『生きる言葉』より抜粋

 

作:瀬戸内寂聴

 

 

 あるとき私は、自分の多忙さに

 負けない方法を考え出しました。

 

 どうせ何かの縁で引き受けてしまった以上、

 

 どの仕事も喜びをもって 

 心から進んでやりこなすのです。

 

 厭厭(いやいや)することには

 情熱はわきません。

 

 情熱のわかない仕事は

 成功するはずがありません。

 

 仕事をはじめるとき、

 

 必ずこれはできる、

 うまく予想以上にできると

 自分に暗示をかけます。

 

 必ず成功するのだから

 嬉しいはずだと自分にいいきかせます。

 

 すると、

 やりたい気持ちが盛り上がってきて、

 肉体も精神もいきいきしてきます。

 

 その上、自分は仏に護られている

 という信をあおります。

 

 そのせいかどうか、このときから、

 少々の紆余曲折はあっても 

 結果はいい成果を収めているのです。 

 

 

 瀬戸内寂聴(1922年 - 2021年)日本の小説家、天台宗の尼僧。旧名は瀬戸内 晴美

僧位は僧正。1997年文化功労者、2006年文化勲章。天台寺名誉住職。比叡山延暦寺禅光坊住職。

代表作には『夏の終り』や『花に問え』『場所』など多数ある。『源氏物語』に関連する著作が多い。多くの文学賞を受賞。

 

 

 

香薬のあじわい

 

 

 たとえば、

 

 まわりに何もみえない、 

 360°海、海、海の大海原に投げ出されて、

 

 あっぷあっぷ しながらも、 

 なんとか数日間、もちこたえていたとする。

 

 体力的にも、精神的にも、

 もう限界。

  

 最後の最後

 「神さま、どうか助けてください!」

 と、お願いしたあとに、

 

 突然、

 自分の前に現れたものが、

 

 船でも、浮き輪でもなく、

 『筏(いかだ)の作り方』

 という、本だったとしたら・・・

 

 ・・・大笑!

 

 これから筏をつくるんですかぁぁぁぁ。

 (必ず成功するのだから 嬉しいはずだと自分にいいきかせます。)

 

 

 その本と一緒に、陸地も見えてはくるが、

 それは、ず~っと遠くで、

 米粒ぐらい の大きさ。

 

 そこまで、これから泳ぐんですかぁぁ。

 (必ず成功するのだから 嬉しいはずだと自分にいいきかせます。)

 

 

 なにごとでも、チャレンジの始めは、

 夢があったり、新鮮味があったりで、

 気持ちを強く持てるものですが、

 

 一番難しいのは、

 渦中で「ぎりぎりまで追い詰められた」

 ときだと思います。

 

 土壇場からの逆転を信じて、

 

 いっぱい、いっぱい!

 神さまにお願いして、

 

 こんな「笑える答え」が、返って来てからが、

 

 本当の勝負。

 

 筏の本だったら まだいいほうで、

 『プリンの作り方』

 という本の場合だって、ありえる。

 

 いったい、いつ、

 人生の第何章でプリンを作るのですかぁぁぁ!

 (必ず成功するのだから 嬉しいはずだと自分でいいきかせます。)

 

 人生万事塞翁が馬といいますから、

 プリン職人、プリンの香りの精油? 

 プリンでホームケア?だってありうる。

 

 自分は神さまに護られているという、

 信をあおって、

 一歩一歩、最後まで歩きたいと思います。

 

 

『心の香薬』もくじ