『僕はまるでちがって』

 

著:黒田三郎

 

 

 僕はまるでちがってしまったのだ

 

 なるほど僕は昨日と同じネクタイをして

 昨日と同じように貧乏で

 昨日と同じように何にも取柄がない

 

 それでも僕はまるでちがってしまったのだ

 

 なるほど僕は昨日と同じ服を着て

 昨日と同じように飲んだくれで

 昨日と同じように不器用にこの世に生きている

 

 それでも僕はまるでちがってしまったのだ

 

 ああ

 薄笑いやニヤニヤ笑い

 口をゆがめた笑いや馬鹿笑いのなかで

 僕はじっと眼をつぶる

 

 すると

 僕のなかを明日の方へとぶ

 白い美しい蝶がいるのだ

 

 

 黒田三郎(1919年-1980年)

詩人。詩壇の芥川賞とよばれるH氏賞を自身の最初の詩集「ひとりの女に」で受賞

作品はしばしば楽曲にされる「紙風船」「苦業」など

 

 

 

香薬のあじわい

 

 心を寄せる人、慕う相手から、

 自分の存在を好意的に認められる。

 

 これって、まさに”最上級の幸せ”

 ではないでしょうか。

 

 滅多にあることではないけれど、

 

 こんな好機も、

 人生のラインナップの一つ。

 

 昨日と同じネクタイをしてようが、

 同じ色の口紅をぬっていようが、

 毎日同じバックを持ち歩こうが...etc. 

 

 君の尺度を超えたところで、

 相手は価値を認めてくれたんだ。

 

 どうやったって笑みがこぼれる。

 にこにこ、ニヤニヤ、馬鹿笑い、

 いいじゃないか。

 

 遠い先の悲しみを不安がって、

 予防線なんか張る必要ない。

 

 満たされてキラキラした心のままで、

 深意の淵まで飛んでみよう。

 

 そして、すでに何度か

 こんな好機を経験済みという方は、

 

 こんどは”白い蝶”側の立場として、

 ぜひに。

 

 お財布事情、ファッションセンス、

 体型、職業、容姿、やさしさ...など

 価値の切り口を

 

 「真」か「偽」の2つで 

 はかるのではなく

 

 自分だからこそ気づけた!という

 3つ目、4つ目の新たな単位(値、尺度)

 を作り出して、

 

 ”目利きの腕”を発揮してみてください。

 

 これから先は、

 恋愛に限らずすべてのことが、

 

 「よくぞその価値に注目しましたね!」

 「お目が高い!」

 

 という、

 見立て能力が問われる時代になると、

 私は勝手に考えています。

 

 

『心の香薬』もくじ