かおりのやすらぎブログ
 


思うまいと
日ぐれのパイプの穴を見ていた


(橋本夢道)

 

橋本夢道(1903年 - 1974年)徳島県出身の俳人。

高等小学校卒業後、15歳で上京し、肥料問屋に就職。仕事の傍ら、1923年自由律俳句誌「層雲」に参加。その後、東京都月島に移り住み、俳句を作るようになる。1941年に弾圧を受け入獄。戦後、新俳句人連盟創立に参加し、俳句運動の中心的存在となった。妻への愛や故郷を詠んだ句が多い。夢道はあんみつの発案者であるとも云われている。

 

 

 

 

香薬のあじわい

 

 

気付くと、そのことばかり考えてしまうから、

 

「思わないように・・・と、

日暮れにパイプの穴を見ていた」

 

一見すると、

面白くもなんともない句のようですが、

 

実はこれ、恋心をうたった句です。

 

そう思って、もう一回読んでみると、

別な味わいが出てくる。

 

 

紹介文にもあるとおり、作者は愛妻家。

とてもドラマチックな恋愛の末に、

結ばれたご夫婦です。

 

橋本さんが、まだ問屋に住み込み奉公のころ、

 

友達と出かけたでイベント(軍艦山城参観)で、

超美人の静子さん(のちの奥様)に出会い、

一目惚れします。

 

とはいえ、まだまだ半人前の身の上。

 

どうこう出来るわけもなく、

ただただ思い焦がれる日々。

 

半年後、

 

俳人として、まだまだ無名の橋本さんに、

なぜか、句を書いてほしいと

静子さんの親戚から、色紙が舞い込む。

 

・・・じつは、静子さんの方も、一目惚れ(笑)

 

見合い結婚が主流の時代。

 

自分から「結婚したい人がいる」とは

いえるはずもなく、

数十人の見合い話を断り続けた静子さん。

 

見合い拒否権の発効から数年。

 

大恋愛の末、二人は結ばれます。

 

 

 

会えなかった日の夕暮れ。

 

 

抑えていたあなたへの想いに、

飲み込まれそうになるから

「思うまい。」 として、

目の前にあったパイプの穴を見ていた。

 

でも結局、

あなたのことを考えてしまっている・・・。

 

必死に踏みとどまろうとしている修養感

がたまらない。

 

 

 

『心の香薬』もくじ