源氏イラスト訳【若紫271】遺恨
「宮に渡したてまつらむとはべるめるを、『故姫君の、いと情けなく憂きものに思ひきこえたまへりしに、いとむげに稚児ならぬ齢の、まだはかばかしう人のおもむけをも見知りたまはず、
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【源氏物語イラスト訳】
「宮に渡したてまつらむとはべるめるを、
訳)「父兵部卿宮に姫君をお渡し申し上げようとの事でございますようだが、
『故姫君の、いと情けなく憂きものに思ひきこえたまへりしに、
訳)『亡き姫君が、とても情愛のない嫌な人とお思い申し上げなさっていたのに、
いとむげに稚児ならぬ齢の、
訳)本当にまったく子供というほどでもない年齢で、
まだはかばかしう人のおもむけをも見知りたまはず、
訳)まだ、しっかりと人の意向をも理解しなさらない、
【古文】
「宮に渡したてまつらむとはべるめるを、『故姫君の、いと情けなく憂きものに思ひきこえたまへりしに、いとむげに稚児ならぬ齢の、まだはかばかしう人のおもむけをも見知りたまはず、
【訳】
「父兵部卿宮に姫君をお渡し申し上げようとの事でございますようだが、『亡き姫君が、とても情愛のない嫌な人とお思い申し上げなさっていたのに、本当にまったく子供というほどでもない年齢で、まだ、しっかりと人の意向をも理解しなさらない、
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■【宮】…ここでは、若紫の父兵部郷宮をさす
■【に】…対象の格助詞
■【渡し】…サ行四段動詞「渡す」連用形
■【たてまつら】…ラ行四段動詞「たてまつる」未然形
※【たてまつる】…謙譲の補助動詞(少納言⇒若紫)
■【む】…意志の助動詞「む」終止形
■【と】…引用の格助詞
■【はべる】…ラ変動詞「はべり」連体形
※【はべり】…「あり」の丁寧語(少納言⇒光源氏)
■【める】…推定の助動詞「めり」連体形
■【を】…逆接の接続助詞
■【故―】…亡き
■【姫君】…若紫の母君。尼君の娘をさす
■【の】…主格の格助詞
■【いと】…とても
■【情けなく】…ク活用形容詞「情けなし」連用形
※【情けなし】…情趣がない。思いやりがない
■【憂き】…ク活用形容詞「憂し」連体形
※【憂(う)し】…わずらわしい。嫌だ
■【に】…対象の格助詞
■【思ひ】…ハ行四段動詞「思ふ」連用形
■【きこえ】…ヤ行下二段動詞「きこゆ」連用形
※【きこゆ】…謙譲の補助動詞(作者⇒兵部郷宮)
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(少納言⇒故姫君)
■【り】…完了(存続)の助動詞「り」連用形
■【し】…過去の助動詞「き」連体形
■【に】…逆接の接続助詞
■【いと】…とても。ほんとうに
■【むげに】…ナリ活用形容動詞「むげなり」連用形
※【むげなり】…(連用形の形で)まったく
■【稚児(ちご)】…幼児。子供
■【なら】…断定の助動詞「なり」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【齢(よはひ)】…年齢
■【はかばかしう】…シク活用形容詞「はかばかし」連用形ウ音便
※【はかばかし】…しっかりしている
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【おもむけ】…意向
■【を】…対象の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【見知る】…見て、それとわかる
■【たまは】…ハ行四段動詞「たまふ」未然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(少納言⇒若紫)
■【ず】…打消の助動詞「ず」連用形
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少納言の言葉です。
本来ならば、祖母亡きあとは
若紫の父方である兵部郷宮の北の方にても
渡すべきであるのが筋だけれど、
あちら方の性情が慈しんでくれそうにないため
躊躇しておられる、という内容です。
こういうのは、光源氏も宮中で経験しておられたことなので
とても心に響いたことでしょう。
若紫を略奪する根拠の1つになったに違いなさそうです。