妄想吹奏楽部 (連載その10)第2章 | 好きなコードはEadd9

好きなコードはEadd9

錦戸亮
スノストトラジャ7ORDER
デビューしてからの彼ら皆通りました
(今はストトラ)
そして
7人→6人の関ジャニ∞の記録

まずはおわびを。。。。

 

 

 

 

大変間があいてしまいました。

本当に申し訳ありません。

 

 

 

第2シーズンに突入した、

妄想吹奏楽部の続きです。

 

すばるの事があって。

今読むと逆にリアリティがあるかもしれません。。。

 
 
 
 

 

前回までのお話。

 

妄想吹奏楽部 (連載その1)

妄想吹奏楽部 (連載その2)

妄想吹奏楽部 (連載その3)

妄想吹奏楽部 (連載その4)

妄想吹奏楽部 (連載その5)

妄想吹奏楽部 (連載その6)

妄想吹奏楽部 (連載その7)

妄想吹奏楽部 (連載その8)

妄想吹奏楽部(連載その9)第2章

 

 

 

 

 

 

こちらがその「まとめサイト」です。

 

 

 

 

 

 

 

では、

続きです。

 

 

 

 

 

 

花であれ

 

 

 「みちみっちゃん、これで全部?最後?」

 「そうですね、大丈夫です。」

 最後に運んだティンパニンの横で忠義は、腕を大きく天井に上げて伸びをした。

 「あぁ、腰痛い。」

 腰をトントンと叩きながら身体大きく回した。その横でパーカッションパート一年生のミチが指さし確認で楽器の数をチェックしていた。

 「ありがとうございます大倉先輩、本当に助かりました。」

 楽器が全て揃ったのを確認してミチは深く頭を下げた。

 みちみっちゃん、最初こそ「からかうの止めてください。」などと言っていたのに、ミチはもう何も突っ込まずに受け入れて___受け流して?___いて、言った本人である忠義が照れるという何とも変な構図が出来上がっていた。

 ここは音楽室のすぐ上の屋上にあるこじんまりとした剣道場で、その隅にある倉庫を吹部が使っていた。音楽室には置きっぱなしに出来ない大きめの楽器をしまっていて、おもにパーカッションの楽器が納められていた。

 いつもは一年生が片づけることになっているのだが、今日はコンクール終わりの夏休み最後の週に突然決まった練習の日だったものだから、人手が足りずに忠義が楽器運びをしたのである。

 「重かったぁ、ティンパニン。」

 「ありがとうございます、本当に助かりました。」

 ミチは忠義に再度深々と頭を下げると、剣道部の邪魔になるからと、隅を歩くようにと撤収する他の者に促した。

 「剣道着姿の女子っていいよねぇ。」

 もう遅い時間だからか、外の暗さに反して妙に明るい室内に忠義はテンションが上がっていた。

 反面、剣道部の特に女子は、他の部活の生徒が来ると距離を置くように遠くへ行ってしまう。

 忠義はその袴姿を近くで見たかったのにどうにも避けられているのでは?と同級生の北山とそんな話をしていたら、チャラいわりに北山は当たり前のようにこう言った。

 「汗臭いからイヤなんでしょ。俺らサッカー部もマネージャー以外には近づきたくないし。」

 なるほど。何となく遠くにいてコソコソしている剣道部の女生徒を遠くに眺めながら、忠義はぼんやりその事を思い出していた。

 肩をミチに叩かれて振り向くと、ぼんやりしたままの顔だったからかミチはニッコリと笑い、「撤収しましょう先輩。」と言って、忠義の肩をグッと握った。

 音楽室に戻ると、夏休み中だからかいつもの下校の雰囲気とは違うものを忠義は感じた。

 練習がないはずだったからどこか緊張感がないようにも思える。でも、それが気にならないくらいにみんなが楽しそうに笑い合っていて、あのコンクールの日を想うと忠義も口元がふわりとほぐれるのを感じた。

 思えばこの夏休みも毎日のようにここに来てコンクールに向けて音を出し続けた。その成果は先週のコンクールで銀賞という形で終わり、それは思っていた以上にあっけのないもので、忠義にはもうだいぶ昔の話のように思えてならなかった。

 空虚なこの気持ちの原因はいまいちよくは分からなかったけれど、今日の朝早い時間に安田から「練習したいと思ってるんだけれど、一緒に来てくれへん?」と言われた時「イイで、どこに?」と答えた自分が、内心で喜んでいた事が全ての答えであるように思う。

 制服姿で学校の校門で待ち合わせた安田は、当たり前にギターは持っておらず、仲の良い守衛さんにことの事情をとつとつと説明していた。

 コンサートのことや定期演奏会への課題のこと、安田は忠義が思っていた以上に淡々と話をした。本人は「自分一人では説得出来へんかもしれんから。」と笑っていたが、安田の芯は見た目のイメージよりも太くしっかりしていて、普段の練習姿勢からもそれを忠義は感じていた。反面、音楽室の使用許可が下りると女子のように飛び跳ね、日ごろ活用している連絡網に連絡を流せばイイものの、全部員に電話をかけるのを手伝うように言われて忠義は笑った。

 「ヤス、喜び過ぎ。」

 「だって、嬉しいんだもーん、俺楽器持ってへんし。」

 安田は音楽室のカギを右手の人差し指にはめて、にこやかに身体ごとくるっと回った。

 吹奏楽の経験がないものは音楽室に寄付で集まった楽器を使っている。忠義ももちろんその一人で、この先もまさか買ってもらおうとは思っていない。ただ、こういった局面になった時、自由に使える楽器がないことに少し寂しさを覚えた。

 ミチや他の一年生と一緒に一階へ降りると、その姿を見つけて☆peace☆先輩が声をかけて来た。

 「今日、この後集まって花火しようって話になってるけれど、みんなは来る?」

 ところどころに行きたーい、などの声が上がり色めくようにその場が明るくなった。

 「大倉先輩も来ますか?」

 近くにいた後輩に声をかけられそちらに首をむけると、声をかけた後輩は目線をきょろきょろとさせ、心なしか顔を赤くしていた。こういう健気な女子を見ると忠義は嬉しくなり自然と顔をほころばせた。その声をかけた女子を両側から支えるように挟んでいた女子の一人がその忠義の笑顔を見て「きゃあ」と小さく声をあげ、忠義は「なんやねん。」とその後輩をからかうように渾身の笑顔を向けた。

 「暇やし、メシ食ったら行こうかな。」

 忠義がそう告げると、三人の後輩は嬉しそうに喜び、少し離れた場所でその様子をうかがっていた者も、コソコソと肩を叩きあって喜んでいた。

 案外こうして女子の心を掴むのはまんざら悪くないと忠義は密かに思っていた。トロンボーンを吹く時に少し体が傾いてしまう癖があり、3年生の先輩に笑われてしまったが、あえてそのままでいると結構気にかけてくれる目線があるという事に気が付いてからは、何かと人が何を求めているのか一人の男として考えるようになっていた。

 丸山から「また女子ばかり見て。」とからかわれるが、意外とそれは嘘ではない。

 ありがたい事に顔は悪くないと思っている、ただ現時点でどうにも収まらない思春期の食欲が、体重の肥大と慢性的な疲労を誘発している事に間違いはない。今も少し眠いし、晩御飯にカレーライスと天丼を食べたいと強く思っている。正直デブにはなりたくない。でも、きっとこの食欲も20,30と歳を重ねれば減っていくのだろうと思うと、今食べない訳にはいかないとついつい思ってしまう。

 「おおくらー。」

 次に忠義を呼んだのは錦戸亮であった。

 「なに、亮ちゃん。」

 「音楽室の鍵とかって任せてエエ?」

 「あぁ、ヤスが持ってんちゃう?帰るの?」

 「うん、ちょっと用事あんねん。今、ぴい先輩には先に帰る事伝えたから。」

 「ok了解。今日の花火は来ない?」

 「あぁ、ちょっとむずいかな。」

 錦戸は大倉から視線を外すと、眉をハの字にして困ったように笑った。

 「うん、分かった。もし来れるようなら連絡して。」

 「うん、そうする。」

 錦戸はそう言って片手を上げると、軽やかに校舎を出て行った。

 部活終わりにはこの下駄箱脇の校舎出入り口付近で最後の会をして解散するのが流れで、今も今日集まったメンバーはこの場所にいるのだが、安田と丸山の姿が見えなかった。

 今日は急な集まりだったからか、部長も副部長も来ておらず、フルートのぴい先輩と国分先生の挨拶で終わった。

 「明日以降も音楽室は開けるけれど、強制ではないから、みんなは宿題を優先するように。あと、今夜花火するみたいだけれど、くれぐれもケガのないようにと、遅くならないように、これは守ってください。はい、では解散。お疲れ様でした。」

 「ありがとうございましたー。」

 そこにいるメンバーが頭を下げ大きな声で挨拶をし、そのまま自然と輪が崩れるようにまちまちに散らばっていった。

 忠義は、校舎から出て行こうとする流れに逆らうように校庭の方へ進んだ。一度校庭に下りて校舎に沿って歩き、途中左に曲がって中庭のような小さなスペースに出ると、その右手側には雨除けのヘリが出っ張った場所に自動販売機が2台並んでいて、その近くの段差に安田と丸山とそら@うみ先輩と花、そして一年生が数人見えた。

 忠義はその輪に入って行こうか一瞬迷ってしまった。なぜなら一年生が泣いているようだったからである。どんな理由であれそういった、人には見られたくない場面に後から踏み込んで良いものかと悩んでいると、後ろからぴいとミチが現れ、立ちつくしていた忠義に並ぶと、ぴいは忠義に微笑みかけてその先へ行ってしまった。ミチもその後を追うと、その二人が見えたのか顔を上げた安田はその後ろにいた忠義にも気が付つき、手を上げこちらに走り寄ってきてくれた。

 「どうしてん?なんかあった?」

 「うん、なんかな。」

 安田は言葉を探すように後方を眺め、思い出したように忠義の顔を見つめ返し、手元に目線を落とした。

 「一年生の子ね、コンクールでミスしちゃったみたいでね、それをずっと気にしてたみたい。」

 「そんなん、みんな完璧じゃなかったで。」

 「うん、せやけど、とん娘ちゃんなんかは、ほら本当に初心者で頑張ってたんやけれど、緊張しちゃったみたいで。」

 安田が名前を上げたとん娘とは、元陸上部からの入部で、村上先輩にしごかれながらホルンを一生懸命練習していた女の子であった。

 忠義がちらりと様子を伺うと、泣くのをこらえるように眉根に力を入れて三年生と何かを話している。そうやってただ泣くだけの子ではないと誰もが知るほど根性のある子であった。その子は今、目を真っ赤にして何を思っているのだろう。

 「今日、部長とか副部長にも謝ろうと思ってたんやって。でも来なかったやん。なんか思い詰めちゃったみたい。」

 「そんなん・・・何てことないとは言い切れんかぁ。」

 忠義は去年、訳も分からないまま練習について行くのが必死だった自分を思い出した。

 音のミスはしょっちゅうで、これだけの人数がいればバレないだろうと高をくくっていた時もあったが、その少しの音の違いは、ひとつ切れた電球だけでネオンサインをダメにしてしまうような違和感を醸していた。ハーモニーとは、音の呼応とは。50人近いメンバーで合奏をするという神髄をこの一年、忠義は色々な角度から思考した。

 本番は一回きり。その一回に今までの全てをつぎ込むエネルギーと、その現場の空気に押しつぶされないだけの力を、今年から楽器を始めた者に求める方が辛いように忠義は思う。むしろ、そんなに責任など感じなくても良いとさえ思う。でも不思議な事に、青春とはそういうものなのだ。忠義もまた、今しか求められない何かと戦っている。

 「銀賞はぁ、やっぱり悔しいよね。」

 安田はぽつりとそう呟いた。表情は今にも泣き出しそうな悲しい顔をしていた。

 「そやね、俺も悔しいわ。」

 安田の顔を見ないように肩にそっと手をかけると、少し先に集まっている吹奏楽のメンバーを眺めた。

 丸山は顔を赤らめながら、必死で何かを伝えていて、時折り宥めるようにそこにいる一年生のさくらの頭を優しく撫でていた。ああいうことを自然にやってしまう丸山の行為は、注意をしなければなぁと忠義はぼんやりと思う、恋愛禁止という意味をあいつは分かってない。

 そんなメンバーにどう歩み寄ろうか考えていると、隣にいた安田が声をあげた。

 「あ、相葉くん。」

 「あれ、ヤス!に大倉?」

 声をかけられて振り向くと、所々泥の付いた野球部のユニフォームを着た相葉雅紀が立っていた。

 「こんなところで何してんの?」

 「相葉くんこそ何してん?」

 忠義が問いかけると、彼は笑顔で手元の財布を持ち上げた。

 「ジュースじゃんけんしたら負けちった。」

 パシリをしているはずなのに、相葉の笑顔は屈託のないほど清々しく、じゃんけんに負けた悔しさは一切感じられなかった。野球部ではあるが坊主頭ではなく、短く切られた髪はツンツンと跳ね、少年のような印象を与えた。

 「あぁ、取り込み中?」

 自動販売機の近くに集まる吹奏楽部のメンバーを指して相葉は忠義に問いかけた。

 「いや、もう大丈夫ちゃうかな。」

 無責任なもの言いにならないように注意してそう告げたが、想像以上に状況を感じとった相葉は、

 「銀賞、残念だったね。そういう俺らも地区予選で終わってるけれど・・・」

 そう言葉に強弱を付けないように語った。

 「でも、野球部は決勝まで進んだやん?」

 突然安田が話しかけると、また相葉はニッコリと笑顔を作ってこちらに顔を向けた。

 「結局負けちゃったんだから同じだよ。他の運動系の部は、けっこう全国行ってるんだけどねぇ・・・。」

相葉ははにかむように笑った。

 「花とさ、甲子園に絶対行くって約束しちゃっててさぁ、やっべーな。」

 そういうと、少し先で後輩の背中を撫でる花を眺めた。そういえばその二人が幼馴染だと安田から聞いた事をぼんやり思い出した。サックスを始めたきっかけがなんちゃらかんちゃら、と語っていたようないなかったような。

 「にしても、俺らと違って点数で勝敗が決まらない競技って本当に難しいよね。」

 「甲乙が付けづらいってこと?」

 「いや、それもあるけれど、早い遅い、点数が多い少ない、なら見てる人にも分かりやすいよ、ぶっちゃけ。でもさ、大倉達みたいな音楽って、まぁ基準はあるけれど、響く人には響くでしょ?それに順位を付けるって何か酷だなって思って。」

 忠義は相葉のその真っ直ぐな瞳に少し心が揺れるのを感じた。コンクールコンクールと聞かせる事に時間をかけて、自分たちは音を楽しんでいたのであろうか?

 「新入生歓迎会の時、あれ、何演奏してたの?」

 相葉はクリっとした瞳を子供の様に輝かせながら尋ねた。

 「アルヴァマー序曲」

 相葉からの突然の質問に反応できなかった忠義に代わって安田がタイミングよく答えた。

 「アルヴァマー?あの、ちゃちゃちゃちゃーちゃーららららーらったらーってやつ?あれ凄くイイって思ったよ。」

 「俺も好きです。」

 「ね、イイよね。」

 相葉と安田は向かい合ってニコニコ笑っている。同じ学年なのに安田は敬語になっているし、相葉の音感はなにかの擬音のようで何だか面白い。

 「あとあれは?フルートの人が吹いてたやつ。」

 「あれは、カルメン幻想曲!」

 「カルメン?それ、何か妖艶ですんげー興奮した。」

 「3年の渋谷先輩が吹いてました。」

 「知ってるその人!花が話してた。」

 「相葉くんも妖艶って思うぅ?俺もめっちゃゾクゾクするんす。」

 「ゾクゾクしちゃった、しちゃったぁ、あははははー。」

 そうやって二人が盛り上がっていたからか、うずくまって固まっていた吹奏楽部のメンバーが立ち上がり出した。その中でも花だけがこちらを伺うように先に近づいて来ていた。

 「マサ・・・キ、君こんなところでどうしたの?」

 花は相葉の事を名前で呼んでいた。やはり幼馴染という記憶は間違っていなかったようだ。ただ、花は安田を少し気にしているように見えたので、忠義はその複雑な関係にニヤリと笑ってしまった。

 「俺、ジュースじゃんけんで負けちゃったの。」

 その場を明るくしようとしてなのか、相葉はその後も「まいっちゃうねぇー」と笑った。

 「今週は練習ないって言ってたけれど、やっぱりやってるんだね、なんかホッとした。」

 相葉と花が話をするのだろうと察した三年生の先輩は一年生を連れて先に玄関の方に行ってるねとジェスチャーで伝えると、何かを含むようにその場を去っていった。

 狭いスペースに相葉と同じ位置に立っていた忠義と安田は、撤退するタイミングを逃し、なぜか安田の近くにとどまったまま立ち去ろうとしない丸山だけは空気を読まずににこにこと相葉と花を見つめていた。

 このまま変な空気になる前に立ち去ろうと忠義が思った時、相葉が声を上げた。

 「あのさ、今思いついたんだけれど。吹奏楽部にお願いしたいことがある。」

 「え、なに?」

 きっと一番気まずい思いをしていた花は、突然の相葉の言葉に救われつつも、動揺を隠せなかったのかその声はうわずっていた。

 「あのさ、今年の三送会でオモイダマって曲を演奏してくれない?」

 「オモイダマ?」

 変なタイトルだと忠義は思った。

 「あ、今年の甲子園のテーマ曲や!」

 「あ、マル知ってる?」

 丸山と同じテンションで弾けるように話す相葉は、丸山と楽しそうに笑い合っている。

 「知ってる知ってる、関ジャニ∞の曲でしょ?」

 関ジャニ∞、それはとあるアイドルグループで、ジャニーズの割にコントみたいなことしている変なグループだという認識が忠義の中であった。

 「あの曲、すっごくイイんだ。何かメンバーの人もトランペットやってて、ブラスバンドっぽくなってるの!あれ聞くと今年の夏を思い出すなぁって気がして。」

 相葉は決勝の戦いを思い出しているのか、少し先の地面を見つめたままぼんやりしていた。

 「オモイダマかぁ、悪くないと思う!うん、提案してみる!ありがとう相葉くん!」

 どうやら安田もその曲を知っているようで、頭の中でメロディーが流れているのか、何かを思案したような顔をしていた。

 「めっちゃ楽しみ。」

 まだやるとは決まっていないのに、また相葉と安田はニコニコと笑い合っていて、それを見て丸山も一緒に嬉しそうに笑っていた。

 花だけは何だか困ったような顔をして笑っていたため、忠義はその顔をまじまじと観察してしまい、それに気が付いた花は、おどおどと複雑な顔をして笑っていた。

 相葉は、おっとりと柔らかい話し方そのままに、スマートな顔立ちをしていた。身長も忠義や丸山とさほど変わらず、野球部という割に線の細い身体つきはモデルのようだなと思った。

 そんな相葉と幼馴染の花の間には、きっとなにかしらある事だろう。相葉は変わらず花に笑顔で話しかけている。

 「いけね、早く買っていかなきゃ。」

 相葉は、奥にある自動販売機を指して照れるように笑った。

 「そうだよ、俺たちも早く花火買いに行かなあかんし。」

 丸山は楽しそうにそう言うと、急き立てるように体をバタつかせた。そうか、花火の発端はこいつかと忠義は丸山を軽く睨み、目が合った丸山はおどけていた仕草を止め、女の子のようにアゴを引くと、忠義をなめるように見つめ返した。

 「なに?吹部は花火するんだ?花も行くの?」

 「うん。」

 忠義には相葉はいたって自然なように見えた。幼馴染というだけで勝手にイイように解釈していたが、会話に歯切れが無いのは花の方だけで、もしや一方通行だったりするのだろうか?忠義は二人の顔をそれぞれ観察し、思考した。

 乙女心を天然極まりない振る舞いで大きく揺らしているのなら、相葉は罪な男である。

 「そっかー、借りっぱなしの本を返さなきゃって今考えてて・・・。でも、また今度にするわ。家まで持って行くね。」

 相葉はそう花に告げると、じゃあ!と手の平を広げて挨拶をすると、軽くランニングするよう自動販売機の方へ行ってしまった。

 「おっし、俺らも早く帰ろう!」

 丸山は花火が楽しみなのか、一人ウキウキとしていた。

 忠義はこっそりと花に目をやると、胸をさすりながら小さくため息をついていた。

いっぽう、安田の方に目をやると、自動販売機でジュースを買っている相葉をぼんやり眺めていた。

 「ヤス、帰んで。」

 「おう。」

 忠義が声をかけると、顔をこちらに向けてキラキラとした目で忠義を見つめ返した。

 「なに、どうかした?」

 「いやー、相葉くんってカッコいいよなぁーと思って。」

 安田はしみじみと何かを噛みしめるようにそう言うと、振り返ってまた遠くにいる相葉を眺めた。

 「ヤスも大倉も早く~!」

 角を曲がろうとしていた丸山が大きな声をかける。花もすでにその近くで二人を待っていた。

 「はーい、今行くよー。」

 安田はそう声を張ると、名残惜しそうな顔をしたまま歩き出した。その顔が恋をしたような女の子の顔をしていて忠義は一抹の不安を覚えた。

 安田は、平均的に言うと小柄な方で、争いを嫌い誰とでも話せる人懐っこさの原点は、両親の教えを忠実に守るその素直な心から来るものだった。くわえて、お姉ちゃん子だった彼はいわゆる中性的な振る舞いをすることしばしば。無意識に出るオネエ言葉にふざけて笑いていたが、そのまさかは案外悪ふざけですまされるものではなかったのだろうか・・・。

 「ヤス。」

 気が付くと、校庭の方へ向かおうとしていた安田の肩を掴んでいた。

 「なにぃ?大倉どうしたん?」

 突然肩を掴まれて驚いたのか、相葉を見てキラキラしていた安田の瞳は通常に戻っていた。思えば、相葉と話していた口調はどこかよそ行きだったように思えてならなかった。

 「何か、人に相談できんことあったら言ってな。俺は絶対に否定せえへんから!」

 忠義は、自分でそんなことを言っておいて、何を訳の分からないことをしているのだろうかと頭が混乱した。

 もし、そうだと相談されて自分にどんなアドバイスが出来るのかと・・・。

 「どうしたん急に?」

 安田は首を傾げて忠義を見つめた。言い放ったまま口を真一文字に結んだまま動けずにいた忠義は、その安田の可愛げな顔に思わず顔が崩れ、クククと笑ってしまった。

 「何やねん大倉。分からへんけど、まぁありがとう。」

 安田はそう言うと柔らかく優しい顔をした。

 「うん。」

 忠義も一緒に優しい顔で笑うと、その顔が可笑しかったのか安田は「あはは」と声を出して笑った。

 「何やねん、人の顔見て笑うなよ!」

 「ちゃうやん、大倉が先に変な事言うからやん!」

 そうやって二人で大きな声で笑った。少し先で丸山が立ち止まって待っていたので急いで駆け寄り礼をのべると、笑顔の消えない二人の顔を盗み見るように交互に視線を向け、丸山は複雑な顔をしていた。

 「マル、待たせてごめんって。」

 「みんなで花火、買いに行こうや!」

 「あ、そっか忘れてたわ。」

 「え、大倉も来るやろ?」

 「うん、行くけど・・・カレー食べたいわ。」

 「大倉はいっつもごはんの話しか聞かん気ぃするわ、なぁマル?」

 話を振られたマルを見ると、今までの会話は聞いていなかったのか、変わらず丸山は複雑な顔をしていた。

 「どうしたんマル?体調悪いん?」

 安田が心配そうに様子を伺うと、丸山は何を思ったのかすぐ後ろにいる花のほうをチラチラと確認し、安田と忠義の肩を掴んで引き寄せると、小さな声でこういった。

 「二人、ゲイカップルみたいやで。」

 言ってやったとばかりにニヤニヤしている丸山に少しばかりイラっとしてしまった。

 「アホかマル。」

 忠義は短く丸山の言葉を切り刻んでやった。

 意味が飲み込めていないような安田は、今もまだ困惑したまま

 「それはないやろ、マル?」

 言い切りはせずに疑問口調なところに、まだ何かを飲み込めていない安田の迷いを感じた。

 悪寒が走るほどしらけてしまった忠義は、体が重くなるのを感じた。

 「あれや、イイ意味でってやつや!」

 丸山は悪びれもなく明るくそう付け足すと、今度はケラケラと笑った。

 そういえば、中学の頃もこんな風になんてことない事で笑っていた。その時の雰囲気のまま高校生活を送っていたけれど、それもあと一年なのかと忠義はぼんやり思った。

 コンクールの事に集中しすぎて未だに彼女らしい彼女も作ってないし、変わらず男とつるんでいる。

 そういえば何で渋谷先輩はコンクールに出なかったのだろう?

 「大倉、はよ行くで!」

 もう校舎を曲がろうとしていた丸山は、ひとりでぼーっとしていた忠義にそう声をかけ、変わらずニヤけていた顔を残すように角を曲がってしまった。

 安田は花と何かを話していて、もう忠義の方は見ていない。

 二人も校舎の角を曲がって見えなくなったタイミングで「大倉。」と声をかけられた。

 振り向くと相葉がこちらに向かって歩きながら、下投げで何かをほうり投げ、忠義はそれを両手で受け取った。ひんやりと冷たいそれは、紙パックのフルーツジュースであった。

 「あげる。」

 忠義の近くまで来ると、相葉は笑顔でそう言った。

 「相葉くん、ありがとう。」

 「どういたしましてー。」

 相葉はぺこりと頭だけ下げて忠義の横を通り過ぎて行ったが、角を曲がる手前で忠義に声をかけた。

 「オモイダマ、聞いてみてよね。凄くイイから。」

 重そうに持っていたエコバックを反対の手に持ち返ると、空いた手を忠義に向けてヒラヒラと振った。

 「うん、必ず聞いてみる。」

 相葉は、その返事を聞きながら校舎を曲がって行った。

 

 

 

つづく。