正社員vsハケンでなく企業から家計へ所得移転を(どうみる?財政赤字(19)山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 ――財政赤字を解消していくためにも「国民生活第一」での日本経済の立て直しが必要とのことですが、どういった点が大事でしょうか?


 ◆輸出頼りから個人消費の拡大へ転換を


 山家 日本経済の根本問題は、「輸出頼り」になってしまっていることです。「輸出頼り」ということは、内需が弱いということです。


 内需でもっとも大きいのは個人消費です。GDPに占める個人消費の割合は55%ですが、輸出の割合は16%です。そうすると、個人消費を1%増やすだけで、輸出が3%減ってもカバーすることができるのです。個人消費を3%増やすだけで、輸出が10%減ってしまっても大丈夫なのです。ですから、輸出よりも個人消費を増やす方が、日本経済にとってもいいのです。


 個人消費を増やすためには、家計の所得を増やさなければなりません。家計の所得を増やすには、賃金を引き上げなければなりません。きちんと安定した雇用を増やさなければいけません。


 ◆12年間も賃金が下がり続けているのは日本だけ


 ところが、日本では12年間にわたって労働者の賃金が下がり続けています。民間労働者の年間の平均賃金は、1997年の467万円から2009年の406万円へ、12年間で61万円も引き下げられています。月収にすると5万円もの賃下げです。賃下げとともに、正規労働者を非正規労働者に置き換えたり、リストラをおこない、景気が良くなっても労働者の暮らしは悪化するばかりです。こんな国は、欧米諸国にはありません。


 賃下げや非正規雇用化でワーキングプアを増やし、リストラで失業者をどんどん増やしたら、低所得と所得ゼロの人が増えるばかりで、個人消費は減り、内需は細るばかりです。内需が細るから景気は悪くなり、雇用をさらに悪化させる悪循環に日本経済は陥っているのです。いまの円高やデフレの問題の背景にも賃金の引き下げがあります。


 景気悪化の悪循環を、景気を良くする好循環に転換していくためには、まず、雇用を拡大し、賃金を引き上げていくことが大切です。


 ◆「正社員の既得権を非正社員に回せ」でなく

  「企業から家計への所得移転」が必要


 ところが、雇用拡大や賃上げと言うと、大企業の側から出されるのは、「ワークシェアリング」です。しかし、大企業の言う「ワークシェアリング」は、労働を分かち合うことではありません。正社員の賃金を引き下げてその分で雇用を維持したりしようというものです。賃金を引き下げて雇用を維持するというのでは、労働者の中で分配を変えるだけですから、労働者の所得は増えません。


 非正規労働者の劣悪な処遇を改善する問題でも、労働者の中での分配の問題だけに限定して考えてしまうと、個人消費は増えず、内需は拡大しませんから、結局、景気悪化の悪循環を転換することはできません。非正規労働者の処遇改善を考える際は、非正規化によって家計から企業に移ってしまった所得のシェアを、家計に戻す必要があるという根本的なところを忘れてはいけません。


 企業が使い勝手のいい非正規雇用を拡大することによって、家計の所得を企業に移してしまい、内需を縮小させ、雇用と景気悪化の悪循環をつくり出していることが根本的な問題です。この根本的な問題をきちんとおさえておかないと、一部のメディアが表面的、一面的に主張する「正社員vsハケン」、「正規労働者vs非正規労働者」、「正社員の既得権を非正社員に回せ」などという企業側からの「分断支配」「労労対立」に乗せられてしまいますので注意が必要です。


 ◆大企業の「空前の金あまり」を家計へ


 大企業には過去最大の内部留保と「空前の金あまり」=手元資金があります。大企業には、使い道のないお金が滞留してしまっているのです。(※「(16)経団連が大企業の内部留保を還流すべきと提言」 「(13)法人税の増税が必要」 を参照ください)


 家計から企業に移ってしまっている所得のシェアを、ほんの少しでも家計の方に戻すことによって消費は増えます。大企業で滞留しているお金を、雇用拡大、賃金引き上げ、非正規社員の正社員化という形で、家計所得にまわせば、それが消費になって、企業の売り上げとなり、利益となってはねかえってきます。ですから、企業のためにも、企業に滞留しているお金を、雇用拡大・賃上げ・正社員化によって家計に移すことが大切なのです。


 《※この記事は、連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 「(11)強きを助け弱きをくじく税の転換?」 「(12)「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言」 「(13)法人税の増税が必要」 「(14)軍事的には小さな政府が必要」 「(15)日本の消費税負担はすでにスウェーデン並み」 「(16)経団連が大企業の内部留保を還流すべきと提言」 「(17)非正規雇用改善・賃上げ成長戦略が財政赤字なくす」「(18)民主党政権の新成長戦略で赤字解消は困難」 のつづきです。》


(つづく)


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)