源氏物語イラスト訳【末摘花244】絵など描きて
絵など描きて、色どりたまふ。よろづにをかしうすさび散らしたまひけり。我も描き添へたまふ。髪いと長き女を描きたまひて、鼻に紅をつけて見たまふに、画に描きても見ま憂きさましたり。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)と逢瀬を迎えた光源氏。返歌もできない教養のなさや、雪明かりの朝に見た彼女の容貌に驚き、幻滅します。しかし、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。光源氏19歳の年末に、へたな和歌と野暮ったい衣装が贈られ、源氏はさらに閉口します。正月過ぎた頃、末摘花邸に久々に訪れ、その後二条院に帰宅します。
源氏物語イラスト訳
絵など描きて、色どりたまふ。
訳)絵などを描いて、色を付けなさる。
よろづにをかしうすさび散らしたまひけり。
訳)さまざまに美しく楽しんで描き散らしなさった。
我も描き添へたまふ。
訳)自分もお描き加えなさる。
髪いと長き女を描きたまひて、
訳)髪がとても長い女性を描きなさって、
鼻に紅をつけて見たまふに、
訳)鼻に紅を付けて御覧になると、
画に描きても見ま憂きさましたり。
訳)絵に描いても見るのも嫌な感じがした。
【古文】
絵など描きて、色どりたまふ。よろづにをかしうすさび散らしたまひけり。我も描き添へたまふ。髪いと長き女を描きたまひて、鼻に紅をつけて見たまふに、画に描きても見ま憂きさましたり。
【訳】
絵などを描いて、色を付けなさる。さまざまに美しく楽しんで描き散らしなさった。自分もお描き加えなさる。髪がとても長い女性を描きなさって、鼻に紅を付けて御覧になると、絵に描いても見るのも嫌な感じがした。
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■【など】…例示の副助詞
■【て】…単純接続の接続助詞
■【色どる】…色をつける
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒若紫)
■【よろづに】…さまざまに。あれこれと
■【をかしう】…シク活用形容詞「をかし」連体形ウ音便
※【をかし】…美しい。すばらしい
■【すさび散らす】…楽しんで描き散らす
※【すさぶ】…慰み楽しむ。気の向くままに~する
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒若紫)
■【けり】…過去の助動詞「けり」終止形
■【も】…添加の係助詞
■【添へ】…ハ行下二段動詞「添ふ」連用形
※【添(そ)ふ】…加える
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【いと】…とても
■【長き】…ク活用形容詞「長し」連体形
■【を】…対象の格助詞
■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【に】…対象の格助詞
■【紅(くれなゐ)】…赤色
■【を】…対象の格助詞
■【つけ】…カ行下二段動詞「付く」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【見】…マ行上一段動詞「見る」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【に】…順接の接続助詞
■【画】…絵。絵画
■【に】…対象の格助詞
■【描き】…カ行四段動詞「描く」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【も】…強意の係助詞
■【見ま憂き】…ク活用形容詞「見まうし」連体形
※【見まうし】…見るのもつらい。見たくない
■【さま】…ようす。感じ
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【たり】…完了の助動詞「たり」終止形
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【本日の源氏物語】
末摘花のもとから帰宅した光源氏――。
若紫とともに人形遊びしたり、お絵描きしたりしています。
そんな中、髪の長い女人の絵を描いてみたところ、ふと、あの「紅の鼻」を色づけしてみた光源氏。
ほんとうに、衝撃的だったのですね;;
まったく主語のないまま、「描く」という行為が尊敬語で示されていきます。「我も~」と、添加の係助詞があることから、それまで「すさび散らし」ていたのは若紫で、「我も」描いてみたのは光源氏と分かります。
「紅の鼻」を描くのは、光源氏ですから…;;
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。