ジャズ・ミュージシャンと精神障害
コルトレーン、ヘロインを断つ 番外1
コルトレーンの練習の強迫性について目下検討中。ヘロイン依存克服後のそれと、以前のそれとは同様な成果をもたらさなかった(*)。それは何故か、ということを乏しい材料をもとに、ヘロイン使用以前の経過をも含めつつ、コルトレーンの強迫性の質について穿鑿しているわけだが、ちょっと気になる記事を見つけたので「コルトレーン、ヘロインを断つ」の副読テクストとして目を通して見ます。コルトレーンにも言及されているので避けるわけにいかない。
(*)依存克服以前については「コルトレーン初期の楽歴とレコーディング」
これがそれ。
Forty lives in the bebop business: mental health in a group of eminent jazz musicians
(2003)
The Royal College of Psychiatrists
というところが発行している精神医学の雑誌、 The British Journal of Psychiatry
に掲載された記事。同誌のウェブサイト
でフル・テクストが閲覧可能。筆者は ジェフリー・ウィルズ Geoffrey I. Wills, PhD という人で、博士号の肩書が付いているが、精神科医ではないみたい(よくわからないけど)。何の博士号かは不明。
内容は精神病理と創造性の関連を明らかにする研究の一環として為された調査で、1945年から1960年の間に活動した40人の著名なジャズ・ミュージシャンを対象に選び、個々のバイオグラフィー、ジャズ事典やジャズ史関連の本(*)、それに雑誌記事等の資料をもとに、DSM-Ⅳ(**)を使って診断し、有能なジャズ・ミュージシャンの一群における精神障害の発症率が、一般人におけるそれよりも高いことを示すのが目的であり、実際「高い」、という結論になっている。
(*)有名どころでは、レナード・フェザーの The Encyclopaedia of Jazz(1960)、アイラ・ギトラーの Jazz Masters of the Forties(1966)、ジョー・ゴールドバーグの Jazz Masters of the Fifties(1965)なんかが参照されている。
(**)アメリカ精神医学会の診断マニュアル、『精神疾患の分類と診断の手引・第4版』
40人中21人がヘロイン依存、うち14人は依存を克服したが、5人はアルコール、コカイン、メサドンなどで代替。マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスがその5人に含まれているのはよく知られていますね。その二人はコカイン依存としてアート・ペッパーと共に名前を挙げられもいる。セロニアス・モンクとチェット・ベイカーもコカイン使用があったと記されている(ただ、コカインは対象となった時代からちょっと後にずれるんじゃないだろうか)。
警官に警棒で頭を殴打されたためとか、「サボイ・ボールルーム」の用心棒にピストルで頭をカチ割られたせいだとか、加えて精神病院での電気痙攣療法 electroconvulsive treatement が致命的だったとか、バド・パウエルは精神病で有名。何度も精神病院に入院したが、診断は統合失調症(精神分裂病)だったという。ウィルズはより正確な診断は分裂情動性障害 schizoaffective disorder ではないかと推測している。統合失調症及び他の精神病性障害にはパウエルを含めて3人いるということだが、残念ながら残り二人の名前は挙げられていない。
その他、セロニアス・モンクは薬物中毒性の精神錯乱、マイルス・デイヴィスは薬物誘発性精神障害、11人が大うつ病や気分変調性障害(長く続く軽いうつ状態)などの気分障害に該当するとされている。さらに、DSMの人格障害のクラスターB(ドラマティック・タイプ)に相当するとされる刺激追求性という傾向及び脱抑制とドラッグ使用との関連にも言及。
てな感じで、誰それは何々だった、と次々とラベリングされていくんだけど、これって面白い? 確かにちょっと面白い。興味のある人は以下の記事でもっと詳しく紹介されているのでアクセスしてみてください。
(つづく)
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★ index ★
◆ジョン・コルトレーンのレコーディング、アルバム
・A Blowin' Session / Johnny Griffin
('57, 4/6)
・Thelonious Himself / Thelonious Monk
('57, 4/16)
・The Cats / Tommy Flanagan [The Prestige All Stars]
('57, 4/18)
・Mal-2 / Mal Waldron
('57, 4/19)
・Dakar / John Coltrane [The Prestige All Stars]
('57, 4/20)
◆ジョン・コルトレーン・エピソード集
二つの疑問 : A Blowin' Session の背景について
コルトレーンとヘロイン その2 : ヘロインとアルコールの関係1
コルトレーンとヘロイン その3 : ヘロインとアルコールの関係2
コルトレーン、ヘロインを断つ その1 : Well You Needn't?
フィラデルフィアでコールド・ターキー : コルトレーン、ヘロインを断つ その2
コルトレーン、アルコールを断つ : コルトレーン、ヘロインを断つ その3
ヘロインの禁断症状 : コルトレーン、ヘロインを断つ その4
とんだ豚野郎 : コルトレーン、ヘロインを断つ その5
麻薬規制法?1956年 : コルトレーン、ヘロインを断つ その6
"Coltrane: a biography" の補足:コルトレーン、ヘロインを断つ その7
回復の一過程としての依存の再発:コルトレーン、ヘロインを断つ その8
ファースト・リーダー・アルバムの意義:コルトレーン、ヘロインを断つ その9
神の恩寵による霊的覚醒?:コルトレーン、ヘロインを断つ その10
12ステップ・プログラムと信仰:コルトレーン、ヘロインを断つ その12
ウィリアム・バロウズ、ジャンキーの倫理〈1〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その13
ウィリアム・バロウズ、ジャンキーの倫理〈2〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その14
ジャンキーの倫理と信仰の質:コルトレーン、ヘロインを断つ その15
報酬系・ドーパミン・渇望:コルトレーン、ヘロインを断つ その16
ジャイアント・ステップスの萌芽:コルトレーン、ヘロインを断つ その17
信仰と渇望のモニタリング<1>導入:コルトレーン、ヘロインを断つ その18
ど忘れ:信仰と渇望のモニタリング〈2〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その19
――意志の行使を差し控えることの効用<1>
発見・発明・創造的思考・問題解決:信仰と渇望のモニタリング〈3〉
:コルトレーン、ヘロインを断つ その20
――意志の行使を差し控えることの効用<2>
:コルトレーン、ヘロインを断つ その21
――意志の行使を差し控えることの効用<3>
:コルトレーン、ヘロインを断つ その22
:信仰と渇望のモニタリング〈6〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その23
:信仰と渇望のモニタリング〈7〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その24
:信仰と渇望のモニタリング〈8〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その26
:信仰と渇望のモニタリング〈9〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その26
:信仰と渇望のモニタリング〈10〉:コルトレーン、ヘロインを断つ その27
:コルトレーン、ヘロインを断つ その28
:コルトレーン、ヘロインを断つ その29
:コルトレーン、ヘロインを断つ その30
コルトレーン初期の楽歴とレコーディング :コルトレーン、ヘロインを断つ その31
独自性の獲得とキャリア前半の消極性 :コルトレーン、ヘロインを断つ その32
相継ぐ近親者の死 :コルトレーン、ヘロインを断つ その33
強迫症状を抱えた著名人 :コルトレーン、ヘロインを断つ その34
症例ミケランジェリ :コルトレーン、ヘロインを断つ その35
症例狼女=エレーヌ・グリモー :コルトレーン、ヘロインを断つ その36
強迫性障害(強迫神経症) :コルトレーン、ヘロインを断つ その37
人格障害って何? :コルトレーン、ヘロインを断つ その38
肛門性格、なんじゃそりゃ : コルトレーン、ヘロインを断つ その39
強迫性人格障害 : コルトレーン、ヘロインを断つ その40
うつの病前性格と脅迫スペクトル : コルトレーン、ヘロインを断つ その41
強迫性を診断してみる: コルトレーン、ヘロインを断つ その42
ジャズ・ミュージシャンと精神障害: コルトレーン、ヘロインを断つ 番外1
ジャズを対象に精神科医ごっこは可能か?: コルトレーン、ヘロインを断つ 番外2
コルトレーンはどう診断されたか: コルトレーン、ヘロインを断つ 番外3
コルトレーンは強迫性障害ではない、という反論: コルトレーン、ヘロインを断つ 番外4
◆ジョン・コルトレーンに関連してその他
『ジョン・コルトレーン 『至上の愛』の真実』 / 『コルトレーンを聴け!』
◆ジョン・コルトレーン・サイト
Trane's Works 55, 56 / ジョン・コルトレーン年譜