妄想吹奏楽部 (連載その7) | 好きなコードはEadd9

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錦戸亮
スノストトラジャ7ORDER
デビューしてからの彼ら皆通りました
(今はストトラ)
そして
7人→6人の関ジャニ∞の記録

またもや、時間が経ってしまいました!

申し訳ないです!!

 

 

 

妄想吹奏楽部の続きです。

 

 
 
次は横山先輩がメインのお話。
 
 

 

前回までのお話。

 

妄想吹奏楽部 (連載その1)

妄想吹奏楽部 (連載その2)

妄想吹奏楽部 (連載その3)

妄想吹奏楽部 (連載その4)

妄想吹奏楽部 (連載その5)

妄想吹奏楽部 (連載その6)

 

 

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

 

 

 

 

 

 

 

では、

続きです。

 

 

 

 

 

 

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 Fly High

 

 

 

 「そこ違うやろ!」

村上はハエを叩くよりも早く丸山の頭をハタく。

 「おーい!」

 かなり離れたこの距離でも村上の唾が飛んでいることが伺える。最近村上は、何を思ったか付きっ切りで丸山の指導についている。

 指導というよりは、気合の押し付けの様にもみえるが、楽器を演奏するにあたっての基礎的な体力作りや呼吸法を村上独自の方法で伝授している。

 当時は村上もそうやって努力していたのだろうと裕は目の当たりにした。

 「そこは、たぁーた、たた、たったーや!」

 村上の裏拍は恐ろしく正確で、体を大きく使う動きを見て、丸山も真剣にリズムを取っている。

 「エエやん今の!その調子で行こう!はよ!」

 「ちょっと、耳元で急き立てるの止めてもらえませんか?」

 丸山はいたってまじめに訴えているのだろうが、その顔がニヤニヤとしている。

 「あぁん?なんやとボケ、カス、黙って練習せいっちゅうねん!」

 そうやって二人は生徒と鬼教官のように放課後を過ごしていた。

 そしてもう一人、すばるがいるはずのフルートパートを見るが、ぴいが後輩と親身に向き合っている。勝手な感想だが、その背中にすばるがいない淋しさを感じた。

 すばるは来月半ばに行われるソロコンサートの出場を予定している。

 小さい頃からお世話になっていた団体の指導をしている人からの推薦で、つい少し前に一次のDVD審査を突破した事を聞いた。そんな録画撮影をいつしていたかも裕は知らなかったが、今の裕にそういった疎外感は昔ほどなかった。

 あれは小学生に上がったばかりの頃、今まで以上に同級生との接点の場が増えた裕は、持ち前のやんちゃ心と人見知りを引きつれて、みるみるうちに友達を増やしていった。

 マウスピースを持ち歩いて吹く練習はしていたものの、トランペット自体をかまえる時間は減った。

 一方すばるは、同級生と一緒にこどものようにケラケラと笑うものの、座席にひとりでいる時が多く、上の空で頭を小さくゆらりゆらりと揺らしていた。頭の中で曲が流れているのであろう、机に手首を置いて両の手は忙しなく動いていた。知らない人が見るとリコーダーを吹く時の構えに見えるかもしれないが、裕にはそこにフルートがあるのがハッキリ見えたのである。

 それからしばらくして、すばるはコンクールに出場するようになり、その度に称賛を浴びるようになった。

 もともと何を考えているか分からない風体のすばるは、そういった声に見向きもせずにまたスコアの世界に一人で潜る事を好んだ。

 将来は音大に進んでプロを目指すことになるだろうというすばるへの期待をやけに耳にしてきた裕は、劣等感の塊に押しつぶされ、布を裂くようビリビリと耳障りな音を立てて心が切り裂かれるのを感じた。はさみで断つその断面の美しさはなく、ほつれた糸がボロボロと不恰好に飛びだしたその様は、そのまま裕の刺になった。

 「みとめてくれない大人が悪い。」いつからか自分に対しての評価を他人のせいにしていた。「俺が目立たないのはすばるがいるからだ。」とも。

 そんな意地汚い___と今では思う___その心を軽くするために、中学からは村上を音楽の世界に誘った。

 思えばその時、自分よりも下手な奴がいたらイイなどと、そんな考えは一ミリもなかった。

 けれど無意識だったのかもしれない。

 村上はきっとサッカーがやりたかったはずなのに、そんなことは今の今まで一言も口にしない。彼は本当にタフで、強靭な人間だ。頭が上がらない。

 自分だけ、自分勝手に小心者なのだろう。もうすぐ開催される吹奏楽のコンクールを思うと吐き気のような喘ぎが込み上げてくる。

 そう、八月の二週目には府県大会。そして、八月の終わりには支部大会。全国十一の支部から選ばれた約三十の団体が十月に愛知県で行われる全国吹奏楽コンクールに出場できるのだ。

 「やるからには全国を目指そう!その為にはまず、予選を突破しなきゃね。」

新入部員の仮入部から本入部に切り変わった週の初めに、部員を集めていつものように顧問の国分はハキハキ話をした。朝の寝ぼけ眼でもその声は心地よく、キャスターのように清々しかった。

 「課題曲は行進曲 希望の空、それで自由曲はアルヴァマー序曲をやろうと思う。」

 そう告げると国分は楽しそうに笑った。

 「この地区は知っての通り、他の県に比べて参加団体が多いから、府県大会がある。それはね、本当にありがたい事だと思うんだよね。だって一回多く他より舞台を踏めるってことだから、それって凄く有り難い話だよ。」

 その後は、各パートのリーダーと今後ミーティングをしていくことと、体調の管理を怠らない事、もし体調が悪い場合は無理せずに申し出て、短い時間で治すことを義務付けた。

 「うちはさ、俗にいう強豪じゃないから。」

 とまたはにかんでいた。

 それは裕の心にちくっと刺さった。

 そう、この学校は強豪ではない。もっと言えば、もし本当にプロを目指すならこんな吹奏楽部に時間を割いている暇はない。だからすばるがこの学校を選んだ時は、叔母さんの家から近く、通学に無駄な時間をかけないためだと思っていた。少しの時間でも惜しまないように。

 そんな渋谷が少し前に国分と二人で話している所を偶然見てしまった。

 「吹奏楽のコンクールには出ない」とそう告げていて、内心やっぱりと思った。

 そして村上は、サッカー部に入るとばかり思っていた。この学校なら国体も目指せるはずだ。現に水泳部や陸上競技では早くも世界視野の頭角を現している者もいる。テニス部も先週の大会で優勝をしていた生徒がいたはずだ。なのに彼はいまもホルンをくまなく磨いては大きな音を出しに屋上まで行っていたりする。

さて、自分は何をしにこの学校に来たのだろう・・・少しだけ人よりトランペットがうまく吹ける人間の悩みなど、誰も聞いてはくれない。

 

 

 

 

 

つづく。