妄想吹奏楽部 (連載その4) | 好きなコードはEadd9

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錦戸亮
SixTONES
Snow Man(岩本照)
好きなモノいろいろ
そして7人→6人の関ジャニ∞の記録

以前アップした、

妄想吹奏楽部の続きです。

すごくひさしぶりになってしまった。。。

すみません。

 
 
 
 
 
 

 

前回までのお話。

 

妄想吹奏楽部 (連載その1)

妄想吹奏楽部 (連載その2)

妄想吹奏楽部 (連載その3)

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

キャラクター設定、

各人の担当楽器、

演奏会でどの楽曲を演奏するかまで、細かく妄想が進んでおります(笑)


 

 

 

フランスにいらっしゃるMさんの原稿をお預かりして、私がブログにアップさせていただくことになっております。

 

 

 

 

 

 

 

では、

続きです。

 

 

 

 

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ココロ空モヨウ

 

 

 暑い・・・

 こんなに毎日暑いのに、なんで私は毎日毎日外でボールを追いかけているのだろう。

 六月特有の湿った空気は、ぎとぎとと体にまとわりつき、天気の良い日は傍から見ている以上にスポーツをする者の体力を奪ってゆく。こんな時、急にお天気が崩れると当たり前のように体調を悪くする者もいる。

 今年八幡高校の二年生になったハルもそのうちの一人で、朝から体調がすぐれなかった。

 今日は新入部員を相手に、簡単なラリーをしていたのだが、どうも身が入らない。

 ハルからはかなり手を抜いて球を打ち返しているが、一年生は先程から必死にボールを見つめ、懸命に追いかけまわっている。不幸中の幸いと言ったら失礼にあたるが、こんな暑い日にこれくらいの相手でハルは少しほっとしていた。

持ち前の運動神経を武器にテニス部の有力選手になったものの結果、来る日も来る日もボールを走って追いかけるという果ての無いゲームに体力を擦り減らす毎日を送っていた。

 暑い。どうしてこんなに暑いのか・・・。

 校庭に轟く他の部活の掛け声も、遠くで響くバットとボールの衝突する音も、全てが暑さを音に変えてハルの耳に飛び込んでくる。

そんな憂鬱な空気に一筋だけ和らぎを乗せてくれるのが、校舎から遠く聞こえてくる吹奏楽部の音色なのである。

 「早く合奏の時間にならないかなぁ」

 今は個人かパートごとに分かれての練習なのか、小さく単体の楽器がかすかに聞き取れるくらいだった。それでもメトロノームに合わせて決められた拍子の間一定の音を出し続ける優しい音もハルは好んでいた。その音が聞こえると一、二と拍を一緒に踏んで深く深呼吸する癖がついてしまったからか、音が長ければ長いほど気持ちがリフレッシュするのである。

 演奏をしている方からしたらロングブレスは辛い事であろう。同じクラスの花にその事を話したら

 「ハルさん変わってる。」

と言われ、

 「でも、何だかその気持ちは分かる気がする。」

とくすくす笑っていた。

 その花の隣には今も錦戸くんが座っているのかな?先程から聴こえていた音色が途切れて、何だかハルにいじわるしているように、その他の雑音が耳に響いた。

 集中を掻いていたハルは、一年生のボールを取りこぼしてしまい、見ていた他の部員の「ナイス」という掛け声で完全にやる気が無くなってしまった。切りが良いから、一度別のペアにコートを譲りましょうと提案すると、相手をしていた一年生が「ありがとうございました。」と丁寧に頭を下げて、テニスコートの隅に溜まる一年生の輪に走っていった。そんなに対した相手をしていなかったのに、お礼を言われてハルは何だか申し訳なくなってしまった。それもきっと体調のせいだろう。一度顔でも洗って少し休もう、そう思って折りたたみ式の一人掛けの椅子に置いてあった荷物からペットボトルを取り出しキャップをひねっていると

 「おめぇまたサボってんだろ!」

と声が聞こえた。丁度ペットボトルに口を付けるところだったのと、私ではない____と思いたい____と思っていると

 「おい、ハル!俺が相手してやろうか?」

挑戦的に人を炊きつける言い方しか出来ないのか、男子テニス部の松本潤がフェンス越しにこちらを見据えながら、手元でラケットをクルクルと回して立っていた。

 良い意味で真面目、悪い意味で暑苦しい彼は、顔だちもソース顔で、くっきりと意思をしめした太い眉毛と鋭い眼光。常に人を悟ったように余裕の笑みを浮かべる口元。歩く貴公子____とハルは思わないが____は学園でもファンが出来る程の整った顔立ちをしていた。

 現に今年入った新入部員達の中にも歓声を上げている生徒も少なくない。彼も一年生の時に県大会まで進む程の力の持ち主であるから、他校からも一目置かれているようだった。

 「ちょっと黙ってくれる?聴こえないから。」

 「はぁ?何がきこえないんだよ?」

黙れという割に聴こえないと言われて自分の事ではないと分かると、あからさまに眉に力を入れて睨むようにハルに近づいてきた。

 「うっさいうっさい。何でもいいでしょ。男子は向こうでしょ、邪魔しないで!」

ペットボトルの蓋を締めながらも、手であっちへ行けとヒラヒラ追い払うジェスチャーをすると、勘に触ったのか松本は「ふん」と鼻を鳴らすとどこかへ行ってしまった。

 密かな楽しみを奪うなっつーの!

 すでにハルに背を向けている松本の背中に、こっそりと歯を喰いしばって威嚇をしめすと、ハルは体を校舎へと向けた。

 ハルの放課後の楽しみというのが、遠く音楽室から流れる音色に耳を傾けながら、体を思いっきり動かすことと、時おり音楽室から聴こえる無数音色に耳を澄まし、その音色の中からテナーサックスを聞き分けては、一人でひっそりと音に浸るというもの。

 テナーサックスの演奏者はもちろん錦戸亮。ハルはある時期から彼に密かに想いを寄せているのである。

 それは一年生の頃、休憩時間に仲良しの花と話しをしていた時の事である。花からはたびたび同級生の錦戸君はテナーサックスと聞いていた。さしてどんな人なのか探った事はないが聞く限りでは、暑苦しくて生真面目、妥協を許さないというようなイメージがどうもテニス部の松本と結びつき、「面倒な男だねぇ」などとコメントしては笑っていた。ただ、その度に花は「うん、でもすごく気持ちの真っ直ぐな人で、尊敬している。本当に。」とはにかんでいた。

 そんな彼が突如、休憩時間に「花さんっています?」と低姿勢で現れたのである。

 引き戸の片側が開かれた扉からひょっこり頭を出した錦戸をハルは遠目でとらえていた。えらく肌の焼けた人物だなぁと感じたのが第一印象で、その時の画像は頭の片隅にいて、いつでも取り出せるところに置いてある。

 彼は近くにいたクラスメイトをちらちらと見ながらも、声をかけるのに戸惑っているのか、えらくタイミングを計るようにゆらゆらと前後に揺れていた。ハルがその様子を眺めていたからか視線を感じた彼は、クラスを眺め廻したのちにハルと目線が合ってにっこりと笑いぎこちなく右手を肩の高さに上げた。

 簡単に言えば、その笑顔がとても素敵だったのである。人よりも彫が深く、両側に垂れた目が、にっこりと笑った両の口元に届くのではと思われるほど嬉しそうな顔。ハルは瞬時に「あの殿方は何者!?」と激しくなる動悸に問いかけたのである。

 後あと聞いた話では、花に会いに来た錦戸は視力が悪く、自分に気が付いてくれたその誰かに期待を込めて手を上げたのであったそうだが、そんな事は知っても知らなくてもこの際どうでも良かった。その彼が錦戸亮で、熱血と顔に書かれたその熱い眼差しと、サックスの演奏を短時間で花に相談するその頭の回転の良さに、ハルは心を打ち抜かれてしまったのである。

 その時ほど、この学校に入学した時にテニス部なんかじゃなくて吹奏楽部にすれば良かったと珍しく後悔した。その年の部活紹介時、一つ年上の渋谷すばるが演奏するフルートに心が躍り、背筋からぞくぞくと全身をかけめぐる鳥肌に似た興奮を抑えるのがやっとで、声を押し殺してカッコいいと震えたあの日に戻りたいとつくづく思った。

 後の祭り、そんなことは重々分かっている。ハルは運動部以外を選択する気はゼロだった。もし、仮に吹奏楽部へ入部したところで楽器の経験はピアノだけの自分が、錦戸亮と並んで華麗にサックスを演奏している姿など一ミリも想像は出来なかった。

 唯一、仲の良い花から吹奏楽部の話を聞き出すのがハルの楽しみであった。その中でハルの気持ちをやんわり救ってくれたのは、吹奏楽部内での恋愛禁止条例であった。

 それは、吹奏楽部同士でなければOKということを意味しているわけで、その話を聞いた時は柄にもなく小さくガッツポーズをしてしまった。それと同時に「あんなにイケメンが揃っていて大変だろうに。」と素直に吹奏楽部の女子に同情してしまった。

 花はそんな暇はないとかぶりを振ったが、どうも意中の男子がいるとハルは睨んでいる。他の部員の子たちだって何とも思っていないはずはない、きっとそんなわけにはいかないよなぁと何度も繰り返し考えている疑問を投げかけるように音楽室を見上げた。

 その窓は空の青だけを写し、とうてい室内など見る事は出来なかった。

 ただ流れくる音色をまた目をつむって噛みしめているとハルの後ろから「ぎゃ」と布が引きちぎれるような悲鳴を聞いた。

 ああ、またかな。

 そう思って振り向くと案の定、テニス部のウタマロ先輩がボレーを顔面に直撃させた後であった。つい最近も一度あり、本人は虫が顔に飛んで来たなんて笑っていたが、本当は吹奏楽部の音色を聴いていて、気持ちがそぞろになっていたのだろう。そしてその音色が渋谷すばるのフルートに超敏感であるとハルは見抜いていた。だてにテナーサックスばかり聴いていないからな、と胸を張った。

 あー、それにしても本当にいい音。この低音、聞き惚れるほどに体は高揚した。どんなに辛い練習でも環境でも、この音色が聴こえてくる限り私は頑張れる。いつの間に胸の前で組んだ両の手にぐっと力が入ると、十月の定期演奏会は何があっても絶対に聴きに行かねばとハルは意気込んだ。

 顔をあげても音楽室は遠い。校舎の一番上の階の隅、そこの風景をハルは想像する事しか出来なかった。

 花さん羨ましいな。いっつも亮ちゃん___ハルは心の中でだけ、そう呼んでいた___の隣にいるのよね。ちょっと妬けちゃう。

 ふと視線を落としたハルの腕は薄らと太陽の熱で焼けていた。アルトサックスを支える花のほっそりした腕は白く、楽器と共に輝いていたようにも見えたなと少し前の記憶をたぐる。

 ま、いいか。どうやら花はクラリネットの子が好きみたいだとハルは確信していた。しかし、幼馴染に野球部の相葉雅紀がいながら、そんな事を仄めかす花に驚きは隠せなかったし、やっぱりあり得ない!あんなにも毎日隣にいて、一緒にサックスを吹いているのに、なぜに亮ちゃんに惚れないの??ハルはこのことをもう何度も考えた。

 あの彫りの深い横顔を毎日隣で眺めてて!!あり得ない!!!

 両の掌で深くスポーツタオルを握りしめていたからか、手を放すとさっと血の気が引いていくのを感じた。加えて暑いからかイライラもしてきた。このままでは熱中症にもなりかねない。ちょっと顔でも洗おうと思い立ちコートから離れた。ついでにもっと近くで音色を聴いてこよう。ハルは浮き立つ気持ちを周りに悟られないように足早に歩を進めると、今度は反対のコートから

 「勝手に練習から抜けるなよ!!」

 と松本の罵声が飛んで来たのである。

 あー、松本うるさい。ほっておいてくれ。

ハルはそそくさと校舎横の水道めがけて聞こえないふりを決め込んだ。

 先程まではたくさんの音が聴こえていたのに、今はシンと静まり返っている。ハルは蛇口に手をかけたまましばらくぼーっと音楽室を見つめていた自分に気が付き、それを拭うように額の汗と前髪を腕で掻き上げると、勢いよく蛇口をひねった。

 それと重なるようにジャン!と合奏が始まった。

 ハルは思わず体をビクつかせ、込み上げる気持ちが体を駆け上がるのを感じた。

 これはアルヴァマー序曲、そう花さんから聞いた。この曲を聴くと、飛行船に乗って空を雄大に飛び回っているような錯覚をハルは覚える。目を見開いても雲をかき分け青空を進むイメージが脳裏に浮かぶのだ。

 気持ちがイイ。素直にそう思った時、合奏が中盤で止んでしまった。

 ああ、もう一度聴きたいな。ハルは流れでる蛇口の水で顔を二、三回洗うとクリアな頭でそう懇願した。

 遠くにあるから綺麗なのかもしれない。ふと無意識に浮かんだその言葉は瞬時にハルを空虚な気持ちにさせた。この曲の半ばが、夕日に暮れる空を思わせるように、ゆらりゆらりとその寂しさは心を揺らした。

 吹奏楽部の演奏が日に日に洗練されていくのを一ファンとして素直に感動し、喜んでいたのに、目に見えるよりも距離感が広がるこの隙間をいったい何が埋めてくれるのであろうかとハルはぼんやりと考えた。

 

 

 

 

続く。