本ブログは、家族心理学と家族療法の視点から、家庭や職場で起きる困りごとを読み解き、実生活で使える対応策を紹介します。カウンセラー等の支援職から当事者まで、わかりやすく誠実な解説を心がけています。
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親に褒められなかった大人たちの心理
「がんばったね」と言われるだけで、胸の奥がざわつく。そんな感覚に心当たりはありませんか。
子ども時代、親から十分に褒められなかった人は、評価という言葉に独特の緊張をまといやすくなります。
喜ばしいはずの称賛が、どこか落ち着かない。むしろ次の失敗の予告のように感じてしまう
――これは個人の性格ではなく、家族の文脈の中で学習された反応です。
家族心理学では、家族は小さな文化だと考えます。
ある家では「褒める=甘やかす」「油断させる」と教えられ、努力して当然、できて普通という空気が流れます。その文化の中で育つと、人は自分の価値を“欠点の有無”で測るようになります。
結果、達成しても安堵が少なく、次の課題に急いで向かうことで不安を抑えようとする。これが大人になっても続くのです。
エピソード1:祝うことに耐えられない
30代の会社員Aさんは昇進しても誰にも言えませんでした。
「自慢と思われたくない」という言葉の裏で、実は“祝う時間そのもの”が怖かったのです。
幼い頃、テストで満点を取っても、父は眉をひそめて「次は?」とだけ。嬉しさに腰を下ろす前に、次のハードルを突きつけられる経験が積み重なると、喜びは“問題の前兆”に変わります。
Aさんは昇進の夜、早くも「失敗したらどうしよう」と資料づくりに没頭しました。大事なのは能力ではなく「喜びに滞在する許可」を取り戻すことでした。
エピソード2:褒め言葉が刺さる
40代の看護師Bさんは、患者家族から「丁寧な対応をありがとう」と言われると、なぜか胸が痛み、帰宅後にどっと疲れます。
褒め言葉は本来、栄養です。しかしBさんには“借り”のように感じられ、「次はもっと完璧に返さなきゃ」と自分を追い込んでしまう。
背景には、幼い頃に「褒めるのは期待の前触れ」という家族のルールがありました。称賛は休息ではなく、義務の始まり。だから刺さるのです。
褒められなかった子どもは、多くの場合「条件つきの価値」を内面化します。できたら存在してよい、できなければ存在を控える。
すると、失敗の回避が自己保存の最優先課題になり、挑戦が怖くなるか、あるいは挑戦を重ねて“失敗の余地を与えないほど”努力するか、両極端に振れがちです。いずれにせよ、心は常に緊張し、休むことが罪悪感を呼び込みます。
さらにやっかいなのは「受け取りの筋肉」が育っていないこと。私たちは与える力だけでなく、受け取る力でも人とつながります。けれど褒められ慣れていないと、差し出された好意をどう扱ってよいか分からず、冗談で打ち消したり、すぐに相手を持ち上げて返したりします。これは謙遜ではなく、親密さへの微細な恐れの表現です。
では、どう回復していけばよいのでしょう。鍵は「再養育(リペアレンティング)」です。
過去の親をやり直すことはできませんが、いまの自分が“小さな自分”の保護者になることはできます。ポイントは三つ。
第一に、成果ではなくプロセスの言葉を自分にかけること。「よくやった」より前に「怖さがあるのに取り組んだね」と事実を認める。
第二に、喜びに留まる練習を秒単位で行うこと。良い出来事が起きたら、深呼吸して三十秒だけ目を閉じ、体のどこが温かいかを感じる。
第三に、他者からの称賛を“点”で受け止めず“流れ”で受け止めること。「ありがとう」で一度受け取り、翌日また会ったときにも「昨日の言葉、支えになりました」と追体験する。この反復が「受け取りの筋肉」を育てます。
Aさんは、昇進の報を一人の友人だけに伝えるところから始めました。
祝福の言葉に、反射的に「いや、運が良かっただけ」と返しそうになる自分に気づき、代わりに「ありがとう。嬉しい」と短い言葉で着地する練習をしました。
最初はぎこちなくても、三度、四度と繰り返すうちに、胸のざわつきが小さくなっていきました。祝うことに耐えられる時間が一分、三分、十分と伸びていく――それが回復の実感でした。
Bさんは、仕事終わりの更衣室で小さな儀式を持ちました。ポケットからメモを出し、その日受け取った言葉を一行だけ書き写すのです。
「丁寧でした」
「安心しました」
書いたら丸をつけて、深呼吸。やがてその紙束は分厚くなり、「借り」ではなく「つながりの往復」の記録に見えるようになりました。人の好意に押し潰されるのではなく、支えられる感覚が芽生えたのです。
“褒められなかった歴史”は、あなたの価値を減らしません。むしろ、人の痛みに気づく感受性や、丁寧に積み重ねる力として、今も静かに働いています。
ただし、その力があなた自身を傷つけないように、スピードを緩めて受け取る練習を続けてみてください。評価の階段を駆け上がるのをやめ、踊り場で水を飲む――そんな些細な振る舞いが、心の配線を静かに組み替えていきます。
最後に、もしあなたが誰かを褒める立場にあるなら、“結果の一点”ではなく“関わりの全体”を見て声をかけてみてください。
「あなたがいて助かった」
「一緒に考えてくれて心強かった」
その言葉は、過去の空白を埋める魔法ではないけれど、いまここで新しい文化を育てます。家族は、やりなおせない過去ではなく、作りなおせる現在の営み。褒めることは、その文化づくりの静かな第一歩なのです。
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