第3回 親がどこの施設にいるのかわからない――居場所を教えてもらえないとき

 

「父が施設に入ったらしいんです。でも、どこの施設なのか教えてもらえません」

 

この相談を初めて聞く人は、「そんなことが本当にあるの?」と思うかもしれません。

 

 

ところが、高齢親の囲い込みでは決して珍しい話ではありません。

 

親が自宅にいるうちは、少なくとも住所は分かります。

ところが施設入所をきっかけに、一気に親との接点がなくなることがあります。

 

「どこの施設?」

と聞いても、

 

「教える必要はない」

「本人が会いたくないと言っている」
「施設に迷惑をかけるから来るな」

 

と言われる。電話番号も分からない。施設名も分からない。

 

親が元気なのかすら分からない。この状態になると、多くの方が強い不安を感じます。

 

「病気が悪化しているのではないか」
「認知症が進んでいるのではないか」
「もしかしたら、もう話すこともできない状態なのではないか」

 

情報がないため、悪い想像ばかりが膨らんでしまいます。

そんなとき、焦ってあちこちの施設へ電話をしたくなるかもしれません。

あるいは、きょうだいに何十回も連絡したくなるかもしれません。

 

 

でも、まずやってほしいのは「時系列の整理」です。

 

最後に親と会ったのはいつか。

最後に話したのはいつか。

 

施設へ入ったと聞いたのはいつか。

誰から聞いたのか。

施設名を尋ねたとき、どんな返答をされたのか。

 

親の介護認定や医療について、これまでどこの機関が関わっていたのか。

 

 

こうした情報を一枚の紙に並べるだけでも、状況がかなり見えてきます。そして、親が住んでいた地域の地域包括支援センターや自治体などへ相談する方法もあります。

 

 

ただし、個人情報の関係から、相談したからといって施設名をすぐ教えてもらえるとは限りません。ここは囲い込み問題の非常に難しいところです。相談する際には、

 

「兄が施設名を教えてくれないんです」

 

だけではなく、

 

「本人の安否確認ができない状態が○か月続いています」

「本人と直接話す機会もありません」
「認知症があり、本人の意思確認ができているか心配しています」

 

というように、自分ときょうだいの争いではなく、高齢者本人の状況として伝えることが大切です。

 

親の居場所が分からない。これは経験していない人には想像しにくいほど苦しい状態です。

 

でも、焦るほど相手方から

 

「怖い」

「しつこい」
「だから会わせられない」

 

という材料にされてしまうことがあります。だからこそ、静かに記録を残し、第三者につなげていく。遠回りに見えるかもしれません。

 

それでも、多くの場合、その方が次の手を考えやすくなります。あなたが知りたいのは、施設の住所だけではないはずです。本当に知りたいのは、

 

「お父さんは元気なのか」

「お母さんは安心して暮らしているのか」

 

ということでしょう。その原点を忘れないことが、囲い込み問題ではとても大切だと思います。

 

 

 

高齢親の囲い込み 解放アドバイザー
公認会計士・税理士 白岩俊正

 


 

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高齢親の囲い込み 解放アドバイザー
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白岩会計事務所 代表

〒422-8005静岡市駿河区池田616-2 パレス葵102

メール release.advisor@gmail.com

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第2回 「お母さんはあなたに会いたくないと言っている」その言葉は本当に親の意思ですか?

 

高齢親の囲い込みについて相談を受けていると、非常によく出てくる言葉があります。

 

「お母さんは、あなたに会いたくないと言っている」
「お父さんが、もう連絡してくるなと言っている」

 

この一言を聞いて、深く傷つく方は少なくありません。

 

「私はそんなに嫌われていたのだろうか」
「最後に会ったときは普通だったのに」

 

何度考えても理由が分からない。そして、「本人が会いたくないと言っているのなら、もう仕方がないのかもしれない」と諦めてしまいます。

 

 

 

けれど、ここで一つ考えてほしいことがあります。

 

その言葉を、あなたは親本人から直接聞いたでしょうか。

それとも、きょうだいや施設職員など、第三者から聞いたでしょうか。

 

 

ここには大きな違いがあります。もちろん、本当に親本人が会いたくないと思っているケースもあります。親子だから必ず会える、というものではありません。

 

 

長年の親子関係の中で、本人なりの理由がある可能性もあります。

しかし一方で、高齢になり、認知症や病気によって判断力が低下した親が、日常的に身近にいる人の影響を強く受けることもあります。

 

「お兄ちゃんは財産目当てだよ」
「あなたの面倒を見ているのは私だけでしょう」
「今さら会いに来るなんておかしいよね」

 

そんな話を繰り返し聞いていれば、人の気持ちは変わることがあります。

 

まして認知機能が低下している状態なら、今日言ったことと明日言うことが違うことも珍しくありません。

 

だから私は、「親が会いたくないと言っている」という一言だけで、すべてを終わらせない方がよいと考えています。

 

 

 

 

大切なのは、本人が誰にも気兼ねすることなく、自分の意思を話せる環境で確認された意思なのかということです。

 

 

横に同居の子どもがいる。

電話をスピーカーにされている。

施設職員がそばにいる。

 

 

そんな環境では、本音を言えない可能性もあります。逆のケースもあります。会えない側の子どもが「きっと母は私に会いたいはず」と思い込んでしまうこともあります。

 

 

ですから、どちら側も「親の気持ちはこうに違いない」と決めつけないことが重要です。

 

囲い込み問題の中心に置くべきなのは、きょうだい同士の勝ち負けではありません。

 

 

親本人の意思です。

 

 

「私は会いたい」
「妹は会わせたくない」

 

 

この二つの主張の間に、本来もっとも大切な「お母さんはどうしたいのか」が抜け落ちてしまうことがあります。

 

家族が争えば争うほど、親本人の声が聞こえなくなる。これは非常に悲しいことです。

 

もし「親が会いたくないと言っている」と伝えられたら、感情的に「そんなはずはない!」と返すより、「本人の意思を第三者のいるところで確認してもらえませんか」とお願いする方が建設的な場合があります。

 

ケアマネジャー、地域包括支援センター、医療関係者、成年後見人など、状況によって関わる第三者は変わります。簡単に実現できない場合もあります。それでも、「会わせろ」という争いから、「本人の意思をどう確認するか」という話に変えていく。

 

 

それだけでも、状況が変わることがあります。親に会いたいと思う気持ち。そして、親の本当の気持ちを知りたいと思う気持ち。

どちらも大切にしてほしいと思います。

 

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第1回 「これって高齢親の囲い込み?」最初に現れる7つのサイン

 

「兄が最近、母に電話をつないでくれなくなった」
「父が施設に入ったらしいけれど、施設名を教えてもらえない」
「親の通帳は全部、妹が管理している。でも残高がいくらあるのか誰も知らない」

 

こうしたお話を聞くことがあります。

 

高齢の親をめぐる家族トラブルは、ある日突然「囲い込み」という形で始まるわけではありません。

最初は、ごく小さな違和感から始まることが多いのです。

 

 

 

 

以前なら普通に電話できたのに、電話をしてもきょうだいが出る。

 

「今は寝ているから」
「体調が悪いから」
「本人が話したくないと言っているから」

 

そんな理由が何度か続く。

 

実家へ行こうとすると、「来ないでほしい」と言われる。

病院へ行ったことを後から知らされる。

施設へ入ったことすら知らされない。

 

そして気がついたときには、親の生活、医療、介護、財産について、すべて一人のきょうだいを通さなければ何も分からない状態になっている。

 

私は、この「情報が一人に集中していく」という変化を、とても重要なサインだと考えています。

 

 

たとえば、こんな状態です。

 

  • 親と直接話せない。
  • 親の住んでいる場所を教えてもらえない。
  • 病状を聞いても答えてもらえない。
  • 施設や病院からも情報をもらえない。
  • 通帳や印鑑を一人の家族が管理している。
  • 親の重要な決定について事後報告しかされない。
 

そして何より、「本人がそう言っている」という言葉だけが繰り返される。

 

 

もちろん、これらが一つあるだけで「囲い込みだ」と決めつけることはできません。介護している家族には、大きな負担があります。親本人が静かな生活を望んでいる場合もあります。

 

認知症や病気によって、人と会うことそのものが負担になる場合もあります。

 

だからこそ大切なのは、「囲い込んでいるに違いない」と最初から相手を悪者にすることではありません。

 

 

見るべきなのは、親本人が自由に意思を表明できる状態なのか。

そして、特定の家族だけが情報や接触を支配していないか。ということです。

 

 

 

ある相談者は、最初こう話していました。

 

「妹とは昔から仲が良くありません。でも、まさか母と話すことまでできなくなるとは思っていませんでした」

 

 

最初は「家族喧嘩」だと思っていたそうです。

 

しかし数か月たつうちに、母の携帯電話にはつながらなくなり、病院も分からなくなり、介護サービスについて聞いても何も教えてもらえなくなりました。

 

 

ここまで来て、ようやく「これは、きょうだい喧嘩とは少し違うのではないか」と感じたそうです。

 

 

 

高齢親の囲い込みで難しいのは、外から見えにくいことです。

 

親には住む家がある。

食事もしている。

介護サービスも受けている。

 

一見すると「ちゃんと介護してもらっている高齢者」に見えます。

だから、親と会えない側の苦しみは周囲になかなか理解してもらえません。

 

「介護してもらっているんだから仕方ないでしょう」

 

そう言われてしまうことさえあります。けれど、介護していることと、他の家族との交流をすべて遮断してよいことは、同じではありません。

 

 

もし今、「以前と何かが違う」

 

 

「親との間に誰かが入るようになった」
「直接確認できることが少しずつ減っている」

 

 

と感じているなら、その違和感をなかったことにしないでください。

 

ただし、すぐに相手を責めたり、実家へ押しかけたりする必要もありません。

 

まずは静かに、

 

いつから電話できなくなったのか。

どんな説明を受けたのか。

誰が親の財産を管理しているのか。

病院や施設について何を知らされているのか。

 

事実を整理してみてください。

 

 

囲い込み問題では、怒りより先に「事実」を集めることが、その後の大切な一歩になります。

 

 

「これって囲い込みなのかな」

 

 

そう思った時点で、一度立ち止まって整理してみる。それだけでも構いません。親に会いたい。

親が元気なのか知りたい。その気持ちは、決して特別なものではありません。

 

 


 

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このブログについて

 高齢親の囲い込みとは、認知症や要介護状態にある親について、一部の家族が「親を守る」という名目で、面会、連絡、医療・介護情報、財産管理、施設との連絡窓口を独占し、他の家族を遠ざけていく状態をいいます。

 

 

 親を守ることは大切です。
 しかし、その言葉が、親本人の意思を見えにくくし、家族を排除し、情報や財産の出入口を一人が握るために使われるなら、それは保護ではなく支配に近づきます。

 

 このブログでは、高齢親の囲い込みを、個人批判ではなく家族内支配の構造として考え、親の尊厳と家族関係を守るために何が必要かを考えていきます。

 

 

第25回 高齢親の尊厳を取り戻すために

――家族の勝ち負けではなく、親本人の意思・自由・人間関係を守る

 

高齢親の囲い込みについて、このシリーズではさまざまな角度から考えてきました。

 

面会を止める人は何を守っているのか。

「親が会いたくないと言っている」は本当なのか。

情報を握る人が、家族を支配する構造。

施設・病院・ケアマネとの連絡窓口を独占する問題。

認知症と囲い込み。

通帳、印鑑、財産管理の不透明さ。

公正証書遺言や相続との関係。

囲い込みをする人の心理構造。

家族内で起きる情報の非対称性。

記録、証拠、時系列の重要性。

調停、訴訟、成年後見制度の利用。

判決で家族の事実を記録する意味。

そして、高齢親の囲い込みを社会問題として考える必要性。

 

ここまで見てくると、はっきり分かることがあります。

 

高齢親の囲い込みは、単なるきょうだい喧嘩ではありません。

 

誰が正しいか。

誰が親孝行か。

誰が親の近くにいるか。

誰が財産を管理するか。

誰が相続で有利になるか。

 

もちろん、現実にはそうした問題も絡みます。

 

しかし、この問題の中心に置くべきなのは、きょうだいの勝ち負けではありません。

 

中心に置くべきなのは、親本人の尊厳です。

 

親本人の意思。

親本人の自由。

親本人の人間関係。

親本人の生活。

親本人の財産の透明性。

親本人が、一部の家族の都合によって孤立させられないこと。

 

高齢親の囲い込みを考える最終目的は、誰かを攻撃することではありません。

 

親の尊厳を取り戻すことです。

 

 

1 囲い込みで失われるのは、親の尊厳である

 

高齢親の囲い込みというと、まず思い浮かぶのは、親に会えない家族の苦しみかもしれません。

 

親に会えない。

親の声を聞けない。

親の状態が分からない。

施設や病院の情報が入らない。

親本人の意思を確認できない。

それなのに、自分たちが悪者にされる。

 

これは、残された家族にとって大きな苦しみです。

 

しかし、もっと深いところで失われているものがあります。

 

それは、親本人の尊厳です。

 

親が誰と会うか。

誰と話すか。

誰から手紙を受け取るか。

誰に自分の気持ちを伝えるか。

自分の財産をどう管理するか。

自分の最期をどう迎えるか。

 

本来、これらは親本人の人生に関わることです。

 

ところが、高齢や病気、認知症、施設入所によって、親が自分で動けなくなると、周囲の家族がその出入口を握るようになります。

 

そのとき、親本人の意思を尊重する形で支援されるなら、それは保護です。

 

しかし、一部の家族が、親の面会、連絡、情報、財産、意思確認の出入口を独占し、他の家族を排除していくなら、それは保護ではなく、支配に近づきます。

 

親の尊厳とは、単に安全に暮らすことだけではありません。

 

自分の人生の主人公であり続けることです。

 

たとえ高齢になっても、病気になっても、認知症になっても、施設に入っても、親本人の意思や人間関係が、一部の家族の都合で消されてよいわけではありません。

 

 

2 「親を守る」と「親を閉じ込める」は違う

 

親を守ることは大切です。

 

高齢の親には、守られる必要がある場面があります。

 

詐欺や悪質商法から守る。

体調に配慮する。

無理な面会を避ける。

感染症対策をする。

医療や介護の支援を整える。

財産管理を手伝う。

施設や病院との連絡を担う。

 

これらは、親の生活を守るために必要なことです。

 

しかし、親を守ることと、親を閉じ込めることは違います。

 

親を守るという言葉を使って、親に会える人を一人の家族が決める。

親に連絡できる人を制限する。

施設や病院との窓口を独占する。

親の意思を一人で代弁する。

財産管理を説明しない。

他の家族を悪者にする。

 

このような状態になったとき、「親を守る」という言葉は、本来の意味から離れていきます。

 

本当に親を守るなら、親の世界を狭めるのではなく、親の安心を保ちながら、人間関係を守る方法を考えるはずです。

 

短時間なら会えるのか。

職員同席なら会えるのか。

オンラインなら話せるのか。

手紙や写真なら届けられるのか。

体調のよい時間なら可能なのか。

第三者を入れれば実現できるのか。

 

こうした工夫をせず、ただ「親のために会わせない」「親のために知らせない」と言うだけなら、それは本当に親のためなのか、問い直す必要があります。

 

親を守ることは、親を一人の家族の管理下に置くことではありません。

 

親本人の意思と尊厳を守ることです。

 

 

3 親本人の意思を、誰がどのように確認しているのか

 

高齢親の囲い込みで、最も重要な問いの一つはこれです。

 

親本人の意思は、誰が、どのように確認しているのか。

 

「親が会いたくないと言っている」

「親が嫌がっている」

「親が全部こちらに任せると言っている」

「親が他の家族には知らせなくてよいと言っている」

 

このような説明がされることがあります。

 

もちろん、本当に親本人がそう言っている場合もあるでしょう。

 

しかし、大切なのは、その確認方法です。

 

いつ聞いたのか。

誰が聞いたのか。

どのような聞き方をしたのか。

親本人は十分に理解していたのか。

認知症や判断力低下の影響はなかったのか。

利害関係のある家族が同席していなかったか。

他の家族について一方的な説明を受けていなかったか。

第三者が確認したのか。

記録は残っているのか。

 

親の意思を尊重することは、とても大切です。

 

しかし、「親の意思」という言葉が、一人の家族の口からしか語られない場合、そこには慎重さが必要です。

 

親本人の意思を守るためには、透明性が必要です。

 

一人の家族が親の意思を独占しないこと。

親本人に直接確認する機会をできるだけ持つこと。

第三者の関与を検討すること。

記録を残すこと。

面会や連絡の制限があるなら、その理由を明確にすること。

 

親本人の意思を尊重するというなら、その意思がどのように確認されたのかも、できるだけ明らかにされるべきです。

 

 

4 親の人間関係を守ることも、尊厳を守ること

 

高齢になると、人の世界は少しずつ狭くなります。

 

仕事を引退する。

友人が減る。

外出が難しくなる。

病院や施設で過ごす時間が増える。

自分から電話をかけることが難しくなる。

手紙を書くことも難しくなる。

 

だからこそ、家族や親しい人とのつながりは、とても大切になります。

 

誰かが会いに来てくれる。

声をかけてくれる。

写真を見せてくれる。

手紙をくれる。

昔の話を聞いてくれる。

自分を一人の人間として扱ってくれる。

 

これは、単なる気分転換ではありません。

 

その人がその人であり続けるための大切なつながりです。

 

高齢親の囲い込みでは、この人間関係が狭められることがあります。

 

会える人が限られる。

連絡できる人が限られる。

施設や病院に来られる人が限られる。

親の近況を知れる人が限られる。

親本人が誰を思っているのか、外から分からなくなる。

 

これが続くと、親は孤立します。

 

たとえ身の回りの世話がされていても、人間関係が一部の家族によって管理されているなら、親の尊厳は傷つきます。

 

親の尊厳を守るとは、親の身体だけを守ることではありません。

 

親の人間関係を守ることでもあります。

 

 

5 財産の透明性も、親の尊厳に関わる

 

高齢親の囲い込みでは、財産管理の問題も避けて通れません。

 

通帳。

印鑑。

年金。

不動産。

保険。

施設費。

医療費。

契約。

遺言。

 

これらが一部の家族に集中し、他の家族には何も説明されない場合、疑問や不信が生まれます。

 

もちろん、親の財産は親本人のものです。

 

子どもたちが当然にすべてを知る権利があるわけではありません。

親本人のプライバシーも尊重されるべきです。

 

しかし、親の判断力が低下している場合や、一部の家族が事実上財産を管理している場合には、透明性が必要になります。

 

年金は親本人の生活のために使われているのか。

通帳や印鑑は適切に管理されているのか。

施設費や医療費はきちんと支払われているのか。

不動産や保険、遺言について、親本人は理解していたのか。

重要な手続の経緯は明らかか。

一部の家族の利益のために、親の財産が動いていないか。

 

財産の透明性は、相続人の利益だけの問題ではありません。

 

親本人の尊厳の問題です。

 

親の財産が、親本人の生活、医療、介護、安心のために使われているか。

 

そこを確認できる状態にしておくことが、親を守ることにつながります。

 

 

6 囲い込みの問題は、家族の勝ち負けではない

 

高齢親の囲い込みが裁判や調停に発展すると、どうしても「勝ち負け」の問題に見えます。

 

どちらの主張が認められるのか。

損害賠償が認められるのか。

面会が実現するのか。

財産管理が問題になるのか。

遺言の有効性が争われるのか。

 

もちろん、法的な手続においては、判断が示されることがあります。

 

しかし、この問題の本質を、家族の勝ち負けだけで見てはいけません。

 

本当に問われているのは、親本人の尊厳です。

 

親は孤立させられていなかったか。

親の意思は適切に確認されていたか。

親の人間関係は不当に狭められていなかったか。

親の財産は透明に管理されていたか。

親が一部の家族の都合の道具にされていなかったか。

 

ここが中心です。

 

きょうだいの一方が勝ち、もう一方が負けるという話だけにしてしまうと、親本人が見えなくなります。

 

高齢親の囲い込みは、親をめぐる家族内の力関係の問題です。

 

だからこそ、最後に立ち返るべきなのは、親本人です。

 

 

7 記録は、親の尊厳を取り戻すためにある

 

このシリーズでは、何度も記録の重要性を伝えてきました。

 

時系列表を作る。

メールやLINEを保存する。

手紙を残す。

面会申入れを記録する。

施設や病院とのやり取りを残す。

財産管理について質問した記録を残す。

相手の回答、または回答がなかったことを残す。

親本人の意思確認の経緯を記録する。

 

なぜ、ここまで記録が必要なのでしょうか。

 

それは、家族内で起きる囲い込みは、外から見えにくいからです。

 

「親が会いたくないと言っている」

「親のために会わせない」

「こちらで全部やっている」

「他の家族は関わらない方がいい」

 

こうした言葉だけでは、何が起きているのか分かりません。

 

だから記録が必要になります。

 

記録は、相手を攻撃するためだけのものではありません。

 

親本人の意思を確認するため。

親の人間関係が遮断されていないか確認するため。

情報が一人に集中していないか明らかにするため。

財産管理の透明性を確保するため。

第三者に状況を説明するため。

そして、親の尊厳が見えなくされないようにするため。

 

記録することは、冷たいことではありません。

 

むしろ、親本人の人生を、曖昧な言葉や一方的な説明の中に消さないための行為です。

 

 

8 第三者を入れることは、家族を壊すことではない

 

高齢親の囲い込みに直面したとき、調停、訴訟、成年後見制度、地域包括支援センター、弁護士、司法書士、社会福祉士など、第三者の関与が必要になることがあります。

 

これを「家族を壊すこと」と感じる人もいるかもしれません。

 

しかし、第三者を入れることは、必ずしも家族を壊すことではありません。

 

すでに家族内で情報が遮断されている。

話し合いが成立していない。

一部の家族に権限が集中している。

親本人の意思を確認できない。

説明を求めても回答がない。

財産管理や面会制限が不透明になっている。

 

このような場合、第三者を入れることは、問題を開くための手段です。

 

誰かを一方的に責めるためではありません。

 

親本人を中心に戻すためです。

情報を透明にするためです。

面会や連絡の方法を整理するためです。

財産管理の不安を確認するためです。

家族内の力の差を外部の目で見るためです。

 

家族内で解決できるなら、それは望ましいことです。

 

しかし、家族内で解決できない状態になっているなら、外部の手を借りることは必要な選択肢です。

 

親の尊厳を守るために、家族の外に問題を開く。

 

それは、責めるためではなく、守るための行動です。

 

 

9 親を一人の家族の所有物にしない

 

高齢親の囲い込みの根本には、親を一人の家族の管理下に置いてしまう危うさがあります。

 

親の言葉を一人が代弁する。

親に会える人を一人が決める。

親の情報を一人が握る。

親の財産管理を一人が説明なく行う。

親の人間関係を一人が調整する。

施設や病院との窓口を一人が独占する。

 

こうなると、親はまるで、一人の家族の所有物のように扱われてしまいます。

 

しかし、親は誰かの所有物ではありません。

 

親には、親自身の人生があります。

 

たとえ高齢になっても。

たとえ体が弱っても。

たとえ認知症になっても。

たとえ施設に入っても。

 

親本人の尊厳は失われません。

 

家族は、親を支える存在であって、親を支配する存在ではありません。

 

親を守るとは、親を囲い込むことではありません。

 

親本人を中心に、必要な支援、必要な情報共有、必要な人間関係、必要な財産管理の透明性を整えることです。

 

 

10 同じ問題で苦しむ人へ

 

もし今、あなたが高齢親の囲い込みに苦しんでいるなら、伝えたいことがあります。

 

親に会いたいと思うことは、おかしなことではありません。

 

親の状態を知りたいと思うことは、身勝手なことではありません。

 

親本人の意思を確認したいと思うことは、自然なことです。

 

情報の透明性を求めることは、攻撃ではありません。

 

面会や連絡の方法を話し合いたいと思うことは、家族を壊すことではありません。

 

ただし、感情だけでぶつかると、問題は見えにくくなります。

 

だから、記録してください。

 

いつ、何があったのか。

誰に、何を求めたのか。

どのような返事があったのか。

返事がなかったのか。

親本人の意思を、どのように確認しようとしたのか。

施設や病院とのやり取りはどうだったのか。

財産管理について、何を尋ねたのか。

 

記録は、あなたの怒りを社会に伝わる言葉に変えてくれます。

 

そして、必要であれば第三者に相談してください。

 

一人で抱え込まないでください。

 

高齢親の囲い込みは、家族の中だけで抱えるには重すぎる問題です。

 

 

11 社会に必要なのは、「家族だから」で止まらない視点

 

高齢親の囲い込みは、社会全体で考えるべき問題です。

 

施設や病院。

ケアマネジャー。

地域包括支援センター。

成年後見人。

弁護士。

司法書士。

家庭裁判所。

親族。

地域社会。

メディア。

 

多くの人が、この問題に関わる可能性があります。

 

そのとき、「家族の問題だから」とだけ言ってしまうと、囲い込みは見えなくなります。

 

家族の中に力の差がないか。

情報が一人に集中していないか。

親本人の意思確認は十分か。

他の家族の声は聞かれているか。

面会や連絡の制限は、本当に親本人の利益に基づいているか。

財産管理に不透明な点はないか。

 

この視点が必要です。

 

高齢親の囲い込みは、家族の内部で起きるからこそ、外から見えにくい。

 

だからこそ、社会の側に、見抜く力が必要です。

 

 

12 まとめ――取り戻すべきものは、親の尊厳である

 

高齢親の囲い込みの問題は、家族の勝ち負けではありません。

 

誰が正しいか。

誰が親孝行か。

誰が相続で有利か。

誰が主導権を握るか。

 

そこだけに目を奪われると、中心にいるはずの親本人が見えなくなります。

 

本当に取り戻すべきものは、親の尊厳です。

 

親本人の意思。

親本人の自由。

親本人の人間関係。

親本人の生活。

親本人の財産の透明性。

親本人が、一部の家族の都合によって孤立させられないこと。

 

親を守ることは大切です。

 

しかし、「親を守る」という言葉が、他の家族を排除し、情報を独占し、親本人の意思を見えなくするために使われるなら、それは保護ではなく支配に近づいていきます。

 

高齢親の囲い込みに対して必要なのは、怒鳴ることではありません。

 

記録すること。

透明にすること。

第三者を入れること。

親本人の意思を確認すること。

親の人間関係を守ること。

財産管理を不透明にしないこと。

そして、親を一人の家族の所有物にしないこと。

 

高齢親の囲い込みは、単なる家族喧嘩ではありません。

 

親の尊厳、家族関係、介護、認知症、相続、財産管理、法的手続が絡み合う社会問題です。

 

だからこそ、言葉にする必要があります。

記録する必要があります。

社会に開いていく必要があります。

 

親を本当に守るとは、親を囲い込むことではありません。

 

親本人の尊厳を、最後まで守ることです。

 

 


 

プロフィール

 

高齢親の囲い込み解放コンサルタント 白岩俊正

白岩会計事務所 代表/公認会計士・税理士/株式会社みらい 代表取締役

〒422-8005 静岡市駿河区池田616-2パレス葵102

お問い合わせはまずはメールで release.advisor@gmail.com

 


 

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このブログについて

 高齢親の囲い込みとは、認知症や要介護状態にある親について、一部の家族が「親を守る」という名目で、面会、連絡、医療・介護情報、財産管理、施設との連絡窓口を独占し、他の家族を遠ざけていく状態をいいます。

 

 

 親を守ることは大切です。
 しかし、その言葉が、親本人の意思を見えにくくし、家族を排除し、情報や財産の出入口を一人が握るために使われるなら、それは保護ではなく支配に近づきます。

 

 このブログでは、高齢親の囲い込みを、個人批判ではなく家族内支配の構造として考え、親の尊厳と家族関係を守るために何が必要かを考えていきます。

 

 

第24回 囲い込みを防ぐために、親が元気なうちにできること

――判断力があるうちに、意思と情報を家族で共有しておく

 

高齢親の囲い込みは、親の判断力や体力が弱った後に起きやすくなります。

 

親が元気なうちは、自分で電話できます。

自分で会いたい人に会えます。

自分で通帳を管理できます。

自分で病院に行き、説明を聞くことができます。

自分で財産や相続について考えることもできます。

家族の誰かが自分の言葉を勝手に代弁しようとしても、本人が「違う」と言うことができます。

 

しかし、親が高齢になり、体力が落ち、認知症や病気によって判断力が弱ってくると、状況は大きく変わります。

 

電話が難しくなる。

外出が難しくなる。

病院や施設とのやり取りを一人でできなくなる。

通帳や契約書を管理できなくなる。

自分の意思をはっきり伝えにくくなる。

誰かの説明に影響を受けやすくなる。

 

そのとき、家族の一人が、親との連絡、施設や病院との窓口、財産情報、介護方針、面会の可否を握ると、囲い込みが起きやすくなります。

 

だからこそ、親が元気なうちに準備しておくことが大切です。

 

囲い込みを防ぐために必要なのは、家族を疑うことではありません。

 

親本人の意思を、あらかじめ分かりやすくしておくこと。

情報を、一人だけに集中させないこと。

連絡体制を、透明にしておくこと。

財産や医療、介護について、最低限の共有をしておくこと。

将来、判断力が低下したときの備えをしておくこと。

 

つまり、親が元気なうちに、親本人を中心にした「開かれた仕組み」を作っておくことです。

 

 

1 囲い込みは、親が弱った後に始まりやすい

 

高齢親の囲い込みは、突然始まるとは限りません。

 

最初は、小さな変化です。

 

「今日は体調が悪いから会わない方がいい」

「電話すると混乱するから控えてほしい」

「施設との連絡はこちらでやる」

「通帳はこちらで預かっておく」

「病院の説明は自分が聞いておく」

「親が嫌がっているから、連絡しないでほしい」

 

一つ一つは、それなりに理由があるように見えることもあります。

 

しかし、それが続くと、親への道が少しずつ狭くなっていきます。

 

会えない。

話せない。

情報が入らない。

親の意思を直接確認できない。

施設や病院との窓口が一人に固定される。

財産や契約の状況も分からない。

 

こうして、気づいたときには、親をめぐる情報と出入口が、一人の家族に集中していることがあります。

 

親が元気なうちであれば、本人が説明できます。

 

「私はこの子にも連絡してほしい」

「施設に入っても、みんなに会いたい」

「通帳はこう管理してほしい」

「病院の説明は、家族全員に共有してほしい」

「もし認知症になっても、一人だけで決めないでほしい」

 

しかし、親が弱ってからでは、その意思確認が難しくなります。

 

だからこそ、元気なうちに話しておく必要があります。

 

 

2 まず共有すべきは、緊急連絡先と家族の連絡体制

 

囲い込みを防ぐために、まず整えておきたいのは連絡体制です。

 

親に何かあったとき、誰に連絡するのか。

病院に入院したとき、誰が知るのか。

施設に入所したとき、誰に情報を共有するのか。

緊急時に、一人の家族だけが情報を受け取る形になっていないか。

 

ここを曖昧にしておくと、いざというときに、窓口を握った人が情報を独占しやすくなります。

 

たとえば、親が元気なうちに、次のようなことを決めておくとよいでしょう。

 

入院や施設入所があった場合は、子ども全員に連絡する。

病状や介護方針に大きな変化があった場合は、メールやLINEで共有する。

緊急時の第一連絡先と、第二連絡先を決めておく。

施設や病院には、連絡してよい家族の範囲を伝えておく。

親本人が望む連絡方法を記録しておく。

 

大切なのは、一人だけを完全な窓口にしないことです。

 

もちろん、実務上、代表者が必要になることはあります。

施設や病院との日常的なやり取りを、誰か一人が担当することもあるでしょう。

 

それ自体は問題ではありません。

 

問題は、その担当者が、他の家族への情報共有を止めてしまうことです。

 

代表者はいてもよい。

しかし、情報は閉じない。

 

この考え方が大切です。

 

 

3 医療・介護方針について、親本人の希望を聞いておく

 

親が元気なうちに、医療や介護についての希望を聞いておくことも重要です。

 

どこの病院にかかっているのか。

持病は何か。

飲んでいる薬は何か。

主治医は誰か。

介護が必要になったら、自宅で暮らしたいのか、施設も考えるのか。

延命治療について、どのような考えを持っているのか。

誰に医師の説明を聞いてほしいのか。

誰に介護方針を共有してほしいのか。

 

こうしたことを、親が元気なうちに話しておくと、後で家族が迷いにくくなります。

 

高齢親の囲い込みでは、医療や介護の情報が一人の家族に集中することがあります。

 

「自分が病院に付き添っている」

「自分が医師から説明を聞いた」

「自分が介護方針を決めた」

「他の家族には知らせなくてよい」

 

こうなると、他の家族は親の状態を確認できません。

 

また、窓口になっている家族が「親はこう望んでいる」と説明しても、それが本当に親本人の意思なのか、確認が難しくなります。

 

だからこそ、親が元気なうちに、親本人の希望を記録しておくことが大切です。

 

完璧な文書でなくてもかまいません。

 

ノートでもよい。

家族間のメールでもよい。

話し合いのメモでもよい。

親本人が書いた簡単な希望書でもよい。

 

大切なのは、後から一人の家族だけが「親はこう言っていた」と言い張る状態を防ぐことです。

 

 

4 面会や連絡について、親本人の希望を確認しておく

 

意外に大切なのが、面会や連絡についての希望です。

 

将来、施設に入ったとき、誰に会いたいのか。

子どもたちには定期的に会いたいのか。

孫や親族とも会いたいのか。

電話や手紙、写真、オンライン通話などを望むのか。

体調が悪いときでも、誰には連絡してほしいのか。

家族の一人だけが面会を決める形でよいのか。

 

こうしたことを、親が元気なうちに聞いておくことが大切です。

 

高齢親の囲い込みでは、「親が会いたくないと言っている」という言葉が使われることがあります。

 

もちろん、本当に親本人が会いたくない場合もあるでしょう。

 

しかし、問題は、その確認方法です。

 

誰が聞いたのか。

どのような場面で聞いたのか。

親は本当に自由に答えられたのか。

他の家族のことをどう説明されたのか。

利害関係のある家族が同席していなかったか。

 

親が弱ってからでは、この確認が難しくなります。

 

だからこそ、元気なうちに聞いておくのです。

 

「もし施設に入ったら、誰に会いたい?」

「子どもたちには連絡してよい?」

「面会を一人の家族が決める形でよい?」

「手紙や写真を受け取りたい?」

「体調が悪いとき、誰に知らせてほしい?」

 

こうした問いは、親の自由を守るためのものです。

 

親本人の希望を共有しておけば、将来、誰かが「親が会いたくないと言っている」と言ったときにも、慎重に確認する手がかりになります。

 

 

5 財産情報を、完全に一人に握らせない

 

親の財産情報は、とても繊細な問題です。

 

預貯金。

不動産。

保険。

年金。

証券口座。

借入金。

通帳。

印鑑。

権利証。

契約書。

 

これらは、親本人の大切な財産です。

 

子どもだからといって、当然にすべてを知る権利があるわけではありません。

親が元気で判断能力があるなら、財産を誰にどこまで知らせるかは、親本人が決めることです。

 

ただし、将来の囲い込みを防ぐという意味では、財産情報が一人の家族だけに集中しないようにしておくことが重要です。

 

特に、親の判断力が低下した後に、次のような状態になると危険です。

 

通帳を誰が持っているのか分からない。

年金がどう使われているのか分からない。

施設費や医療費の支払い状況が分からない。

不動産が売却されていた。

保険金の受取人や契約内容が分からない。

遺言がいつの間にか作られていた。

財産管理をしている家族が説明しない。

 

こうなると、親本人の財産が適切に使われているのか、確認が難しくなります。

 

親が元気なうちに、最低限の情報整理をしておくとよいでしょう。

 

どの金融機関に口座があるのか。

不動産はどこにあるのか。

保険契約は何があるのか。

年金の入金口座はどこか。

重要書類はどこに保管しているのか。

将来、誰が管理を手伝うのか。

その場合、他の家族への報告はどうするのか。

 

すべての金額を今すぐ共有する必要はないかもしれません。

 

しかし、親が判断できなくなった後に、一人しか情報を知らない状態は避けるべきです。

 

財産情報の透明性は、親本人を守るためのものです。

 

 

6 遺言は「秘密にする」より「争いを減らす」視点で考える

 

相続争いを防ぐために、遺言を作ることがあります。

 

遺言は、親本人の意思を残す大切な手段です。

 

しかし、高齢親の囲い込みの場面では、遺言が不透明に作られることが問題になることがあります。

 

親が誰と一緒に公証役場に行ったのか。

誰が内容を考えたのか。

親本人は内容を理解していたのか。

他の家族の存在や関係を十分に考慮していたのか。

認知症や判断力低下の影響はなかったのか。

一部の家族に誘導されていなかったか。

 

遺言そのものが悪いわけではありません。

 

問題は、不透明な経緯です。

 

だからこそ、親が元気なうちに、遺言についても、できるだけ本人の自由な意思が分かる形で準備することが大切です。

 

誰か一人の家族だけが関わるのではなく、専門家に相談する。

親本人が自分の言葉で意思を説明できる時期に作成する。

作成時の判断能力や経緯が後から分かるようにしておく。

必要に応じて、家族に大まかな考え方を伝えておく。

 

遺言は、争いを生まないために作るものです。

 

それなのに、遺言の作成経緯が不透明であれば、かえって争いの火種になります。

 

大切なのは、誰かを有利にすることではありません。

 

親本人の意思を、できるだけ明確で、自由で、後から疑われにくい形にしておくことです。

 

 

7 任意後見という選択肢も知っておく

 

親が元気なうちに考えておきたい制度の一つに、任意後見制度があります。

 

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見人になる人や委任する事務の内容を、公正証書による契約で定めておく制度です。

 

この制度の重要な点は、親本人が元気なうちに、自分で備えを決めることです。

 

将来、誰に財産管理を任せたいのか。

誰に施設入所や医療・介護の契約を手伝ってほしいのか。

どの範囲の事務を任せるのか。

家族の中で誰か一人に集中させるのか、専門職に関与してもらうのか。

任意後見人が動き始めた後、他の家族への報告をどうするのか。

 

こうしたことを、親本人が判断できるうちに決めておくことができます。

 

もちろん、任意後見制度を使えばすべてが解決するわけではありません。

 

制度には費用も手続もあります。

誰を任意後見人にするかも慎重に考える必要があります。

家族関係によっては、専門職を含めて検討した方がよい場合もあります。

 

それでも、親の判断力が低下してから、家族の一人が事実上すべてを握ってしまうよりは、あらかじめ親本人の意思で備えておく方が、透明性を保ちやすくなります。

 

任意後見は、囲い込みを防ぐための一つの選択肢として知っておく価値があります。

 

 

8 親本人の希望を「文書化」しておく

 

家族で話し合っても、口約束だけでは後から曖昧になります。

 

「あのとき、親はこう言っていた」

「いや、そんなことは言っていなかった」

「自分にはこう話していた」

「親の本心は違った」

 

このように、後から解釈が分かれることがあります。

 

だからこそ、親本人の希望は、できるだけ文書化しておくことが大切です。

 

たとえば、次のような項目です。

 

緊急時の連絡先。

入院や施設入所時に知らせてほしい家族。

面会や連絡についての希望。

医療や介護についての考え方。

財産管理を誰に手伝ってほしいか。

通帳や重要書類の保管場所。

遺言についての考え方。

任意後見や成年後見についての希望。

亡くなった後の葬儀や供養についての希望。

 

これらを、親本人の言葉で残しておく。

 

形式は、最初は簡単なメモでもかまいません。

家族会議の議事録でもよいでしょう。

専門家に相談して正式な文書にしていく方法もあります。

 

大切なのは、親本人が元気なうちに、自分の意思を残すことです。

 

それは、子どもたちを縛るためではありません。

 

将来、親の意思をめぐって家族が争わないためです。

 

 

9 家族会議は「財産の分け方」だけを話す場ではない

 

親が元気なうちに家族会議をするというと、相続や財産の話を想像するかもしれません。

 

もちろん、財産の話も重要です。

 

しかし、囲い込みを防ぐための家族会議では、財産の分け方だけを話すのでは不十分です。

 

むしろ、次のようなことを話す必要があります。

 

親がどのように暮らしたいのか。

介護が必要になったら、どこで暮らしたいのか。

誰に連絡してほしいのか。

子どもたちにどの程度関わってほしいのか。

施設に入った場合、面会についてどう考えるのか。

医療や介護の説明を誰が聞き、どう共有するのか。

財産管理を誰が手伝い、どう報告するのか。

一人の家族に負担や権限が集中しないようにするにはどうするのか。

 

家族会議の目的は、誰が主導権を握るかを決めることではありません。

 

親本人の意思を中心に、情報共有のルールを作ることです。

 

たとえば、代表窓口を一人決めるとしても、月に一度は家族全員に状況を共有する。

重要な医療・介護方針の変更があったときは、全員に連絡する。

財産管理を手伝う場合は、支出の記録を残す。

面会制限が必要な場合は、理由と期間を明確にする。

親本人の意思確認には、可能な限り第三者の視点も入れる。

 

このようなルールがあれば、将来の囲い込みを防ぎやすくなります。

 

 

10 親のプライバシーと家族の透明性を両立させる

 

ここで注意したいことがあります。

 

囲い込みを防ぐために情報共有が大切だと言っても、親のプライバシーを無視してよいわけではありません。

 

親の財産、病歴、医療情報、生活上の悩みは、非常に個人的なものです。

 

子どもたちがすべてを知るべきだ、という話ではありません。

 

大切なのは、親本人が誰に何を共有したいのかを、元気なうちに確認することです。

 

医療情報は、誰に伝えてよいのか。

財産情報は、どこまで共有してよいのか。

施設入所時の連絡は、誰にしてほしいのか。

面会希望は、どう扱ってほしいのか。

家族に知られたくないことはあるのか。

 

親本人のプライバシーを尊重しながら、必要な透明性を確保する。

 

これが重要です。

 

情報共有は、子どもたちのためだけではありません。

 

親本人の意思が歪められないため。

誰か一人が親の言葉を独占しないため。

親の財産や生活が不透明にならないため。

親が孤立させられないため。

 

そのための情報共有です。

 

 

11 親が元気なうちの準備は、家族への最後の思いやりでもある

 

親にとって、自分が弱った後のことを話すのは、気が進まないかもしれません。

 

介護。

認知症。

施設。

財産管理。

遺言。

葬儀。

亡くなった後のこと。

 

どれも、簡単に話せるテーマではありません。

 

子ども側も、親に切り出しにくいでしょう。

 

「縁起でもない」

「まだ早い」

「お金の話をしているようで言いにくい」

「親を不安にさせたくない」

 

そう感じるのは自然です。

 

しかし、親が元気なうちに話しておくことは、家族への思いやりでもあります。

 

親の意思が分からないまま、子どもたちが判断を迫られる。

誰か一人が窓口になり、他の家族が不信感を持つ。

財産情報が不透明になり、疑いが生まれる。

面会や連絡をめぐって争いになる。

遺言や相続で家族関係が壊れる。

 

こうしたことを防ぐために、親本人が元気なうちに、自分の考えを残しておく。

 

それは、残される家族への大切なメッセージです。

 

「自分のことで、家族が争わないように」

「自分の意思が、誰か一人に都合よく使われないように」

「自分が弱っても、家族とのつながりが切れないように」

 

そのための準備なのです。

 

 

12 まとめ

 

高齢親の囲い込みは、親の判断力や体力が弱った後に起きやすくなります。

 

だからこそ、親が元気なうちに準備しておくことが大切です。

 

緊急連絡先を共有する。

医療・介護方針について話しておく。

面会や連絡についての希望を確認する。

財産情報を一人に集中させない。

遺言を不透明な形で作らない。

任意後見などの制度を知っておく。

親本人の希望を文書化しておく。

家族会議で情報共有のルールを作る。

親のプライバシーと家族の透明性を両立させる。

 

これは、家族を疑うための準備ではありません。

 

親本人の意思を守るための準備です。

親の尊厳を守るための準備です。

家族関係を閉じさせないための準備です。

将来、誰か一人が親をめぐる情報と出入口を握ってしまわないための準備です。

 

親を守ることは、親を一人の家族の管理下に置くことではありません。

 

親本人の意思、自由、人間関係、財産の透明性を守ることです。

 

そのためには、親が元気なうちに、親本人の言葉で、親本人の希望を残しておくことが大切です。

 

高齢親の囲い込みを防ぐ第一歩は、親が弱ってから始めるものではありません。

 

親が元気なうちに、家族で静かに話し合うこと。

情報を整理すること。

意思を記録すること。

一人に権限を集中させない仕組みを作ること。

 

それが、将来の親本人を守り、家族を守ることにつながります。

 

 

 


 

プロフィール

 

高齢親の囲い込み解放コンサルタント 白岩俊正

白岩会計事務所 代表/公認会計士・税理士/株式会社みらい 代表取締役

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