いい人コルトレーンの良くない話 | ジョン・コルトレーン John Coltrane

いい人コルトレーンの良くない話

ジョン・コルトレーンの性格、その強迫的側面〈6〉


喪の作業、そして強迫的儀礼としての?〈16〉

コルトレーン、ヘロインを断つ その48



いい人コルトレーンの、妙に記憶に残る数少ない良くない話、の続き(ちょっと脱線しております)。



2倍の出演料を要求!


恐らく1964年、もしかすると『至上の愛』の構想が出来上がった直後のこと。フィラデルフィアのクラブ、ペップス・ショーバー Pep's Show Bar(*)からコルトレーンに電話で出演依頼があった。ところが、温厚なコルトレーンらしからぬきっぱりした口調で、仕事は受けてもいいが、通常の2倍のギャラをとる、と法外な条件を出した(**)。


(*)Pep's Show Bar については Memories of a Jazz Child 参照。

(**)ブライアン・プリーストリー『ジョン・コルトレーン』p.70-71.



えっ! コルトレーンって守銭奴?


まだ判断は早いです。ちゃんとした理由があります。


なぜなら、昔コルトレーンがフィラデルフィアで窮乏生活を送っていた時に、このペップスのオーナーは、コルトレーンが頼んでも一度も仕事をやらなかったから。


根に持っていたわけだ、ずっと。

コルトレーンってヘビみたいに執念深い奴なのけ?


物ごとはうわべだけを見るのではなく、その深~い意味を探らなければなりませぬ。コルトレーンが何をコノートしようとしたのか、このエピソードの証言者、テッド・カーソンが説明しています。


自分は今でも、無名でかつかつだったあの時と同じ人間であり、単に名声を得たという違いがあるだけだ、というのが要点。それをコルトレーンはオーナーにわからせたかった。


まあ、それ程深くもないし、ドラマや小説ではお馴染みのありふれたものではあるけれど、コルトレーンのように下積みの長かった人間にとっては切実な感慨ではあるかもしれない。


コルトレーンの意が伝わったとも思えないが、結果的には出演料を2倍払っても客は大入りでオーナーはひと儲けしてほくほく。めでたしめでたし。結局これは悪い話じゃなくていい人の話であり、実際また、それまでフィラデルフィアでのギグはショーボート Showboat がメインだったが、以後、コルトレーンはペップス・ショー・バーに出演するようになったとさ。なーんだ。



連絡なしのキャンセル


プロモーター、ジョージ・ウエイン George Wein の証言。


1964年夏、シンシナティとモントリオールで予定されていた野外コンサートにコルトレーンは姿を現わさず、断りの連絡もなかった。コンサート中止の処理をした後で漸くコルトレーンと連絡が取れたが、身体の具合が悪い、と言うだけだった。それまで必ず出演してしてくれていたので主催者ジョージ・ウエインの心証は極めて悪かった(*)。


(*)『コルトレーンの生涯』p.335/Porter, p.371 によると、この事実はコーダ Coda 誌で確認されているらしい。



J・C・トーマスは『コルトレーンの生涯』(p.276)で、コルトレーンは労働について「ピューリタン的倫理観」を持っており、仕事をすっぽかすことなど絶対になく、エージェンシー受けも良かった様を記しているし、時間厳守で仕事熱心だった、というヴィレッジ・ゲイトのオーナー、アート・ドルゴフ Art D'Lugoff の証言もある(同p.341)。ヘロイン依存中は別として、最晩年、病によって衰弱していた時以外は、病気で出演をキャンセルしたという話もほとんどない(或いは皆無?)。



それ故このエピソードは例外中の例外と言わねばならず、しかも1964年というコルトレーンにとって様々な点で意義深い年でもあり、謎めいていてファンの妄想を掻き立てずにおかない。まず、なぜ断りの連絡を入れなかったのか。身体の具合が悪いのは仕方ないけど、連絡ぐらいできるでしょ、って先生や上司によく怒られたりします。



次に、コルトレーン本人が言った通り、実際に身体の具合が悪かったとして、コンサートをキャンセルしなければならないような病とは一体何だったのか。ちなみにコルトレーンの死因とされる肝臓癌は、かなり進行しないと重篤な症状は出ないから、この段階でそれが発症するとは思えない。では何だったのか。コルトレーンって、過去の依存症と虫歯、そして最晩年の死病以外、ほとんど病気らしい病気ってあまり見かけなくて、かなり健康そうだから、或いは意外とインド料理喰ってひどい食あたりしたとか? 夏だったし。でも連絡ぐらいできるでしょ?



ピューリタン的労働者コルトレーンをしてコンサートをキャンセルさせ得る動機は、病を除けば、家族と神の他はない(と思うんだけど)。


8月26日に生れることになる第一子ジョン・ジュニアを妊娠中のアリス・マクラウド(まだ本妻ではなかった)に何かあったのか?


或いは、この年は演奏中にしばしば神を見て恐らく『至上の愛』の構想に大きく影響したと思われるから、「神」絡みでなにかのっぴきならないことでも起こったのか?


それにしても他の3人のメンバーはこの時何してたんだろう。


……アホなファンの妄想は尽きません……。



白人の恋人


多言は要さない。


コルトレーンはいわゆる聖人君子では必ずしもなかった。


それでもエルヴィン・ジョーンズやマイルス・デイヴィスに比べればネェ。


まあ、普通じゃないですか。


でも、十数年間にナイーマ、白人の恋人、アリス・マクロード、の3人だから、ちょっと少ないですかね。


白人の恋人との付き合いはナイーマとの結婚中に始まった(1960年5月から)わけだから、これは明らかに姦淫の罪に当たる。ということは、少なくとも、コルトレーンは敬虔な(強迫的な)クリスチャンではなかった、と例証してはいるかもしれない。 (つづく)





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◆ジョン・コルトレーンのレコーディング、アルバム


・A Blowin' Session / Johnny Griffin ('57, 4/6)

・Thelonious Himself / Thelonious Monk ('57, 4/16)

・The Cats / Tommy Flanagan [The Prestige All Stars] ('57, 4/18)

・Mal-2 / Mal Waldron ('57, 4/19)

・Dakar / John Coltrane [The Prestige All Stars] ('57, 4/20)



◆ジョン・コルトレーン・エピソード集


二つの疑問 : A Blowin' Session の背景について


マイルス、コルトレーンをパンチ!? その1

マイルス、コルトレーンをパンチ!? その2

マイルス、コルトレーンをパンチ!? その3


コルトレーンとヘロイン その1 : 過去

コルトレーンとヘロイン その2 : ヘロインとアルコールの関係1

コルトレーンとヘロイン その3 : ヘロインとアルコールの関係2


ジョン・コルトレーンと物語


コルトレーン、ヘロインを断つ その1 : Well You Needn't?

フィラデルフィアでコールド・ターキー : コルトレーン、ヘロインを断つ その2
コルトレーン、アルコールを断つ : コルトレーン、ヘロインを断つ その3
ヘロインの禁断症状 : コルトレーン、ヘロインを断つ その4
とんだ豚野郎 : コルトレーン、ヘロインを断つ その5

麻薬規制法?1956年 : コルトレーン、ヘロインを断つ その6

"Coltrane: a biography" の補足:コルトレーン、ヘロインを断つ その7

回復の一過程としての依存の再発:コルトレーン、ヘロインを断つ その8

ファースト・リーダー・アルバムの意義:コルトレーン、ヘロインを断つ その9
神の恩寵による霊的覚醒?:コルトレーン、ヘロインを断つ その10

放蕩息子の帰還:コルトレーン、ヘロインを断つ その11

12ステップ・プログラムと信仰:コルトレーン、ヘロインを断つ その12

ウィリアム・バロウズ、ジャンキーの倫理〈1〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その13

ウィリアム・バロウズ、ジャンキーの倫理〈2〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その14

ジャンキーの倫理と信仰の質:コルトレーン、ヘロインを断つ その15

報酬系・ドーパミン・渇望:コルトレーン、ヘロインを断つ その16

ジャイアント・ステップスの萌芽:コルトレーン、ヘロインを断つ その17

信仰と渇望のモニタリング<1>導入:コルトレーン、ヘロインを断つ その18

ど忘れ:信仰と渇望のモニタリング〈2〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その19

――意志の行使を差し控えることの効用<1>

発見・発明・創造的思考・問題解決:信仰と渇望のモニタリング〈3〉

:コルトレーン、ヘロインを断つ その20

――意志の行使を差し控えることの効用<2>

回心 conversion:信仰と渇望のモニタリング〈4〉

:コルトレーン、ヘロインを断つ その21

――意志の行使を差し控えることの効用<3>

近藤恒夫のケース:信仰と渇望のモニタリング〈5〉

:コルトレーン、ヘロインを断つ その22

フォーカシングにおける感情との距離の取り方

:信仰と渇望のモニタリング〈6〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その23

気づいて、受け容れること=モニタリングの効果

:信仰と渇望のモニタリング〈7〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その24

平安の祈り (静穏の祈り) Serenity Prayer

:信仰と渇望のモニタリング〈8〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その26

ジョン・コルトレーンの場合

:信仰と渇望のモニタリング〈9〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その26

神とメタ認知と祈りの効果

:信仰と渇望のモニタリング〈10〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その27

練習による依存の適正な代替

:コルトレーン、ヘロインを断つ その28

シーツ・オブ・サウンドの獲得へ向けて苛酷な練習が始まる

:コルトレーン、ヘロインを断つ その29

練習の鬼、若き日のジョン・コルトレーンの肖像

:コルトレーン、ヘロインを断つ その30

コルトレーン初期の楽歴とレコーディング :コルトレーン、ヘロインを断つ その31

独自性の獲得とキャリア前半の消極性 :コルトレーン、ヘロインを断つ その32

相継ぐ近親者の死 :コルトレーン、ヘロインを断つ その33

強迫症状を抱えた著名人 :コルトレーン、ヘロインを断つ その34

症例ミケランジェリ :コルトレーン、ヘロインを断つ その35

症例狼女=エレーヌ・グリモー :コルトレーン、ヘロインを断つ その36

強迫性障害(強迫神経症) :コルトレーン、ヘロインを断つ その37

人格障害って何? :コルトレーン、ヘロインを断つ その38

肛門性格、なんじゃそりゃ : コルトレーン、ヘロインを断つ その39

強迫性人格障害 : コルトレーン、ヘロインを断つ その40

うつの病前性格と脅迫スペクトル : コルトレーン、ヘロインを断つ その41

強迫性を診断してみる : コルトレーン、ヘロインを断つ その42


ジャズ・ミュージシャンと精神障害 : コルトレーン、ヘロインを断つ 番外1

ジャズを対象に精神科医ごっこは可能か? : コルトレーン、ヘロインを断つ 番外2

コルトレーンはどのように診断されたか : コルトレーン、ヘロインを断つ 番外3

コルトレーンは強迫性障害ではない、という反論 : コルトレーン、ヘロインを断つ 番外4


几帳面だった少年時代 : コルトレーン、ヘロインを断つ その43

真面目で良心的/少年時代の生活環境 : コルトレーン、ヘロインを断つ その44

父親は服の仕立職。その遺伝? : コルトレーン、ヘロインを建つ その45

この世の天使 : コルトレーン、ヘロインを断つ その46

マイルス・デイヴィス・バンドの辞め際 : コルトレーン、ヘロインを断つ その47

いい人コルトレーンの良くない話: コルトレーン、ヘロインを断つ その48





◆ジョン・コルトレーンに関連してその他


『ジョン・コルトレーン 『至上の愛』の真実』 / 『コルトレーンを聴け!』


ジョン・コルトレーン没後40周年



◆ジョン・コルトレーン・サイト


Trane's Works 55, 56 / ジョン・コルトレーン年譜