kyupinの日記 気が向けば更新 -4ページ目

レビー小体型認知症の幻視の恐怖感

中核群の統合失調症の幻覚(特に幻聴)はその人を支配する力が強く、幻覚のためにとんでもない行動を起こすことがある。このようになる理由は、シュナイダーの1級症状の他の症状が合併しているからと思う。

 

 

クルト・シュナイダーの定義した1級症状
1.思考化声
2.批判的幻聴
3.ダイアログ(複数人の対話)形式の幻聴
4.身体への悪意ある行為や影響
5.思考伝播
6.思考奪取
7.作為体験
8.関連妄想・妄想知覚

 

それに対しレビー小体型認知症の幻視は、そこまでの力はなく、たいてい患者さんが幻視を語る際も、実にあっさりしている。恐怖感もなく本人を制約することもほとんどない。しかし、身内(孫など)の幻視などの場合、なぜそこにいる?と言う驚きはあるようである。

 

レビー小体型認知症では、子供や小動物、時にお坊さんなどの幻視を訴えることがあるが、それに伴う大きな情動、特に恐怖感はほぼないと言って良い。

 

レビー小体型認知症の幻視にエネルギーが乏しいのは、その患者さんが統合失調症ではないからだと思う。つまり幻覚の座もおそらく限局されているのだろう。

 

レビー小体型認知症の人の情動が激しいように見える時、それは幻視など幻覚によるものではなく、病前性格に由来する部分が大きい。

横紋筋融解症のCPK値レベルの話

過去ログでは数回、横紋筋融解症について記事をアップしている。今回は横紋筋融解症の診断基準におけるCPK値上昇レベルの話。

 

 

上記の重要部分を以下に抜粋する。

 

横紋筋融解症は、患者さんが自宅などで倒れていて、救急搬送されて高CPK血症が判明し透析などが実施されるパターンが典型的である。しかし、中核病院の泌尿器科の医師はこの病態をはっきりと診断できないで治療をしていることもよくある(だいたい50%くらい)。紹介状で「長時間伏せていたことによる筋肉の挫滅」と言うフレーズを記載しているからである。治療そのものには影響がないかと言うと、ちょっと違う。その理由は原因となる抗精神病薬を中止していないからである。横紋筋融解症は悪性症候群と同じく、原因薬物をまず中止しなければならない。その際に、抗精神病薬やそれ以外の向精神薬に加え筋肉に侵襲があるアトルバスタチンなども中止した方が良い。

 

救急医や泌尿科医が、抗精神病薬による横紋筋融解症を見抜けない理由の1つにCPK値がさほど上がっていない症例が稀ならずあることが挙げられる。CPK値が1万を超えると流石に横紋筋融解症と診断できる確率が高くなるが(それでも見逃す医師もいる)、CPK値が例えば500くらいしか上がっていない時は、最初から横紋筋融解症を診断から除外してしまうようなのである。その理由は診断基準に沿わないからだと思う。

 

抗精神病薬服薬中の精神科患者さんが急性腎不全を生じていて、尿中や血中ミオグロビンが高値であれば、CPKがさほど上がっていなかったとしても、横紋筋融解症が十分に疑わしい。

 

なぜ、うちの病院で血中ミオグロビン値がわかるかだが、横紋筋融解症を疑った時点で、血液一般、血液生化加え、CPKと血中ミオグロビン値の検査を検査センターに出すからである。ところが血液一般、血液生化、CPKは半日以内で結果が出るが、血中ミオグロビン値だけは結果が出るまで数日かかる。血中ミグロビンが高値なのは時間遅れで判明する。そして中核病院から驚くような返書が返ってくるという流れである。

 

救急外来や泌尿器科ではCPKがあまり上がっていないケースでは最初から横紋筋融解症を否定してしまうため、尿中ないし血中ミオグロビンを調べないようなのである。そのため大誤診の方角に向かい、例えば抗精神病薬による薬物アレルギーのような病態を疑ったりする。

 

したがって治療方針としては概ね治療の方向に向かうが、腎生検のスケジュールを立てるとか、奇妙なことになる。そもそも僕は同じ向精神薬を長期間服用し続けていて、突然、薬物アレルギーが生じ急性腎不全に至った事例を未だ知らない。

 

Googleで横紋筋融解症を検索すると、以下のように記載されている。

 

 

横紋筋融解症は、診断基準的には最低限CPK値が上限の4倍ないし5倍くらいに上昇しないといけないらしい。しかし臨床的にはなぜか血中ミオグロビンや尿中ミオグロビンが非常に高くなっているのにCPKがさほど上がっていない事例に遭遇する。

 

 

 

2007年と少し古い論文だが、原田和博先生の記載の中でも、さほどCPK値が上がっていない症例が少なくないのがわかる。

 

ところで、僕は未だに時にCPK値とミオグロビン値の乖離が生じることがある理由がよく理解できずにいる。

 

経験的には悪性症候群に比べ横紋筋融解症は末梢性に生じた副作用に見えるが、抗精神病薬の横紋筋融解症は、幻覚を伴う重いせん妄がしばしば起こる印象。このせん妄は、横紋筋融解症による2次的な中枢への影響なのか、デフォルトで中枢に影響しているのかはよくわからないままである。

 

横紋筋融解症はミオグロビンが筋肉から流れ出す。これはいわば血中のゴミなので腎臓に引っかかり侵襲を及ぼす。横紋筋融解症状態の血中にはミオグロビン以外のゴミもあるはずなので、どちらかと言うとこれら雑多なゴミによる2次的せん妄のように見えるが、自信はない。

 

横紋筋融解症圏内では、抗精神病薬の中でもセロクエル(クエチアピン)は曲者で、つまり安全そうに見えて、意外に横紋筋融解症を生じやすい。だから、一度でもセロクエルで横紋筋融解症を生じたら、なるだけセロクエルを中止するようにしていた。

 

数ヶ月前、何かの本を見ていたら、クエチアピンは横紋筋融解症のリスクが高いと言う内容が書かれていたので、ちょっとびっくりした。全く臨床経験に沿った内容だったからである。

 

現在の横紋筋融解症の診断基準は、誤診が起こりにくい基準にアップデートすべきだと思う。

 

 

 

 

山口県美祢市の秋芳洞観光

 

秋芳洞は確か小学2年生の時に行ったきりで、その後、行ったことがなかった。小学2年生の時は僕の家族と叔母さん夫婦と一緒に行った記憶。その日、大変な雨の日だったが、秋芳洞内は問題がなかった。洞窟内の幻想的なライトアップの美しさが記憶に残っていて、洞窟内の川では目が退化してなくなっている魚も見た。

 

あと、上下に長い円錐状の鍾乳洞の柱が対照的にあり、針のような先端が数cmか、もしかしたら数mmまで接近しており、上下が繋がるまで数万年かかるなどの説明を聴いた。また、こともあろうにイタズラで鍾乳洞の片方の柱をポキンと折ったバカがいて、数万年で繋がるところがそうならなくなったと言う話も記憶に残っている。

 

今回、とても暑い日だったが、行く気がある時に行かないと、なかなか行かないので実に数十年ぶりに観光に行ったのである。嫁さんと2人である。

 

最初に挙げた写真は秋芳洞の正面入り口。ここに来るまでにチケットを買わないといけないが、大人1名で1300円だった。ネットでも購入できるらしいが、既に並んでいたし、よくやり方がわからないので並んで買うことにした。事前の準備不足である。

 

入場料の表を見ると、高校生は大人と同額で、中学生でも1050円は少し高いのではないかと思う。正面入り口から入ると、すぐにオプションで上の方まで梯子で登れるポイントがあり、別料金300円かかる。僕たちは年齢的に危険性もあるので、やめておいた。

 

 

 

この日はとても暑い日だったが、入り口に近づくととてもひんやりした空気が流れてくる。避暑もかなりのもので、スイカも冷やせる温度だと思った。年中、洞窟内は17℃くらいらしい。温度にも驚いたが、驚異的な観光客数にも驚いた。場所によると、新型コロナも感染しかねない密集だった。

 

正面入り口から入ると、駐車場に車を停めるのも大変だったし、入り口でチケットを買うのにも相当に並ぶ。また入り口から洞窟内ではずっと上り坂なのである。逆の黒谷口からだとずっと下り坂で観光が楽だったらしい。あとで気づいても遅い。

 

駐車場は停めるのが大変だと、出るのも渋滞で時間がかかるのである。僕たちは駐車場から出るまで30分くらいかかった。今から考えると展望台に近いエレベーター入り口から入るのが色々な意味で良いと思った。チケットも並んでいないし。黒谷口に近いので下りが多くなるのが良い。

 

 

ここは正面入り口から入るとすぐにあるスポット、千枚皿である。お皿のような形状に水が溜まっているが、魚は見えなかった。秋芳洞は昔に比べライトアップの点で自然に近いものにしているらしく、多様な光線などほとんどなかった。と言うか、暗すぎて洞窟内の川にいる魚があまりよく見えない。目が退化していることを肉眼で確認することも、運が良くないとできないと思った。

 

 

少し字が見えづらいと思うが、傘づくし、ライオン岩と書かれている。

 

 

見下ろせる場所。登ってきている観光客が見える。中央より少し黒谷口に近い場所になんと地上まで80mもあるエレベーターで外に出られる。エレベーターを出ると展望台まで徒歩で行けるが、結構な上り坂である。年配者はここで膝か股関節を痛めかねないところ。入場チケットを持っていればエレベーターから再入場できる。

 

 

ここは展望台から見えるショップ。ここではアイスクリームとかコーヒーなど飲めるが、こちらは水だけで自粛。水はなんとペットボトル150円の安さ。海外旅行でも気を付けているが、こういうところで迂闊に食べてお腹を壊したら、まずくすると千枚皿で用を足さなくなりかねない。これは逮捕案件である。

 

 

展望台からの風景。秋芳洞は海外の人もいるが、圧倒的に日本人が多かった。中国、台湾の人たちもいたが、一見日本人と区別がつかない。彼らが話をしていると中国語とか英語なのでわかる。西欧の人たちは多くはなかった。

 

 

頂上では、暑い日でもそこそこ涼しい。洞窟内の17℃ということはないけど。この日は度々、夕立が来た。

 

 

夕立が止んだ間隙をついてエレベーターまで急いで戻る。ここまで上り坂だと、降りるのも膝が笑う感じ。パリ五輪のマラソンコースの厳しさ(消耗が激しい)と同じである。

 

この展望台にも駐車場があり、無料っぽいがもしかしたら有料かもしれない。ここだと車が停めやすい上に、足腰膝を痛めなくて済む。僕は左膝を既に痛めており、相当失敗したと思いつつ、膝を笑わせながら降りた。嫁さんはもっと酷い。股関節を痛めており10か月くらい運動を自粛していた。今はテニスも可能だがこの日、股関節への負担が大きかったためか、エレベーターで秋芳洞内に戻った後、痛みでゆっくりしか歩けなくなった。(今は良くなっている)

 

あとでスマホを確認したら、この日1万1200歩ほど歩いていた。パースの時は連日1万1000歩から1万4000歩ほど歩いていたが、数日で足の小指にマメができた。海外旅行では必ずそうなる。このような体調から、登山なんて最早とんでもない話である。行かないけど。

 

地方だと車がないと生活が成り立たないほど不便なので車移動が多く、精神科病院に勤めているだけだと、1日2000歩から3000歩しか歩かない。日々散歩をしているのは毎日可能なら6000歩から8000歩歩きたいからである。地方に住む人たちは東京のように通勤だけで相当歩かざるを得ない大都会の人たちに比べ全然運動量が足りない。

 

アメブロをしていない人はわからないと思うが、写真をブログにアップロードすると、良く90度傾いている。これは編集で少し画像をいじると正しく表示される仕様である。ずっと以前は写真を縮小してうまく行っていたが、今はいったん90度回転して保存し、再び正しく戻し保存すると問題ない。これでアメブロで正しく表示されるようになる。今日の写真は最初のアップロードで多くは傾いており、正しく編集して再アップロードしたため時系列的になっていない。

 

 

 

このような柱が完成するまですごく時間がかかる。何万年なのか、あるいは何億年なのか単位はわからない。

 

 

今回の観光で思ったことは、小学2年生の時の思い出の場面があまり出てこなかったこと。様々な色でライトアップをし過ぎると、生態系を変えるというか、都合の悪いことも起こるのかもしれないと思った。

 

 

今回、iPhone13miniで撮影しているが、うまく綺麗に撮れるか全く自信がなかった。しかしiPhone13は暗いところの写真は良く撮れるので、思ったよりずっと良い写真が撮れている。

 

 

それぞれの名前には由来があるのだろうが、よくわからないものもある。

 

 

今回の観光では、僕が膝を痛めたり、嫁さんも股関節を再び悪くしたりしたので、これは相当に失敗と思った。

 

しかし、温泉旅館に宿泊していたためか、これらの痛みもすぐに良くなり、写真も綺麗に撮れていたので、いっぺんに機嫌が直ったのであった。

 

 

第一感でこの薬が良いと思うこと(リエゾン編)

患者さんの診察時、主訴や病歴やその患者さんの表情、様子などを診て、第一感でこの薬が良さそうと思い処方する。ここで言う第一感とは感覚的なものであり、診察内容が加わっているとはいえ、主観的な部分が大きい。

 

しかし、第一感で投薬する薬でうまくいく確率は計算したことはないが、たぶん95%を超えていると思う。しかし5%くらい外しているのは重大である。むしろ僕はこの方を重視している。

 

病状を改善しフィットしているが、継続できないことがある。例えば、ラミクタールのように中毒疹が出て続けられないことがある。これらはうまくいって始まっているので一応、95%に入れている。うまくいくイコールそれで良いというわけではない。そもそも、診察した時、確実にその人に中毒疹が出るかどうかまで予測できない。生活歴、病歴で薬で中毒疹が出やすい人はリスクが高いといったところである。

 

診察時、リスクを取りやすい時とそうでない時がある。例えば、過去ログにも触れているが、リエゾンの治療により賦活し過ぎて病棟が大騒ぎになる事態は許されない。それは身体科のリエゾン医師に対する期待からも反している。

 

そのようなことから、例えばレキサルティは少量で賦活が強いため、良さそうに思えてもかなり処方しにくいものだ。つまり、リエゾンでは常に第一感で良さそうな薬を選択しているわけではない。

 

ジプレキサ(オランザピン)も同様、精神症状を悪化させることがあるので処方し辛いが、奇異反応的な賦活がレキサルティほどではないし、選択肢がそれしかないこともあるので、看護師と病棟薬剤師に十分注意喚起して処方することもよくある。

 

そのタイプのリスクは、単科精神科病院病棟では十分に許容できるので、これらの薬も処方しやすい。できれば転院して貰って治療をした方が良い。つまり、どこで投薬するかで選択しやすい薬は変わるのである。

 

リエゾンでのレキサルティの場合、一発で寛解するというか、完治のような病態変化もあり、次回行ったら既に退院している。いわゆる魔法のような効き方である(実話というか、実際の病棟ナースの言葉)。

 

リエゾンで比較的投薬頻度が高く有効なことが多い薬として、バルプロ酸、オランザピン、クエチアピン、ドネペジルが挙げられる。このうち、バルプロ酸、オランザピン、クエチアピンはじわじわと徐々に効果が表れるタイプだと思う。(その日に効果が出ないという意味ではない)

 

それに比し、ドネペジルは鋭いナイフのように効くタイプである。ドネペジルは過小評価されている向精神薬の1つだと思う。

 

ドネペジルは、コリンエステラーゼ阻害薬で、副作用が出る時は1㎎程度でも出現する。リエゾンに限ればレビー小体型認知症の幻視に対し処方する機会が多いが、当初、奏功して幻視が止まることの方が、そうでないことより遥かに多い。

 

リエゾンではない場面では、ドネペジルは認知症っぽい精神症状の変化が起こったタイミングで服薬させると精神が締まる印象を持つ。過去ログにあるように、いつも日記や家計簿をつけていた高齢者がぱったりしなくなったなどの変化である。このタイミングでドネペジルを少量投与すると、以前に戻ったように再開したりする。

 

また曜日感覚が乏しくなり、曜日の勘違いが多くなった時も、正確に把握できるように回復するケースがある。家族から見て繰り返しのつまらない質問の減少もそうである。

 

リエゾンの場合、ドネペジルが5㎎~10㎎など大量に処方されていて、精神症状が悪い時はむしろ中止した方が良い。精神に有害作用を及ぼしているケース(具体的には認知症の随伴症状を悪化させている)が多いからである。

 

リエゾンでは特に、1.25㎎投与してそれで効かないなら、増やす意味すら乏しいと言うか、期待値が低すぎるといったところだと思う。なぜ1.25㎎なのかと言うと、リエゾンに行くような民間総合病院はドネペジルの3㎎錠がなく5㎎錠しかないからである。したがって4分の1に分割すると1.25㎎になる。

 

驚くのは、ドネペジル1.25㎎で幻視がピタリ止まるのは良いとして、下痢などの副作用が出ることである。これはドネペジルがコリンエステラーゼ阻害薬であることを考えると、十分にあり得る副作用だが、そもそもドネペジルは高齢者にしか投与しないため、高齢者では腸管の動きが弱まっている(つまり便秘になりやすい)ことを考慮すると、そこまで多くはない副作用である。つまりその下痢をした患者さんにとって、ドネペジルがそこまで切れているからであろう。

 

また更に驚くことは、下痢の副作用のためにドネペジルを中止した際、幻視が再燃する人と、幻視が完治してしまっている人にわかれることだ。

 

ドネペジルを中止して下痢が消失し幻視が再燃する人は、ドネペジルの薬理作用をそのまま証明している。幻視が止まって再燃しない人は、元々レビーではなかったのでは?という疑念が湧く。雑多な、もう少し未分化な精神症状だったのだろう。

 

では、なぜ止まったかと言うと、その辺りに幻視の座があるからなんだろうと思う。軽い精神疾患では時々経験することである。

 

特にリエゾンで第一感が的中しやすいのは経験的なものが大きい。おそらく27歳の時からリエゾンをしているからだろうと思う。

 

鎮静的抗うつ剤の話

最近、鎮静的な抗うつ剤が減ってきたと思っていた。抗うつ剤は賦活的であれば良さそうだが、精神症状的に鎮静作用が加わっている方が良いことも多い。

 

今よく処方されている抗うつ剤で鎮静的薬理作用を持つ薬は、リフレックス(ミルタザピン)だと思う。この薬はSSRIやSNRIに比べ奇異反応的な興奮、焦燥、激越などを生じにくい。一方、SSRIやSNRIは鎮静的とは言い難い。SSRI全般で比較的鎮静的なものはパキシルだと思うが大きな差はない。また、トリンテリックスも鎮静的ではなくむしろ賦活が強い抗うつ剤である。

 

現在でもよく処方される鎮静的な抗うつ剤としてレスリン(トラゾドン)も挙げられる。リフレックスとレスリンはしばしば就前に処方されるのはそのような理由による。ルジオミール、テトラミドも鎮静的であるが、処方頻度がかなり減っている。この2剤はリフレックスやレスリンに比べ、今は扱わない精神科医もいると思う。

 

このようなことから、新しいタイプの抗うつ剤を処方する限り、あまり鎮静的ではない処方になりやすい。だから時に事故が起こるのである。

 

いわゆる古い3環系抗うつ剤、トリプタノール、トフラニール、アナフラニール、アンプリット、ノリトレン、アモキサンなどは概ね鎮静的抗うつ剤であるが、アモキサンに限ればそれほど鎮静的ではない。これらの薬は患者さんが日中の眠さの副作用を訴えることが多く、特にトリプタノールは最たるものであった。

 

それでもトリプタノールでさえ、慣れば朝昼夕でも服薬できる人がいたので、抗うつ剤は眠いのは当然であまり気にならなかった。今の若い人に比べ、昔のうつ病の患者さんはこれらの副作用でへこたれないと言うか、忍容性が高かったと思う。

 

このような鎮静的抗うつ剤ばかり処方していれば、なんとなく鎮静の差がわかるようになる。アモキサンは鎮静的ながらそこまで強い鎮静はかからず、比較的処方しやすい抗うつ剤だった。またターボがかかると言うか、馬力が出るタイプなのが良かった点だと思う。

 

最近、驚愕したことに、アンプリットが発売中止になっていた。つまりそれくらい処方されなかったものと思われる。昔の薬でもレスリンは残っているので、特殊な事情がないのに発売中止になったのは大変なことである。

 

また、ノリトレンもアモキサンと同じ理由で出荷が止まっているようである。(ニトロソアミン混入リスク)。ノリトレンは処方頻度としてはアンプリットと同じか、まだ少ないくらいと思うので、今後発売中止される可能性も十分にある。

 

 

このブログでは、未だにアモキサンのテーマが残っているが、現実的には発売中止になる可能性が高いため、近い将来、アモキサンのテーマは旧来の3環系抗うつ剤に合併させる予定である。

 

将来的には、古い3環系抗うつ剤は更に使われなくなり、徐々になくなっていくのではないかと思う。個人的にアナフラニールだけは点滴としてよく処方しているのでなくなってほしくないものである。実際、アナフラニールの点滴のために現在2名の患者さんが入院している。

 

難治性うつ病はサッカーと同じく、最初に1点取るのが難しく、1点取れれば弱小チームでも1-0で勝ち切れるように、良くなった状態を維持することは、それまでより遥かに容易である。だからこそ、アナフラニールの点滴は有用なのである。

 

なぜ、鎮静的な抗うつ剤が減少していくかだが、古い3環系抗うつ剤は循環器系にリスクがあるし、その他の自律神経系や肥満などの副作用がよく診られるからである。SSRIが精神に副作用が大きいことに比べ、古い鎮静系抗うつ剤は身体に副作用が大きい。

 

また、今の非定型精神病薬にはオーグメンテーション的に抗うつに処方されることが増えてきており、しかも鎮静的なものも選択できる。つまり鎮静的でない抗うつ剤の欠点を弱めることも可能になってきているのである。

 

将来、古い3環系構造を持つ抗うつ剤は淘汰される運命なんだと思う。