大変久しぶりになってしまいました!!
お待たせしました!!
第2シーズンに突入した、
妄想吹奏楽部の続きです。
行きます!!
前回までのお話。
こちらがその「まとめサイト」です。
では、
続きです。
ビースト‼
かっこええ・・・
めっちゃかっこええ。
こんなサックスどんな練習したら吹けるようになるんやろ?指回し云々じゃないねん。楽譜をどんなに正確に吹いたところで、ちゃうねん。
うーわ、ほんまかっこええ~。
先日、すばると話をしてから錦戸亮はとても気持ちが軽くなっているのを感じていた。
もちろん、コンクールの事は忘れられない悔しい思い出で、今でもじんわりと胸にうずいているものはある。でも、過ぎてしまった事に今さら修正液を塗りたくるとこができないのだから、新しい事で上書きしてゆくしかないのだ。
次は定期演奏会。それは肩の力が少し抜けた今の吹部には刺激の丁度良いものであった。
「今年の定期演奏会は、例年と趣向を変えていければと思ってる。何か意見があれば一年生でも臆せず、発言してください。」
先日の部活中、部長の横山はそうみんなに言った。横山もどこか憑き物が取れたようにさっぱりとした顔を新学期からしていた。本人は髪を切ったからだ、などと照れていたがそこはあの三人しか知れない事なのだ。
亮は毎日時間の許す限り、その定期演奏会への案を模索していて、小さい頃父と聞いていたジャズを引っ張り出して聞きこんでは、今の自分たちと重ねたりを繰り返していた。
例えば俺がニューヨーク生まれやったら、こんな音が出せるんやろうか。ペットとホーンもいいし。何よりもやっぱり、ベースとドラムが最高やな。
クラシックももちろんええねんけど。ジャズのオフビートにはまると、いつかこんなのを俺らでセッションしてみたいと思ってしまう。
ただ、うちの部は全く編成が違う。ベースを低音の楽器とコントラバスに割り振って、ドラムをパーカッションのメンバーに頼んでもイイ。問題はシンセだ。それは、他の楽器に譲るなどという事は決してできない。このシンセの音が、この曲をおおいに盛り立てているのだから・・・。
あ、もうすぐテナーのソロの部分や。この流れ、鳥肌もの。
「亮ちゃん!何聞いてるん?次の演奏会の曲??」
突然後ろからイヤホンを引き抜かれ、亮は椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「ちょっとー!あー、マルのアホ!今最高にかっこいいテナーのソロを聞き逃したやんけ!!」
ちょっと亮を驚かせてやろうと、自分のしたことに喜んでいた丸山は、途端に怒鳴られ引き越しで身体を丸めた。
「え…ごめん。でも、さっきからイヤホンしたまま一言も喋らんし…自主練日とはいえ何も吹かへんし…。ほんまごめんな!で、何聞いてたーん??」
ごめんと言いつつも興味が顔から消えない丸山は、人を変な気持ちにさせる天才である。
「なんやねんもう…。ジャズや、JAZZ。めっちゃかっこいいねん。あ、待って、さっきのところまで戻すから、マルも聞いてぇや!…なめっちゃかっこええやろ??」
「お、おおん…。せやなぁ、かっこええなぁ。」
突然イヤホンを耳に押し込まれた丸山は、またも亮の気迫に押されてその場におとなしく膝をつく形になった。
「おぉ、ブラスもええし、何よりベースがかっこええわ。まぁ、こんなファンキーなベース、京都生まれの俺には一生無理やな。」
丸山はニッコリと笑うと、ねじ込まれたイヤホンを亮の膝にそっと戻した。
「え、ベース?マル、ベース弾けるんやっけ??」
「元々ずっとベースやで♪大倉のドラムと章ちゃんのギターでバンド組んでてん。もう、みんなすっかり吹奏楽に染まってるけれどなっ」
そう言うと、隆平はエアーで空中のドラムをタタタンと楽しそうに叩きながら跳ねた。
「あ、、、そうやっけ。え、で、大倉あいつ、ドラムやったん??」
コロコロと表情を変え、困惑の色を隠せない亮を見て丸山は更に笑った。
「大倉のドラムはめっちゃかっこええで~。体格もいいから見栄えもいいし、くやしいけどイケメンやしぃ。章ちゃんのギターももちろん上手いで。て、まぁあいつは何やらせても上手いか。」
そうなん?あいつら、管楽器吹いているところしか見たことなかった。亮はそんな話は一度も聞いた事がなかったため、キラリと頭の中で何かが弾ける音を聞いた。
「…めっちゃええやん。」
思わずそう呟いていた。
「ん?何が??」
「待ってな、マル。おれ、頑張って考えるから!明後日の曲決めミーティングまで待っててや!!」
「え…?う、うん、がんばって…⁉」
捲し立てるように話す亮の言いたい事に付いて行けない隆平は、思考が停止したままその場で立ちつくしてしまった。亮にしてみたらそんなことに構ってはいられない。走り出した構想について行かなければ取りこぼしてしまう。溢れだすアイデアはピースがカチリはまっては消えてゆく。
なんや、こんなに身近におったやん、ベースとドラム。
もしかして、ホンマにやれるんちゃう?
あそこはあいつが弾いて。
あいつはあれで。
そしたら先輩にもお願いせんと。
あとは、俺がここのソロをバシッと決める。
完璧やん!!!
あ、ピアノ?待てよ、待てよ、待てよ…
最近村上先輩がようシンセ弾いてるけど、あのレベルで正直ジャズは難しいよな…。
まぁええわ、それは明後日みんなに相談してみよ。
よっしゃ、もっかい頭からシュミレーションや!!
矢が放たれた亮の頭の中は、そのスピードを保ったまま瞬く間に全ての事を駆け巡り、輝く舞台に消えていった。
_______二日後
「じゃあ、二部の流れはこれでいくか。残りはどうする?時間的にはあと一曲いけるかな。」「せやなぁ。うーん、定期演奏会言うても、流れがマンネリ気味やなぁ。もう一曲くらい、斬新な曲が欲しいなぁ。」
きたー!!今や!!。
「あ、あの!!」
タイミングを見計らっていた割に、亮は控えめに手を上げ下げした。
「ん?亮、どーした?」
村上に促されて亮は立ち上がり、ひとつ呼吸をしてから手を前に組んだ。
「俺、みんなでやりたい曲があるんですけれど!」
「お、そーなん?それ、教えて。」
「はい、それはWeather ReportのBirdlandって曲なんすけど。」
案の定、部屋に混乱と沈黙が静かに広がった。
「…あ、みんな聞いた事ないですよね?でも、いっぺん聞いてくれたら、みんな絶対気にいると思うんで!俺らの編成に一番近い音源探して持ってきたんで。ちょっとみんなも聞いてください!」
「なんや、えらい前のめりやな。じゃあ、とりあえず聞いてみる?」
場を仕切っていた村上は、横山に軽く投げかけ「じゃあ亮、聞かせてや。」と促すと、眉根を寄せたまま難しい顔をした。
「しかしなんや、うぇざーりぽーとて。聞いた事あらへんわ。」
「じゃあ、まず頭から流しますね!」
村上の渋い顔に思わず笑ってしまった亮は、その顔を見ないように持ってきた機材を座っていた机の上に乗せ、スイッチを入れた。
決して派手ではないが、重厚な音は重なる度にひとつずつ宇宙を創るかのように生まれ、消えていくその姿までも輝いているようであった。
うん、やっぱかっこええ。しかもこのアレンジなら、俺らでも出来る。原曲の世界観をベースに、サックスとトロンボーンとトランペットを主体に他の楽器もアクセントをきかせている中で、ドラムとパーカッションがこの曲のちょっぴりお茶目なリズムを刻んでいる。そして、フルートはその高音でスパイスのようにこの曲を輝かせる。残念ながらこの音源にフルートの音は一つも入っていないが、亮の頭の中には少し妖艶なフルートの音が耳に届いていた。
こんなん定期演奏でやったら…。来年は新入生殺到やないか♥
亮は腕を組んだまま目を閉じて、思い描いた姿とこの演奏を重ねた。これを現実にさせるのだと強い意志を持って。
「はい、えっと…こんな感じです。ちょっと難しいとは思うんですけど、みんなが自主練しやすいように俺がこの音源みんなにコピーして配るんで!実現出来たらめっちゃカッコいいと思うんです!」
静かに聞いていた部員達は、音が消えると口を開くわけでなく、いったい何が起きたのか分からないという様にざわざわと動きだした。
「…待ってや亮、これ、ほんとにやりたいん??」
もちろん順調に行くとは思っていなかった。ただ、なぜそんな確認をするのかが理解できず調子が崩れてしまう。
「はい!あ、いきなりでちょっとビックリしますよね?でも絶対かっこいいです!村上先輩言ったように、演奏会って毎年同じ事の繰り返しじゃないですか。なにか新しいことやらんとって思うんです!」
「せやけども。」
村上は亮の言葉をすべて受け取った上で、ゆっくりと言葉を選んだ。
「こんなの俺らが今までやってきた音楽とは全く違うし。そりゃ確かにかっこよかったで?でも、俺らの音とは違う種類や。」
あまりも簡単にこの話が終わろうとしているうえに横山までもが「そうやな。亮、これはまた別の場所で、別の仲間とやったらええ。」と告げた。
そんな…、なんで?俺はただ。かっこいい音楽をみんなでやりたいだけやん。
ゆっくりと血が昇るのを感じながらも、亮は深く息を吸って気持ちがぶれないように語った。。
「…三年間、同じ音楽やり続けて。先輩はそれだけでホンマに満足なんすか?」
「…なんやって?」
選んだつもりの言葉は、その場を一瞬凍らせてしまった。
「そりゃ、上手くいかないかもしれないけど。でも、先輩最後の定期演奏会ですよ!何か残る事しましょうよ!!」
…あぁ、あかん。いつもこうや。なんやねん、もう。どうしたら伝わるん?
ただ、みんなでやりたいと思っているだけなのに、何がそれを拒んでいるのか、意味が飲み込めない。ただ、やりたい。
何が食い違っているのか、部屋は静まり返ってしまった。
「…ええやん、やろう。」
突然のことで、村上はその主を驚いた顔で見ていた。
「すばる?」
消え入りそうな声の主は、横山と村上が立っていた場所の近くに座っていた渋谷すばるだった。亮には背を向けるかたちでいたので顔は見えなかったが、その声が渋谷だと分かって亮は胸が熱くなった。
「すばるくん。」
「亮の言うとおり、めっちゃかっこいいと思うわ。」
すばるは身体をこちらに向けることなく、小さいがハッキリした声でゆっくりしゃべり続けた。
「まぁ上手くいくかは分からんけど。でも、何か挑戦していかないと。同じことの焼き直しより、よっぽどかっこええ。」
ずぱりとそう言い切るすばるに、反論を唱える者は一人もいなかった。
「すばるくん・・・」
この人のこういうところ、大好きや。亮は胸の熱いモノがやんわりと形を変えて、背中から 抜けていくのを感じた。
小さい頃からそうだった。すばるの言葉には、他の人にはない何かが宿ってる気がする
いや宿っている、常に決意の塊が。
「うーん…でもこれ、ベースやらドラムやら、いろんな音が必要やで?どの楽器でやるん?」
横山は思った以上に冷静にこの曲を判別し、的確な質問をしてきた。だてに音楽を長い間やっていたわけではないのだと亮は失礼ながら感心した。
「あ、それは考えてきてます!実は、マルにベースをやってもらおうと思ってます。」
「えっ!?!?オレが?いやいやあかん、絶対無理やって!」
いきなり話題の中心に名前が上がったことでテンパった丸山は、ひとまずその提案を頭から断った。嫌がる事は予想していたので亮は丸山を抑え込むように素早く話した。
「大丈夫や、上手く引こうとせんでいいって!楽しく弾いてくれたら、グルーブ感出るし!」
「う、うそやん…」
「で、ドラムなんですけど。ドラムは大倉で。大倉、ドラム上手いんやろ?今回はお願い‼頼むわ!!」
丸山のベースで話が振られることを予想していたであろう大倉は、頭を回転させているのであろう。顔を上げて亮の方を見ているようで少し宙を仰いでいた。
「いやでも、トロンボーンはどうするん?重要やん!」
こちらも冷静な質問を返して、隣に座っていたトロンボーンのマリーと目を合わせていた。もちろんその質問も想定内である亮は、高まって笑ってしまいそうな気持ちを抑えるように、なるべく言葉は切るように、自分を落ち着かせるよう話した。
「そうやねん…だから村上先輩、代わりにトロンボーン吹いてくれませんか?この曲はホルン要らないんで!先輩なら音も出るし。そんな難しないと思うんすよ。お願いします!」
「え!ホルンいらなくはないでしょ!」
渋い顔をする村上よりも先に同じホルンパートのそら@うみが軽く剣幕を訴えた。ホルンいらないと言ってしまった事を少し後悔した。
「なんやもう、メチャクチャやな」
お手上げだと言わんばかりに両手を頭の高さまで上げた村上は、それでも幾分楽しそうな笑顔を浮かげていた。
いや、メチャクチャではない。絶対上手くいく。どうしてもこの曲をみんなでやりたいねん。その為なら何だってやれると亮は思っていた。
「ホンマもう、メチャクチャやね。まぁでも、亮らしいわ。さずがアイディアマンやね♪」
ホルン方面で憤慨気味な雰囲気が起こっていたのに、それをあっさりと吹き飛ばしたのは安田章大であった。
「章ちゃん。」
「シンセの音もあるけど、そこはどうするん?」
またしても冷静な質問が飛んで来た。すこしずつ全員が一様に、足りないものを埋めようとしているのだと亮は思った。
「そうやねん。そこやねん。シンセも重要やねんけど、そこだけはどうも重い浮かばへん。誰か弾ける人いませんか??」
集まった部員へそう問いかけると、他の人を探るように顔を見合わせた。
「ほいなら俺がシンセの、弾いたろか?」
「それはアカン」
「なぁーんでや。」
村上が気持ち控えめにした立候補を、頭からぶった切るようにノールックですばるは「アカン」と言い切った。
そうや、アカンねん。村上先輩には悪いけど、このシンセはピアノを本格的に習った経験のある人じゃないとダメや。でも、全く重い浮かぶ人がおらん…。
亮は腕を組みながらもう一度部員を見回した、すると、こちらを見ていた花と目が合い、花は小さく手を上げてその手をすぐに引っ込めた。
「あ、あの。」
「花ちゃん?なに?」
「いい考えがあるんですけれど。」
話をしようか悩んでる様子を見せる花を見て、亮は思い出したことがあった。そういえば、合唱会の時、花は伴奏をしていなかっただろうか?
「お!そういえば花ちゃんピアノ弾けるやん!いいやん。弾いてや!」
「そうじゃなくって!」
花は滅相もないと言わんばかりに下げた顔の前で両手を何度も振り、その提案を捲し立てるように一気に話した。
「実は同じクラスにピアノがすごく上手い友達がいて。で、その子、音楽大好きで次の演奏会も聞きに行きたいって楽しみにしてくれてるの。その子に、飛び入りでピアノお願いしてみたらどうかな?その子なら、ジャズも興味持ってくれるかもしれないし。」
「え、そうなん?誰だか分からへんけど、でもめっちゃ上手いなんて気になるな。しかもジャズ興味ありそうなら話早いやん!花ちゃん、その子紹介してや!」
「特別ゲストってイイねぇ。」
安田はわくわくした顔でそう言い「悪くないですよね。」部長の確認をさりげなく取っていた。横山が少ししゃくれ気味に頭を振ったのをみて花もうんと頷いた。
「はい、じゃあ早速相談してみます!」
「うん花ちゃん、ホンマありがとう。あ、その子の名前、なんていうん??」
亮は手元に置いてあった曲の構成の紙を取り、ピアノ:で空欄になっていた所にペンをあてた。
「そうそう。テニス部のはるはるまんちゃん、って子なの。よろしくね。」
テニス部のはるはるまん、ちゃんか。
亮は、間違えないようにそう書き込みながら、ん?聞いた事あるようなないような、その名前を枠に入れた。
「じゃあ、早速今日の部活終わりに待ち合わせて話しましょう♥私、確認取っておきます。」
「花ちゃん、ありがとう。めっちゃ協力的やん。もしかして、この曲気に入ってくれたん?なんか嬉しいわぁ。あ、でもサックスのソロ部分はもちろん俺が吹くで。」
そこの譲れない気持ちをくんでか、花は滅相もないと笑った。
よし、早速今日アタックやな。絶対にオッケーって言わせたる!!!
亮の野望の実現に向けて大きな一歩を踏み出した瞬間だったが、同時に定期演奏会へ嵐を舞い込む一つの原因になってしまった事を今はまだ知らない。
つづく。