妄想吹奏楽部の続きです。
すごくひさしぶりになってしまった。。。
すみません。
と、アップしたその日に作者のマリーさんから新作が届きました。
ここからはコンスタントにアップします!
前回までのお話。
こちらがその「まとめサイト」です。
では、
続きです。
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あおっぱな
低音を、切るでもなく伸ばすでもなく、程よい温かみをその場所に埋めるように丸山隆平はチューバと遊んでいた。
放課後の全体練習が終わっても、塾やその他の大切な用事がない限り、ほぼ全部員が音楽室に残って、それぞれの楽器ごとに群れをなして固まっていた。
中学の頃は毎日のように互いの家に集まってはギターの練習をしていた安田は、音楽室の隅の方で、クラリネットの仲間と熱心に頭を付けるように話し合っている。その小さな背中からも彼の熱心な姿勢が伺えた。
音楽室に置かれたグランドピアノの陰に隠れるように練習をしていた隆平とは丁度対角線上で一番遠いところにいて、自分の気持ちがそのまま距離に表われているようで寂しい。
唯一、同じバンドを組んでいた大倉忠義が比較的近くでトロンボーンの練習をしているのが救いだと密かに思っていたが、その大倉も最近は慣れ浸しむようにトロンボーンの練習に励んでいる。もともと努力を惜しまない二人だから、それは当たり前な事でもあるが、入部にそこまで関心がなかったように思われた大倉までもがそこまで前向きに取り組んでいることに少しだけ違和感を感じていた。
先程から、楽譜を目で追うようなそぶりを見せたまま適当に指を動かしては、口元で一番吹きやすい範囲の音をただ無意識に出していた。
それは、ふぁ、ふぉ、ふぁ、ふぉ、と力の無いもので、放たれた先から消えていくほど小さな音であった。
俺はどうしたいのだろう。
隆平は漠然と、ただ漠然と今のこの状況に答えを見つけ出せないでいた。
吹奏楽部に入部したいと言い出した安田の後を追うように入部し、一員としてこうして音楽室の椅子に座っている。相棒のチューバちゃんも音が出なかったのは最初の何日かで、後は思った以上にすんなり音が出たのも嬉しかったし、こんなにも大人数で演奏する事の高揚感はそう他では味わえない。持ち前のキャラクターも功を奏したのか先輩からも後輩からも好かれていると実感している。
ただ自分自身が不安定なところがあるのも感じている。
人に接することも、楽器を操ることも器用ではない。むしろ全体的に、いろんな事が不器用である。
チューバも誉められたのは始めだけで、同級生で未経験者の部員に比べたら伸びが弱いことも指摘された。安田や大倉は誉められるのに、自分はほとんど毎日注意と課題を受け取ってばかりだ。
そこに不満があるわけではない。
不器用な分、誰よりも練習をしなくてはいけないし、見返してみせるのだという熱い気持ちを持ち続けなければいけない。でもそれは隆平にとって、とてつもない熱量のいる作業であった。めきめきと演奏技術を上げる安田と大倉に、なんといっても同級生の錦戸亮の存在は隆平の視界がくらむほどに眩しかった。
単純に憧れていた。羨ましくもあった。小さい頃からサックスを習っていたから吹きこなしているのは当たり前だし、最近知った事だが、部長や副部長とも昔から知り合いで、渋谷先輩にいたっては小さな頃から兄のように慕っていたそうだから、部内でも扱われ方は隆平と全く違っていた。
不思議とそこに妬みやひがみは全く無かった。そう思ったのも、錦戸の持ち前のスター性が痛いほどに感じられたからだろうと隆平は解釈している。
向上心はあるのに、結果が目に見えないことがこんなにも不安を煽るのだとここに来て痛いほど感じている毎日であった。
ギターの上手い安田をしり目に、ベースへ転向した時だってここまで混沌とした気持ちを味わったであろうか。隆平は当時を振り返るが、そういった気持ちに心当たりは全くなかった。
では、今はいったい何に心を蝕まれているのだろう?隆平はそうやってここ最近ずっと自問自答を繰り返しては、うわの空でいた。
「マル、なに考えてん?」
そっと肩に置かれた手から回り込むように隆平の横にぴたりと体を付けると、錦戸亮は隆平の座る椅子に、無理やり自身のスペースを作れとばかりに体をねじ込んで来た。
「なんでもないよぉ。」
突然のことで戸惑いながらも錦戸のスペースを作るようにおしりを横にずらすと、うわずった隆平を見透かすように錦戸はニヤニヤと笑った。
「嘘や、言ってみ。めっちゃボケーっとアホ面してたで。」
「べ、別に、もともとアホ面ですよぉ。」
そう言うと、錦戸とは目が合わないように体を捻ってチューバに隠れるように小さく丸まった。丸まった背中に押された錦戸は、またそれをお仕返すと、
「なんや、いっちょ前に悩みごととか?」と笑った。
隆平はどうも錦戸に攻め込まれるのが苦手だ。話し方が高圧的で、場を支配するように駒を進めてこられると、隆平は口ごもって何も言えなくなってしまう。納得した答えを求める気分屋の彼は、隆平が口ごもると更に要求をエスカレートさせて隆平を追い込みにかかる。その度に何度も涙をこらえるかたちになる。
何と答えて良いのか分からないまま口をつぐんでいると、今日の錦戸は何かを感じとったのか、ふとため息を付くように鼻を鳴らした。
「マル、一人で抱えるなよ。」
にっこりと優しくほほ笑むと、背中を痛いくらいに二度叩きながら椅子から立ち上がり、隆平の背中を撫で払うように向こうへ行ってしまった。
ズキリと胸が痛むのを感じた。その痛みの正体は隆平には分からない。それでも体の奥の方にずしりと鉛のような塊を感じていた。その塊は、気が付くと現れ、今ではいくつ存在するのかも分からない。
正体の分からない何かが喉元から込み上げてくるのを抑えるように胸をさすった。
「なに亮ちゃんと話してたん?」
今度は大倉に顔を覗きこまれてハタと頭を上げると、自分の顔が高揚したように赤らんでいる事に気付いて、チューバを担いでいない手で隠すように額の汗を拭った。
「別に、なんでもないよぉ」
咄嗟のことで上手く誤魔化せはしないし、いったい何を誤魔化したいのか分からないため、全身から汗が止まらなくなり、途端に体温が上昇するのを感じる。
「あぁ、暑いなぁー」
そうやって慌ただしく大倉の視線を避けようとしていると
「なんでそんなに泣きそうな顔してんねん。」
大倉はぼそりと言った。
そう言われたものの、だんだん記憶が薄れているのか、隆平は自分がそんな顔をしていたつもりが全くないように思えはじめていた。
今はもう自分の部屋で椅子に座ってベースを弾いている。
しばらく引いていなかったからか左手の運指は攣りそうなくらいおぼつかず、そちらの方で情けなくて落ち込んでいるのではないのかとさえ思えてくる。
それでも、曲を奏でるのではなく、右指で弦をゆっくり弾くだけで、その低音は隆平の心を落ち着かせていた。
そうだ・・・徐々に記憶が蘇る。
珍しく眉間にしわを寄せた大倉の顔が一番に浮かんだ。何でもないと言っているのに、「なんやねん」と彼はその場を離れようとはしなかった。
大倉の左手に持ったままのトロンボーンが目に入り、なぜかは分からないけれどイラついてしまった。
「なんでもないって。」
と言い放った隆平の言葉は、本人が思っていた以上に邪気をまとい、ただ心配してくれていただけの大倉の機嫌を捻り返してしまった。
「なんやねん、ほんま腹っ立つぅ・・・。」
不機嫌になった大倉の声を聞きつけて、ちらほらと部員達がこちらを気にし始め、その異変にいち早く飛んで来たのが安田章大だった。
「なにぃ?どうしてん?二人とも。」
二人の顔を交互に何度も覗き込み、その度に「ん?」と小さくつぶやきながら優しくほほ笑みかけてくる。
「マルが一方的に不機嫌やねん。思春期ちゃう?」
黙ったままの隆平に呆れたような顔をしたまま大倉が吐き捨てる。
「そうなん?マルぅ?」
安田は、不機嫌という言葉が苦手なのか、眉をハの字にして悲しそうな顔をした。
「なんやろ?体調でも悪いんちゃう?」
人の様子を推測する言葉ひとつ取っても、安田の関西弁は___兵庫の出身だからか___少し丸く優しかった。それは彼の性格も相まっての事かもしれないが、大倉のようにあからさまに人の心を煽るような様子は微塵もなく、全力で隆平の事を気にかけてくれていた。
「エエわ、もう章ちゃんもそんな奴ほっとき。」
そう吐き捨てると、かったるそうに首を左右に捻ってぐるりと一周まわすと、同じトロンボーンのメンバーに、もう今日は終わりにするというような言葉をかけて楽器をしまいに行ってしまった。
そうやって何かに関心がなくなった大倉は、なんとなく無味無臭な気がした。
この短時間で一生懸命考えたところで、隆平は自分がいったいどう接すればよかったのか、少しも答えは見つからない。
姿はすっかり消えてしまったのに、まだそこに大倉の後ろ姿の残像が残っているような気がして、隆平は目を逸らすことが出来ないままでいた。
大倉はいつも物事の確信を突いた話し方をし、言葉選びが指摘に近い。さらに目の奥を覗き込むように真っ直ぐ見つめて相手を放さない。それは常に彼が現実を見据えて過ごしているからなのだろうけれど、少しくらいはファンタスティックに生きたい隆平には飲み込みにくく、受け止めにくいモノ事が多くあった。
隆平が頭に浮かんだ事を語ったところで、大倉が納得してくれることがあるだろうか?
いや、今はそんなファンタスティックな事も言えないくらい気が伏せっているのに変わりはない。でも、楽器がうまく吹けなくて、人と比較して僻んでいましたと素直に言えるわけもない。「なんでもない。」が今の精一杯なのだと分かってもらいたかった。
「じゃあ、もう遅いし終わりにしよう。」
いつの間にか「なんでもない。」と声に出していたのか、下げていた視線の先に自分を見つめる安田がくっきりと浮かんだ。
関係ないけれど、渋谷先輩と同じくらい小柄な安田が妙に可愛く見えてきて抱きしめたくなった。
それが今の状況と少しも重なりはしないのに違和感すら湧かない自分に可笑しくなってしまった。
「ほら、マルもチューバしまって。」
自分もクラリネットをしまうからという仕草をして安田がその場を去った。他の部員も潮時かと思わせるようにパラパラと持ち場を離れる。
最後にその場に残った者と、顧問からの挨拶を受け、放課後の練習は終わった。大倉は先に帰ったのか、もうその場に姿はなかった。
帰り道はひとりで、その時なにを考えていたかは覚えていない。
夕食もちゃんとは食べきれなかった。
何でこんなにモヤモヤとした気持ちを胸に抱いているかは分かっている。
それでも、向き合うために何をしたら良いのかはいまいち分からない。
退部しようか?その考えはいつも頭の片隅にはある。現に、何人かは家の事情や勉強のことで部を辞めている。でも、未だかつて「楽器がうまく吹けません。」という理由で辞めた人はいるのだろうか?
そもそも安田は何であんなに吹きこなすことが出来るのだろう。もともと器用なのに、さらに真面目な性格が隆平を劣等感の渦へ突き落とす。
その上大倉も、持ち前のリズム感を武器にトロンボーンを情緒豊かに吹きこなしていて、聴かせる音が心地よいと顧問から褒められていた。
無意識に二人と比べてしまう。そして、錦戸とはあられもない距離を感じてしまう。
「はぁ・・・あ」
吐き出したため息は本人に似て頼りない。幸せが逃げると誰かが言っていた事を思い出して慌てて空気を吸い込むが、思いっきり吸い込んだ途端に器官につまってむせ返してしまった。
その時、カバンの奥からブブブ・・・と小さな揺れを感じた。入れっぱなしにしていた携帯電話の揺れだと分かったが、何かの通告におびえるように隆平はそれを手にすることが出来なかった。
むせた喉元に手を当てたまま呼吸を整え、じっとか細いバイブの音に意識を集中する。
着信だ。
隆平の胸の扉を叩く用に長い間、ブブブ、ブブブ、と揺れは続いた。
誰だろう。
つと立ち上がってカバンに手を伸ばした時、その着信は切れた。
カバンに手をかけたまま、ほっと胸を撫で下ろした自分がいた。今は誰かと話したい気分ではない。そう思って安堵のため息を付くと、またブブブと携帯電話が震えた。
いったい誰だろう?
好奇心が顔を覗かせたのに、手元はいまだ躊躇ったままカバンのふちに掛けられている。
今度の着信も長い。おのずと安田か大倉だろうと考えていたけれど、実は全くの関係のない人からの着信で、あなたの力が必要なのです的な事を言われるのかもしれないと考えが浮かび、その瞬間には手をバックの中に突っ込んで隆平は携帯電話をまさぐっていた。
携帯電話を掴んだと同時にまた着信が途絶えてしまった。
液晶画面には、メール三件と着信三件と表示されていた。気が付かなかっただけで、どうやら三回も呼び出されていたようで、着信主を突き止めようと画面のロックを解除する。
すると掌の上でまたもブブブと電話が小刻みに震え、液晶画面に浮かぶ名前を見て思わずぎょっとしてしまった。
瞬間に思ったことは「出たくないな。」という気持ち。その思いに反するように着信のロックを指でスワイプすると、電話を耳元にあて「はい、もしもし」と余所行きの声を出していた。
「なにしとんねん!何回電話かけさす気やボケコラ。」
チンピラとしか思えない口調で捲し立てる村上信五は、電話越しでも人を切り裂く殺傷能力のもち主であると思った。
隆平は、何となく胸元を切り裂かれたような気がして声を返すことが出来なかった。
村上も、自然とそんな様子を汲んでかそれ以降一言も声を発していない。電話越しに小さく鼻をすすりあげる音が一度したきり、沈黙が続いていた。
何か話さなければと思ったのと同時に「あの、」と頼りなく声を出す。
「あん?」
聞き漏らすまいとすかさず返事が返って来る。
「あの・・・その、僕」
何と話したら良いのか試案している言葉は宙に浮かんで蜃気楼のように消えていく。
ゆらゆらと視界も大きく揺れ、何だか夢を見ているのかもしれない、そんな風にも考えていた。
「えっと・・・」
「うん?」
ええっと・・・何の話をしていたのだっけ?頭の中は空っぽで、なんにも浮かんでいなかった。
「おいマル。」
「はぁい。」
ハッとして返した返事は間の抜けた物になってしまった。あぁ、申し訳ない申し訳ない、と謝罪をくりかえしていると、
「俺はまだ、何にも話しかけてへんで。」
なぁんにも、そこを強調するように村上はぴしゃりと言い放った。
「あぁ・・・。」
そっか、いきなり怒鳴られたから気持ちが早ってしまった。お腹の下の方にまた、ずしりと小さな嫌な気持ちを感じる。
「で、どうしたん?」
そう村上に問われても理解する事が出来なかった。
「何か、悩んでる風やったから。」
その言葉にピクリと反応する自分がいた。
「お前がシュンとしてると、ほら、あれや・・・辛気臭くなんねん。梅雨なのに、さらにジトジトしやがって。」
隆平を気にかけてくれている事がよく伝わる、ただ、どうも華のないたとえが気になってしまい、さらに気持ちが耽るのを感じてしまった。
電話越しの相手に聴こえないように小さなため息を吐き、なんと言おうか言葉を選ぶ。
きっと自分の事だから、先程の驚いた反応も相手には伝わっているだろう。
これ以上デリケートな範囲にズカズカと踏み込まれてはたまったものではない。
「なんかあったら、胸にしまっておかんと俺に言えよ!」
電話をかけて来た方が沈黙の気まずさに雰囲気を一触しようとしている。もうこのまま村上の言うことに「はい」とだけ曖昧な返事をして電話を終わらせてしまおうと隆平は考えた。
「そうですね、ありがとうございます。」
これからも宜しくお願いします。と続けようとした時、声にかぶせるように
「もしかして、俺か?」
突然声の抑揚がぎゅいんと跳ね上がった。神妙な質問ではなく、早押し問題の答えが分かった時の押し付け方である。
「俺関係か?」
なおも捲し立てるように発する声は何だか場違いに楽しそうである。この人は意外と天然なのかもしれない。
「いや、違いますよ。」
隆平はいたってまじめに答える。
「えっ?」
「先輩のせいじゃないです。」
「なんや!じゃあ、誰のせいやっちゅうねん!」
「誰のせいでもありませんって。」
「なんやアホンだら~だったらもっとシャキッとせい!シャキッと!こちとら心配しとんのや、大事な時期に。」
はて、大事な時期とはいったい何のことだろう?
「おっしゃ、なら明日は大丈夫やな?大倉ともちゃんと話しておけよ。」
大倉と?そっか、大倉。あいつ怒ったかなぁ。
「あのぉ、先輩。ひとつだけいいですか?」
耳元に「チッ」という短く鋭い舌打ちが聴こえた。
「なんやねん?」
意図して隆平は人をイラつかせてしまう時がしばしばある。いまの状況は、電話越しだったこともあって、何の気なしに話題を振ってしまった。今思うと、相手は話を切り上げようとしたわけで、舌打ちがチクリと胸に刺さったのが分かった。
「なんやねんって?」
初めに戻った、またチンピラだ。きっと足を地面にトントンとたたいていることであろう。隆平はなるべくシンプルに、手短に浮かんだことを伝えた。
「どうしたらもっと楽器、上手くなりますかねぇ?」
懸命な、それでいて懇願する思いだった。もしかしたら呆れられたかもしれない。
電話越しでも伝わってくる村上からのイライラが突然途切れてしまった。場違いな質問だったかもしれない。そう思うと、どうしようもなく情けなくなった。穴があったら入りたいという言葉がはまるこの状況に額から汗が顎の先まで流れた。
「いや、練習します!でも、」
どう練習したら分からない。それはベースも同じだった。分からなかったけれど、安田と大倉と三人で演奏するのが楽しかったなと脳裏をよぎり、泣きたくなったしまった。
「練習や!」
「え?」
「気合入れて練習や!それしかないねん。」
それは、自分にいいきかせるような言い方で、隆平の背中を優しくなでるように心に響いた。
「それしかないねんけど、それが辛いねん。成果は目に見えへんし。よっしゃ、なら俺が明日からビシビシいったるわ!おぉ。」
隆平が返事をしていないにも関わらず、村上は納得したとばかりにうんうんと頷いていた。
「いや、あのぉ・・・」
「なに?どないやねん?いや、ちょ。聞こえてるってオカン!わーってるわワシ。」
ワシ、とは村上のことなのだろう、電話越しに遠くからヤンヤと母親らしき人の声が聴こえる。
「おぉ、じゃあオッケーな?ほんなら今日は早よねぇよ?んじゃ。」
そう一方的に告げるとブチリと電話は切れてしまった。
何て強引な人なんだろう。一方的に首根っこを掴まれて引っ張られ、お説教のような小言を聞かされ、終わりや!散れ!と外に放り投げられたような気持である。
人に壁をこしらえてしまう隆平の防壁を、言葉一つで乗り越えてくる村上との会話の終わり、ふとカラスのようなイメージが浮かんだ。
とても口うるさい利口なカラスだ。
続く。