精神科患者さんの拒薬について
病識がない精神病に罹患した人がどの程度の拒薬をするかは人による。性格とも言えるかもしれない。言い換えると、人は病識の欠如の程度に比例して拒薬するわけではない。
これは僕が精神科医になった当時から、不思議でならなかったことの1つだった。
極端な例を挙げると、著しい興奮状態で隔離せざるを得ないような病状の人も素直に服薬する人が意外にいる。これは病識のなさと服薬しないことは必ずしも線形になっていないことを示していると思う。
今回、新型コロナが流行して思ったことの1つは、日本人と西欧人のワクチン嫌いのレベルの差であった。日本人もワクチンを忌避する人がいないわけではないが、報道を見る限り西欧人は日本人に比べ圧倒的にワクチン嫌いの人が多い。
このような報道を見ると、海外の精神科病院では日本に比べ、患者さんに服薬させることがさぞかし大変だろうと思ってしまうのである。
ワクチンと薬は違うだろうという意見もあるかもしれないが、おそらく西欧人は国が勧める医療への信頼感が日本人ほどはないように見える。つまり国の医療の施策に従順な人が日本人ほどはいないようなのである。また、これはいわゆる陰謀論を信じる人のパーセントにも反映しているだろう。
抗精神病薬には持続性抗精神病薬(エビリファイLAIやゼプリオン)と呼ばれる1度筋注すれば1ヶ月から3ヶ月効果が持続する注射製剤があるが、日本は海外ほど普及していない。これは多分、西欧人が日本人より服薬しない人が多くそこまでしなければコンプライアンスが低いことと関係している。つまりおそらく西欧人は日本人より持続性抗精神病薬の必要性が高いのである。
注意点として、持続性抗精神病薬のメリットは拒薬する人に服用させることと同等な効果が期待できるだけではなく、血中濃度を一定にすることで薬効を安定させることがある。
やはり持続性抗精神病薬が存在する抗精神病薬はやはり特別な薬と言わざるを得ない。抗うつ剤に持続性抗精神病薬のような注射剤がないのは、ほぼ生涯服用すべき薬とみなされていないからである。
このようなことをあれこれ考えていくと、日本では精神科病院入院中の患者さんへきちんと服薬させることは、少なくとも海外よりは楽ではないかと想像している。
日本人が碌に病識がないのに服薬はしてくれることは、日本人が本来、薬好きであることも関係していると思う。逆に言えば、外国人、特に西欧人は薬が嫌いな人がおそらく多い。これは日本の歴史的なものも関係している。
多くの日本人には薬が好きというデータが遺伝子に組み込まれているのであろう。
花粉症とクロルフェニラミンOD6㎎錠発売中止の話
この時期、花粉症の人は花粉の飛散が多くなり、辛い時期である。
僕の世代は、子供の頃から花粉による鼻アレルギーの人は少なかった。ところが、年齢が上がると、少しずつ水を注いでいたお風呂が溢れるように、花粉症が発症するようである。これは僕も嫁さんも同様である。驚いたことに、僕の母がごく最近、花粉症を発症したという。高齢でも発症しうるのである。個人差があるが、日本にいる限り僕の世代でも花粉症からは逃れられない。
いつだったか、僕のアレルギーについて調べたことがあったが、全てのアレルゲンを調べたわけではないので、結果は完全ではない。しかし、唯一、その一覧表ではスギ花粉のアレルギーは陽性であった。
ところが、僕の眼のアレルギーは年中続いている。スギ花粉の飛散が多い時は眼も少し悪化するし、鼻水も多少は出る。鼻アレルギーはさほど酷くはないのでフェキソフェナジンなどは飲まない。飲んでも眼にはほぼ効かないからである。フェキソフェナジンやレボセチリジンが眼のアレルギーにあまり効果がないのは血流や薬剤の分布の差ではないかと思っている。今はアレジオンLX点眼液を使っているが、効果が高く嫌な違和感もなく助かっている。国内旅行時は忘れず持っていく点眼液である。
ところが、沖縄に旅行すると眼の痒みや乾燥感のような症状が劇的に減少する。沖縄に点眼液を持参しても、苦痛がないので点眼を忘れてしまうほどである。沖縄にはスギやヒノキなどの植物が非常に少ないため、症状が緩和するらしい。
僕はスギ花粉飛散時以外も、なにがしか眼の症状があるので、年間ほぼ毎日点眼している。これはスギ花粉以外のアレルゲンにも反応しているとしか思えない。たぶんハウスダストなどだろうと思っていた。
ところが、沖縄に行くと症状を忘れてしまうほど激減するので、花粉以外のアレルゲンはそこまで大きな影響はないようにも見える。これはちょっとした謎である。
花粉症で鼻アレルギーが酷い人で、フェキソフェナジンやレボセチリジンでも効果が乏しい人は、古い薬で眠くなるが効果も髙い薬を飲んでいる。例えばクロルフェニラミンOD6㎎である。
ところが、クロルフェニラミンOD6㎎は、最近、発売中止になってしまったのである。これは採算が合わないという理由らしく、今はクロルフェニラミンのODではない2㎎錠しか購入できない。これはたくさん飲めるが、OD錠ではないので、1日4回くらい飲まないと効果が出ない。症状の重い人がクロルフェニラミンを服薬していることもある。
なぜ、クロルフェニラミンOD6㎎は採算が合わないで発売中止になっているのに、2㎎錠は生き残っているのかだが、このような古い薬は剤型にかかわらず薬価がほぼ同じだからである。クロルフェニラミンOD6㎎を1錠だけ飲んでいた人がクロルフェニラミン2㎎を1日4錠飲んだとしたら、トータルの1日薬価は4倍になる。これなら採算が合うと言ったところであろう。薬価の決め方が今回の6㎎錠中止をもたらしたとも言える。
なお、余談だが、オーストラリアに旅行の際はアレジオンLX点眼液を持っていくが、症状が消退するので点眼を忘れている。しかし帰国の日、日本行きの航空機に乗り込んだ時、機内ですぐに眼の痒みが出現するので驚く。
これは日本からの搭乗者の洋服に花粉やその他のアレルゲンが付いてきて、それが機内にわずかだが舞っていることを示している。
あまりにサイエンスなのでそれにも驚いたのである。
勤めている病院で薬を貰うこと
医師に限らず、病院に勤める人のメリットの1つは、院内薬局の薬を処方してもらえることである。例えば降圧剤だけ服薬し安定している人は、他病院に通院する時間が省ける。
近年、精神科入院中の患者さんが高齢化しているが、職員の高齢化も半端ない。うちの病院では、ここ10年ほどで師長で退職した人は全員、呼び戻されて働いている。ただし、師長で退職した人も師長の役職ではなく、平社員になっている。その方が運営的には良いのであろう。したがって師長当時よりはるかに影が薄い。
職員が高齢化すれば持病を持っている人も多く、かなりの人たちが処方を受けている。人気のある薬は、ロキソプロフェン、ロキソニン、ロキソプロフェンテープ、カロナール、風邪薬(PA、PL顆粒、ツムラ葛根湯)などであるが、鼻アレルギー薬(フェキソフェナジンなど)やプレガバリンも処方が多い薬である。年齢を重ねると、痛いところが増えるのがよくわかる。
なぜ院内薬局にロキソプロフェンとロキソニンという同じ薬があるかというと、この2つは効き方が異なり、一部の職員がロキソニンを強く希望するためである。おそらくたいした差がないと思うが、複数人同じことを言う人がいるので、二人組精神病的な好みの重複のようなものかもしれない。
ちなみに、うちの嫁さんはロキソニンよりロキソプロフェンの方が効くと逆のことを言っている。僕はこの2剤の差がわからない。基本、ロキソニンは飲まない方針というのもある。頭が割れるほど痛いときは仕方なく飲むが、どちらでも同じくらい有効である。
当院では向精神薬を貰う人はかなり少なく、ゾルピデムなどの眠剤を希望する人が数名いるだけである。昔、バブル当時、ハルシオンが大人気だったが、今はあまり希望する人がいない。既に知らない人も多いのではないかと思う。ハルシオンは眠剤として色々と洗練されていないからである。
今回の記事は、このような院内処方で薬を貰った時の支払いの話である。
ずいぶん昔、民間の単科精神科病院では、院内薬局で貰う薬はタダの病院が稀ならずあった。僕の若い頃は、院内薬局で薬(例えば風邪薬)を処方されても、支払いは必要ないことが多かった。
つまり、病院的には健康保険で7割は収入があるので、3割分は福利厚生的に無料にしていたのであろう。
しかしこの方法は良くないのである。この方法だと、毎月多くの薬を貰っている人ほど、その分報酬が増える計算になる。これは長期的には影響が大きく、たくさん薬を貰っている人ほど、将来年金額に反映し多く貰えるようになる。
例えば遠距離通勤で毎月2万円の通勤手当を貰っている人がいたとしよう。この人は年額で24万円分の報酬が高いとみなされ、そのために将来の年金額が増加するのである。どのような形でも、会社から貰えば貰うほど良いといった感じである。
しかし、このようなルールは公平なので今は是正されているかもしれない。
もしかしたら、当時は3割分の病院手出しは報酬とはされず、別の会計処理をしていたかもだが、税務署の監査で「これは報酬になります」と指摘を受け、以降報酬とした結果、社会保険料などにも影響し、会社の負担が増えるようになる。こうなると、3割分は徴収した方が良い。
僕は1990年代までは勤め先の病院で医療費を支払ったことがなかったが、今は普通に支払っている。
あれば良いと思う製剤
精神科薬で、もしあったら良いと思うものがある。
以前(2010年頃)は、プロピタンの筋注製剤があれば、治療をするにも随分助かると思っていた。これは今でさえ思うが、できればプロピタンの持続性抗精神病薬があればなお良い。持続性抗精神病薬があれば、プロピタンの筋注製剤はそこまで必要ない。
プロピタンは今でも内服薬があり不足しているという話は聴かない。なお、このブログにはプロピタンのテーマもある。以下はリンクを抜粋。
ここ5年くらい、もしあったら便利だろうと思う精神科薬は、ジプレキサの持続性抗精神病薬である。ジプレキサの持続性抗精神病薬は海外にはあるかもしれないが、日本では短期型の筋注製剤しか発売されていない。
メジャーな非定型抗精神病薬3剤、リスパダール(インヴェガ)、エビリファイ、ジプレキサのうち、持続性抗精神病薬がないのはジプレキサだけである。
これはイーライリリーがやる気を喪失してるのではないかと。おそらく推測だが、アメリカで副作用(処方後に発生した糖尿病など)で夥しい件数の訴訟を抱えてしまったことと関係がありそうである。イーライリリーは、訴訟のため12億ドルを支払ったとされている。
副作用を考慮すると、持続性抗精神病薬はすぐには中断できないため、この製剤の発売に消極的になるのは理解できる。
しかし、ジプレキサはかけがえのない(似ている抗精神病薬などないという意味で)非定型抗精神病薬なので、持続性抗精神病薬はあった方が良い。
トータルではジプレキサの持続性抗精神病薬とプロピタンの(注射剤及び持続性抗精神病薬)の2つのうち、僕があった方が良いと思った件数を考えると、プロピタンの方が上回る。これはあくまで個人的な考えである。
そもそも、今はプロピタンとかトロペロンは院内の在庫どころか、院外薬局にさえない病院もそこそこあると思う。
院内や外来患者に使われない薬は薬局に置かないからである。
参考