源氏イラスト訳【若紫278】越
「なぞ恋ひざらむ」と、うち誦じたまへるを、身にしみて若き人びと思へり。
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【源氏物語イラスト訳】
「なぞ越えざらむ」
訳)「どうして越えないことがあろうか、いや私は乗り越えて必ず恋を遂げよう」
と、うち誦じたまへるを、
訳)と、口ずさみなさっているのを、
身にしみて若き人びと思へり。
訳)しみじみと若い女房たちは感じ入っていた。
【古文】
「なぞ越えざらむ」と、うち誦じたまへるを、身にしみて若き人びと思へり。
【訳】
「どうして越えないことがあろうか、いや私は乗り越えて必ず恋を遂げよう」と、口ずさみなさっているのを、しみじみと若い女房たちは感じ入っていた。
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■【なぞ】…どうして
■【越え】…ヤ行下二段動詞「越ゆ」」未然形
■【ざら】…打消の助動詞「ず」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
※【なぞ越えざらむ】…「人知れぬ身は急げども年を経てなど越えがたき逢坂の関」(後撰・藤原伊尹)を受けての表現
■【と】…引用の格助詞
■【うち―】…語調をととのえる接頭語
■【誦(ずう)じ】…サ変動詞「誦ず」連用形
※【誦(ず)ず】…口ずさむ
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【る】…存続の助動詞「り」連体形
■【を】…対象の格助詞
■【身にしみて】…しみじみと
■【若き】…ク活用形容詞「若し」連体形
■【人びと】…女房たち
■【思へ】…ハ行四段動詞「思ふ」已然形
■【り】…完了の助動詞「り」終止形
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明融臨模本の源氏物語には
「なぞ恋ひざらむ」とありますが、
『後撰和歌集』の藤原伊尹の和歌に
「人知れぬ身は急げども年を経てなど越えがたき逢坂の関」
とあり、おそらくこの「など越えがたき」を受けた表現との解釈もあります。
今回は、「恋ひ」では逐語訳しにくかったので
「越え」の解釈を採用させていただきました。
「越えがたいことがあろうか」とすれば、
かならず逢って恋を遂げようという意味になりますね。