『凛とした女の子におなりなさい』

 

作:阿久 悠

 

 

 女の子だからといって

 ヨワヨワしてたり

 メソメソしてたり

 何かというと他人を頼りにして

 愛しいと思われてみたり

 そんな子である必要はないのですよ

 

 助けたやりたいとか

 庇って(かばって)やりたいとか

 守ってやりたいとか

 男にとってはいい気分だろうけど

 そんなもの 美徳でも

 魅力でもありゃしない

 

 いいかい 女の子だって

 強くってもいいんだよ

 

 粗雑であったり

 乱暴であったり

 不行儀が平気では困るけど

 ちょっとした挨拶(あいさつ)の誠意と

 心地よい微笑の会釈(えしゃく)

 問われた時にハイと答える

 意志さえ感じさせれば

 強くっていい

 

 男は自分が弱い者だから

 縋り(すがり)つく子を抱きしめるが

 そんなのは三日だけの愛しさ

 あとは ただの重荷になる

 

 傷つけないようにハッキリと言い

 侮辱(ぶじょく)を感じさせない態度をしたら

 あとは自由に生きなさい

 強く生きなさい

 

 自由で強くてやさしい子を

 凛としていると言います

 凛とした女の子になりなさい

 凛とした・・・

 近頃いないのです

 

 

 阿久 悠1937年-2007年)日本放送作家詩人作詞家小説家
日本レコード大賞での大賞受賞曲は作詞家として最多。「また逢う日まで」「勝手にしやがれ」「UFO」など。

 

 

 

 

香薬のあじわい

 

 

 「凛」

 

 という言葉を聞くたびに私には、

 つい思い出してしまう出来事があります。

 

 最初の夢を追いかけていた、20代前半の頃。

 

 役付け・管理職のおじさま集団の中に、

 たった一人だけ配置される という、

 ある異例の人事を、受けたことがあります。

 

 いわゆる、

 「女性社員にも可能性を!」

 という、広告塔的な役割でした。

 

 当時の私は、

 経験も専門知識もない、普通の若手OL。

 

 それが突然の大抜擢だったから、

 一挙手一投足が注目の的。

 

 そりゃもう、もう、もう大変です。

 

「君が声に出して読むと、企画書が

 東北なまりの民話に聞こえるね。」とか

 

「役員会議の感想を聞かれて、

 “いいと思いました” でまとめたのは、

 君が初めてだよ。」とか

 

 本人とすれば、

 精一杯だったんですけどねぇ。

 

 一生分の恥をさらし、

 一生分の失敗をし、

 

 天然素材と、鈍感力で、

 数々の伝説をつくりまくって、

 当時は、ちょっとした社内の有名人。

 

 恥の上塗りのような毎日がイヤでイヤで、

 出社途中で「交通事故に合わないかな...」

 と当時は本気で思っていました。

 

 4ヶ月ほどたったころ、

 ある上司に聞かされた、衝撃の事実。

 

「きみはイヤだろうけど、

  人事的には、大正解。

 

  私の方が、頭がいいから、

  もっと評価が高いはず。

 

  私の方が、要領がいいから、

  もっと仕事が出来るはず。

 

  私の方が、美人だから、

  もっとPR役がはたせるはず。

 

  私の方がもっと、○○だからって、

  みんなヤル気になるだろ?!」

 

  えっ!マジっすか?! 

 

  大・大・大笑い。

 

「でも楽な役じゃないから、

  ”凛”とした子を選べっていったんだ。

 

  まぁ、凛とはしてなかったけどな。

  リンというより、間が抜けたカンの音。

    ※カンの=カンノ ←私の名前 

  打てば音はするけどな。」

 

 

 いつも眼光鋭い上司が、笑って放った一言。

 

 機略にはまりつつ、

 生涯忘れることがないほど、

 鼓舞された瞬間でした。

 

 

『心の香薬』もくじ