財務省は、国の財政赤字が2010年度末に637兆円まで増え、「我が国を、月収40万円の家計にたとえると」「ローン残高6,370万円」になるとしています(財務省「日本の財政関係資料」2010年8月版 )。額面どおりに受け取ると、まさに孫子の代まで借金漬けですが、本当にそうなのでしょうか? 財政赤字の問題について、山家悠紀夫さんにお話をうかがいました。
【山家悠紀夫(やんべ ゆきお)さんのプロフィール】第一勧銀総合研究所専務理事、神戸大学大学院経済学研究科教授を経て、現在、「暮らしと経済研究室」を主宰。(※山家さんへのインタビューは隔日掲載で20回ほど連載の予定です)
――財務省が家計にたとえているように、国の財政は莫大な借金を抱え破綻寸前ということでしょうか?
◆財務省の「誇大広告」?
山家 財務省は、この十数年来、財政を家計にたとえて大変な状況だと説明しているのですが、私は「誇大広告」のたぐいだと言っています。加えて、財政に対する一面的な見方を国民の間に広げ、日本の進路を間違った方向に導きかねない危険性も持っていると思います。
◆家計でも借金だけ見るのは間違い
そもそも、家計の問題を考えるときでも単純に借金だけを見るのは間違っています。家とか土地とか金融資産などがどれくらいあって、一家としてのバランスシートはどうなのかを見ないといけないのです。
たとえば、住宅ローンを借りて家を建て借金が1千万円ある家計と、持ち家などは無いけれど借金はまったくない家計を、借金の金額だけを問題にして比較するのは、おかしな話になってしまいます。
国の場合も同じで、借金が多いことだけを問題にするのは一面的な見方なのです。借金だけではなくて、資産の方も見なければいけないのです。
◆日本は「世界一の金あまり国」
上の図は、2010年3月末時点の「日本政府のバランスシート」です。この図にあるように、日本政府は、世界一の金融資産482兆円を持ち、いろんな固定資産等491兆円も持っていて、日本政府のバランスシートは借金と資産がほぼ同じで、借金は97%まで資産で担保されています。
上のグラフは、「主要国の国内余剰資金」です。このグラフにあるように2009年末で、日本の国内余剰資金は266兆円もあって、日本は「世界一の金あまり国」でもあります。他の国の余剰資金は、2位が中国167兆円、3位はドイツ118兆円で、日本はドイツの2倍以上、他の国の何倍もの余剰資金があるのです。「世界一の金あまり国」というのは何を示しているかというと、日本政府は大きな借金を抱えているけれども、まだお金が借りられる条件があり、日本経済には貸す力があるということなのです。
◆事実は「孫子に資産を残す」
ですから、マスコミなども「孫子の代まで借金を残していいのか」などと「誇大広告」をしますが、事実は、子どもや孫たちに借金だけを残すわけではなくて、あわせて金融資産や固定資産をきちんと残すことになるのです。
日本の財政問題を考える際に、「借金だけ」を取り出して議論する人を見かけたら要注意です。財政の問題を考えるときは、借金と資産の両方を同時に見なければ、議論の前提自体を間違えます。(つづく)
(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)