どうみる?日本の財政赤字(10) - 最賃アップと派遣法改正が必要?(山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 《※連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 のつづきです。》


 ――財政赤字を減らすためには、「内需拡大による景気の本格的な回復」がベースとして必要とのことですが、政府に求められる具体策は何でしょうか?


 ◆家計収入を増やす必要がある


 山家 景気をよくするためには、国内の景気、とくに家計の収入が増えないことには、どうしようもありません。家計の収入を増やすには賃上げが必要です。

(※それぞれのグラフ上でクリックすると大きくして見ることができます)


           ▼「構造改革」がもたらした
            企業がもうかっても賃金は下がる「構造」
             【内閣府「経済財政白書」(2007年版)】

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 ところが、上のグラフにあるように、「構造改革」がもたらしたものは、企業がもうかっても労働者の賃金は減ってしまうという「構造」です。


           ▼国内需要が伸びず、輸出頼りの日本経済

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 その結果、上のグラフにあるように、この10年、国内需要はまったく増えていません。それにもかかわらず、2002年あたりから小泉政権のもとで景気が良くなったと言われたわけですが、それは輸出が猛烈な勢いで増えたからです。2008年の統計では1997年と比べて1.6倍も輸出が増えています。海外の景気が良くなって輸出が増え、日本の景気もある程度良くなっていたというのが2008年までの状況です。サブプライム問題が起こり、リーマン・ショックが起こり、海外の景気が悪くなって日本が輸出できなくなり、相手の国がものを買ってくれなくなると日本の景気はガタガタと悪くなってしまいました。これからは、国内需要をいかに増やしていくかが日本経済の課題です。


             ▼非正規労働者数が大きく増加
              【雇用形態別雇用者数の推移】

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       ▼ワーキングプアが激増、4人に1人が年収200万円以下


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 上のグラフにあるように、労働者派遣法が改悪される中で、非正規雇用労働者が増え、年収200万円以下の労働者は1,099万人に激増し、いまや4人に1人がワーキングプア状態に置かれているのです。


           ▼この10年、企業だけが富を蓄積してきた
             【保有正味資産の推移(単位:兆円)】

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 そして、上のグラフにあるように、この10年間、企業だけが165兆円も資産を増やしています。労働者の賃金切り下げや非正規雇用化、そして減税によって、企業の資産だけが増えているのです。


 逆に家計は、この10年間で188兆円も資産を減らし、貧しくなるなかで、企業だけが豊かになっているのです。企業に溜まっているお金を家計部門に流れる仕組みをつくらなければいけません。賃上げで、企業から家計へ所得を移転させなければ内需拡大による景気の本格的な回復はできません。景気の本格的な回復がなければ、税収も伸びず、財政赤字を解消していくこともできません。


 ◆最賃の大幅引き上げと労働者派遣法の抜本改正を


   ▼ヨーロッパ並みの最低賃金引き上げと、中小企業支援が必要
    【OECDGDP購買力平価換算(2010年10月現在の各国最低賃金額)】

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 政府がいますぐ実行すべきことは、上のグラフのような先進主要国で一番低い最低賃金や中小企業支援を、ヨーロッパ並みに大幅に引き上げていくことや、労働者派遣法を抜本的に改正するなど非正規雇用を規制して正規雇用を増やすことです。


 個別企業の立場から見ると、内部留保などの資産をこれだけ溜めて、10年前に比べて随分増やしたから、もういいだろうとは思いません。まわりの企業を見たら、同じぐらい溜めているから、もっと溜めようと、もう無限に、それこそあくなき利潤追求で、とにかく溜めて、溜めて、それでもまだ十分と思わないという形で溜めていく。放っておいたら歯止めがきかないのです。


 ◆企業の資産を社会に環流させる仕組みが必要


 企業に溜まり続ける資産をうまく吸い上げ社会全体に環流させる仕組みが必要です。大企業でいうと、取引先の中小企業にちゃんと対価を払う、労働者にきちんと賃金を払うことが必要です。しかし、個別企業からはそうなっていきませんから、最低賃金アップや労働者派遣法の抜本改正、税や社会保険料などで、社会的に大企業の資産を環流させる仕組みが必要になっているのです。(つづく)


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)