妄想吹奏楽部 (連載その6) | 好きなコードはEadd9

好きなコードはEadd9

錦戸亮
SixTONES
Snow Man(岩本照)
好きなモノいろいろ
そして7人→6人の関ジャニ∞の記録

妄想吹奏楽部の続きです。

 

 
 
お次は安田さんがメインのお話。
 
 

 

前回までのお話。

 

妄想吹奏楽部 (連載その1)

妄想吹奏楽部 (連載その2)

妄想吹奏楽部 (連載その3)

妄想吹奏楽部 (連載その4)

妄想吹奏楽部 (連載その5)

 

 

 

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

 

 

 

 

 

 

 

では、

続きです。

 

 

 

 

 

 

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

 

 

 絆奏

 

 

 

 自分は平均でいう所の小柄で、華奢だと言われる。顔が少し大きいから___入部したてのころ「顔が将棋の大将みたいだ。」と比喩されたことがある。

 手は比較的男らしいかもしれない。安田章大は胸の前に広げた両手の甲をしばらく眺め、掌へ旋回すると、親指の腹で他の4本の腹を小指から人差し指へ触れ、何度か往復すると、今度は確かめるように擦り合わせた。

 ギターを四六時中弾いていた時は、胼胝のような硬質化されたモノが左指の腹の少し上の方に出来ていた。皮が向けて痛い時もあったけれど、それを繰り返すと、弦を抑える指が強くなり、そんなことは自然と気にならなくなった。人間の体の回復能力と保護機能に感動を覚えたものだった。

 今は右手の親指、クラリネットを支える部分が赤くなっていた。

 始めたばかりの頃は、皮が向けたように赤く薄くなっていて、ヒリヒリと痛んだものだ。サックスのストラップがクラリネット用もあると誰かから聞いたけれど、この痛みが練習の結果だと思うとそんなことは全く気にならなくなり、それよりも唇の痛みの方がしんどかった。

 「おはようございます。」

 「おはよう。」

 朝練の時間にぞくぞくと部員が集まっていて、みんなが自分に向けて挨拶をしてくれる。

 この学校はスポーツの強い部活が多く、章大が来るころには練習を始めている部活もあるため、駐在している警備さんの朝も早い。一年生の頃から朝練に一番に来ていた章大がその警備さんと仲良くなるのも早く、音楽室のカギを任されるようになったのも自然な事だった。

 そもそも準備や支度が人一倍遅いから早く来ているだけであって、同じクラリネットの一年生___とくにれいちょるは、章大とほぼ同じ時間に登校する___には申し訳ない気持ちもあった。

 「安田先輩に少しでも近づきたいだけです!」

真剣にまっすぐそういわれて嬉しかった。もちろん恋愛禁止の部活でそういった意味はないが、言った本人が慌てふためいて訂正した時、章大にはとんと解釈が出来なかった。

 膝に置いていたクラリネットに取り換えたばかりのリードを付けたマイスピースをはめ、静かに吹く。

 ふぉーーーーーーふぉーーーーーふぉーーーーー

 その新しい音に章大は驚いたし,うれしくなった。

 一年生の時はまだ吹くことに精一杯で音色に意識をすることはなかった。ずっと薄くて軽い番号のリードを使っていたが、先日お店で色々と試させてもらった結果、ひとつ上の番号のリードが自分の好みにあっていて初めてそれを2箱だけ買った。

 少し厚みも増え、先端の勾配もややきつめになった。リードの種類を変えただけで吹き方に力がいるようになったけれど、音の明瞭さが今までとは比べ物にならないくらいになったと感じると、章大は幸せな気分でいっぱいになった。

 新しく買ったリードは二十本。その中から試し吹きをして、しっくりくるモノとそうでないモノ、そうでなくても練習に勤しむモノとにグループに分ける。同じ箱の同じリードでも癖はそれぞれで、吹き鳴らして変化させていくのを楽しむのも木管楽器の神髄かもしれんと錦戸亮が言っていた。そんな彼は、あれこれ物事にはっきりと白黒をつける人なのに、開けたばかりのリードの箱の中に少し欠けたやつ___そうそうは入っていないが___をみつけると、捨てずに財布の中に閉まっておくそうだ。

 「作ってくれた人の気持ちは無下にできん!」

 そう言って彼は笑っていた。

 章大ももし欠けたモノに出会ったら、と新しいリードの箱を開ける度に緊張をしているが、今のところそういったモノには出会っていない。

 「章ちゃんおはよう。」

 章大は反射的に「おはよう。」と返すと、目をしばたかせながら大きな欠伸をし、頭をもたげている大倉が立っていた。

 「今トロンボーン持ったら、絶対に落とす。」

彼はそう言って、章大の足元の床にすとんと項垂れるように座った。

 「大倉っ、起きろー、大倉っ!」

 「ああ!もう、マルほんまにうるさい!」

 右手でチューバを抱えながら、左手で大倉の肩を抱くようにべったりとしがみ付くと、体をゆさゆさと左右に揺らした。項垂れた大倉の頭が鐘のようにグラグラ揺れる。

 「やめて、気持ち悪くなるやん。」

 大倉は軽く嗚咽を吐くと、右手で丸山の頬をグイッと押し出し、ゆっくりと立ち上がると、トロンボーンを取りに隣の部屋にいってしまった。

 態勢を崩しそうになった丸山は慌ててチューバを守り、「あぶね、あぶね。」と楽器を撫でた。先日もマウスピースを落としそうになって「セーーーフ」なんてニヤニヤしたものだから村上先輩から逆鱗をくらっていた。楽器はとても繊細で、芸術品と呼ばれる由縁を感じる。

 そういえば、丸山と大倉は先日イヤな雰囲気になっていたのに、すっかりいつも通りになっている。すごいな・・・章大は素直にそう思った。

 あんな時、場にグイグイ踏み込めない自分がいる。もちろん完璧な人間なんていないから、誰しも不安や失望に駆られる時だってある。

 中学の頃、丸山と大倉と三人でバンドを組んでいた。

 自分はギターだから、いかに正確にしっくりくる音を他の二人にぶつけ合えるか?そうやって会話とはまた近がったコミュニケーションをしていたのであろう。

 高校になってから吹奏楽部に入りたい、と二人を困惑させたのは紛れもなく章大本人である。二人は軽音楽にいってもいいと強引な意見を伝えたが、二人は顔を見合すと「ほな吹奏楽部から見に行ってみようか?」と付いて来た。

 二人はどんな気持ちでここにいるのだろう。「朝練とか、きっつー。」と冗談のようにいつも笑っている。章大も章大で、そんな二人がそばにいるのは本当に嬉しいし、有り難いし、楽しい。

 でも、きっと二人には無理をさせているとも思っていた。そういう思いがあるからか、あんな風に二人にイヤな空気が走ると、一番に不安が胸を駆け巡る。

 自分の在り方が分からないのだ。

 三人の世界ならまだしも、ここは人が多すぎる。いたるところでバランスを取ろうとすると、必ずどこかに欠陥は生じる。

 「やっべ、村上先輩来た。」

ちょうど音楽室へ村上先輩、横山先輩、渋谷先輩が入って来たところである。

 「おはようございます。」

 章大の大きな声と同じくして、そこにいる部員は先輩へ挨拶をする。

 横にいた丸山はコソコソと隠れるように自分の席へ戻り、大倉は別の扉からトロンボーンと一緒に現れ、さも自然に自分の席に座った。

 後ろを振り返るといつのまにか錦戸亮もいて、すでにテナーサックスを抱えている。

 錦戸の隣にいた花と目が合ったので、章大はにっこりとほほ笑み右手を小さくヒラヒラ振ると、花は肩をビクつかせ、素早く手を振りかえしてくれた。

 横山先輩は音楽室の入口近くで、フルートのぴい先輩とホルンのそら@うみ先輩と話している。

 村上先輩は一目散に丸山を見つけてガハガハと朝から豪快に笑っていた。

 渋谷先輩は、座席にはおらず、校庭に向かっている窓に寄りかかって下を眺めていた。

 耳を澄ますと、どこかの部活がランニングをしているのか、掛け声が聴こえる。その掛け声は丸山が真似をしていた物だったのかと今更気が付いた。

 「何で吹部なん?」

大倉の声が蘇る。

 「うん、なんかあった?」

 となりで丸山もそういった覚えがある。

 「広い範囲での音楽とか楽器の勉強。あと、アンサンブルも。あとは、作曲の引き出しも広げたい。」

 二人に伝えた事に間違いはない。

 でも、ひとつだけ言っていなかった入部の理由がある。それが渋谷すばるという存在だ。

 去年の部活紹介で、渋谷先輩のフルートはその場の雑音を払拭させるほどの征圧する力を持っていて、それはそれは気持ちが晴れ上がるほどに眩しく清らかなものだった。

 一目ぼれ。そう単純に言ってしまうのはどうも勿体ないが、分かりやすくいうとそういうことで、自分もこんな風に人の心をいい意味で不安にさせたい。渋谷すばるという人物に恐怖をおぼえ、その恐怖の底はどんなものなのだろうともっと知りたくなったのだ。

 その人物はもうすぐソロのコンクールに出場するため、今は大切な時期であった。

 週に何度か学校が終わると、昔からお世話になっている先生のもとへ向かうそうで、音楽室には顔をあまり出さない。

 朝練も免除されているであろうに、渋谷先輩は必ずやってきて後輩の指導にあたる。

 不思議な事にフルートパートはぴい先輩に任せて、他の楽器へ回って言葉少なにアドバイスをくれる。リードのはめる位置や、その人の癖を瞬時に指摘したり、スコア上に音の濃淡や抑揚の置き所を語ってくれる。

 たまに無意識で、座っている女子部員の頭をポンと優しく叩く。本人は「頑張りや。」くらいにしか思っていないだろうに、された方の気持ちなど関係ないようだ。

 章大はまた自分の右手を広げて、握ったり広げたりをした。

そういえば、ちょっと前に僕の掌を見て「味のある手やね。」と言って、右手の親指の赤くなったところを労わるように見つめていた。

 何かを思い出したのか、苦悩するに一点を見つめたまま視点の合わない渋谷のその瞳を、章大は忘れるとこが出来なかった。

 

 

 

 

 

つづく。