Thelonious Himself / Thelonious Monk | ジョン・コルトレーン John Coltrane

Thelonious Himself / Thelonious Monk

Thelonious Himself / Thelonious Monk


1. April in Paris (3:52)
2. (I Don't Stand) Ghost of a Chance with You (4:21)
3. Functional (9:19)
4. I'm Getting Sentimental Over You (4:03)
5. I Should Care (3:13)
6. 'Round Midnight (6:40)
7. All Alone (4:51)
8. Monk's Mood (7:50)

9. 'Round Midnight (in Progress) (21:57)


2,5,6,9: 1957, 4/5.
1,3,4,7,8: 1957, 4/16.


1-7,9: Thelonious Monk piano solo.
8: John Coltrane(ts), Thelonious Monk(p), Wilbur Ware(b).



前回の "A Blowin' Session" の猛スピードとは打って変わって“遅さ”が際立ったセロニアス・モンクのソロ・ピアノ。ジョン・コルトレーンの参加は Monk's Mood の一曲だけ(その経緯については「マイルス、コルトレーンをパンチ!? その3 」を参照)。しかし決して等閑視できない優れたアルバムなので少し触れておこう。


急速調の曲、例えば "A Blowin' Session" に収録のThe Way You Look Tonight のソロを丹念に追うのは耳がなかなか追いていけなくて骨が折れる。しかし逆に遅すぎる曲ってのも聴き取るのが結構大変。待ちきれないのだ。この "Thelonious Himself" は何枚かあるモンクのソロ・ピアノ作品やアルバムに一曲だけ挿入されたソロによる演奏等の中でも一層遅めで、しかもテンポの伸縮が甚だしく、なおさら聴きづらい。テンポが一定せず、随所で引き伸ばされて適度な持続が失われるので波長が合わないといい聴き取りができない。無論それはモンクの作品のせいではなくて聴き取るこっちの問題だが。


そんなわけで "Thelonious Himself "は“傑作”だとは思いながらも気軽には聴けず、どちらかと言うと敬遠しがちで苦手なアルバムだったのだが、今回“遅さ”を覚悟してじっくり腰を落ち着けて臨んでみると、やっぱりこれは遅いテンポによる即興の紛れもない傑作だと今更ながらに実感されて、聴かず嫌いはイカンと反省している。これに匹敵する優れた“遅い”即興を即座に思いつかない。少なくともジャズでは。最早ジャズではなくなった70年代以降のスティーヴ・レイシーとデレク・ベイリーくらいじゃないだろうか(他にこれもいいよってのがあったら教えてください)。


なぜ“スロー・バラードでの即興”と言えば済みそうな所をわざわざ“遅い即興”と舌足らずな言い方をするのか。確かにここでのモンクの演奏には通常のスロー・バラードに聴かれる素朴なリリシズムも欠けてはいない。しかしまた同時にそこには別種のリリシズムが克明に打ち込まれてもいる。モンクス・ミュージックのキー・ワード、異質なものの共存、“両義性”ってわけだ(例えばスポンティニアスであることを損うことなく厳密であること、トラディショナルなテイストとアヴァンギャルドな投機の共存等は、"Thelonious Himself "でも十分に堪能できる)。


ひと度テンポが緩められ、極端に引き伸ばされて原曲のメロディから離れると“遅さ”が別の意義を担い始める。一音一音にかかる負荷が増し、一瞬一瞬がのっぴきならない緊張感に張り詰め、破局を掠めるようにして余韻を響かせる。時にアブストラクトな程の冴え渡ったリリカルさ。つまりここには速いテンポでの即興に劣らずスリリングな、“遅さ”によってこそ可能となる即興の緊迫感が漲っているのだ。そしてその“遅さ”に“テンポ”が即興の対象として自由に伸縮することが重要な要素として加わっていることは言うまでもない。


中でも I Should Care がドラマティックで慄然とするほどの出来。しかも、そのドラマティックな設定をあたかもメタレベルから介入して断ち切るようなダブルタイムの突然の挿入(2:27~)がいかにもモンク的。


さらに不完全テイクと未発表テイクを連ねた20分を越す 'Round Midnight (in Progress) が凄い。聴き易いマスター・テイクに比べると遥かにアヴァンギャルドだし、アブストラクトで危険な瞬間がしばしば。演奏の完成度に価値を置く者には単に不出来なアウトテイクに過ぎないかもしれないが、ここにはそんな皮相な完成度とは無縁の不気味な程の即興の成熟がある。



Monk's Mood について


ジョン・コルトレーンにとっては前回のセッション、A Blowin' Session / Johnny Griffin から丁度10日後の4月16日(火)のレコーディング。マイルス・デイヴィス・クインテットの一員としてカフェ・ボヘミア出演の真っ最中だった。ソロ・ピアノ作品として目論まれたアルバムとしては唯一コルトレーンのテナーとウィルバー・ウェアのベースが加わった演奏なのでフォーマットとしてはその統一感を損っているが、モンクが強く主張した通り、その内容は完全にアルバムに調和している。しかも、コルトレーンの存在をすっかり忘れてあくまでモンクのピアノ目当てに聴いていて、この曲でコルトレーンのテナーの音に不意に出くわすと、新鮮な驚きに襲われて快い程だ。


最初にモンクがソロで1コーラス弾いた後、まずウィルバー・ウェアのベースが加わり、次に間奏部分でコルトレーンが吹き始める。たった23秒だが、いまいちの感がある4月中のレコーディングの中ではかなりいい出来。続いて3人で1コーラスとBA部分の半コーラス、そしてエンディング。コルトレーンはほぼテーマを丁寧にたどっているだけで音数の多い即興はやっていない。この後次第に増えていき、64年ぐらいまでコルトレーンのバラード・スタイルの定番となる動きの少ないバラードでのプレイだ。伸縮するモンクのテンポに合わせるのが難しそうだが破綻という破綻はほとんどない。ただモンク主導のためにフレーズの頭を後追いする感じのところが所々にあるけど。しかしそこそこにリハーサルの結果が出ている音だと思う。


メロディを神妙に吹く様はちょっと "Mating Call" での呼吸を思い起こさせるが、リリカルさの質が全く違っていてる。間奏部やテーマ・メロディの端々に挿入される装飾的フレーズからは、これまでの曲によって全くスタイルを変えるというとっ散らかった状態を脱して一貫したスタイルを獲得することを予見させる響きが聴き取れないでもない。コルトレーン・テイストの生成とでも言った感じだ。やっぱモンクの影響大というところか。交流が始まってまだ少ししか経っていないようなんだけどね。




・参考作品


Monk's Mood / Genius of Modern Music Vol.2 (Blue Note) 収録。
Thelonious Monk Quintet
George Taitt(tp), Sahib Shihab(as), Thelonious Monk(p), Bob Paige(b) Art Blakey(ds).
1947, 11/21.


Aセクションのセカンド・モチーフを使ったモンクによるイントロ。
アンサンブルによる1コーラス。Aセクションセカンド・モチーフの前半がアルト・サックスのサヒブ・シハブに任される。
Bセクション8小節、モンクのソロ。テーマ・メロディが少し混じっている。
Aセクション8小節アンサンブル。



Monk's Mood / Thelonious Monk Quartet with John Coltrane at Carnegie Hall (Blue Note) 収録。
Thelonious Monk Quintet
John Coltrane(ts), Thelonious Monk(p), Ahmed Abdul Malik(b), Shadow Wilson(ds).
1957, 11/29.


約6ヶ月に渡った活動期間の終わりに近づき、グループとしてのまとまりもよく感じられるセロニアス・モンク・カルテットによる熟成された演奏。日進月歩のコルトレーンの成長は言うまでもない。ただ、スロー・テンポの Monk's Mood は問題ないが、ラジオ放送を前提にしたコンサート・ホールでのライヴなので全体的にやや端正でちょっと物足りない。ファイヴ・スポットでの演奏はもっと遥かに白熱したものだっただろうと想像してしまう。


構成は4月16日と一緒。但し各パートで若干の違い。
まずイントロなしでモンクが一人で1コーラス。テンポはこちらの方が速い。4月16日=2分44秒。11月29日=2分4秒。
間奏はモンクとコルトレーンのデュオ。4月16日=23秒。11月29日=30秒。
次のコーラスに入ってAセクションでアルコ弾きのベースが加わる。テーマ・メロディは専らコルトレーンに任され、モンクはそれに自由に絡んでいく感じ。Bセクションではベースがピチカートに変わり、ドラムスも加わる。ドラムスはこのBセクションのみ。繰り返されるBA部分も同様。
4月16日との大きな違いはこちらの方が動的なこと。コルトレーンによるテーマ・メロディはいくらかパラフレーズされるし、合い間合い間に挿入される装飾的フレーズも多い。モンクはテーマから離れて装飾的パッセージを華麗に上昇下降させる。そしてコーラス後半から反復されるBA部分にかけて両者のアルペジオが交錯し、なかなかに絢爛。そして何より清新で軽やか。この演奏については遠い未来に再び同日の他の演奏共々再び触れると思うので今回はこの辺で。



・おまけ


9. 'Round Midnight (in Progress) (21:57)


1). 0~(1:55):イントロ+Bセクションの頭まで
2). 2:00~(3:21):イントロ+1コーラス


<take4>
3). 5:31~(0:24):イントロ+Aの頭
4). 5:59~(4:31):イントロ+1コーラス+2コーラス目Bセクションの半ばまで

<take5>
5). 10:35~(1:09):イントロ+2度目のAセクション頭まで
6). 11:48~(0:03):(イントロ無し)Aセクションの頭
7). 11:52~(0:45):(イントロ無し)最初のAセクションのみ

8). 12:42~(0:10):リハーサル

9). 13:07~(2:10):イントロ+最後のAセクション頭まで
10). 15:20~(0:56):イントロのみ


<take6>
11). 16:30~(5:23) :完奏


(注:時間はあくまでも目安)

(どうしてつなげっちゃうかなぁ、ぶつぶつ)


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