『なのだソング』

 

著:井上ひさし

 

 

 雄々(おお)しくネコは生きるのだ

 尾(お)をふるのはもうやめなのだ

 

 失敗(しっぱい)をおそれてはならぬのだ

 尻尾(しっぽ)を振ってはならぬのだ

 

 女々(めめ)しくあってはならぬのだ

 お目々(めめ)を高く上げるのだ

 

 凛(りん)とネコは暮らすのだ

 リンとなる鈴は外すのだ

 

 獅子(しし)を手本に進むのだ

 シッシと追われちゃならぬのだ

 

 お恵(めぐ)みなんぞは受けぬのだ

 腕組(うでぐ)みをしてそっぽを向くのだ

 

 サンマのひらきがなんなのだ

 サンマばかりがマンマじゃないのだ

 

 のだのだのだともそうなのだ

 それは断然そうなのだ

 

 雄々(おお)しくネコは生きるのだ

 ひとりでネコは生きるのだ

 

 激(はげ)しくネコは生きるのだ

 堂々(どうどう)ネコは生きるのだ

 

 きりりとネコは生きるのだ

 なんとかかんとか生きるのだ

 

 どうやらこうやら生きるのだ

 しょうこりもなく生きるのだ

 

 出たとこ勝負で生きるのだ

 ちゃっかりぬけぬけ生きるのだ

 

 破れかぶれで生きるのだ

 いけしゃあしゃあと生きるのだ

 

 めったやたらに生きるのだ

 決して死んではならぬのだ

 

 のだのだのだともそうなのだ

 それは断然そうなのだ

 

 

 井上ひさし(1934年-2010年) 小説家、劇作家、放送作家。創作のモットーが難しいことを易しく、優しいことを深く、深いことを面白く。

「ひょっこりひょうたん島」「父と暮らせば」など

 

 

 

 

香薬のあじわい

 

 動物の中で、脳が最も発達した 

 といわれる霊長類の人間を尻目に、

 

 ネコが、いっちょ前にも一人語り。

 

 これをヒトが語れば、

 重いし、臭くなるけど、

 

 『にゃんこ先生のお言葉』

 だから面白い!がはは。

 

 この春(2020春)から始まった

 全世界の予想を超えた事態。

 

 いまだ

 先行きは見えない時だからこそ、

 ユーモアで笑い飛ばしていたい。

 

 荒れ狂う、不透明な海を目の前に、

 「ピンチはチャンスだ!」

 と思える人は、泳げばいい。

 

 でも、

 もしそうでないのなら、

 

 あえて”今は泳がぬ”ことへの

「覚悟」を持とう。

 

 次々にやってくる、時化の大波を、

 岩につかまって

 じっと耐えている日々は、

 

 「泳ぎだせない焦り」と、

 「待つ苦しみ」が心を襲う。

 

 いつまで待つのか。

 待っているのが、正しいのか。

 なんのために、耐えているのか。

 

 どうにもこうにも、

 わからなくなったときは

 

 「のだのだのだ」の呪文

 を思い出して、

 

 なんとかかんとか生きるのだ。

 破れかぶれで生きるのだ。

 決して死んではならぬのだ。

 

 必ず海は凪になる。

 

 だから今は、

 岩からぜったい手を離さないで。

 

 なんとかかんとか「生きぬいて」

 新時代まで、一緒にたどり着こう!

 

 

『心の香薬』もくじ