GW後半。
このお話をドドドっとアップしようと思っておりました!
そんなところ!
フランス在住の作者のマリーさんから久しぶりにメールをいただきました。
なんだか運命を感じてしまったわ(笑)
というわけで。
続きです!
お待たせしました!!
第2シーズンに突入した、
妄想吹奏楽部。
前回までのお話。
こちらがその「まとめサイト」です。
では、
続きです。
無責任ヒーロー
定期演奏会でベース。
先程のミーティングが終わり、パート練習の支度をするため教室を出て行く波に乗れずに丸山隆平はもたもたとしていた。
「マル、自分のカバン忘れてるで。」
そう大倉に言われるまで、自分が手ぶらのままだった事に気が付かなかったほど緊張していた。
家に居る時にたまに思い出しては一人で弾いたりもしていたが、もう2年はまともにベースを演奏していない。なのに、先程の言ってしまえば普遍的なテンポの音楽をベースで弾くなど末恐ろしい上に、第3部の構成では渋谷先輩のバックでバンド演奏を中心に進行しようという結論に至った。
どうしよう…うまく弾けるイメージが浮かばない。隆平は一人で混沌とした海に溺れ始めていた。それは彼の悪い癖である。
つい先ほどミーティング前に、突如浮かんだアイデアを実現させたくて、この学園一の絵画の鬼才である大野智に会いに美術室へ行った。そのアイデアとは「定期演奏会の看板を描いてほしい。」というもので、きっと凄いモノが出来上がるだろうと興奮気味で飛び込んだ先には大野本人の姿はなかった。音楽室の窓からその姿を確認したはずなのに、幻だったのか、ツチノコの異名をもつ大野は美術室にいなかった。その代わりに、同じ学年の美女、錦子と話すチャンスが生まれ、幸運にも伝言を頼む形になってしまった。しかも、あの錦子が自分の名前を認識していてくれたことに胃袋がひっくり返りそうになるほど驚いたのだ。その場に転がりたいほど嬉しかったあの瞬間がマックスだとしたら、今そのゲージはほぼ0に近いほど落ちていた。
無理、無理、無理、無理、無理…提案者である錦戸の背中にいくら念を送っても、彼は振り向かず、もし、話しかけたところで「もう話は決まったし、終わったで。」とごもっともな事を言うんだ。
はぁ、相変わらず悪いイメージしか浮かばない。隆平は身体が無意識に項垂れるのを感じた。だいたい、定期演奏会の演目の練習だけでも精一杯なのに、さらにベースの練習まで増えてしまった。前を歩く錦戸はすでに他の部員に囲まれて何やら楽しそうに話している。
ずるい…。
何と比較してそう思ったのか分からないが、またの卑屈になっている自分にイヤになる気持ちと、この状況を作り上げた亮に少なからず悪意を向けている事を自覚し悲しくなった。亮がイヤホンで何やら考え事をしている時に、自分が余計な事を話さなければこうならなかったかもしれないと分かっていても、やはり亮が少し憎い。
俺は、そんなに器用じゃないんだ。
もう充分に分かっているんだから、そっとしておいて欲しい。いつの間にか歩みを止めていた隆平は、前に抱えたカバンの隙間から覗き込む安田章大の顔と目が合って驚いた。
「マル、どうしたん?体調悪いん?」
印象的に整えられた眉をハの字にして安田はそう隆平に問いかけた。
「…んーん。うん、平気。」
「ベースのこと?」
安田はずばりと言い当てていたが、本人にはそれが正解と伝わらないのだろう。変わらず心配そうな顔をしている。
隆平が大きくため息をつき、頭を上げると、少しいったところに大倉も2人を待つように立っていた。手に持ったカバンを肩にかけるように持ち、その反対の手はズボンのポケットに突っ込んでいる。
あぁ、関係ないのにそのカッコ良さがムカつく。
「章ちゃんはギター上手いからエエよなぁ。」
隆平は気持ちをムカつかせる何かを一緒に吐き出すように、意志よりも気持ちでそう口走っていた。
「大倉もなんだかんだドラム上手いし、演奏したらさぞモテるでしょうね。それに比べて俺はまたどうせ恥かくんや。」
もう過ぎた昔のミスを自ら掘り返してしまった。
「マル、オレかて練習せんとあかんなーって思ってるよ。あ、また3人で練習しようか?」
安田はそうニッコリと諭すように笑ったが、昔の思い出のように言われて少し腹が立った。
「元をたどれば、何で吹部やったん?なら軽音でよかったやん。なのに何で今更ベースやれとか一方的すぎひん?やっぱ亮ちゃんに抗議してくるわ。」
どの感情が自分を高ぶらせているのか分からないが、目の前の安田をかわし、今は亮と話し合わなければいけないとそれだけ思っていた。スピードを上げる隆平の歩調を止めたのは大倉で、横を通り過ぎようとやっきになった隆平の手首をつかみ、いとも簡単にその進行を止めた。
「今さら何言ってんねん。もう話まとまったやんけ。文句あんならさっきあの場でいえや。」
大倉はさきほどの隆平の言葉が気に喰わなかったのか、嫌悪をあらわにして真っ直ぐにそう言った。
「あぁ、それは悪うござんした。そうですよ、はっきり言えませんでしたよ、やれないって。」
隆平は自分でみじめな事を言っている自覚はあった。でもそれと同じくらい悔しい気持ちもあったから考えるよりも先に言葉が滝のように流れるだけ出てしまった。
「亮ちゃんみたいに演奏できる人はさ、周りも優しいよね、ホンマ羨ましいわぁ。」
器用な人は…そう言おうとしたが、それを口にしたら自分に失望しそうでなんとかとどまった。
「マル。吹部やら軽音やらは言わないって約束したやん。」
安田には聞こえないように更に頭を寄せて、大倉は低く小さな声でそう隆平に言った。安田が吹部に入ると決め、いったんバンドをお休みすると言った時、大倉と約束したんだった。他のギターを探すくらいなら一緒に吹部に入って己を磨こうと。
「でも、まさかベース弾くなんて話はなかったやん?」
「それは俺かてドラムやらなあかんくなるとは思ってへんかったわ。」
大倉はどすを利かせるように吐き捨てると、掴んでいた隆平の手をほおるように振り放た。
「それに、」
大倉は隆平から視線を外すと、呆れたようにため息を付いた。
「そうやって人のこと僻んでる暇あったら練習せえよ。か、辞めろ。」
笑顔のない大倉は本当に恐い。いつもはあんなに楽しそうに笑うのに、今は哀れなモノを見る様な目で隆平を見つめ、罰が悪そうに顔をそむけると、こめかみを掻きながら音楽室への道を行ってしまった。
「マル、どうしたん?なんか嫌な事あったん?」
安田はおどおどと隆平を見つめ、廊下の先を曲がろうとしている大倉の背中と交互にくらべた。
「何でもない。」
自分で思っていた以上にその言葉は冷たく、亀裂を深くするようにはっきりと安田を突き放してしまった。姿の見えなくなった大倉との距離が空けばあくほど、安田との距離も比例するように。
