《※連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 、「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 、「(3)日本がギリシャのようになる?」 、「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 、「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 、「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 、「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 、「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 、「(9)賃上げが赤字減らす?」 、「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 のつづきです。》
――高額所得者への減税も、財政赤字の原因のひとつとのことですが、これについてはどうすればいいのでしょうか?
◆日本は世界で最も「強きを助け、弱きをくじく国」
山家 これまでのお話の中で、「強きを助け、弱きをくじく」ような税制になっていることを指摘してきました。そのことが明確にあらわれているのが下のグラフです。
▼税と社会保障による相対的貧困率の改善効果(2006)
【(出所)OECD Economic Surverys Japan 2006.7】
上のグラフにあるように、税と社会保障による貧困改善効果は、OECD17カ国平均9.8%に対して、日本は3分の1以下の3.0%と最低です。
これを受けて、OECDは、日本経済の審査報告書(2006年)の中で、①日本は税・社会保障による貧困率の改善効果が他のOECD諸国と比べると大変小さい(上のグラフ)、②日本は勤労者世帯への公的社会支出が少なく、社会保障の給付が低所得世帯に集中していない、③日本の貧困世帯は、他のOECD諸国に比べて、税・社会保障の移転は小さな割合しか受け取っていないのに、高い税負担を担っている。所得階層を5つに分けた所得5分位における最下位の階層(最も低所得の階層)が支払った直接税を見ると、直接税全体に占める比率が、OECD平均は4%であるのに、日本では7.4%である(下のグラフ)と指摘されています。日本の税や社会保障は、「強きを助け、弱きをくじく」ものになっているのです。
◆日本は低所得者に高い税負担を負わせている
▼所得5分位最下層の直接税負担率
【OECD Economic Surverys Japan 2006.7】
▼年間所得2千万円超の減税額は1年で6,887億円
所得税・住民税の最高税率引き下げの減税額
【国税庁「申告所得税の実態」】
上の表は、1999年に実施された最高税率の引き下げ(所得税と住民税をあわせて65%から50%へ引き下げ)で恩恵を受けた年間所得2,000万円を超える人の減税額です。最高税率引き下げによる減税額は、2006年で6,887億円です。
◆高額所得者ほど莫大な減税の恩恵がある
▼所得階級別の減税効果(所得税)
【国税庁「申告所得税標本調査」】
上のグラフは、所得階級別(横軸で右に行くほど高額所得)の減税効果を示すもので、この間(1982年から2006年)の減税は、高額所得者に集中していることがわかります。
▼株式譲渡申告所得の構成比
【国税庁「申告所得税の実態】
さらに、2003年に実施された証券優遇税制は、高額所得者に大きな減税効果をもたらしています。上のグラフにあるように、株式譲渡申告所得の総額は2.3兆円ですが、その9割弱にあたる2兆円が、所得1,000万円以上の納税者によるものです。その2兆円のうち1.4兆円は、所得1億円以上の納税者です。こうした高額所得者に証券優遇税制は莫大な減税効果をもたらしているのです。
◆「負担能力に応じた負担原則」の実現を
以上、見てきたように、日本の税制が非常に歪んだ高額所得者への優遇税制になっていますので、その優遇をやめて、「負担能力に応じた負担原則」という、税の最も大切な原則にかなった税制を実現することが必要です。
1つは、所得税・住民税の最高税率の引き上げです。現行の50%から、少なくとも1999年前の65%には戻すべきです。
2つは、証券優遇税制をやめるべきです。預金利息でも20%なのに、配当金や売買益に対して10%しか税金を取らないとういうのはすぐにでも20%は取るようにする必要があります。最終的には欧米諸国並みに総合課税にすべきです。
年間100億円以上の所得のある人が、1,500万円前後の所得の人と同じ負担率(14%台)にとどまっているという不公平税制(上のグラフ参照)を、財政赤字を解消していくためにも、いますぐあらためる必要があるのです。(つづく)
(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)