妄想吹奏楽部 (連載その12)第2章 | 好きなコードはEadd9

好きなコードはEadd9

錦戸亮
デビュー後の兄組通りました
(今はストとトラジャを応援)
そして
7→6の関ジャニ∞の記録

第2シーズンに突入した、

妄想吹奏楽部の続きです。

 

今回は2つ分。

すばちゃんがたくさん出てきます。

 

 
 
 
 

 

前回までのお話。

 

妄想吹奏楽部 (連載その1)

妄想吹奏楽部 (連載その2)

妄想吹奏楽部 (連載その3)

妄想吹奏楽部 (連載その4)

妄想吹奏楽部 (連載その5)

妄想吹奏楽部 (連載その6)

妄想吹奏楽部 (連載その7)

妄想吹奏楽部 (連載その8)

妄想吹奏楽部(連載その9)第2章

妄想吹奏楽部(連載その10)第2章

妄想吹奏楽部 (連載その11)第2章

 

 

 

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

 

 

 

 

 

 

 

では、

続きです。

 

 

 

 

 

アカイシンキロウ

 

 

 「練習はどう?」

 7月に入ったばかりの週の朝練は中間テストの前とあって、練習も個人的におのおのが行っていた。その隙をみて「先生、ちょっと話が・・・」と声をかけたまま、話し出すことに躊躇いを感じていると、国分の方から声をかけてくれた。

 「あ、お蔭様でビシビシしごかれています。」

 すばるは国分のネクタイに向かってそう答えながら小さく笑った。

 「コンクール前でも、終わってからでもイイから、いつか聞かせてよ!渋谷の聴きたいから。」

 国分はにっこりと笑った。

 この人は、人に考える余白を作るように意図して句点を多く会話に投じていると、すばるはそんなことを思った。

 「はい、ぜひ。良かったら。」

 すばるは、口元をすぼませて照れるように国分から視線を外した。

 「よかったらって・・・ぜひ聞かせてよね。で、話ってなんだろう?」

 国分はいたって自然に問いかける。その優しい問いかけに、ますます口が堅くなって開かなくなってしまう様ですばるは小さく深呼吸をした。

 「あの、その、」

 すばるは、そう言葉を吐き出してから、自分の視点が定まっていない事を戒めた。斜め下の音楽室の床をなめ、楽器の並べられた棚を通り越して目の前の国分と目が合うと、力の入っていない首が頭の重みで左にゆっくり傾いた。 

 「吹奏楽部のコンクールの参加を辞退させてください。」

 そう言ったのは確かに自分だったのに、言葉を発した先から心と身体が分離していくような、靄がじんわりと身体に染みを作っていくように冷たく広がるような感覚だった。

 たった今のことなのに、時が止まったようで音が何も聞こえなかった。目の前の国分は口角をあげ、少し刻まれ始めた笑い皺を崩すことなく、瞳孔だけがろうそくの炎のように一瞬ゆらりと揺れるのを、すばるは見逃すことが出来なかった。

 そうやって昔から、言葉に言い表せない何かを肌で感じる事が自然と備わっていた。

 いい子にも悪い子にもなれたであろうそれに目を向けないように生きる事で、すばるはより自分らしさを強く感じる反面、そっぽを向くことも見抜かれていたのではと考えると、今までが音もなく消えてしまいそうで息がつまった。上手く呼吸が出来ない事を悟られないように、すばるは心を鋭く尖らせた。

 いつの間にか逸らした視線は、国分の後ろの窓枠を眺めていた。小さく舞っていたカーテンは、突然の強い風で大きく膨らみ、ロングスカートが波立つように揺れた。スカートと深く被ったツバの大きな帽子が飛んで行かないようにと奮闘する女性が頭の中をかすめ、すばるは顔の表情を変えずに小さく鼻で笑った。少しエロい事を想像するのは紛れもなく自分だとすばるは確信していた。

 「それは、渋谷の意思なんだね?」

 国分からそう声をかけられて身体が小さく跳ねたように思ったが、それは胸の奥で何かがドキリと跳ねただけで、両足はピタリと床に糊付けされたようになっていた。

 「なら、とめないよ。もちろん後ろ髪は引かれるけれど。」

 国分の瞳はいつも通りの優しい色をしていた。先程の深海を思わせるような揺らぎはいつの間にか消えていて、あれは幻だったのかと思わせる程に彼は自然にそこにいた。

もしかしたら、今自分がそんな目をしているかもしれない、とヒザ」から倒れてしまいそうな身体をなんとか支えた。 

 「あれだけ色々言っておいて何だけれど、渋谷の将来は自分が決めるっていうのは分かってる。でも、今しか味わえないモノもあるよ。」

 今しか味わえないもの。きっと国分も経験から語っているという事はよく分かる。

 「どろくさいハミングとか、かな?」

 そう自分で言って国分は顔を崩して笑った。どろくさい、ハミングとまた間を開けて探るように話している。

 「今、どうしても、その、やらなければならない事があります。」

 すばるは自分の身体が小さく震えているのを感じた。

 「分かってるよ。コンクール、しっかりな。」

 国分はまたニッコリと笑うと、すばるの右ひじの当たりをそっと撫でた。そうだ、この人は左利きだったな、と今と関係の無い事を想った。

 そうじゃない、と口から言葉は飛び出ず、稲穂が重みで垂れるように首を傾けると、それを返事と受け取ったのか、国分は「うん」と言った。

 退出しなければと出口の方へ重い足を向けると、不思議とそちらに吸われるように身体は音楽準備室の扉に進んだ。

 ドアノブに手をかけた時、国分は「あ、そうだ。」と声を上げ、すばるは「わぁ」と身体をビクつかせた。。

 「あ、ごめん、驚かして。」

 突然の静電気に驚くように反射的に扉から手をあげたものだから、国分はごめんごめんと笑いながらすばるに謝った。

 「いやさ。」

 国分は照れるように頭をかいた。

 「全国、もちろん目指してるよ、あいつらも、俺も。」

 吹奏楽の全国大会は、ほぼ毎年常連校で埋まってしまうほどに門は狭い。スポーツで名の通った八幡高校が吹奏楽で名前を轟かしたことなど過去に一度たりともない。それくらいに無謀な夢を、この教師は少年のように少し照れながら語っている。

 「夢は大きく!そういうもんだろ。」

 国分は笑顔を保ったまま言葉を切った。

 もしかしたら、返事を待っているのかもしれないと思ったすばるは慌てて「は、はい」と詰まるような返事をした。大きくと言った時点で全国という舞台がとても遠い事を感じてはいるのだなと可笑しくなった。

 「全国行っても仲間に入れてやんないからなっ!」

 そう言って座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、国分は真っ直ぐすばるを指さし、右手を腰に当て足を大きく開いた。

 「はい。」

 今度はしっかりと返事をすると、すばるは我慢出来ずに笑った。

 「あーバカにしてるだろぉ。」

 「してないですよ。」

 すばるは顔を隠すように俯きながら頭の前で手を大きく振った。

 「あのさ、すばるの夢ってなに?」

 ブンブンと振っていた手を止めるのと同時に身体もピタリと止まっていた。

 「うん、そう。夢ってなに?いつか聞かせて、それ宿題ね。」

 「え?」

 「宿題。イイよ、すぐじゃなくて。俺が死ぬまでには聞かせて。」

 国分は瞳をキラキラさせてそう言った。

 はて?夢。

 「昨日は、ドラ○もんが机の引き出しから出てくる」

 「その夢じゃぁない。」

 すばるがとぼけた顔のまま口をすぼめて国分を見ると、目を細めて少し睨むような顔をしていた。

 「いや、そう言われても・・・。」

 将来もフルートを吹いている自分の姿が浮かばないと伝えたら、国分はどんな顔をするだろう。すばるは音楽室の床の模様をぼんやり眺めた。

 「あと、」

 まだあるのかと半ば呆れながらも、すばるは向きを変えかけていた重い身体を元に戻した。

 「定期演奏会は出てあげて、あいつらのためにも。」

 「あいつら。」

 「うん。あいつらと、亮。」

 「亮?」

 「うん。」

 国分はそう言い切ると、話は終わりだと一方的に回線を切り、「俺、仕事溜まってるのよ~。」と独り言をつぶやくと、椅子に座り机の方へ向きを変えてしまった。

 風が吹き込み、カーテンがまたふわりと舞うと、国分の前髪をかすめて揺れた。

 国分と向き合っている間は意識していなかった朝練習をする楽器の音が急に耳に届くと、すばるは目を閉じて、咄嗟に右耳を手で塞ぐと、ひっそりと音を立てずに音楽室を後にした。

 
 
 
 
 
 
 
 

  キミへのキャロル

 

 

 「すばるくん、待たせてごめん。」

 ボーリング場の近くにあるファミレスに入り、待ち合わせをしていることを店員に伝え、広い店内を見渡すと、すばるは隅のボックス席に一人で座っていた。

 テーブルを見ると、誰かがすばるの向かい側に座っていたであろうシートの後と、2つ多いお冷のグラスと空いたグラスがその位置にそのまま置いてあった。

 亮はすばるの斜向かいに座り、持っていたサックスを持ち上げて、自分よりも奥の席にスライドさせると、そのまま壁際にある呼び鈴を押した。

 店内に客はまばらで、ピンポンという音を聴きつけた店員は迷わずこちらにやって来て、亮のお冷とおしぼりを置き、不要だと判断した空いたグラスをテキパキと回収しながら注文を伺った。

 「ドリンクバーを。」

 亮が人差し指を立て、一人分の注文をすると、店員はテーブルの伝票を抜き取り、簡単な説明と会釈をしてそのままパーテーションの奥に行ってしまった。

 「何か食べへんの?」

 店員を見送っていた亮にすばるが声をかけた。

 「えっと、話が終わったら、うん、食べる。」

 亮がそう答えるとすばるは座席を覗きこむようにサックスを見つめた。

 「あ、これ?実は今日学校で練習あってん。あ、本当は休みやったんやけどね。」

 亮はサックスのケースに手をかけたまま、すばるは夏休みに入ってから練習に来ていなかった事を思い出した。もしかしたら、コンクールの結果もまだ知らないかもしれない。

 「コンクール、銀賞やってん。」

 緊張でもしているのか、珍しく思ったことをすぐ口に出していた自分にひやりとしてしまった。

 「うん、聞いた。さっき、横とヒナから。」

 すばるはそういうと、亮の座っている側のシート席を交互に目でさした。

 「何か言ってた?」

 「うー・・・ん、いや何も。」

 その匂わす何かが亮にはくみ取れなかった。昔から、すばるの近くには居たのに、あの2人がすばると居るときは何か見えない輪があるようで、亮はその中に入ることは出来なかった。もちろん横山と村上の事も昔から知ってはいるが、自分とは違う色合いの絆を紡ぐその空間に、亮は踏み込むつもりもなかった。

 「そっかぁ、って言ったら、あいつら定期演奏会は手伝えって、えらく熱く語ってたわ。」

 すばるはその時の様子を思い出したのか、俯きながらニヤリと笑った。

 「定期演奏会、」

 が最後かな。と亮は言いかけて止めた。

 自分は当たり前のように音大を目指していたし、それが経済的に難しかったら社会人団体で働きながら楽器を演奏しても良いと思っていた。

 またいつでもすばると一緒に演奏する事は出来ると漠然と思っていたが、高校生活最後の演奏が、生涯の最後になるような気がして不思議と胸が詰まった。なぜそう思ったのかは分からなかったけれど。

 「すばるくん、どこか悪いの?」そう言ったぴい先輩の曇った表情が脳裏をかすめ、亮は次の言葉を見失ってしまった。

 「何か、俺に唄って欲しいんやって。」

 「え、えっ?」

 「歌、唄ってってさ。」

 亮の声は聞こえなかったのか、かみ合わない会話に戸惑う亮をよそに、すばるは真っ直ぐ見つめてそう言った。心の中が覗かれないように、亮は平静を保つ事にぐっと意識を集中した。

 「定期演奏会を3部構成にして、その最後に歌を唄ってくれってさ。むちゃくちゃやで。」

 すばるは口ではそう言っているが、表情は楽しそうで、すこし照れるように頭をぽりぽりとかいた。その顔は単純に幸せそうで、自分の不安や心配や疑問は、溶けるようにどこかえ消えてしまった。

 「そっか、いいんじゃない?え、俺らの演奏をバックにってことでしょ?」

 突然弾けるように笑った亮は身を乗り出しながら自分の胸を人差し指でさし、その光景を想像した。

 「のど自慢大会やないからね。」

 「エエやん。すばるくんは歌も上手いし。」

 「亮は?」

 「え?」

 「亮は唄わへん?」

 すばるは嬉しそうな顔をしたまま、首だけ傾けてそう言った。亮は何の事を言われているのか飲み込めず、無意識に唾を二回飲み込んだ。

 「え⁉俺は唄わへんよ。」

 思わず答えたものだから声が裏返ってしまい、そんな亮を見たすばるは、声も出さずに「あ、あ、あ」と笑った。

 亮は何だか恥ずかしくなって、店内を見渡すように身体を真っ直ぐに起こし、そういえばドリンクバーを頼んだのに何も飲んでいない事に気が付くと、

 「すばるくん、俺、なんか取ってくるね。」

 そう言ってドリンクバーのコーナーをさし、シートを滑るように席から立った。

 「すばるくんも何かいる?」

 「いや、俺は大丈夫。」

 「うん、分かった。」

 亮はそう答えると席を離れた。亮が席を離れると、すばるは先程一人でいた時のように、ガラスの向こうをじっと眺めた。

 もう夜の7時を半分回ったところで、外は街灯の明かりがぼんやりと光る時間になっていた。

 午前中に二宮と話した後、着替えて部室に顔を出して楽器を演奏していたものの、やはりすばるへの疑問が拭えず、思い切って電話をしたのが夕方頃。その電話は繋がらないまま、長い間呼び出し音を鳴らし続け、その音が聴こえる度に寿命が縮まるような体験をした。そのすぐ後にすばるから折り返しの着信があり、勢いのまま会えないかと伝えると、昔よく行った場所にいるという事で、自転車を飛ばしてここまでやって来た。

 勢いでやって来た気持ちと、今手元にあるサイダーの冷たさに温度差があり過ぎて、目的を見失いかけていたように思った亮は、立ち止まって少し離れた席に座るすばるを眺めた。

 「どうしてコンクールに出なかったの?」

 その疑問は、定期演奏会の事を語るすばるに聞くにはどうも幼稚なような気がした。

 「すばるくん、どっか悪いの?」

 その質問には確信がない。

 「高校を卒業したらどうするの?」

 何だか笑ってはぐらかされそうだ。

 亮はその場で目を閉じて、意識して考える事を止めた。

 気持ちがクリアになると自然と足は進み、今度はすばるの目の前に来るようにサックスを更に奥に寄せて座った。

 すばるは先程のまま、少し眠そうな顔を亮に向けた。

亮は、自分から浮かんでくる気持ちに耳を傾けた。

 「すばるくん。」

 浮かんでは消えていきそうになる想いを見失う前に亮は声を出した。すばるは「うん?」と目だけで返事をすると、亮の言葉を待った。

 「俺はずっと、すばるくんみたいになりたいと思っててん。あ、でも、中学の三年になる前には、そうじゃあかん。俺は俺やねん、って思うようになったんやけれど。」

 すばるは黙って亮を見つめていた。

 「何が言いたいかっていうと、すばるくんがいたから俺、こうじゃない、ああじゃないって試行錯誤できてん。で、漠然とまた一緒に演奏したいって思ってたんやけれど、それってすばるくんからしたら迷惑やったんかなって思って。憧れ、とかそんな存在やったのに、近くに居すぎて良く見えてへんかってん。すばるくんはこんな奴らといるの息苦しかったり、した?」

 亮が言い切ると、すばるは鼻からため息を吐くようにしながら、ゆっくり目を伏せてしまった。息苦しいか?と質問した自分が息苦しくて、胸の鼓動に乗せて何かがせりあがってきそうなのを感じた。

 すばるが口を開くまで亮は黙っていようと決めた。下唇を噛んで真っ直ぐ睨むようにしていたが、伏せたまま静かに息をするすばるを追い詰めてはいないかと意識して肩の力を抜き、すばるが見つめる先に目を向けると、テーブルに同化するように点在する小さな水滴が照明の明かりを柔らかく映していた。

 「俺、」

 しばらくして、すばるは消え入りそうな声でそう言った。空耳かのような錯覚に、亮が思わず顔を上げると、亮の目を見つめてすばるは「俺は、」と語り出した。

 「亮のサックス、すんげーカッコいいと思う。」

 すばるはそこでうんと頷いた。

 「だから、俺なんかを気にせずに、もっとのびのびやればイイと思う。」

 「でも、」

 「でもやないよ。むしろ、まったくスタイルの逆な亮がいたから、俺はこうして自分らしくいられてん。」

 亮は、なんの事をすばるが語ろうとしているのか、一語一句聞き漏らさぬよう意識を前に向けた。

 「亮も同じような事言うんやね。」

 そこでまたすばるは何かを思い出すようになぜか切なげに笑った。

 「誰と?」

 「横山と村上。」

 そこですばるは肩の力を抜くようにだらりとした姿勢で外に目線を向けた。日の暮れた町はさきほどからゆっくりと夜の色をまとい始め、道路を等間隔で灯す街灯とその脇を走り去る車の走る音が聴こえた。

 「よく、あそこでビリヤードしたな。」

 猫のような瞳に夜の色を反射させながら、すばるは窓の外を遠慮気味にさした。

 亮も外を眺めると、道路を渡った反対車線から一区画入った辺りに少しペンキの剥がれた大きなピンが今まさにボールに倒されたかのような姿をライトに照らされながら回っていた。「そやね。すばるくんのツチノコさんに会ったのもあそこやで。」亮は昔すばるがガチガチに固まった女子の頭を優しく撫でたのを思い出した。少しいじわるをするようにガラにもない事をしたすばるのニヤリとした顔は今でもはっきり覚えていた。

 「あいつね。」

 すばるも何かを思い出したのかニヤリと笑った。

 「ちょっとココ、寒いから帰りながら話そうか?」

 突然そう提案したすばるは肘までめくっていた長袖をさするように手首まで伸ばすとぶるりと震え、テーブルの隅に置いてあった伝票を掴むと軽やかに席から立ち上がり、レジの方へ歩き出した。

 亮もサックスを掴むと、すばるの後を追いかけながらポケットの小銭を掌に出して、慌ててレジに出すと、すばるは澄ました顔で亮を制した。

 「大丈夫やって。ここは村上のおごりやから。」

 そう言うと、預かっていた紙幣で支払いを済ませ、おつりとレシートを大事にポケットにしまった。

 二人で外に出ると、夏の夜風が顔をなめるように吹き抜けた。冷房で冷えた身体には思いのほか心地よい。すばるは気持ちよさそうに夜風を楽しんでいた。

 「俺、自転車ないねん。亮は自転車?」

 すばるは帰り道の方向を指でさすと、亮を見つめた。

 「うん、ちょっと待ってて、すぐ取ってくるから。」

 亮はその場にすばるを残すと、ファミレスの横に止めた自転車を取りに行った。

 「すぐ来るから、そこにおってね。」

 「分かってる。」

 すばるはそう言うと、黙って空を見上げた。

 亮も少し離れた場所で空に顔を向けると、街に街灯がぽつりぽつりと輝くように、空にも一番星が微かに輝いていた。

 夏の大三角形も、きっとこの空のどこかにあるのだろうけれど、空はどんよりとくすんだまま薄い雲が流れているだけだった。

 自転車の鍵を突っ込んだポケットを探ると、前ポケットに入れていた携帯電話がブブっと揺れた。

 ただのメールだろうと思いながらそのメールを開くと、それは大倉からのもので、「亮ちゃん、みんなで花火やってるで。」という文と、開催場所であるここから近くの土手の位置と、花火を両手に持って楽しそうに笑う丸山の荒い画像が添付されていた。

 自転車を引きながらすばるにその画像を見せると、「なんや楽しそうやね。」と大きく笑った。

 

 

 

 

つづく。