『日本のさくら』
作:大木 実
もういちど はじめから
やり直そう
そう思った
さくらの花を仰ぎながら
ボロの復員服を着て
ボロ靴をはき
南方帰りのぼくに
日本の春は寒かった
さくらの花だけが鮮やかだった
家もなく
金もないが
いのちがある
もういちど、そう思った
あのときぼくは三十だった
あの年のさくらのように
さくらはことしも美しい
ゆめのように
希望のように
梢に高く咲いている
香薬のあじわい
この詩で、
どれだけの人が救われただろう。
悲しみや苦しみが続く、暗闇の時間。
何度も何度も、もがいてみたけれど、
抜け出せない現実。
あと、どれだけ
耐え続ければいいのか。
未来も、夢も、考えられないほど、
ボロボロに疲れ果てていたとき
ふと目にした一文。
『 もういちど はじめからやりなおそう
そう思った 』
この詩の出だしの衝撃たるや。
もういちど、
はじめからやりなおす...だと?!
どこを、どう叩いても、
エネルギーなんか出て来やしない。
落ちに、落ちた状態。
でも、たしかに私には
『 いのちがある 』
命がある。
人生一番の最悪を味わって
その先に待っていたのは、
冷たい闇への誘惑ではなく、
暗い心の奥底を照らす、
小さな種火だったとは...。
どうやら、
人間にそなわっている生命力は、
思った以上に、潤沢で枯渇しないらしい。
命がある
いのちがある(笑)
そう思えたら、なんだか笑えてきました。
最強のカードをもっているのだと、
今は信じよう。
もういちどはじめから・・・
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