命婦を呼ばせたまふ。今しもおどろき顔に、
「いとかたはらいたきわざかな。しかしかこそ、おはしましたなれ。…」
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【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君の噂を聞いた光源氏は、「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱き、大輔命婦に手引きを頼んでようやく逢瀬を迎えます。
【源氏物語イラスト訳】
命婦を呼ばせたまふ。
訳)大輔命婦を呼び出させなさる。

今しもおどろき顔に、「いとかたはらいたきわざかな。
訳)今初めて、はっと気がついた顔で、「とてもきまり悪いことだわ。

しかしかこそ、おはしましたなれ。…」
訳)これこれで、いらっしゃったそうよ。…」

【古文】
命婦を呼ばせたまふ。今しもおどろき顔に、
「いとかたはらいたきわざかな。しかしかこそ、おはしましたなれ。…」
【訳】
大輔命婦を呼び出させなさる。今初めて、はっと気がついた顔で、
「とてもきまり悪いことだわ。これこれで、いらっしゃったそうよ。…」
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■【命婦】…大輔命婦。光源氏の乳母子のひとり
■【を】…対象の格助詞
■【呼ば】…バ行四段動詞「呼ぶ」未然形
■【せ】…使役の助動詞「す」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【今しも】…今はじめて(「しも」は強意)
※【し】…強意の副助詞
※【も】…強意の係助詞
■【おどろき顔】…はっと気づいたような顔
■【に】…状態の格助詞
■【いと】…とても
■【かたはらいたき】…ク活用形容詞「かたはらいたし」連体形
※【かたはらいたし】…きまり悪い。苦々しい
■【わざ】…こと
■【かな】…詠嘆の終助詞
■【しかしか】…これこれ。かくかくしかじか
■【こそ】…強意の係助詞(結び;「なれ」)
■【おはしまし】…サ行四段動詞「おはします」連用形
※【おはします】…「来」の尊敬語(大輔命婦⇒光源氏)
■【た】…完了の助動詞「たり」連体形撥音便の無表記
■【なれ】…伝聞の助動詞「なり」已然形
※重要古語一覧はこちら
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☆本日の『源氏物語』☆
光源氏が、常陸宮邸にやって来て、大輔命婦を呼び出させました。
命婦は、大仰におどろいたふりをして、
常陸の姫君に、誰がどういう経緯でやって来たのかを説明します。
「しかしか」は、今で言う「かくかくしかじか」のことですね。

「た・なれ」という表現がありましたが、
「た」の文法、分かりましたか?
後接の「なれ(なり)が伝聞・推定の場合、
直前がラ変型(終止形がuでないもの)ならば、
連体形がつきますよね。
すると、この「なり」は、断定の助動詞なのか、伝聞・推定の助動詞なのか、わかりません。
したがって、「なり」が伝聞・推定の場合に限って、
直前のラ変型は、撥音便となる場合が多い、
さらに、その撥音便が無表記になる場合もある。
…という法則があります。




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