怒らぬから
青野でしめる友の首

(島津 亮)
 

 

 

 島津 亮(1918年 - 2000年)俳人。香川県生まれ 

初期の前衛的作品から、後期の滑稽でユーモアのきいた作品まで、関西を中心に個性豊かな活動を展開した

 

 

 

香薬のあじわい

 

 

 

 「青野でしめる友の首」

 

 このフレーズが、あまりにも衝撃的で、

 俳人:島津亮 という名を覚えました。

 

 直訳すると

 「夏の野原で、親友の首を絞める」

 

 その理由は

 「親友が怒らないから」

 

 怒らない親友に憤慨して、

 ”首をしめる”という行為。

 

 いったいどんなことがあったのでしょう。

 読み手としては、

 想像しかできないのですが、

 

 怒るべきところで、

 怒れない不甲斐(ふがい)なさ。

 

 ゆずってはいけないところで、

 身を引く脆(もろ)さ。

 

 感情をむき出しにしても、

 守らなくてはいけないことを

 手放す意気地なさ…。

 

 いずれにせよ、

 傷つくことを覚悟してでも、

 デリケートな部分を、

 さらけ出す必要性が、あったのに、

 

 そこから「逃げた友」

 ということが原因ではないかと、

 私は思っています。

 

 親や兄弟でもない、

 血のつながりもない。

 

 そんな存在でありながら、

 

 「殴ってても目覚めさせたい!」

 「俺が認めたお前は、そんなヤツじゃない!」

 

 本当に心の底から認めた人間だからこそ、

 なぐさめるのでもなく、

 同調するのでもなく、

 

 青野で首をしめる。

 

 本物の愛情を、

 見せつけられた気がします。

 

 一生に一人だけでいい、

 こんな友情を、私も紡いでみたい。

 

 

 

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