GW後半。
活字を欲している方はどうぞ妄想の世界へ!!(笑)
第2シーズンに突入した、
妄想吹奏楽部。
前回までのお話。
こちらがその「まとめサイト」です。
では、
続きです。
I to U
部活中、テニスコートの脇で吹奏楽部の花さんに声をかけられた。
「部活終わり次第、音楽室に来てくれる?」そう花さんはふくむように笑った。
なんか嫌な予感がする…。
そのせいか、その後全然集中出来なかった。
ボーっとしていて何度も男子テニス部の松本潤に怒られた。
「もうすぐ大会だろ?何ボケーっとしてるんだよ!」
相変わらず毎日うるっさいヤツだ・・・わかってるって。
なんだろな、調子狂うな。
部活が終わって素早く着替えを済ませ、ひとりで音楽室に向かう。
コンコン
他の教室とは違うその教室の扉を、躊躇いながらも強めに叩くと、中から花さんが現れて「どうぞ」と私を招き入れた。
うわ、嫌な予感的中。
サックスの錦戸亮が、なぜかピアノの前に座ってポロンポロン鍵盤弾いてる。
しかも「ピアノマン」じゃん。
生錦戸亮に弱い私。
なんだか緊張するのよ、あの彫りの深い顔見ると。
「ごめんね呼び出しちゃって。ちょっとお願いがあって」
そういって花さんが話し出した内容はとんでもないモノだった!!
え?ちょっと待て待て。ムチャクチャでしょ?
定期演奏会で、私がピアノを弾くだと?はぁ? ありえないありえないありえない。
「はるはるまん、ちゃん、ってピアノ出来るんやろ?頼むわ、やれるヤツおらんのや。でも、俺がどうしてもやりたい曲があんねん。」
げーーーーーー!錦戸亮が私に向かってしゃべったよ!マジか、神様マジか。
「とりあえず、この曲、聴くだけ聞いてみてくれへん?」
そういって曲をかける。
「♪♪♪」
へ!ジャズ?おお、シンセの音。へー、カッコいい曲。お、このサックスのソロ、錦戸亮が吹くのか?
焦っていた割に音楽を聴くと冷静に分析している自分に驚いた。
うーーーーーん…これなら、今から猛練習すれば弾けるかも…って何考えてるんだ私。
いやでも、そもそも私クラシックよりジャズの方が好きだしなぁ。あれ?やる?やってみる?やっちゃう??? ま、猛練習だけどな、指なまっちゃってるし。
すると、思案顔の私に向かってイケると思ったのか、
「なんか弾いてみてくれへん?」
と言い出した。生の錦戸亮が!
はぁぁぁぁぁ。
そんな整ったイケメン顔でお願いされて、断れるわけないっちゅうの!
錦戸亮がピアノからどいたので、一礼して代わりに椅子に座り、深呼吸をする。
「ジャズじゃないけど。」
「全然ええよ。」
ふぅ、いくぞ。
~♪
横目で錦戸亮を見ると、こちらを見ていた。
思わず、目が合い、ニヤリと笑う。
「ピアノマン、弾けるやん。」
ぼそっとそう言った口元から目が離せなかった。
すると、いつのまにか教室の隅にいた男が一人、ピアノに近づいて来た。
あ、渋谷先輩じゃん!はるはるまんは手を緩めずに、その彼がピアノの横に立つのを眺めた。
思わず心臓が止まりかけるというのはこの事を言うのだろう。後にも先にも、この時の経験を上回る出来事はないだろうと確信があるほどだった。
渋谷はピアノの横に立ち、音もなく空気を吸い込むとこともなげに彼は歌い出したのだ。
「it’s nine o’clock on a Saturday The regular crowd shuffles in…」
その声を聞いてビリっと身体に震えを感じた。演奏していた指先が止まったのでは?と思うほどの衝撃は比喩ではなく、雷に打たれるという感覚があった。
まじか!歌うまっ!ひゃー楽しい!私のピアノで渋谷先輩が歌ってるよ!
はるはるまんはどこの誰に伝えるわけでもなく、この興奮が噴火するのを胸に感じながら、久しぶりに重ねた鍵盤をより一層シンクロさせた。
「Sing us a song, you’re the piano man Sing us a song tonight. Well, we’re all in the mood for a melody and you’ve got us feelin’ alright.」
曲が終わって横を見ると、満面の笑みを浮かべた錦戸亮がいた。
「演奏会、宜しくね。」
ぐにゃりと顔を崩して笑うその姿に「反則だ…」と素直に思い、うずく胸の当たり守るようにそっと手を当てた。ただ錦戸亮に悶絶する自分とは別に、久しぶりに触った鍵盤の感触と一抹の興奮をまとったその指先は、今しがた起こった出来事を確かめるようにピアノの横に立っている男の姿を求めていた。その気持ちに答えるように横目で盗むようにそっと身体を動かすと、半分だけ開かれたピアノの陰に納まるように、喜ぶ錦戸と嬉しそうに笑う花から隠れるようにその男は頭をもたげて立っていた。
口元はほほ笑んでいるのに、その瞳はとても寂しそうで、はるはるまんは鼓動が早まるのを感じた。
夏のインターハイを境に、二学期からは引退した三年生に代わって二年生が部活を仕切る事になっている。ただ女子テニス部は三年生のウタマロ先輩と理美先輩が時間を見つけては手伝いに来てくれていて、今までと変わりなくのびのびと練習していた。
そんな女子テニス部とは反対に、男子テニス部はダブルスとシングルでインターハイに出場していた。上位入賞とまではいかなかったが、シングルで出場した松本潤は二試合目にしてこのインターハイを制した選手と当たり敗退したものの、のちに優勝した選手が松本を「一番苦しんだ試合」と絶賛したため来年への期待が男子たちの闘争心をあおり、おのずと士気を上げていた。顧問の岩崎先生はどこからともなく対戦相手を連れてきては公式試合と変わらない時間を設けたりもしていた。
特にもともと暑苦しい松本さらに熱をまとい、自分の練習はもちろん同学年や後輩まで手とり足とり指導にもあたっている。同じテニスコートにいるわけではないが、離れたところでも松本の熱いゲキは女子コートまで届いていた。そんな松本に恋心をいだく女子はもちろん多く、入学した頃に比べるとコートの外から見学している女子が増えたのはいうまでもない。見学が禁止にはなっていないが、その女子たちは自主的にファンクラブのような活動を始め、暑い日でも変わらず綺麗に並び、迷惑な応援を控え、プレゼントは禁止で手紙はまとめて代表に集められたのち松本本人にまとめて手渡すというルールをしいているらしい。本当か嘘か、松本の下駄箱に手紙を入れて単独行動を取った者や黄色い声援で何人かでまとまって騒いでいた者は、数日する頃には姿を見なくなる。女子って怖い…はるはるまんはサーブの練習をしながらそんなことを考えていた。余計な事を考えていたからか、なかなかコースが決まらない。集中できずに雑念が混ざるときは少し休んだ方が得策で、使っていたコートを他の者に譲った。
カバンから飲み物を取り出し二口だけ軽く水分を取る。夏の暑さが去ったとはいえまだまだ風の無い日は熱い。顔を洗おうとタオルを引っ張ると水道を求めて校舎の方へ向かった。
水道をひねると軽く手を洗いざぶざぶと顔を洗った。さっきまでラケットを握っていた部分が冷やされて気持ちが良い。はるはるまんは顔も拭かずに自分の両手を眺めた。顔から流れた水滴は顔をつたい顎までくると開いた両の手の間を落ちた。
花から誘われて演奏会の話を貰ってからは、部活が終わったら寄り道もせず家に帰り、ピアノに向かっている。しばらく弾いていなかった感覚を戻すことに集中したし、弾きなれていないジャズの事も勉強した。テニスで思いっきり身体を動かして疲れてはいたが、久しく聴くピアノの音ははるはるまんにリラックスの時間をあたえた。
蛇口をもう一度ひねり冷たい水を右腕の肘の辺りにあてがうと、ひんやりとした水は熱をおびた腕をそっと冷やしてくれる。
ピアノを久しぶりに弾いたからかどうやら知らず知らずに手首を酷使していたようだ。バックハンドで打ち返すときになってその違和感を感じ、今度はそれをカバーする形で腕の筋肉が張っている。筋肉痛のような腱鞘炎のような、鈍い痛みを感じている。今日はもう部活を早退しようかと考えながら蛇口を止めると「大丈夫か?」近くから声がして驚いてしまった。
声のした方に身体を向けると、同じようにタオルを掴んだ松本が立っていて、はるはるまんと目が合うと、右側の空いた蛇口に寄ってきた。
顔を拭かずにいた事を思い出し慌てて置いていたタオルを掴むと、松本から顔をそむけるように顔と腕を拭いた。
「あんさ、何か痛みとかあるならちゃんとアイシングしろよ?」
はるはるまんは自分に向けられた言葉だとは思わず、返事が遅れてしまった。
「あぁ、これ?うん、気を付けるようにする。」
ひとまず笑っておこうと思った気持ちとは裏腹に、松本は真っ直ぐとはるはるまんを見つめ返していた。何てしっかりした眉毛にも負けない大きな瞳をしているのだろう?鼻筋もシャープで、今は閉じたその唇は右側だけ口角を上げ、真っ直ぐな斜めの線を描いている。これだけはっきりしたパーツが収まる顔の面積は小さく、汗で程よく濡れた前髪は、さりげなく右に流されている。こんな状況だからか、やけに冷静にそんなことを考えている自分に可笑しくなってしまい、はるはるまんはまたタオルに顔を埋めた。
「ちょっと見せてみろよ。」
松本はそう言うと、顔を上げたはるはるまんの許可も取らず右手を両の手でつかんできた。左手で挟むように右手の肘をつかみ、右手のひらを上に向けると、はるはるまんの小指側からひらを揉むように親指で手首の方までグイグイと優しく力を入れた。
突然のことで何が起こったか分からなかったが、自分を無視して人の腕を研究するように眺める松本を振り払うように手を上げてしまった。
「問題ない、問題ない、大丈夫だから。」
拒否したようではるはるまんは申し訳なくなってしまったが、この状況は宜しくないと体が言っているのだから私はそれに従うべきだ。「じゃ、行くね」そう言って一歩踏み出したが、松本は進路を遮るように立ちはだかると、「腕が張りだしてるぞ」と突然触ったことを反省してか、目線でそれを伝えた。
「身体、痛めると嫌になるから。」
はるはるまんが黙ったままだったからか、前髪をまた右に流しこめかみを困ったように掻くと、塞いでいた進路をあけてくれた。
お礼でもなんでも、何か言わなければならないと思ったはるはるまんは「最近、」と口に出し松本と目が合うと、何となくピアノの事はふせておこうと「松潤のギャラリーすんごいね。」と笑ってみせた。
松本は突然なにを言い出したのかと困惑した顔をみせたが、「あぁ」と思い出したように首を傾け、テレを隠すように口を真っ直ぐに結ぶと、肩を持ち上げて参りましたというジェスチャーをした。思わずつられて笑うと、松本も口を大きく開けて一緒になって笑った。
あぁ、きっとこういったウケを狙っていない彼の自然な振る舞いが、本人の意図とは関係なくファンを作ってしまうんだろうなぁとはるはるまんは思い、そんな時でも校舎の上の方から聴こえる吹奏楽部の音に無意識で耳を傾け、胸が脈打つのを感じている自分もひっくるめてこの空間を俯瞰していた。
他の部員に断りをいれて早退をし、着替えて下駄箱に向かうところでまた松本に会った。
手には湿布がひと箱とアイシングのスプレー缶を持っていた。「こんなもの消耗品だからやる」とはるはるまんに突き出すと、先程よりも松本の口調に刺を感じた。
「ありがとう、すごく助かる。本当にありがとう。」
申し訳なくてごめんという気持ちもあるが、自分が逆の立場だった場合ごめんなさいよりもありがとうの方が嬉しいと気が付いてからはお礼を先にいう様にしている。「でも、貰っちゃっていいの?」モノを受け取って松本の顔を見ると、言葉をほおり出すように「あのさ、」と口を開いた。
「吹部の手伝いするんだって?ピアノで腕を酷使すんのは違くねぇか?」
別に話さなければならない事ではないが、バレてしまったという事が顔に出たようで、それを見て松本は更に眉根に力を入れた。「どうして知ってるの?」思えば痛みがあるとは一言もいっていないし、それとこれとは関係ないと言えばいいのに、全てを認める様な言葉がテニスバカには癪だったのかもしれない。「サンチェから聞いた。」あぁ、サンチェ。男子部員はテニス部顧問の岩崎をなぜかサンチェと呼ぶ。そういえばそれは何でなんだろう?はるはるまんはまた余計な事を考えた。
「とりあえず、今日はピアノ弾かずにそれで小まめに冷やして腕休めろよ。」
またぶっきらぼうに言葉を投げるとなぜかイラつきを見せながら校舎を出て行ってしまった。
同じように濃い顔のイケメンであることは認めるが、はるはるまんは校舎の上の方にいる錦戸の顔を思い浮かべた。確かに今夜はピアノを休もう。意気込んで絡まっては元もこもない。はるはるまんは貰った湿布とスプレーをカバンに詰め込むと、夕日の沈み始めた町を帰路についた。
定期演奏会までもう一か月を切ろうとしていた。
