kyupinの日記 気が向けば更新 -2ページ目
2025-03-30 22:18:17

東京銀座で会った高齢の夫婦

テーマ:オカルト、霊感

もう10年以上前の冬の話。もしかしたら15年以上前だったかもしれない。

 

嫁さんと2人で銀座の教文館あたりを歩いていた。なぜ場所を覚えているかと言えば、その建物で切り絵で有名な人が個展?をしていてそれを観た後、建物から出たばかりだったからである。

 

そこで、しっかり防寒着を来た老夫婦がこちらに向かって歩いているのを見た。背が高いご主人の横で奥さんが、1、2、1、2と声をかけて歩いていた。ご主人はおそらくパーキンソン病に罹患していて、奥さんがサポートしつつ夫婦で銀座に来ているんだと思った。

 

いかにも品が良い夫婦で、身なりだけでなくそういうオーラが出ていたと思う。これは嫁さんも同じ意見だった。

 

僕たち夫婦がその老夫婦とすれ違う直前、そのご主人が突然立ち止まり、僕の顔をじっと見たのである。あれは不思議な体験で、お互い全く知らないのである。ああいう風に僕の顔を見入られると、こちらも立ち止まるもので、かといって話すことなどないので対峙したまま、といった感じだった。

 

その後、すれ違うように離れたが、嫁さんが不思議がり、「あの人、きっと精神科医とわかったのよ」と言う。

 

しかし、パーキンソン病は神経内科疾患であり、精神科医が診る機会はあまり多くはない。僕はリエゾンをトータルで30年くらいしているので精神科医の中でもまだ診ている方だと思う。以下は約1か月前の記事である。

 

 

この日の体験は印象深かったためか、僕たち夫婦は未だに覚えていてたまに話題に出る。嫁さんは、「あの夫婦はとびきり品が良かった」などと言うが、僕はむしろその夫婦関係の方が印象に残っている。

 

パーキンソン病の夫婦関係は、レビー小体型認知症の家族関係と似ていて親愛なる関係が多い。もちろん例外はあるが。

 

あの老夫婦は、真にリハビリ目的で銀座まで来ていたのか、いつも銀座に夫婦で来れるくらいの病状だったのかは定かではない。

 

いずれにせよ、ご主人の横に寄り添い、ご主人に声掛けしながら歩いている様は、美しい光景だと思った。

2025-03-26 15:46:02

新患の大学の友人枠

テーマ:精神科受診マニュアル

うちの病院の新患はケースワーカーが均等に割り振って受けている。

 

そのルートではなく、友人から紹介される患者さんは、まさか他の医師に回せないので、必ず自分が診ている。この友人とは大学時代の友人である。彼らは精神科医ではないので、おそらくだが、紹介する精神科医など僕くらいしか思いつかなかったのだろう。

 

ある日、1泊の温泉旅行からの帰り道、ちょうど嫁さんが運転中電話がかかって来た。僕の内科の友人からの電話で「〇〇の患者さんだが、こう言うことで困っているので診て欲しい」と言われた。

 

少し話し「今日は旅行中なので明日来てください」と伝えた。ちょうど翌日は外来担当日だったからである。友人は「旅行中すいませーん」と驚いたように言い、「患者さんが明日行けるか聴いてまた電話します」と言った。平日だったからである。

 

大学時代の友人からの紹介だと、患者さんから見ると少しメリットがあると言える。友人枠で早めに診てもらえるからである。

 

治療そのものは平常運転なので、とりわけメリットはない。

 

と言うより、精神医療はそのタイプの頑張りなどあまり効かない。かえって悪いまではないと思うが、患者さんに自分は特別と思われたとしたら、むしろマイナスだと思う。

 

内科医や外科医が、あまり意識できず、実はうつ状態の人の身体症状を診ていることは時々ある。リエゾンでもそう言う場面が出てくる。

 

例えば高齢者で、これと言った器質異常がない「口から肛門までの消化管の不調感覚」は実はうつ状態の身体症状だったりする。

 

こう言うタイプの人は、しばしばよく喋るので、精神科医以外だとあまりうつ状態、うつ病だと思いつかないものだ。彼ら、彼女らには一見、エネルギーがあるからである。

 

 

2025-03-23 01:01:36

医師でタバコをやめられないと、どんな時に困るか?

テーマ:タバコと精神疾患

医師は患者さんに禁煙を勧める機会が多いこともあり、年齢が上がると禁煙する人が多い。実際、大学の同窓会に出席した時、二次会は喫煙できるお店だったが、1名も喫煙者がおらず、灰皿を全て片付けてもらったことがある。

 

ところが、医師でもどうしても禁煙できず、タバコを吸い続ける人もいる。こうなるともはやニコチン依存症であるが、あくまで精神科医からの光景だが、精神科医に煙草を止められない人が他科より多いようには見える。

 

昔は精神科医に限らず、身体科でもタバコを吸う医師が多かった。大学病院でさえ、内科医局に出かけた時に、灰皿や喫煙用貯金箱があったりした。内科の友人に「これは何なんだ?」と聴くと、医局員になるだけタバコを止めて貰うように、1本吸うごとに100円入れるルールと言う話だった。

 

ところが、喫煙用貯金箱の1本100円はほとんど意味がなく、毎日、すぐにコインで満杯になったらしい。友人によれば1本1000円にでもしないと抑制力はないだろうと言う話だった。貯まったお金はどうするかと言うと、医局旅行の費用の一部に充当されるようだった。

 

あの時代、医局はパチンコ屋の中のように煙で霞んでいた。

 

精神科の場合、当時は患者さんにタバコを止めさせる状況があまりなかった。内科の場合、タバコを一刻も早くやめた方が良い疾患がある。患者に禁煙を勧めるのに、医師がタバコ臭いのはいただけないこともあり、禁煙するモチベーションは高かったと思う。

 

今は、精神科でもジプレキサ(オランザピン)などは喫煙すると薬効が下がるなど、禁煙する根拠があるので、禁煙を勧める機会が昔より増えたが、患者さんが禁煙することは容易ではない。

 

精神科の外来患者さん、特に統合失調症の人で1日40本以上タバコを吸う人は、缶コーヒーや缶コーラも結構飲んでいることが多く、かかるお金ももバカにならない。また、障害年金を貰っていても、これだけタバコを吸うと税金の形でかなり国に還付していることになる。

 

昔の精神科病院は喫煙できたし分煙も全くしていなかったので、部屋中、廊下も含めタバコの煙で満ちていたし、畳部屋のタバコの焦げも多く見られた。ただし、入院患者はタバコの本数を本人のお小遣いに応じて制限していたので、20本吸える人などいなかった。またライターを持たせると放火する人も実際にいるので、ライターは個人で持たせず、看護者が管理していた。

 

 

近年は精神科も全館禁煙か、喫煙できる病院でも厳しく分煙しているため、部屋で普通に吸っていることはなくなった。

 

喫煙する人は、食べられないより禁煙がきついと言う。

 

このような人は全館禁煙の精神科病院には入院できない。近年は精神科病院でも禁煙の病院が増えたため、「ここはタバコを吸えないのか?話が違う」とか言って即退院する人をほとんど見なくなった。病院は禁煙が常識ということが精神科にも及び、禁煙の精神科病院に違和感がない人が増えたのであろう。

 

さて、タイトルの「医師でタバコをやめられないと、どんな時に困るか?」だが、まず海外旅行に容易に行けなくなる。その理由は飛行機を利用できないからである。本人の話だが、8時間の禁煙なんて到底無理という。

 

国内の温泉旅行も容易ではない。高級な温泉旅館はほぼ禁煙で、あっても喫煙スペースがあるくらいである。ところが、温泉に来ているのに、いちいち禁煙スペースに行かないといけないなんてとんでもないと言う。

 

本人は、温泉に来ているのに、ゆっくり部屋で喫煙できないのは全く寛がないのだそうである。

 

その結果、宿泊できないため、車で日帰りできる距離までしか旅行できない。せいぜい隣県までである。

 

ある日、彼の車に乗った時に気づいたが、喫煙する人は車の内装が酷く劣化する。また自宅のクロスもパチンコ屋の如く黄色く変色する。あまりに酷いため、一度クロスを全て張り替えたが、数年で元の木阿弥になった。また何百万もする高級絨毯も意味がないのでは?と思った。将来、売るために買っているのではないとは思うが。

 

精神科医で喫煙者が多いのでは?と感じる理由だが、ホテルでの講演会の時、休憩時間に大挙して喫煙スペースに精神科医が行くからである。遠方から来た演者まで喫煙スペースにいたことには驚いた。

 

また関東から転院して来た患者さんの話だが、前のクリニックの医師は、診察中もタバコがやめられず、チェーンスモーカーの如くタバコを吸いながら診察していたらしい。この勢いで吸う人は、民間精神病院に勤めることなど無理な話である。診察中にタバコを吸うことを許す精神科病院なんてほぼないからである。

 

タバコをやめられないために生じる損失はここに挙げたものだけではないので、ニコチン中毒とはいえ、気の毒な話である。

 

僕は最初から喫煙ができなかったので、禁煙した経験がない。精神科医のために散々、副流煙を吸わされたが、タバコのために努力することがなかったので良かったと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

2025-03-20 01:31:53

ジプレキサ筋注製剤を誤って静注するとどのようになるか?

テーマ:ジプレキサ(オランザピン)

 


 

2013年とかなり古いが、ジプレキサの筋注製剤の記事をアップしている。この記事の中で、以下のように記載している。

 

ジプレキサの筋注製剤は昨年12月(2012年12月)に発売されている。上の画像はジプレキサのバイアルを2.1mlの注射用蒸留水で溶かした写真。このようにビタミンのドリンク剤のごとく、黄色の透明の製剤である。注射をする際の抵抗はかなり少なく、すっと入る感じ。それに比べ、ネオペリドール(ハロマンス)などの粘り気のある筋注製剤はかなり重い。実際、ネオペリドールを注射器に引くだけで、注射針の切れが悪くなる。

 

写真のように筋注製剤にしては量が多いことや、文章の中の「注射をする際の抵抗はかなり少なく、すっと入る感じ」と言う表現もあり、筋注するところをうっかり静注してしまわないか懸念していた。

 

そして、もし誤って静注した場合、どのような事態になるのか調べてみたのである。ちょっと古い資料だが、以下のようであった。

 

日本での報告はないが、海外では何例か事故報告があり、静注した場合、41%に有害事象があり、投与量は不明だが、その多くは「頻脈、低血圧、鎮静」であった。死亡例は2例だったとのことである。

 

この筋注製剤を誤って静注した場合、過量投与に近い状況になるようであった。

 

セレネースやトロペロンは筋注、静注いずれもできる上、実際に筋注ないし静注した時の感覚が掴みやすいので、ジプレキサ筋注より使いやすいと言うのがある。激しい興奮状態では連続で筋注ないし静注可能なのも良い。

 

なお、僕はジプレキサ筋注製剤の効果自体は悪くないという評価をしている。

 

たまにジプレキサを筋注しているが、それでも投与機会が少なすぎて、多くのジプレキサ筋注製剤が期限切れしてしまった。

 

と言うわけで、現在、うちの病院ではジプレキサ筋注製剤の在庫がない。必要な時に購入する予定である。

2025-03-16 02:27:44

精神科医の経験年数と技量の話

テーマ:精神科受診マニュアル

 

 

先日の「転院と出戻りの患者さん」という記事を書いている時、いくつかスピンオフ的なテーマがあると思った。

 

記事の中で患者さんがクリニックに転院を希望する話が出てくる。そのクリニックは、僕が入局した同門ではなく、良く知らない精神科医であった。

 

クリニックのホームページを見て驚いたのは、大学卒後、10年目くらいで開業していることであった。今は研修医制度があるので、卒後10年目でも10年間精神科医をしているわけではなく、実質8年目くらいである。精神科は指定医制度があるので、指定医を取らないまま開業することはほぼないと思うので、研修医を取得してほんの2~3年目と推測される。

 

僕は卒後6~7年目には抗うつ剤治療はほぼ治療戦略が完成していたと思う。それはかなりハードな中核病院で新患を毎日2.5人診ていたと言うこともあったし、夜間の救急外来の患者も診ていたこともある。当時はまだSSRIが発売されていなかったが、旧来の抗うつ剤もそれぞれに特性があり、一朝一夕に治療戦略が完成するまではならない。

 

精神科医にストレートに入局し同じ年数経っても、経歴的に5年とか10年くらいの節目で、同じようなスキルがつくとは限らない。それは経歴的なものも影響するからである。例えば、卒後7年目頃、大学院卒の人は10年目でも全然といって良いほど臨床的なスキルがついていなかった。経歴的にスキルが付く場所がなかったからである。

 

僕が10年目の頃、統合失調症も含めかなり治療手法がより完成し、スマートになっていたと思うが、今と比べてどうだったかと言うと、かなり差があると感じる。それは当時は、今より薬が切れてなかったからである。つまり当時はリスパダールさえ発売されてなかったが、今より治療に抗精神病薬の用量を要していた。

 

また、抗精神病薬、抗うつ剤、気分安定化薬、ベンゾジアゼピンの併用のような複雑な処方を変更する際に、ある薬を増減した時の病態変化イメージが、今ほどはできなかった。これは必ずしも正しくイメージできるわけではないが、これができると、どの薬がより重要で、どの薬にはさほど意味がないかわかるため処方がスリムにできる。良くない薬が効率的に中止できるからである。

 

出戻った患者さんを診ていた精神科医はまだクリニックを開業したばかりで、つまり11年目か12年目くらいの技量だったので、あのように難しい患者さんが悪化した際に、治療が迷宮に入るのもやむを得ない。彼が紹介状で「力不足ですいません」と言うのも本心だったったような気がする。

 

さて、では何十年も経験がある精神科医の技量が若い精神科医よりいつも上回るかと言うと決してそうではない。ある一定の年数、例えば25年目くらいで凄く治療が上手くなるかと言うと、そうではないのである。

 

どこの精神科病院に行けばよいかという質問に、結局は病院ではなく、どの医師かであると答えている。どの病院も複数人の精神科医がおり、全ての精神科医が優れているなんてありえないと思うからである。

 

過去ログに以下のような記事がある。この記事は2008年の記事で、紹介してきた心療内科クリニックの医師の僕より15年以上先輩であった。これくらい離れると、同門会に来ない医師だと顔もわからない。

 

 
この記事を見ると、精神科医は年齢を重ねて線形に技量が上がるわけではないことがわかる。
 
今でも、リエゾンで入院患者さんでたまに凄い向精神薬処方を診るので、年寄り精神科医が古臭いとんでもない処方で治療していることも現実にはあるのである。また、凄い処方の処方主は精神科医でしかありえないことも重要だと思う。
 
少ない経験年数で開業する精神科医は、その後、誰からも誤った手法を指摘されないことがある。また、同じ病院内の入院患者の良い経過と、その処方内容の変遷を見る機会がないのも大きい。つまり経験値が上がりにくい。
 
また、心療内科で開業する精神科医は、精神科病院に適応できなかったために開業せざるを得なかった人も一定の割合でいる。
 
この適応できなかった理由も様々で、中核病院で上司が期待するほど論文が書けなかったなど高いレベルの理由のこともあるが、人間関係のストレスの弱さや、コミュニケーション能力が低いなど、病院組織に馴染めなかった医師もいるのである。
 
つまり言い方を替えれば、落ちこぼれである。
 
今は、全く昔にはいなかったタイプ、野心的な理由で早い開業をする人もいそうである。つまり直美の亜型である。
 
 
ただし、ひとこと書いておくが、指定医取得直後に心療内科を開業することは、直美より遥かにマシである。比べることも失礼な話である。
 
精神科医が将来的に上手くなるかどうかは、経歴的なものが大いに関係しており、それが少ない精神科医が心療内科クリニックを開業して、更に上積みできるかはかなり微妙だと思う。
 
しかし長年精神科医をしている人が、必ずしも上手いとは限らないということも、謎な話である。
 
ベテラン精神科医に下手な人は十分に存在する。
 
参考