昨晩の関ジャムを見ていて。
ずっとブロ友さんが書いてくれているこの力作が、
(私は掲載させていただいているだけの)
とてもリアリティがあって素晴らしいなと思わせていただきました。
(なんてったって、部内恋愛禁止!笑)
そんな物語の続きを、今アップしないでいつする!!
ってヤツなので(笑)
更新せねば!
第2シーズンに突入した、
妄想吹奏楽部の続きです。
前回までのお話。
こちらがその「まとめサイト」です。
では、
続きです。
クジラとペンギン
しぶやすばる、確か最初はそう読んだ。名字の間違いよりも‘すばる’という名前にドキドキした。
昴か統ばるか、そのひらがな表記が章大の好奇心を煽った。
昴は、二十八宿の一、昴宿の和名である。それはおうし座にあるプレアデス星団で、肉眼で6個の星に見えることから六連星とも呼ばれている。
そんなことをぼんやり考えながら、章大はすっかり火の消えた花火を持ったまま、首が居たくなるくらい頭上の空を見上げていた。8時を回る晩夏の空にはベガが明るく輝いていて、それを時折り薄い雲が目隠しをするように空を覆った。
ベガから、どちらにどう線を辿ったらアルタイルとデネブに辿り着くのか忘れてしまったが、ともに一等星として輝きの強い星を探し、三つを結ぶと大きく少し長い三角形が夜空に浮かんだ。
「ここはまだ少し明るいな。」
章大は、川幅が少し狭くなった河川敷に作られたグラウンドの周りを、等間隔で囲む小さなブロックに座って辺りを見渡した。
川の向こう側には大きな高速道路が川と競るように作られ、その道路を白い光が一定の距離で照らし続けている。背後の土手の上の道も同じように明るく照らされていた。
再度空を見上げると、先程見ていたはずの大三角に電灯の白が混じって見えなくなってしまった。両の手で目をこすりもう一度目を開けて空の光に意識を集中した。
すると、南の空に黒い大きな三角形がぽっかりと浮かんだ。その三角形を丁寧に反転させた先に、北極星が浮かぶ。その星が北極星か確かめる為に、左右に北斗七星とカシオペア座を探そうとしたが、そこはすでに高速道路が空を塞いでいた。章大は「ちっ」と舌打ちを打つと、こめかみの少し上ををボリボリと無意識に掻いた。幼少を自然に囲まれたところで育った章大には、その文明の力がたまにストレスになる時があるのだ。
日中に部活をしている間は何ともなかったのに、今すごくこの場所にいる事が辛い。どうやらもうエネルギーが切れてしまったようで、少し離れたところではしゃぐ丸山の騒ぎ声に付いて行けなくなっていた。
手に持ったままの花火の先をグリグリと地面に突き立てるとすぐにポキッと折れてしまった。やってしまったその残骸が自分と重なって、気持ちは更に落ちた。
あぁ、嫌だ。
自分はいったい何を考えているのだろう。何がしたいのだろう。何をしたら良いのだろう。何に悩んでいるのだろう。何に怒りを持っているのだろう。どうしてこんなに苦しいのだろう。苦しい。
章大はまた無意識に首回りを掻いた。
離れたところでは、部員が各々に花火に火をつけて楽しんでいる。花火をしていなくても、何人かとくっ付いて座って楽しそうに語らっていた。
丸山は変わらずはしゃいでいたし、その丸山を大倉は楽しそうに携帯電話で写真を撮っていた。練習には来なかったのに、部長の横山と村上も、大量の花火と飲み物それに軽い食料を買い込んで楽しそうにやって来ていた。
なのに今、あちらの空間に加わる力がない自分がもどかしい。
自分の内臓も骨格も、全てはここにあるのに、前に進む力が足りない。
「ヤス、何してん一人で。」
また上を向いていた章大に被るように大倉が視界を遮ってから、章大の横に腰をかけた。
「…ポラリス探しててん。」
章大は視線を空から外さずにそう素っ気なく言い、大倉は「ポラリスってなに?星座?」と落ち着いた声色でそう言いながら空を見上げた。
「北極星。」
「ポラリス?そうなん?知らんかった。って、ロマンチストやんヤス。で、どれぇ?」
大倉は章大との距離を測るように明るく無邪気に、でも真剣みを込めて話した。その心遣いに勝手に申し訳なくなっている割に、素直になれずに気持ちがひんやり覚めるのを章大は胸の奥に感じていた。
大倉は手を額にあて、右に左に空を仰いでいだ。
「たぶん、あれ」
章大は濃い藍色をした空に薄らと光る星を指した。でもそれは、霧のように薄い雲がかかって存在を半分隠していた。
「さっぱり分からん。」
大倉はそう言うとニンマリと笑った。何にそんなに笑っているのか章大には分からなかったが、そうやって笑顔だけで場の雰囲気を和やかにしてくれる大倉が章大は羨ましかった。
そんな大倉は、少しナーバスになっていた章大を思ってか、何も話さずに膝に置いた手を組んで花火の光を眺め「綺麗やね。」と小さく呟いただけだった。
「おーい、来たよー。」
土手の上から聞こえたその声は、引いていた自転車とそのまま突っ込んで降りてきた。
「錦戸先輩っ!」
その姿をいち早く確認した後輩の群れからやや黄色い声が上がる。章大は、颯爽と現れた錦戸がエースキャラに本当にピッタリだとつくづく感じた。横に座っていた大倉も「亮ちゃーん。」と嬉しそうにそちらへ行ってしまった。
先に帰るとそう声をかけて一人で帰ればいいだけなのに、それすら怠くて身体が動かず、章大はまた空を見上げた。このまま耳をふさいで目を閉じたら、自分の想い描く宇宙に行けるだろうと目を閉じて手を上げようとした時、「何か見える?」突然、そう声をかけられた。
先程まで大倉が座っていたブロックの方向へ首を傾けると、ちょうどそのブロックを渋谷が跨いで座るところであった。
「よっこいしょ。」
少し大げさに、でもひっそりとした声で渋谷はそういうと、ぼんやりと部員を眺め視線に向き合うように章大の方を向いた。
思えば、フルートを持たない渋谷をこんな近くでまじまじ見たのは初めてだった。
猫のようにくっきりとした目元と悪だくみを企んでいそうな口元、ただその雰囲気はとても鋭く怖いと感じていたのに、半肩分ほどの距離にいるその人はとても暖かいオーラをまとっていた。
「先輩は、辛いって思う事ありますか?」
章大は挨拶なく、自然とそう話しかけていた。すぐ反面では、他の部員が花火を楽しんではしゃいでいるが、自分のその声は驚くほどはっきり発せられ、空中に浮かんだその言葉がゆっくりと渋谷に伝わるのを眺めた。
「あるよ。」
渋谷はそう言い、章大がその言葉を飲み込んでハッとしたタイミングで目線を正面に戻してしまった。
「でも、それは生きているうえで必要な事だったと今日、改めて思った。」
「今日、ですか?」
渋谷は部員の方を見ていたが「そう、今日。」と目線を下げてふふっと笑った。
「安田はなんで、何が辛いん?」
「そのぉ…自分の、在り方が分からなくって。」
「在り方?なにそれ。」
「いや、部長とか副部長とか明確なモノでもイイですし、渋谷先輩みたいにプレイで存在を形つけてもいいですし、あ、亮もそうやと思うし…人間って完璧じゃないじゃないですか?でも、ああやって丸山みたいに明るくも振る舞えないし、」
そこまで言って渋谷は「ちょ、ちょっと待って。」と章大を止めた。
「ごめんな話の途中で。でもな、よー分からんかってん、早口やったし。」
「早口…。」
自分の癖が出た。イラッとすると早口になる。感情的になりすぎる。
「在り方って、部活での??そんなの俺もよーわからんよ、フラフラしてるだけやし、俺なんて。」
渋谷はさらりと吐き捨てるように軽やかにそう言った。
「自分の割り当てられたパートを、きっちりこなすのが大切であって、在り方とか、そういった類ではないんちゃう?」
後輩の突拍子のない質問に懸命に答える渋谷は、そんな章大を笑ったりけなしたり茶化したりしなかった。割り当てられたパート。そこだけもう一度呟くと、自分の言ったことが気に喰わなかったのか、少しだけ頭を前に傾けた。
「僕、渋谷先輩の演奏を聴いて、あぁあの先輩と話をしてみたいって思って、クラリネットとかやったことないのに吹部に入りました。あんな風になりたいって思って。」
「あんな風って?」
「そのー、自分の内側をさらけ出すような、危うい感じです。」
「それってイイの?」
そう言って、渋谷はおどけるように笑った。
「めっちゃカッコいいです。カッコ良かったんです。」
「そぉう。それはありがとう、自分じゃ分からんけど。」
「いえ…でも、自分はそうはなれないなって痛感してます。」
分かっていたのだ。この横にいる先輩と自分じゃ、まったくカラーが違うことを。それでも、憧れて終わりにはしたくなかったから吹部に入ったのに、自分ばかりが見上げるこの風景が、魔法のようにいつの間にか距離を作り、先輩は一度も振り返ることなく先を行く。
「憧れててもいいですか?」
「え、突然どうした?」
渋谷は、困惑したのか複雑な顔で「憧れるってなんやねん。」とその言葉の意図を求めた。
「そう思ってないと不安なんです。」
「何で?」
「分かりません。」
「何やねん、それ。」
章大は何にこんなに気がかりを覚え、落ち着けずにいるのかさっぱり分からなかった。
きっかけと言えば、先程校舎の裏で悔しい気持ちに蓋を出来ずに泣き叫んだ、といったら大げさだが、そう心の内を感情のまま吐き出した後輩の姿を見てから、自分の中に渦巻くものが震えている。その後に相葉くんに会ったのも何か揺さぶられた。
いつも明るく笑っている相葉くんを尊敬する反面、その裏を探りたくもなった。悪趣味だと自覚はしている。きっと自分は何重かの感情を人格として持っているのではないかと最近は思う。今は非常に不安定な自分が身体を支配している。僕は僕なのに。
「安田はさ、」
そう言って渋谷は、身体の前で両手をクルクルと回した。前から何かを胸元にかき集めるように、言葉を探しながら。
「こう、自分の中のモノを、なんか形にしてみたら?音楽にするとか、絵、描くとか?」
「あ、絵描くの好きです。音楽は、仲間内に向けてなら、だけですけど…。」
「ええやん!こう、分からんけど、内に貯めすぎちゃう?」
内に貯めすぎる、それにはどこか心当たりもある。
礼儀正しく、人の嫌がることはしない、1日1歩ずつ進みなさい。それは大好きな両親からの教えだった。
「それはイエスマンか?」
両親の教えをとつとつと話すうつむいた章大の顔を覗きこむように渋谷は尋ねた。
イエスマンなど、そんな調子の良い人間になるつもりはない。
「優しさは紙一重や、良くも悪くも、発信する側と受け取る側で誤差はでる。」
渋谷はまたうつむきながら「ホンマやっかい。」と漏らすようにつぶやいて短く鼻で笑った。
「ほな、もう遅いから終わりにするでー‼みんな、一人では帰らないようにね、誰か家が近い人と一緒に帰ってね。」
いつの間にか大きい花火も終わり、片付けが始まっていた。
章大は片づけに加わろうと思わず立ち上がったが「ええんちゃう?あんだけ人おるし。」と渋谷に言われて、立ちかけた身体をまたブロックに下した。
ほんの少し先では、見知った部員が楽しそうに会の終わりを嘆きながらも、まだ話したりないとばかりに盛り上がっていた。
渋谷と章大の座る所だけ、スポットライトを当て忘れたように、二人は別世界にいた。
ああやって、空でひとつひとつ星が光るように、自分もそのひとつになれているのだろうか?横を見ると渋谷も空を見上げていた。
「星は星、俺は俺、安田は安田や。」
「へ?」
「ただそれだけの事やん?」
「はぁ。」
「かえろっか、眠いわ。」
渋谷は小さい掛け声と一緒に身体を起こすと、伸びをして肩の力を抜いた。
章大もゆっくりと立ち上がり、おしりに付いた砂をはらった。
「安田ってまじめだね。俺は、反発ばっかりしとったなぁ。」
渋谷は軽く羽織ったパーカーに両手を突っ込み、ゆらゆらと身体を揺らしながらそう呟いた。
「少なくとも、まじめにいないとって思ってます。」
そう言うと、渋谷は少し驚いた顔をして章大を眺め、崩すように優しく笑った。
「それは、誰でもが簡単に出来ることではないで。」
あはは、と渋谷が笑うと、その声を聞きつけて何人かがこちらを振り勝って二人の名前を呼んだ。渋谷はそちらに答えるように手を上げて返事をしていた。
「渋谷先輩!」
あちらに行ってしまう前にと章大は声をかけた。
「俺、ちゃん内から外に出していきますね、ちゃんと。」
章大は胸の前で両手をクルクルと下から上へ、胸から何かが込み上げてくるようなジェスチャーをすると渋谷は章大の言葉をしっかり受け止めて、「うん。」一言だけ返事をし、少し猫背のままみんなの元へ歩き始めた。
点と点を結んで線を引き、その線が絡まる場所で出会いがあるのなら、それは夜空の星座とそう違いはないだろう。その描かれた図柄にヒストリーがあるように、人は常にその人生をおのおのに描き続けている。決して書き直せない線は、偶然でちりばめられた点を結んだ結果で、それが必然と認識できるのはきっともっと先のことなのだろう。
やろう、自分が出来る事を。
章大はその日から、理由も分からず気持ちが落ち込む時はスケッチブックに絵を描くようになった。
自分の引いた線に色を付ける事が、章大の心もカラフルに染めた。
