源氏イラスト訳【若紫270】袖
いとすごげに荒れたる所の、人少ななるに、いかに幼き人恐ろしからむと見ゆ。例の所に入れたてまつりて、少納言、御ありさまなど、うち泣きつつ聞こえ続くるに、あいなう、御袖もただならず。
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【源氏物語イラスト訳】
いとすごげに荒れたる所の、人少ななるに、
訳)とてもぞっとするくらい荒れた所で、人気も少ない場所に、
いかに幼き人恐ろしからむと見ゆ。
訳)どんなに幼い子(=若紫)には恐ろしいことだろうかと思われる。
例の所に入れたてまつりて、
訳)いつもの所にお入れ申し上げて、
少納言、御ありさまなど、うち泣きつつ聞こえ続くるに、
訳)少納言の乳母が、尼君ご臨終の有様などを、思わず泣きながら申し上げ続けると、
あいなう、御袖もただならず。
訳)わけもなく、お袖も涙で並々でなく濡れる。
【古文】
いとすごげに荒れたる所の、人少ななるに、いかに幼き人恐ろしからむと見ゆ。例の所に入れたてまつりて、少納言、御ありさまなど、うち泣きつつ聞こえ続くるに、あいなう、御袖もただならず。
【訳】
とてもぞっとするくらい荒れた所で、人気も少ない場所に、どんなに幼い子(=若紫)には恐ろしいことだろうかと思われる。いつもの所にお入れ申し上げて、少納言の乳母が、尼君ご臨終の有様などを、思わず泣きながら申し上げ続けると、わけもなく、お袖も涙で並々でなく濡れる。
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■【いと】…とても
■【すごげなる】…ナリ活用形容動詞「すごげなり」連体形
※【すごげなり】…ぞっとするくらいである
■【荒れ】…ラ行下二段動詞「荒(あ)る」連用形
■【たる】…完了(存続)の助動詞「たり」連体形
■【の】…同格の格助詞
■【人少ななる】…ナリ活用形容動詞「人少ななり」連体形
※【人少(ひとずく)ななり】…人けが少ない
■【に】…場所の格助詞
■【いかに】…どんなに~か
■【幼き人】…幼い人。若紫をさす
※【幼き】…ク活用形容詞「幼し」連体形
■【恐ろしから】…ク活用形容詞「恐ろし」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【見ゆ】…思われる(ヤ行下二段動詞)
■【例の】…いつもの
■【に】…場所の格助詞
■【入れ】…ラ行下二段動詞「入る」連用形
■【たてまつり】…ラ行四段動詞「たてまつる」連用形
※【たてまつる】…謙譲の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【少納言】…少納言の乳母(めのと)。若紫つきの女房
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒尼君)
■【ありさま】…有様。ようす
■【など】…例示の副助詞
■【うち―】…思わず~。なんとなく~(接頭語)
■【つつ】…継続の接続助詞
■【聞こえ】…「言ふ」の謙譲語(作者⇒光源氏)
■【続くる】…カ行下二段動詞「続く」連体形
■【に】…単純接続の接続助詞
■【あいなう】…ク活用形容詞「あいなし」連用形ウ音便
※【あいなし】…(連用形の形で)わけもなく
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒光源氏)
■【袖(そで)】…衣服のそで。涙の比喩に用いられる
■【も】…強意の係助詞
■【ただならず】…並々でない
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「あいなう」というのは
ク活用形容詞「あいなし」の連用形ウ音便です。
この連用形は、直後の「御袖もただならず」にかかっていきます。
「御」は光源氏への敬意表現ですので
「あいなく」は、この光源氏の袖が涙で濡れるようすを
「わけもなく」と表しているのでしょう。
「源氏物語」では、このように一文が入り組んだ表現も多いので、
「どこにかかるか」という、修飾関係にも着目して読むといいですよ。
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