《※一昨日の記事「どうみる?日本の財政赤字(1) - 孫子の代まで借金漬け?(山家悠紀夫さんに聞く)」 のつづきです。》
◆単純には比べられない国の財政と家計
――そもそも国の財政と家計は、単純に比べられないのではないでしょうか?
山家 そうですね。国の財政と家計はそもそも性格が異なるということを、きちんと認識しておかないとおかしな議論になりますので注意が必要です。
当たり前の話ですが、家計というのは収入が限られていて、収入を簡単に増やすことはできませんから、その収入の中で暮らしていかなければなりません。家計では、まず収入の方が先にあって次に支出の方を考えることになります。
ところが政府というのは、家計とは性格が違います。そもそも政府をなぜ私たちが持っているかというと、市場の世界だけでは供給されない公共サービスなどを国民に提供させるためです。
◆すべての国民の暮らしを守るために政府はある
たとえば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と憲法25条に明記されているように、政府はすべての国民に生存権を保障しなければなりません。あるいは、教育などもそうですね。政府はさまざまな公共サービスを国民に提供する役割があるのです。
◆政府の役割抜きに借金だけを問題にするのは本末転倒
そうすると、政府というのはさまざまな公共サービスを提供する役割が最初にあって、そのために税金を集める必要があるということになります。政府の果たすべき役割からスタートする必要があるから、出す方(支出)が先で入る方(収入)は後で考えるという順番になり、家計とは逆転して考えなければいけないのです。それなのに、家計にたとえてしまうと、政府の大切な役割はどこかに消えてしまって、「とにかく借金をなくさなければいけない」という話だけになっていってしまう。政府の大切な役割として、これだけのサービスを提供する必要があるから、税金を集めなければいけないのだけど、足りないとなれば当面は借金をしてでも政府のやるべきことをやっていくと考えるべきなのです。こうした政府の役割の問題を抜きにして、借金だけを問題にする本末転倒した議論が非常に多くなっていますね。
◆「いますぐ国の借金を返さなければ大変だ」という「脅し文句」は
社会保障費の削減や消費税を増税するための口実にすぎない
それから、マスコミなどで、「いま生活は厳しいけれど、自分たちの世代の責任で国の借金を返さないと子どもたちに迷惑をかける」などという論調も見受けられますが、これも国の財政と家計を同じように考えている間違った議論です。
住宅ローンなどの家計における借金は、一般的に借りる本人が子どもには残さないよう全額返すことを前提にしてローンを組みます。しかし、そもそも政府には寿命がありませんし、借金の全額を返さなければいけない期限もありません。事実、日本以外の国でも、借金を全額返したという国はなく、国の借金があること自体は問題ではないのです。
もちろん、現在の大きな借金のままでずっといいというわけではありません。しかし、「いますぐ返さなければ大変なことになる」などといった「脅し文句」は、社会保障などの公共サービス削減や国家公務員の人件費削減、そして、消費税増税のための口実でしかありません。(つづく ※山家さんへのインタビュー記事は隔日掲載です)
(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)