妄想吹奏楽部 (連載その1) | 好きなコードはEadd9

好きなコードはEadd9

錦戸亮
SixTONES
Snow Man(岩本照)
好きなモノいろいろ
そして7人→6人の関ジャニ∞の記録

本日2個目。

 

 

 

関ジャニ∞の「オモイダマ」という楽曲には

"吹奏楽バージョン"

が付いていましたよね???

 

あれはものすごく「妄想力」をかき立てられるものでした(笑)

 

 

 

もしもエイトが吹奏楽部だったら。

 

 

 

これは、そんな妄想に取り憑かれたww人達のお話です。

 

 

 

 

 

あ!

この世界が苦手な方は回れ右をお願いします!

 

(ちなみに恋愛はNGとなっておりますww)

そういう話ちゃう!

です(笑)

 

 

 

 

 

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

キャラクター設定、

各人の担当楽器、

演奏会でどの楽曲を演奏するかまで、細かく妄想が進んでおります(笑)


 

 

 

 

 

フランスで単独で夢に向かってがんばってるヲタ友さんが。

力作を送ってくださいました。

 

ご自身はもうブログを更新されていないので。

私が原稿をお預かりして、ブログにアップさせていただくことになりました。

 

 

 

 

 

なんてったって力作なので。

数回にわけてアップしようと思っております。

 

 

 

 

 

こういう話を拝見して思うんですが。

こういうのって、

『メンバーのキャラクターをわかってなくては書けない』

んですよね。

 

 

 

つまり。

 

全員をよく観てないと書けない。

 

 

 

私は、だから。

こういう方を尊敬するし。

好き!

って思ってしまう(笑)

 

 

 

 

 

 

 

これは別の話なのですが。

以前、ヲタ友さんが書かれた話で私が大好きだったヤツ!

(未完で終わっているのが残念。。。)

 

キング オブ 前夜~その1 ちょっと追記あり

(その4まであります)

 

 

 

 

 

 

 

雨の3連休。

(かもしれないから)

 

興味のある方は続きへどうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

第一章Excite!!

 

モノグラム

 

 

 4月の半ば、体育館に差し込む日差しにほんのりと舞う塵を眺めながらも、彼は秒針を脳みその後ろの方で感じながら手元のタイムスケジュールを指で反復し、すでに終了した項目に赤いペンを真横に引きながら本日の業務無事終了を目指していた。

 

 大きな体育館のステージ下手側、全校生徒が並べられた椅子に座っている高さと同じ位置に一人用の作業台とマイクに向かい合う櫻井翔は、とても自然にまっすぐに立っていた。きっちりと結ばれた口元は緩やかに口角を上げ、隙のないその立ち振る舞いは   彼のお育ちの良さを表していた。その上、成績も優秀で教師からのウケも良く有名大学への進学は間違いないと太鼓判まで押されていた彼は、次期生徒会長との呼び声も高かったはずなのに、どこで歯車が狂ったのか、今は副生徒会長としてこの場を仕切っている。

 彼は別に自負していたわけではない。ただ、まさか自分を差し置いて生徒会長に君臨した人物が、まさに箸より重いものなど持ったこともないようなこの学園一のお嬢様で、年がら年中貧血気味の西園寺すば子であることに、少し戸惑いを隠せなかった。

   今も翔のすぐ後ろに用意された席は空っぽで、そんな彼女は開会の挨拶後、体調不調とは一言も言わず「見えますか?小さな使いが私を導いていらっしゃるわ。」と意味の分からない言葉だけを翔に告げ、ヒラヒラ舞う蝶のように優雅に体育館を後にしたのである。

「意味が分からない。」

   その事をしばしば思い出しては、いかんいかんと頭を小さく振り、空いた席を視界に入れないように小さく息を吐くと舞台の方に集中することを繰り返していた。

 

   翔が副生徒会帳に就任してから初の公での業務は、ここ八幡高校へこの春入学した新入生への部活動の紹介を兼ねた新入生歓迎会での司会進行である。

   本来なら、個々の部活動ごとにマイクを回して自由に発言してもらってよさそうなところだが、前年と前々年をプレゼンする側とされる側で経験した翔は結果、あまりの効率の悪さに酷く不快な時間を過ごしてしまった事をあまり心地よくは思っていなかった。

   大小二十一の部活動が約5分間のプレゼンでも合計百五分、一時間四十五分。途中十五分の休憩と始めと終わりの挨拶もろもろ、考えただけで一分一秒無駄には出来ない。翔は一瞬でそういった事を考えると俄然集中力は高まり、目指すべきゴールへの軌道を脳裏に描きだしていた。

   ステージ横の大時計をちらりと見据え、手元のタイムスケジュールと照らし合わせる。現時点で6分弱予定よりオーバーしているが、それは想定内である。余力からか少し肩の力が抜けた翔は、サッカー部の腹踊りに笑ったり、英語部の華麗なスピーチに思わず聴き惚れたり、テニス部の男女でユニフォームを入れ替えての素振り姿に微笑ましさを覚えたのか、表情が穏やかになった。

   前もって各部活動からプレゼン企画書を提出してもらってはいるが、その場その時での相手との掛け合い。場を締める言葉は、用意していた材料だけでは足りず、次の部活動が準備できるまでを繋ぎ、流れるように進行するのは思った以上に大変な事である。

 徐々にコツを掴めて来た頃にはすでに中盤で、翔の頭の中では反省会への準備が始まっていた。

   少し上の空だったからか、ふと肩を叩かれて「うわっ」と小さく声が漏れてしまった。そのままマイクに乗って雑音として響いてしまい「失礼しました、続けて下さい。」と咄嗟に言いながら、肩を叩いた主の胸を翔は右手でチョップしていた。

「何の用だ?」

   無意識に眉に力がこもった翔は、マイクの頭を手で覆い隠しながら素早く問いかけた。

その人物は恐いものでも見たように一瞬驚き、すぐにニヤニヤと笑い出した。ひょろっとした佇まいと色白の彼は、左手に携えたトランペットを、翔のチョップから守るようにさすっていた。

「翔君危ないやん、いきなりやめてぇ。」

   関西弁特有の語尾の伸び方に翔は少し笑ってしまう。

「いきなり人の肩を叩いた貴方が悪い。」

   翔がぴしゃりと言い切ると

「もう、イケずやわぁ」

  くねくね小さく揺れた。

   彼は吹奏楽部の部長の横山裕。翔と同じクラスで、いつも何かとちょっかいを出して来ては翔を笑わせていた。部活内ではいじられ役だと聞いた時、翔は複雑な気持ちを抱いた。

「翔君、吹奏楽部へのフリ、ほんまたのむで。」

   彼はそう翔の耳元でささやいた。ニヤニヤしながらも右に左に重心を取りながら視線が定まることなく動いている彼の顔に心なしか緊張の色を感じた。

翔はにっこりとほほ笑むと

「大丈夫、任せたまえ。私を誰だと思っている。」

   と答え右手で優しく横山の背中を小さく叩いた。

   あちこちきょろきょろしていた横山は、翔が触れると同時にビックっと跳ねた。

「おぉ、頼もしいっすわぁ副会長。」

   とまた笑った。

 

 

   すでに隣に裕がいることは忘れたようにくるりと向きを変え、淡々と司会進行する櫻井の背中をボーっと眺めていた裕は、置いて行かれたような寂しさからはっと我に返ると、胸元をさすり、どこからか込み上げる緊張を抑え込むかのように、ゴクリと大きく唾を飲み込んだ。舞台を見ているはずの新入生の視線を真横に感じながら、体育館入口付近にスタンバイする部員の元へトランペットを空吹きしながらそそくさと戻ると、こちらに先頭で立っていた吹奏楽部副部長の村上信五がせっかちに右手をぶんぶんとバタつかせながら、裕を手招きしていた。

「ごめんごめん、ちょっと翔君とこ行っててん。」

   言い訳のように、進んできた方向を後ろ手で指しながら言う。

   彼のこの困ったように少し眉毛をハ字にする姿は、とても少年らしい。

「分かってるよ、見えてんもん。」

   村上が裕へ喰い気味にそう言うと、彼の癖なのか、肩をすくめながら顔だけこちらに突出しムスッと表情を歪め、すぼめた口元から少しだけ八重歯が見えた。さながらネズミ男の様であると裕はいつもそう思っていた。

   そんな村上は裕と幼馴染で、小さいころは日が暮れるまで遊んだ仲だった。

   お互い男兄弟の長男で、どちらともなく兄弟をまとめ、時に喧嘩しそれでもいつも笑い合っていた。並行して、小さい頃からトランペットを初めていた裕が日々見えない渦に四苦八苦する姿を一番近くで村上は見ていた。それでも一切感傷はせず、距離を保ちながら裕が抱えるゴチャゴチャな感情を力いっぱい吹き飛ばしてくれたのも彼だった。

   今では村上の右小脇にピカピカのホルンが納まっている。もう気が付けば6年目になるのに、裕はいつもその姿を見てくすりと笑ってしまう。

   中学へ入学したての頃、同級生に吹奏楽部が少なかったのもあり軽い冗談のつもりで裕は村上を誘った。「何じゃい、俺の力が必要なんかい?」と八重歯を輝かせると、入部体験で音楽室へ裕たちの後ろをずかずかとついて来たのだ。

   村上に似合う楽器は尺八ぐらいしか浮かばなかった裕は、いったい村上になにが出来るのかと誘っておきながら内心ひやひやが止まらなかったのを覚えている。

   花型のフルートやトランペットは人気で、「もともとそんなもんには興味ないねん。」と鼻を鳴らすと、遠慮も恥じらいもなく、その場にいた先輩に話しかけては、どんなもんかと演奏してもらい、楽器によっては村上も試し吹きさせてもらっていた。

   人見知りもせず、今初めて会う人とも楽しそうに話す村上に少し嫉妬した。時として頼もしく力強い彼に、そうやって尊敬といら立ちが渦を巻く。村上が強気なだけであって、自分のせいではない。裕は自分にそう言い聞かせていた。

   その日一回の体験で村上はホルンを選んだ。理由は音が出なかったからと、なぜか音の出る方向が前を向いていない捻くれた楽器だったから。

   ホルンはトランペットと同じ金管楽器で確かに演奏すると、音は演奏者の斜め後ろをいく。その上、マウスピースが小さいのも特徴だ。小さいということは、吹く時によりテクニックがいる。さらに村上が吹くと、唇の内側で八重歯が当たるらしく、どうにもやりにくいと言っていたのに「だからこそやる価値があるねん。」と唾を飛ばしながら裕に喰ってかかった。

   彼のたまに出る天然気味なところは普段の姿からのギャップで、裕は嫌いではなかった。今では、その両の八重歯を目印に、彼曰く『吹ける位置』を見定めたらしい。それも実に彼らしい。

「みんな準備は万端やで!ここらで円陣でも組んでおくかっ!?」

   ホルンを右手に軽くひっかけながら村上は肩や首、足首を回していた。

「いやいや円陣って。」

   息巻く村上をかわしながら裕は、体育館の後方に集まる部員に近づいていった。

「みんな元気かぁ?あと、次の次やから。」

   そう言っておきながら裕は自分が一番緊張しているようで、声がわずってしまった。

「先輩。俺らは大丈夫っすよ。むしろ、先輩の顔色の方が一番ヤバい。」

   首から下げたストラップにテナーサックスを携え、それごと腕組みしている錦戸亮はいつも通り冷静な顔でそう告げた。日ごろは『横山くん』と個人的には呼ばれている。

   彼は裕へ、尊敬を込める場合とおちょくる場面で『先輩』と呼ぶ。今はきっとおちょくられている。

「色白は生まれつきや。」

   恥ずかしそうに顔の前で手をブンブン振る裕は、黙ったままこちらを見つめる錦戸と目線を合わせられずにいた。

   彫の深い顔立ちにシャープな鼻筋、少し垂れた切れ長の目は、いつもまっすぐ自分の気持ちをストレートに伝えていた。裕より少し小柄ながらも、凛とした立ち振る舞いにはカリスマ性を感じる。

「生まれつき。」

   裕は錦戸の無言に耐えられずに、もう一度ゆっくりつぶやくと「聞こえてますよ。」と錦戸は裕を見据えてニカっと笑った。

   顔が小さいからか、彼が歯を出して笑うと、漫画のようにきれいな笑顔になった。裕も笑おうとして口元を引きつらせたが、引く様に空笑いになってしまっただけだった。

   その時裕のすぐ後ろで『ぶをっ』と何かが破裂するような音が聞こえて、心臓が飛び出そうになるくらい体をビクつかせてしまった。

「先輩、びっくりしましたぁ?」

   胸元をさすりながら裕が振り返ると、チューバを抱えた丸山隆平がへらへらと首を小さく揺らしながら笑っていた。彼なりの励ましなのだろうが、いつも場に相違していない事に裕は苛立ちを度々感じていた。

「静かにせんと怒られるやろ!」

   口元に指を当てて慌てて丸山を注意すると、マウスピースに口元に当てたまま、楽しそうに体ごと左右に揺れていた。やるなと言われて更にやりたくなってしまう5歳児のようである。

   彼は裕と同じくらいの背の高さだが、身体つきががっちりしているのでチューバがとても似合っていた。両の頬にくっきりとえくぼを作り、いつもニコニコと照れたように笑う彼は、まさに子供さながらに部の雰囲気を明るくしてくれる。少し伸びたクセのある髪が大型犬のようで微笑ましい。吹かずとも、右手は忙しなくチューバを奏でている。きっと色々な意味で興奮しているのだろう。一緒くたに彼を襲っているのか、落ち着けはしないのだ。そんな彼と裕が笑あっていると

「マル、お前ホンマ気持ち悪いねん。」

   丸山のすぐ後ろに控えていた大倉忠義が苛立ちを示すように言いはなった。

「そうやってフラフラすんなや。」

   とても綺麗な顔立ちとは裏腹に、毒を持った声で丸山を叱咤する。

   裕は大倉までもが近くにいたことに気が付かず、内心ひとりドキリとしていた。

   そんな裕をしり目に丸山は大倉へ食ってかかる。

「何やねん大倉。お前こそ新入生可愛いなぁとか言って女の子のこと考えてたんやろ!」

   この二人はいつも何かに付けていちゃもんを付けあっている。

「アホか、お前と一緒にすんなや!」

   丸山に負けず背の高い大倉は、すらりと長いトロンボーンを華麗に携えて、さも丸山をバカにしていると全身が語っていた。丸山を冷ややかで見つめるその眼差しまでも、傍から見ている女子を虜にしている事を裕は知っていた。

「もうすぐ出番やから喧嘩せんで。」

   裕が二人を宥めると

「別に喧嘩じゃありません!」

   と二人が同時に言ったので裕はまた微笑ましくなった。その時

「横山!もうすぐ前の部活終わるで!!」

   前方の舞台を睨んでいたであろう村上が進行の具合を告げる。気のそれていた裕の胸の内にまたトクトクと緊張が近づいているのを感じ、それを考えないように無意識に幼馴染の姿を部内に探した。

   とても小柄で華奢な彼はとても繊細で、触れるとシャボン玉のようにはじけてしまうのではと度々裕を不安にさせる。それでも、幾重にも折り重なる彼の心は常に炎を内に宿し、その見た目からは想像出来ないほどの存在感を放っていた。

   今も部員との輪からは外れて、舞台に向かって椅子を並べる在学生の少し後ろで前方を眺めていた。その左手には銀色に輝くフルートがある。

   裕の視線を感じたのか渋谷すばるが振り向きざま裕を捕らえる。

   くりっとした目元と無造作に切りそろえられた髪形、まっすぐ結ばれた口元、その孤独な雰囲気は昔のままである。渋谷すばるは裕から視線を自分の手元に逸らすと、ゆっくりとフルートに右手も添え、先程の丸山と同じように空で演奏をする。それを見て裕も手元にあるトランペットを胸元でセットすると小さく息を吐いた。そんな裕を見ていたのか、裕がトランペットへ目線を下げると、ふと眼の端にこちらを伺う部員が見えた。

   それはすばると同じくらい小柄な安田章大だった。

   大事そうにクラリネットを胸元に抱え、裕と目が合うとにこっと笑ってペンギンのように裕の元へやってきた。丸山が大型犬なら彼は小型犬だなぁと思う。

   まだ少し少年らしさを残す安田は裕の元に来るとキラキラと目を輝かせて

「部長、音出ししませんか?ちっさい音で。」

   思ったことを真っ直ぐ伝え、その後に思い出したように形容詞と右手で“小さく”のジェスチャーを付け加える彼に裕はユーモアを感じていた。

   その頃舞台ではひとつ前の演目が終わり、ぞろぞろと部員が下段している所であった。室内のざわめきにやんわりと櫻井の進行が溶け込む。心なしかこちらに目線を向けているようにも感じた。

   今年の吹奏楽部は前方の舞台ではなく、後方の体育館出入り口付近で発表をしたいと告げたのはまさに部長の裕の発案だった。舞台は小さくはないが、全ての部員でぞろぞろ上がるよりは後ろに控えておいて瞬時に行動に移したかったからだ。何よりもインパクトを与える事も出来る。移動時間の短縮を条件に順番を最後にしてもらえたのもありがたく、裕は翔の理解と心配りに心底感謝していた。

   不思議とさっきまでの緊張はお腹の底で小さくなり、程よい圧迫感を鼓動に乗せて体を巡っている。周りの部員を横目で見ると、すでに綺麗に、それでいて自然に並んだ全部員が戦闘態勢に入っていた。

   とてもイイ時間だと裕はその空気を胸いっぱいに吸うと手元のトランペットを口元にそっと運んだ。

 

 

 

   相葉雅紀は野球部の発表を終えて舞台を後にしようとしていた。

「ほらぁ、早く降りなって。」

   跳ねるようにさっきまでの余韻が冷めない部員を、笑いながら舞台袖へと招きながら牧羊犬のように部員の最後を歩いていた。

   そんな雅紀の耳にふわっと優しい何かの音色が体育館後方から届き、思わず立ち止まってしまった。

   これは音だしってやつなのかな?最初は何の楽器の音だったかは分からないけれど、音に乗るように瞬時に色々な楽器の音が重なって体育館全体に広がり、さっきまでのざわめきを打ち消していた。

   花はどこにいるかな?雅紀は目をキラキラさせながら幼馴染の姿をいつも通り探していた。

「サックスは客席から見て右側だよ。」

   どうしてもたくさんの楽器を好奇心で眺め回してしまう雅紀の頭の中に花の声が蘇る。

「あ、いた。」

   雅紀の目線の先にアルトサックスを抱えた花がうつむき加減で音を奏でる姿が見えた。雅紀はそんな一生懸命な花の姿にいつも励まされている。

   体育館いっぱいに音がひろがっていたかと思うと、何かの合図ですっと音が止む。

静かに見ていた観客の関心が完全に後方に向いているのを雅紀は感じた。

   息をのむ音も聞こえそうなほど静まった空間に突然一人のフルート奏者の優しい音色が蝶のように舞った。

   並んだ吹奏楽部の前方中心やや向かって左側に一人だけゆらゆらと体で音を感じながら観客の視線を集める人物がいた。

   あれが花の言っていた渋谷すばるだろうと雅紀は理解した。

流れるように滑らかに、観客の間を音が駆け巡ると、じゃれる様に時に音が跳ねた。

   柔らかさの中にきりっと切り込まれる鋭さはあっという間に雅紀を魅了し、後頭部にざわりと鳥肌が立つのを感じていた。

   これは何て曲なんだろう。今度花に聞いてみようとそんな事を考えながら聴いていると、音の階段を駆け上がり、登り切ったかのようにフルートの演奏がスパッと切れた。思わず、といった様子で拍手が巻き起こる。

   一拍遅れて雅紀も拍手をする。次はなんだろう?気持ちのまま拍手をする観衆の音が納まるのと反比例するように次への期待が空間をいっぱいに満たしていた。

   いつのまにか吹奏楽部に向き合って音楽教師が一人立っていた。

   雅紀は、彼がスティックを持った左手を宙に振り上げて初めて、自分ひとりが舞台に取り残されている事に気が付き、あわてて階段から音を立てないように降りた。

 

 

 

 音楽教師の国分太一はスティックを振る自分がとても楽しんでいるのを感じていた。みんながのびのびと演奏しているのが真っ直ぐ伝わる。この位置でこんな気分を味わうたびに音楽教師をやっていて良かったと思うと、国分は顔をほころばせながらスティックを大きく振った。自分が思っている以上に笑っているのだろう。気持ちを通わせあう部員は活き活きと笑顔を咲かせながら風にそよぐ草木のように演奏していた。

   この曲は先月の定期演奏会でも演奏した「アルヴァマー序曲」で、その時よりも更に仕上がっていた。

   八幡高校は決して吹奏楽が強い学校ではない。どちらかというと広いグラウンドに設備の行き届いたスポーツ系の部活の方が強い。それでも、吹奏楽部の定期演奏会は前任の教諭の希望で年に二回ある。

   コンクールが終わり、三年生の受験が本格的に始まる前の十月のもの___といっても、もし全国大会に進んだ場合は本番の前の予行練習になるように___と、三年生が卒業してから行われる三月のものがある。その三月の会の時に国分は素晴らしい演奏に心が震えた。教えている立場で甘い評価をしているのではなく、今年三年生に上がった生徒達は個性豊かでとても面白いと思っていた。部長の横山や副部長の村上を筆頭に、少し扱いづらい奴らではあるけれど、演奏に対してとてもまじめで、理屈抜きに音楽を楽しんでいる。

   大人になるとどうしても経験や人の評価が自己の表現を阻害する。自分のやりたい事とお金になる事と、集団の中で一人の人間として生活をしていかなければならない事。

   今年三十二歳になる国分は日に日に省エネモードで生きている自分を不甲斐なく思ってしまい、分かってはいるけれど時よりどうしようもなく牙をむき出しにして暴れまわりたくなる時がある。きっとそれも大人になった証拠だと、それをつまみにビールと一緒に喉の奥に飲み込む日々であった。

「羨ましいなぁ。」

   今この時という一瞬を全力で生きるこの若者たちへ、国分は嫉妬のような感情に皮肉を込めてそう呟いた。若さゆえの溢れるパワーは消費と生産を絶えず繰り返して、泣いたり笑ったり喧嘩したり。彼らは日々の葛藤で大人までの少しの時間を熱く強く生きるのだろう。何て素晴らしい話なのだろう。国分の中で少し俯瞰気味に眺めて生きていた自分にもふつふつと何かが燃え上がるのを感じていた。

   もしかしたら、全国を狙えるかもしれない。

   闘志を漲らせる彼らを見るとその想いは日々大きく膨らみ、今このとき「かもしれない」などと夢を見ていた自分を笑い飛ばせるくらいに確信は確固たる姿を音色で示していた。

   全国に導きたい。

   国分は自分にも同じような青春があった事を思い出していた。きっとこの生徒達もこれから毎日毎日、暑苦しい日々をおくるのだろう。

   そういえばあの頃一緒にバンドを組んでいた奴らは元気だろうか?

   国分は指揮棒を振り、心地よい演奏を聴きながら昔の仲間を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。