
刑務所と単科精神科病院の食事のことなど
今日は食事の話。これは過去ログのどこかで触れたことがある。
映画やドラマの中では刑務所の食事は「臭い飯」と評されている。これは、一般の人たちにはピンと来ないと思う。
刑務所に勤めていた時、検食として毎日お昼ご飯が医務室に運ばれてきていた。この感想は、「確かに刑務所の食事は臭い」だった。あの臭いはどの食材から来るのかわからないが、臭いことは間違いない。しかもその臭いのため、たくさん食べることなど無理なのである。
結局、刑務所の昼食はいつも一口だけ食べて、しっかり食べたことは一度もなかった。刑務所には専門の食事を作る受刑者がおり、たいてい料理が上手い人が作っていてあの臭さなので、いかに食材が重要かがよくわかる。
あれに比べると精神科病院の食事は段違いに良いと思う。僕は今の病院で院長として20年くらい働いているが、出勤した日は毎日、昼食を検食するがほぼ毎回完食し、特に不満もない。おそらく昼ご飯をレストランかお弁当を買って食べているより健康にも良いのも間違いない。塩分などが計算されて出されているからである。
そもそも現在の精神科病院は規模にもよるが、業者が入っていることが多い。これはさまざまな理由があるが、1つはシフト勤務の人員が揃わないことが大きい。病棟の看護助手の募集がしにくくなっているのと同じ理由である。
精神科病院の給食は刑務所の給食の独特な臭さは皆無である。(当たり前)
死刑判決ではない場合、刑期にはもれなく労働が付いているが、刑務所の食事を長期間食べさせられるのも間違いなくペナルティの1つだと思う。
精神科病院に限らず、病院食の価格は診療報酬で決められているが、現在は1日ではなく1食ずつ計算されるようになっている。この料金の結構な部分を人件費が占めているので、食材費はそこまで大きくはない。
精神科病院は時に400床もある病院があり、規模の大きい病院ほど利益が出やすい構造になっている。その理由は人件費の影響が相対的に規模が大きければ大きいほど小さくなるからである。また食材費についても有利になる。この点で病床数が小さい病院は規模のメリットは享受できない。
そのため、規模の小さな病院ほど人件費のことを考慮し、専門の給食業者に委託し給食部分を切り離すことが2000年頃から次第に多くなっていた。その方が経営上のリスクが少なくなるからである。
このデメリットは、どの病院も同じような食事になり個々の病院の給食の個性がなくなることであった。しかし、メニューは多様になっていた。業者の場合、味の文句を言うと融通が利くというか、旨味を出せる腕の良い人を派遣してくれることが大きい。苦情を言えば言うほど、味は良くなるのである。
近年、この辺りの事情に変化が起こってきている。その理由は食材費と人件費の上昇である。国が決めた給食の診療報酬ではもはや贖えなくなって来ているのである。従って毎年の給食の業者との契約は給食費部分で全然利益が出ないか、マイナスになる事態になってきている。
ある時、全てを冷凍の食材にして安価に提供する業者が病院で給食を披露し、検食する機会があった。県内でもコスト削減のため、やむなく業者を変更した病院もあると聴いていた。
検食した感想。
1回だけ食べるとそこまで悪くはないが、どうもコンビニっぽい味だと思った。不自然な味の濃さがあり間違いなく毎日食べると飽きが来る味だと思う。レトルト食品の欠点がたった1回の検食でもわかるのである。その結果、採用を見送ることになった。ちなみに経営者がそれを採用すると言うなら、やむを得ないと思っていた。
コロナパンデミック以降の食材と人件費の上昇は、診療報酬の給食費で贖えない状況をもたらしており、今後、更に影響は大きくなっていくと思う。
参考
モーズレイ処方ガイドライン第14版(2021)による抗精神病薬の肥満リスク
2006年から、抗精神病薬の肥満について時々触れている。近年は個々の抗精神病薬のテーマに記載していることが多い。今回はモーズレイ処方ガイドライン第14版(2021)から引用したものである。
モーズレイのガイドラインでは、その薬で体重が増えるかどうかや、どのくらい増えるかはかなり個人差が大きいと記載されている。確かに、オランザピン、クエチアピン、エビリファイはかなり個人差があるように見える。
〇体重増加のリスクが高い抗精神病薬
クロザリル(クロザピン)
ジプレキサ(オランザピン)
〇中等度のリスク
コントミン(クロルプロマジン)
iloperidone(本邦未発売)
sertindole(本邦未発売)
セロクエル(クエチアピン)
リスパダール(リスペリドン)
インヴェガ(パリペリドン)
〇低いリスク
amisulpride(本邦未発売)
シクレスト
レキサルティ
エビリファイ(アリピプラゾール)
cariprazine(本邦未発売)
セレネース(ハロペリドール)
lumateperone(本邦未発売)
ラツーダ
ドグマチール(スルピリド)
trifluoperazine(本邦未発売)
ziprasidone(本邦未発売)
この一覧では、本邦未発売の抗精神病薬が多く挙げられている。ざっくり3等分されており、大雑把な記載である。
この中の低いリスクとなっている抗精神病薬でも、レキサルティはエビリファイより体重増加するように見える。この2剤は概ね体重が増えない薬だが、それでも差があるのである。僕の患者さんには、レキサルティの方がエビリファイより体重が増えない人もいる。(個人差)。
ここで挙げられている本邦既発売の抗精神病薬で最も体重増加がないのはラツーダだと思う。
また、欧米で発売されていないため、一覧に挙げられていないが、ロナセン(ブロナンセリン)もラツーダと同じくらい体重増加を来さない。
ドグマチール(スルピリド)が体重増加が少ない一覧に入っているのは謎だが、日本人には処方量が少なかったとしてもそこそこ体重増加する印象。中程度ならわかるが、少ない一覧にはいっているのは違和感がある。もしかしたら、肥満者が多い欧米人とやせ型が多い日本人では体重増加の影響が異なるのかもしれないと思う。
近年の非定型抗精神病薬は、体重増加しないことを意識して創薬されているように見える。それは、低いリスクの一覧に本邦未発売が多く並んでいることを見てもわかると思う。
EPSが多いとか肥満しやすい抗精神病薬は、過渡期の抗精神病薬なのだろう。つまり洗練されていないのである。
参考
ノーリミットテキサスホールデムポーカー
今日は麻雀に似たゲーム、トランプのノーリミットテキサスホールデムポーカーについて紹介したい。ポーカーは5枚のカードで役の高さを争うものだが、プライヤーに配られるカードは最初に2枚配られ、それ以上増えない。ボードに出た共有カードを合わせて役の高さを競う。
ポーカーの役の順位は高い役から順に、
ロイヤルストレートフラッシュ
ストレートフラッシュ
フォーカード
フルハウス
フラッシュ
ストレート
スリーカード
ツーペア
ワンペア
ハイカード
の10の役しかない。ハイカードはいわゆるブタなので役と言えるのかはわからないが。各プレーヤーがいずれもワンペア以上出来ていない場合、高いカードを持っている方が勝ちである。例えばKよりAの方が強いのでAを持っている方が勝つ。2人ともAを持っている時は2枚目のカードの優劣になる。
各プレーヤーは2枚しかカードを持たないが、ボードと呼ばれる共通のカードが順次開いていくので自分の2枚とボードに出た任意の3枚を組み合わせた役が最強の人が勝つルールである。
チップを使いベットする機会は計4回ある。1回目はボードが開かない状態。プリフロップというが、この時AAやKK、AKなどの強いカードを2枚持っているプレーヤーはベットすることで他のプレイヤーを降ろさせることができる。ボードは最初にいきなり3枚開かれる。
この最初の3枚はフロップと呼ばれるが、ここでもベット可能である。この後、誰かベットしても降りないなどで決着がつかない時は、ターンと呼ばれる4枚目が開かれる。ここでもベットができる。最後のリバーと呼ばれる5枚目が開いて終わりである。リバーが開いた後でもベットができる。
テキサスホールデムはルールは簡単だが、用語が難しい。自分の2枚は必ずしも2枚使う必要はなく、1枚でも0枚でも良い。ここがオマハとの大きな相違だと思う。例えば自分が7と9を持っていて、ボードにA3456と落ちると、7を持っているためストレートが完成する。
例えばボードにAAAKKと落ち、いずれのプレーヤーも絵札を持っていない場合、ボードに出たハンドが自分のハンドとなり引き分けとなる。共にフルハウスだからである。引き分けはチョップと呼ばれる。
自分が77を持ち相手がAJを持っている時、ボードにAJ7と落ちれば自分が7のスリーカード完成し、相手がAとJのツーペアなので、フロップの時点は勝っている。最終的にAJ72Kと落ちた場合、相手のハンドがツーペアから伸びていないので77がスリーカードで勝利となる。
このテキサスホールデムは麻雀に似た面白さがあり、脳が弱らないように数年前に覚えた。というのは麻雀は4人または3人集めないとできないが、これはインターネットでも容易にできるし、いつでもやめられるのが良い。それと新型コロナの大流行も大いに影響している。麻雀は確かにインターネットでもできるが、なぜかインターネットだと、テキサスホールデムの方が遥かに面白い。
今後、日本でもおそらくテキサスホールデムポーカーは流行って来ると思う。
上はポーカースターズというサイトのテキサスホールデムである。ここでは大抵の国のプレイヤーが参加しており、時間にもよるがアメリカ人が多い。ロシアがウクライナと戦争を始める前にはロシアもウクライナの人もいたが、今はロシアの人は見ないのでアクセス禁止になっているのかもしれない。一方、ウクライナの人は普通にいる。
ポーカースターズはプレイマネーとリアルマネーが選択できるが、リアルマネーだと日本ではグレーゾーンなのでプレイマネーしか僕はしない。そもそも、こんなことで勝っても仕方ない。普通に遊んでもそのゲーム性から十分に面白い。プレイマネーはいわゆるゲーセンのメダルゲームと同じである。
ポーカースターズにアカウントを作ると何時間おきかにプレイマネーが無料で供給されるが、まとまった数を購入することもできる。これはゲーセンでメダルを買うのと同じである。
僕は最初5000円分だけプレイマネーを購入したが、その後、増えるは増えるはで、今は11億以上のプレイマネーがある。多分、テキサスホールデムはわりあい強い方だと思うよ。
麻雀は基本、敵のハンドはブラインドになっており見えないが、切られた牌で牌姿が完全ではないが予測できる。テキサスホールデムもベットする際にレイズされたりコールされたりの相手の挙動で手の大きさを押し測ることができる。その意味ではプリフロップでリンプが多いのは相手の反応が見れないので悪手だと思う。
上は相手のオールインにコールしたハンド。僕はなんとクラブのストレートフラッシュが完成している。相手は9のフォーカードである。フォーカードに勝ったのは多分初めてだと思うので記念にアップすることにした。このボードでは、クラブのKJを持つプレイヤーが最強で、それ以外のいかなる組み合わせのカードでも勝てない。このようなハンドはナッツと呼ばれる。
麻雀の場合、高い手が来た時、誰も振り込まなくても、ツモ上がりで高い得点を得ることができる。しかし、テキサスホールデムはハンドがぶつからないとプリフロップかフロップで相手が降りてしまうので、多くのチップが獲得できない。ストフラvsフォーカードは、極端に高い水準でハンドがぶつかったもので滅多に起こらない事件である。
日本人で有名なプロポーカープレイヤーとして、木原さんが挙げられる。優しそうな人柄で、アメリカ在住だったが、最近は日本での活動が多い。彼はテキサスホールデムというより、むしろオマハとかミックスゲームの達人である。
木原さんのtwitterで、最初に自分は相貌失認ではないか?と書かれているのが面白い。これは会った相手に失礼になりかねないのでわざわざ挙げているのであろう。
https://t.co/eCiOwpFsb8
— Naoya Kihara/木原直哉 (@key_poker) December 14, 2016
何度か書いてますが、自分は軽度の相貌失認である可能性が高いです。
お会いして長く話しても、次回お会いした時に全く覚えてないことが多々あります。通常5回で覚えることが出来たら早い方で、髪型や服装が変わると本当に分かりません。
オンラインだけでなく、ポーカーのアミューズメントもかなり増えて来ており、特にヨコサワさんのポーカーのお店が渋谷にあるので、いつか行ってみたいと思っている。
ポーカーはプロになるための試験や資格がなく、プロもアマもない。世界の大会にバイインした時点で賞金が獲得できれば公式ページに登録される。以下はヘンドンモブと言うサイトの日本人の世界ランキングである。日本人の1位は、230万ドルほど獲得したつぐ兄。3位に木原さんが200万ドルで入っており、世界のヨコサワさんは13位である。凄い金額じゃない!と驚くかもだが、参加費の総額も半端ないので、トーナメントで正味どのくらい儲かっているかは不明である。大抵のプロポーカープレイヤーはキャッシュゲームで地道に稼いでいる。
以下は2016年のヨーロピアンツアー、ハイローラーファイナルテーブルの映像。イタリア人のKANITはよく見るが、かなりの強豪。そういえば、世界のヨコサワさんが海外のポーカーの試合でAKくらいでオールインしたら、このKANITに66?のポケットペアでコールされて負けた動画を見たことがある。AKは基本ヒットしないと最強のブタなので、期待値的には66と互角か、少し弱いくらい。この動画を見ると、どのようなルールなのかわかると思う。興味のある人はどうぞ。
ラツーダの等価換算の話
ラツーダは日本では最も新しい非定型抗精神病薬だが、等価換算的な数字はあまり紹介されていない。例えばネット上を検索してもあまり出てこない。
以下はラツーダの過去ログ。
そういえば、近年は等価換算という評価があまり言われなくなっている。その理由は、おそらく非定型精神病薬が治療の主流になったこともあると思われる。
2000年頃のように定型抗精神病薬もそこそこ使われていた時代は、新しい非定型抗精神病薬の力価的な目安が必要だった。
定型抗精神病薬は非定型抗精神病薬より副作用が強いため、副作用的限界が概ね処方上限であった。これは個人差があるので人により上限が異なる。1990年頃は今より上限がルーズで、上限を超えてもレセプトで査定されることがほぼなかった。だからヒルナミンの2000㎎とか、セレネースの30㎎などの処方が見られたのである。
それに対し、非定型抗精神病薬は定型に比べ錐体外路症状などの副作用が出にくいため、上限は副作用で推し量れない。また非定型抗精神病薬は高価な薬物なので、上限を超えた処方は厳格にレセプトで査定されるためできなかった。このようなことから、次第に抗精神病薬の等価換算が言われ始めたのだと思う。なお、錐体外路症状については以下の過去ログを参照してほしい。
非定型抗精神病薬が主流になると、それぞれの薬に個性が強いため、等価換算で比較することの意味が薄れてきた。そのようなことから、等価換算的な評価があまり言われなくなってきているのでは?と思う。
例えば、エビリファイとロナセンは等しい換算になっている。つまりリスパダール1㎎に対しエビリファイとロナセンは4㎎である。(=コントミン100㎎)
また、ジプレキサとシクレストも等しい換算となっており、リスパダール1㎎に対しそれぞれ2.5㎎である。
これらに意味があるのか?と言ったところだと思う。特に最近の非定型抗精神病薬は統合失調症以外にも処方可能で、マルチな薬効を持ち合わせていることもある。
ところで日本の非定型抗精神病薬の上限は概ねコントミン換算で800㎎程度になっている。可能ならこの範囲で治療しましょうと言った感じだと思う。穿った見方をすれば、2剤まで併用可能なので、精神病の重い人でも1600㎎までで抑えて下さいとも取れる。まあ国はそんなことは考えていないと思うが。
新しい非定型抗精神病薬、ラツーダの等価換算はパンフレットなどでも全く記載されていない。ラツーダの等価換算はどのくらいなのか良くかわからないのである。
ラツーダは上限が80㎎なので、一般的なコントミン換算800㎎に従えば、
ラツーダ10㎎=コントミン100㎎=リスパダール1㎎
くらいの換算であろうと予測できる。実際、この換算通りらしいのである。
副作用的にラツーダ80㎎がリスパダール8㎎と等価とは到底思えないが、より新しいタイプの非定型抗精神病薬は、車で言うABS的なコントロールのしやすさがあるので違和感があるのだろう。これは、リスパダールは非定型と言いつつ、やや定型抗精神病薬よりな抗精神病薬であることも関係している。
なお、リスパダールは発売時点では上限12㎎で適宜増減できるため24㎎まで処方可能だった。発売数年後、リスパダールの上限は6㎎までに下げられたが、それに併せて薬価も上がった。しかし適宜増減はできるため今でも12㎎までは処方可能なのである。適宜増減可能な非定型抗精神病薬はリスパダールしかなく、これも定型抗精神病薬的な扱いだと思う。
大抵の非定型抗精神病薬はコントミン換算800㎎程度と言うが、リスパダールは一見6㎎上限に見える。しかし12㎎までの処方も可能なのである。このようなことも考慮すると、リスパダールは少し特殊な薬なのがわかる。(重度の精神病の人向けの非定型抗精神病薬)
ラツーダは40㎎から開始し翌日から増量できる。このようなコントロールしやすさも抗精神病薬の進化だと思う。
なお、レキサルティの上限2㎎はリスパダール換算で4㎎らしい。レキサルティは重い精神病には2㎎では抗精神病作用が不足する。レキサルティはローカルでは3㎎まで処方可能で4㎎は査定されると過去ログに記載している。(地域性あり)
レキサルティ3㎎はリスパダール6㎎に相当し、この換算だとレキサルティ3㎎上限がより実際を表しているように見える。
いずれにせよラツーダに限らず、等価換算が20年前より意味が薄れてきているのは確かだと思う。