源氏イラスト訳【若紫259】引き歌
「…同じ人にや」
と、ことさら幼く書きなしたまへるも、いみじうをかしげなれば、「やがて御手本に」と、人びと聞こゆ。
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【源氏物語イラスト訳】
「…同じ人にや」と、
訳)「…『堀江漕ぐ棚なし小舟漕ぎかへり同じ人にや恋ひわたりなむ』にあるように、断られても断られても、同じ人に恋し続けるのだろうか」
と、
ことさら幼く書きなしたまへるも、いみじうをかしげなれば、
訳)わざとことさら幼く書きなさっているのも、たいそうすばらしいので、
「やがて御手本に」と、人びと聞こゆ。
訳)「そのままお手本に」と、女房たちは申し上げる。
【古文】
「…同じ人にや」
と、ことさら幼く書きなしたまへるも、いみじうをかしげなれば、「やがて御手本に」と、人びと聞こゆ。
【訳】
「…『堀江漕ぐ棚なし小舟漕ぎかへり同じ人にや恋ひわたりなむ』にあるように、断られても断られても、同じ人に恋し続けるのだろうか」
と、わざとことさら幼く書きなさっているのも、たいそうすばらしいので、「そのままお手本に」と、女房たちは申し上げる。
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■【同じにや】…古今集「堀江漕ぐ棚なし小舟(おぶね)漕ぎかへりおなじ人にや恋ひわたりなむ」の引き歌
■【同じ】…シク活用形容詞「同じ」連体形
■【に】…断定の助動詞「なり」連用形
■【や】…疑問の係助詞
■【と】…引用の格助詞
■【殊更(ことさら)】…わざと
■【幼く】…ク活用形容詞「幼し」連用形
■【書きなす】…ことさら書く
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【る】…完了(存続)の助動詞「り」連体形
■【も】…強意の係助詞
■【いと】…とても。たいそう
■【をかしげなれ】…ナリ活用形容動詞「をかしげなり」已然形
※【をかしげなり】…見事だ。すばらしい
■【ば】…順接確定条件(原因・理由)の接続助詞
■【やがて】…すぐに。そのまま
■【御―】…尊敬の接頭語(人びと⇒光源氏)
■【に】…資格の格助詞
■【と】…引用の格助詞
■【人びと】…お付きの女房たち
■【聞こゆ】…「言ふ」の謙譲語(作者⇒若紫)
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「同じ人にや」というのは、
古今和歌集の
堀江漕ぐ棚(たな)なし小舟(おぶね)漕ぎかへり
おなじ人にや恋ひわたりなむ
「堀江を漕ぐ船棚のない小舟が、何度も行ったり来たりするように、
断られても断られても、私は同じ人を恋し続けるのだろうか」
という古歌の一部「同じ人にや」を引用して、
光源氏が、断られても断られても、
若紫に恋し続けているようすを、
古歌からのイメージを付随することで
奥行きを持たせているんですね。
『源氏物語』には、会話文中に、このような「引き歌」がとてもよく出てきます。
大学入試では、和歌が含まれていない部分が出題されても
このような引き歌があれば、和歌の出題ともなるので
注意しましょうね!