かなSNSの投稿でもいい。

あなたが今日交わした小さな現在形が、やがて連絡の道をもう一度あたためます。

 

もしよかったら、今この瞬間のあなたの言葉を一文だけ。
 

「今日はここにいるよ。あなたのことを、ちゃんと考えているよ。」
その一文が、あなたの夜を少し穏やかにしますように。

 

 

 

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