外国人による土地取得をなぜ規制できないか?リブログした凛さんのに詳しいのですが…
大きく言えば、日本が属する自由世界では、「私有」が原則として自由だからです。人間の私有は禁じられていますが、それ以外に私有を制限するのは税金とその国の規制だけです。公序良俗に反しない範囲でという条件も私有を制限しますが、少し弱い。自由世界の価値観は、私有についての制約がなるべく少ない方向へと強く傾きます。
そして、外国人だからという理由で私有に制限をかけようとすれば、日本は自由世界に対して開かれていない、ということになります。自国には外国人規制があって、日本人が外国人の土地を買えるのであれば、それは不均衡状態だと言え、世界のコンセンサスでは、「アンフェアだ」ということになります。
だから、日本とフェアな関係が成立している国の外国人による日本の土地(およびその土地に付帯する水源などの資源)の買収も、もともとの所有者に対価を支払って適法に購入したものであれば、それは原則としてその外国人買主のものであることを認めざるを得ません。これは「自由世界」の一員である証でもあります。また自由貿易は建前上、「相互主義」による権利の保証が基盤になっています。
しかし、実際には土地取得を規制している国の外国人なのに日本の土地を買う、という日本が不利な不均衡状態に陥ることがあります。国とて状態は一定ではありません。相手国がいつ規制を作り、不均衡状態を作って自国に利する行為に走ったり、敵対国になるかはわかりません。そこで、日本では「外国人土地法」(wikipedia)という法律を大正時代に作っています。日本と同様に外国人の土地取得を認めない国の外国人には、その外国人の国と同じ条件にするというような意味合いの法律です。国際社会のアンフェアに対しては、この法律でカバーする建て付けになっていました。
その後すぐに、この法律をもとに詔勅による政令が出され、軍事関係施設の近辺や防衛線に接する地域は、外国人の土地が所有できなくなっていました。敗戦を迎え、政令は無効になります。
時を経て、上記のwikiにも書かれていますが、2008年、韓国資本が対馬の土地を派手に買収したときに、「日本の領土を守るため行動する議員連盟」が、当時の首相鳩山由紀夫氏に、この法律の効力の有効性と、韓国資本の対馬での土地買収の適否について糺(ただ)します。首相は効力は認めたものの法律の運用は否定します。続く菅直人首相は、法律が有名無実化しているとの認識を示しつつ、外国人の土地取得については「安全保障上の必要性や個人の財産権の観点等の諸事情を総合考慮した上での検討が必要」と答弁書で示すにとどまりました。とどめは法務省で、WTOの加盟条約を盾に「一律に制限するのは難しい」との見解を示します。
民主党だし…という話もありますが、自民党でも状況は変わっていません。2017年12月、中国人・中国資本による北海道などの土地の買占め問題について、自民党の鬼木誠議員が当時の上川陽子法相に質します(BN政治)。法相や関連事務方の答弁により、まず、外国人土地法は、政令に白紙委任する点において憲法との齟齬が生じる可能性のあること、次に外国人に一律に土地取得制限をかけたり、相互主義的に相手国に応じて規制するのは、WTOのGATS(サービス貿易に関する一般協定)に定める内国民待遇規定に違反する可能性のあることがわかります。
さらに、鬼木議員からはGATS批准国でもインドやフィリピン、タイなど外国人土地所有を制限している国の存在が指摘されます。そこで明らかになったのは、日本は批准時に土地所有を制限する権利の留保をする交渉をしていなかったという痛恨のスルーでした。米国は米国らしく、まず根本的に土地所有に対して、連邦政府は優先的領有権があります。さらに安全保障上の理由で土地売買を規制できる法律が整備され、安全保障自由で土地利用を監視する法律もあります。さらに、イギリスでは国土の最終処分権は英国王室に帰属し、地権者は私有ではなく「保有権」しか与えられません。ドイツもワイマール憲法下で土地の所有に制限があります。つまり、日本には外国人の土地所有制限がないのに、諸外国にはあるということです。世界は実に「アンフェア」なのです。
そしてもちろん中国共産党の支配する中国においても同じで、共産主義ですからそもそも私有財産の概念がありません。地権は使用権で70年間に制限されています。
実は、この鬼木議員の質疑にさきがけて、2016年、日本維新の会が作成し、第192国会に提出した「安全保障上重要な土地取引の規制法案」(産経新聞)という土地所有を「安全」の観点から、日本人・外国人共に規制する法律があります。ですが、参議院のサイトをみると何も進んでいない状況です(参議院)。
鬼木議員は、日本国憲法において個人の権利が強すぎるという点にその原因を求めていましたが、一理あります。強すぎる私権の尊重は、国を弱体化させると。しかし、今頃になっての指摘は、今までなにをしていたんだという話になります。なぜこのような大きな不均衡状態についての認識が、従前から広く共有されていないのかという点です。マスコミにも問題があるのでしょうが、おそらく彼らへの非難は解決になりません。
そんな中で、安倍政権は自由貿易を強力に推進しようとしていますが、このような不均衡状態で自由化を進めることは、どう考えても日本の切り売りにしか見えません。いや、主語を安倍政権にしてしまうとミス・リードしますね。民主党その他はもっと中共寄りで、自民党は中共寄りのもいるという程度問題でしたから。どちらも同じ穴に棲むアレに見えます。
海外進出で苦しんできた企業経営者たちは知っていたでしょう。彼らを含めた日本人は、なぜこの不均衡な状態に甘んじていられるのか?というところが大きな謎です。いまや日本の上場企業の30%以上が外資が私有しています。言い換えると日本の商業の30%は外資の間接支配を受けている(日本企業が買う日本国債の所有もね)。だから不均衡を騒ぎ立てるより、カネに魂を売る方が得だと。先般、戦後日本への移民の影響を書きましたが、これも原因のひとつでしょうか。結局、敗戦後、奥の院には逆らえないということでしょうかね?
田原総一郎氏は「水なんか、外国から買えばいい」と暴言を吐き一部で話題になりました。民間議員竹中平蔵氏を毛嫌いしていると巷間伝わる麻生太郎副総理は「日本の水道はすべて民営化する」(2013年、CSIS米戦略国際問題研究所でのスピーチで)と竹中氏のようなことを言っていました(言わされた感もありますが、ここでは強烈に非難されています)。いずれも日本という「国家=民族」固有の領土資源に対する主権をないがしろにするものです。無論、さまざまな規制緩和もそうです。空き家の有効活用も怪しいし、中小企業の後継者対策も。しかし、国土と国の資源が絶対的に国に帰属しなくてどうするのでしょう?ヴェブレン や宇沢弘文が言った「社会的共通資本」が国のものではなくなる時、国民という存在は何になるのでしょうね?
ともあれ、私有の自由は制限される方向に向かなければ、中共による世界の蚕食は続くでしょう。あと労働移民問題もね。今は、そうしたことに対する世界の警戒心が高まって、一波乱ありそうな気配ですが…。大抵は強欲と貧困と移民を含む領土衝突が戦争や紛争を引き起こします。
日本はかなりちょっと鈍感なように見えますが、様子見というところでしょうかね。出る杭打たれるのは骨身にしみていますから。
昔、司馬遼太郎氏が土地バブルを批判して「日本は公地公民に戻せ」と言っていた。文脈は違うけど、今となってはあながち否定できないな。
タタンカ・ヨタンカ(1831 - 1890)は、アメリカインディアンのラコタ・スー族を形成する一部族、ハンクパパ族の戦士、呪術師である。呪詛として貼っておこう。
みよ、兄弟たちよ、春が来た。大地は太陽の抱擁を受け、やがてこの愛の果実が実るだろう。種は一つひとつ目を覚まし、動物たちもまた生まれる。
われらもまた、この神秘の力のおかげで生きられる。だからこそわれらは、この大地に住まう権利を、自分たち同様、隣人たちにも、隣人たる動物たちにも分け与えるのだ。
けれども、聞いてくれ、みなの衆、われらは今もうひとつの種族を相手にしている。われらの父祖がはじめて出会ったときには小さく弱かったが、いまでは大きく尊大になったあの種族だ。どうも奇妙なことに、彼らは大地を耕そうとし、彼らにあっては所有への愛着が病気にまで嵩じている。
あの連中はたくさんの決まりを作ったが、その規則は富める者は破れても、貧しい者は破れない。彼らは貧しい者や弱い者から税をとり、統治する富める者たちをそれで養っている。かれらは、万人に属する母なる大地を、自分たちだけが使うものだと言い募り、柵を築いて隣人たちを締め出す。そのうえ大地を、かれらの建造物や廃物でだいなしにする。この部族は、雪解けのなだれといっしょで、川床を飛び出し、行く手のあらゆるものを破壊する。」(「アメリカの異形の制度空間」西谷修著、講談社、2016年)
PVRIS, "Heaven(Stripped)"
またジータさんのところから拾ってきました。いいですよ、これ。PVRISと綴って「パリス」と読む。"BVLGALI"みたいってことはギリシア系?
Good Luck