舌癌は癌全体のわずか3%。
父の闘病中に、何度も何度も「舌癌」というワードで舌癌患者ご本人やそのご家族の方の手記やブログを検索しましたがほとんど出て来ませんでした。
当時はたとえネガティヴな内容だったとしても、なんでもいいから情報が欲しかったのです。

少しでも「誰かの世界を参考に出来ると有難い」と思う方がいるなら書くべきだと思いました。

とはいえ病気の話はどうしても暗い話になります。
興味のない方や、癌の話で辛い気持ちになってしまう方はご覧にならないでください。

よろしくお願い致します。



++++++++++++++++++++

父は舌癌でした を最初からお読みになりたい方はこちらからどうぞ。

↓↓↓↓↓↓↓↓


++++++++++++++++++++



2011.7.3
この頃の父は抗がん剤が3クール終わり、放射線治療も目一杯受けてしまったので、退院してから何の治療も受けらませんでした。

処方されている薬は、痛み止めと便秘薬と睡眠薬。

家での食事は食べられるものが増えるでもなく、味覚が戻るでもなく、ただ淡々と食べて寝て毎日が過ぎていました。

顔や首が不自然にボコボコと腫れていて、その部分が触らなくてもたまに刺されるように痛いと言っていました。


父とはあまり会話がなかったけれど、夕飯の後クイズ番組を一緒に観ている時間だけは笑い合ったりして楽しかったように思います。





2011.7.5
昨晩、父から空っぽのUSBを借りました。 
わたしのパソコンに入っている母の写真を父のパソコンにコピーするために。

でも差してみたらからっぽじゃなかった。 


「初恋」というファイルが入っていた。 

読んじゃいけない気はした。 
でも、看護師さんかなんかに恋しちゃったんだろうな~なんて軽く思って開いてしまった。 

中には研修に来ている看護学生さんに恋をしたという内容が小説風に書かれていた。
 
ちょっと気持ち悪いけど、まあ予想していたし…。

病気についても、手術のことや辛い治療のことが書かれていた。


読み進めていくと登場人物にはわたしもいました。


そして、その内容はあまりに酷いものでした。


母が亡くなってから、母の代わりに精一杯やってきたつもりでした。 
自分の生活を全て捨てて実家に戻り尽くしてきたつもりでした。 


もうだめだ。 
起きたら忘れようと、笑顔でおはようを言おうと思って寝たけど無理だった。 

あんなもの見なきゃよかった。 



父にとってわたしは恥なんだって。 
ガンの原因もわたしなんだって。
わたしさえいなければ良かったんだって。
存在自体がイライラするんだって。

恥と暮らすことがどれほど辛かったのか、わたしは少しも気付かなかった。

理不尽なことを言われて、罵声を浴びせられて、辛いのは自分だと思っていた。

でも、辛い治療で癌と戦っている最中にイライラする相手と毎日顔を合わせる方がずっと辛いはずだ。


朝ごはんを出して、買い物に行ってくると車に乗り込んだ。
誰もいないスーパーの屋上に車を止めて、声を上げて泣き続けた。

お昼ご飯の時間になっても帰ることが出来なくて、父からメールが届いた。

「どこでなにしてる イライラさせるな今すぐもどれ」

父はUSBに気が付いていないのだろうか…
それとも、知っていてわざとわたしに読ませたのかな?

父がこのUSBをパソコンに挿してファイルを開けば、空じゃなかったことが分かる。
そうなったらそうなったで、どんな顔をすればいいんだろう。


慌てて帰宅すると父の部屋からイビキが聞こえた。
リビングのテーブルには食べ残されたカップ麺が置いてあった。

癌の餌にならない食事をしよう!
と、飲み込むのが難しくても毎日頑張って食べているのに…カップ麺なんか食べさせてしまった。


わたしはここにいていいのだろうか?

いるだけでイライラさせてしまう。
癌細胞が増殖してしまう。
父の命を短くしてしまう。

どうしよう。
寝ている間に逃げてしまおうか、行くあてはないけれど。





続きます。