本ブログは、家族心理学と家族療法の視点から、家庭や職場で起きる困りごとを読み解き、実生活で使える対応策を紹介します。カウンセラー等の支援職から当事者まで、わかりやすく誠実な解説を心がけています。
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93. 家族が抱える秘密が与える影響
家族の中には、「言わない」と合意していることが少なからずあります。
病気、借金、依存症、離婚や不倫、実は養子であること、発達特性、性被害、暴力……。当事者にとっては身を守るための「沈黙」でも、家族全体の心の健康にはさまざまな影響を及ぼします。
ここでは、家族心理学・家族療法の視点から、秘密が生まれる背景と影響、そして安全に扱うための具体的なヒントをまとめます。スクールカウンセラーや学び始めの方、家族の中で迷っている方に向けて、やさしく解説します。
1. 秘密とプライバシーはちがう
まず大切なのは「秘密」と「プライバシー」を分けて考えることです。
- プライバシー:個人が自分の情報をどこまで誰に伝えるかを選べる権利。健全な境界を保つために必要。
- 秘密:恐れ・恥・罪悪感・忠誠心などが背景にあり、「知られるとまずい」という空気で、語る自由が奪われている状態。家族のコミュニケーションを硬直化させます。
2. 家族内で生まれやすい三つの秘密
- 個人の秘密:一人のメンバーだけが抱える。例:摂食の問題、依存行動、性被害の体験。
- 連合の秘密:一部の人だけが共有。例:母と長女だけが父の借金を知っている。
- 家族全体の秘密:家の「おきて」になっている。例:「家のことは外で話すな」。
秘密は家族のホームオスタシス(現状維持の力)に守られ、見直しが先送りされがちです。結果として、三角関係やスケープゴート化(誰か一人に問題が集約される)が起こり、子どもに症状(腹痛、登校しぶり、かんしゃく、過度な「いい子」)として表れやすくなります。
3. 子どもへの影響:言葉にならない「薄い霧」
子どもは大人が思う以上に雰囲気に敏感です。秘密がある家庭では、次のような体験が起こりやすくなります。
- 過覚醒:「何かが変だ」と常に周囲をスキャン。安心感が育ちにくい。
- 自己原因化:「もしかして自分のせい?」という誤学習。罪悪感や恥の固定化。
- 混乱:家での言葉と身体感覚が一致しない(ダブルバインド)。信頼形成が難しくなる。
- 役割の逆転:親に気を遣う「小さな保護者」(ペアレンティフィケーション)が起こる。
- アイデンティティの揺らぎ:出自や病気の情報が欠けることで、自分史が穴あきになる。
4. 事例(フィクション)
中学2年のAくんは朝になると腹痛を訴え、遅刻が増えていました。面談で母は「思春期だから」と笑っていましたが、家庭訪問で家の空気はどこか張りつめていました。後日、父の失職と多額のローンが判明。家では「お金の話は子どもの前でするな」と暗黙のルールがあり、親同士も正面から話せていませんでした。
スクールカウンセラーはまず安心の場をつくり、Aくんには「家で心配ごとがある感じはする?」と身体のサインに寄り添う言葉かけを継続。保護者面談では非難を避け、問題を外在化して「家計の不安が家族の会話を細くしている」と整理。家族は段階的に情報を共有し、Aくんには年齢相応の範囲で説明。数か月後、腹痛は減り、家では短い家族ミーティングを持てるようになりました。
5. 秘密が続くと何が起こる?
- 信頼の低下:気配に気づきながら誰も触れないことで、互いへの信頼がじわじわ薄れる。
- 症状化:睡眠・食欲・身体症状、不登校、依存行動、ネット過多など。
- 時間の停止:家族ライフサイクル(進学・独立・介護など)の課題が後回しに。
- 世代連鎖:語られなかった出来事は、感情の形で次世代へ伝わりやすい。
6. 安全に「開示」するための7原則
- 安全優先:DV・加害者がいる場合や“アウティング”がリスクになる場合は、無理に開示しない。避難・法的相談が先。
- 段階的:すべてを一度にではなく、少しずつ。「今日はここまで」でOK。
- 年齢相応:子どもには比喩や図を使い、事実と感情を分けて説明。
- 必要なだけ十分に:詳細の暴露ではなく、理解に必要な最小限を。
- 第三者の同席:カウンセラー・スクールカウンセラー・医療ソーシャルワーカー等が場を支える。
- 役割の守り直し:親の負担は大人が受け持ち、子どもを“相談相手”にしない。
- 整える儀式:話した後のケア(散歩、お茶、好きな音楽、手紙)で神経系を鎮める。
7. 学校現場・支援者向けスキル
- ジェノグラム(家系図):3世代を簡単に描き、語られていない空白に気づく。
- タイムライン:出来事と症状の流れを可視化し、「話さない」が強くなった時期を見つける。
- 感情の言語化:「怖さ」「恥ずかしさ」「守りたい気持ち」を同時に並べる。
- 外在化の質問:「“沈黙”が家族の力を小さくしているとしたら、どんな時?」
- 共同ルール作り:「家の外で話さないこと」と「専門家には話してよいこと」を峻別する。
8. 文化的背景も大事に
日本では世間体や「家の名誉」が重要視されやすく、沈黙が“美徳”として扱われることがあります。これは家族を守る機能にもなりえますが、恐れからの沈黙になっていないかを丁寧に見極めたいところ。尊重しつつ、小さな共有からはじめるのが現実的です。
9. 伝えるときの言葉がけ例
- 親から子へ(中学生)
「最近、お金のことで大人が心配している。あなたのせいではないし、学校に行く権利は変わらない。詳しい数字は大人が管理するけれど、不安な時は聞いてね。」 - パートナー間
「あなたを傷つけないように避けていたけれど、結果的に距離ができた。ここからは少しずつ、必要なことは開いていきたい。」 - 支援者から保護者へ
「“話さない”ことが家族を守ってきた面もあります。同時に、お子さんの不安は増えています。安全を守りながら、年齢相応の共有を一緒に設計しませんか。」
10. 家庭でできるミニワーク
- 秘密の地図を描く:家族全員/一部/個人だけが知っていることを三つの円で表す。
- できていること探し:沈黙があっても続いている良い習慣(食卓、挨拶、睡眠)を列挙。回復の土台になります。
- 5分ミーティング:週1回、5分だけ“今週の心配ごと・助かったこと”を交互に話す。責任追及はしない。
- 合図を決める:話し合いの途中でつらくなったら使う合図(休憩サイン)を家族で共有。
11. 相談の目安
- 子どもの身体症状や不登校が続く
- 家族の会話が“必要連絡”だけ
- 誰か一人が過度に責められる/守り役を担い続けている
- 重要な事実を知った時のショックが大きい
こうした時は、地域の相談機関(学校、子ども家庭支援、保健師、精神保健福祉センター、民間カウンセリングなど)につながってください。一人で抱えないことが何よりの安全策です。
おわりに
秘密は、誰かを守るために始まることが少なくありません。けれど、語られない物語は、やがて家族全体の息苦しさに変わります。大切なのは、安全を最優先にしながら、必要なことを必要な人と、必要な分だけ共有していくこと。たとえ一歩が小さくても、沈黙の向こうにある“関係の回復”へ確実に近づいています。
もし今、家族の「話せないこと」に直面しているなら、一緒に話し方の設計図を考えましょう。段階・範囲・ことば選び——あなたの家族の物語に合ったやり方があります。
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