どうみる?日本の財政赤字(8)-法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?(山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 《※連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の(1)孫子の代まで借金漬け?」「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 のつづきです。》


 ――財政赤字の原因は、大型公共事業費だけなのでしょうか?


 山家 大型公共事業に加えて、税収の落ち込みも財政赤字の原因のひとつです。


(※それぞれのグラフ上でクリックすると大きくして見ることができます)


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 大型公共事業によって財政赤字が拡大するなか、橋本内閣は「財政構造改革元年」を宣言し、大型公共事業費も削減しましたが、上のグラフにあるように、一方で消費税増税と医療改悪などで国民負担を9兆円も増大させたため不景気に陥り、逆に赤字は拡大してしまいます。こうした景気の悪化による税収の落ち込みと、それに拍車をかけた大企業・高額所得者への減税も財政赤字拡大の大きな原因のひとつです。今回はこの減税の問題について、財務省などのデータを見ながら考えてみましょう。

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 上の表は15年前と現在の税率を比較したものです。この表にあるように、法人税の引き下げ、所得税や相続税の最高税率引き下げなどが行われました。


         ▼法人税の減収分は消費税の税収分とほぼ見合う


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 法人税減税と所得税減税の推移をより詳しく見たものが、上の2つのグラフです。法人税の減収分は消費税の税収分とほぼ見合った形になっています。もちろん景気悪化もありますが、こうした減税が拍車をかけることによって、下のグラフ(「主要税目の税収(一般会計分)の推移」)にあるように、ピーク時と現在を比較すると、法人税は19.0兆円(1989年度)から5.2兆円(2009年度)へ激減していますし、所得税も26.7兆円(1991年度)から12.8兆円(2009年度)へ半分以上も減ってしまったのです。


       ▼主要税目の税収(一般会計分)の推移(財務省データ)

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 ◆中・低所得者には増税、高額所得者には大幅な減税


 1999年に所得税と住民税の最高税率が引き下げられ、所得税は50%から40%へ、住民税は15%から10%とされました。有価証券報告書で2009年度に1億円以上の報酬を受け取っていた大企業の役員は200人以上です。その上位200人が受けた減税額は、2009年度の1年間だけで合計38億3,272万円になります。1人当たりの減税額は約1,916万円です。減税額のトップ3は、カルロス・ゴーン日産自動車社長の1億2,291万円、ハワード・ストリンガーソニー会長兼社長の1億1,357万円、北島義俊大日本印刷社長の1億809万円です。


 この1999年の所得税・住民税の最高税率引き下げとセットで、「恒久的減税」と称して定額減税から定率減税への変更がなされました。定額減税は、納税の額にかかわりなく、納税者1人当たりに定額(所得税・住民税あわせて本人に5.5万円他)を減税するものでした。これに対して、定率減税は、納税額の一定率(所得税・住民税あわせて35%、最高29万円)を減税するものです。これによって、下のグラフのように、中・低所得者は増税となり、高額所得者は大幅な減税となっているのです。

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 ◆庶民の税負担の半分しかない株の配当・譲渡益


 また、株の譲渡益は、2002年まで26%だった税率を2003年から20%に優遇した上、さらに半減し現在10%。配当も同様に、20%の税率が10%に優遇されています。株の譲渡益・配当の税率は、庶民の預貯金の利子にかかる税率20%の半分なのです。


 この証券優遇税制によって、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長の配当の減税だけで1億1,176万円となっているほか、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長が1億825万円、京セラの稲盛和夫名誉会長が8,167万円など、それぞれ巨額の減税を受けています(2009年度の有価証券報告書)。株の売買益での証券優遇税制では、総額約1,212億円が減税されていて、100億円以上の所得のある上位6人だけで全体の約10%の減税額を占めています(国税庁2008年分申告所得税標本調査)。参考までに証券税制の国際比較と、2008年度の証券優遇税制による例を以下掲載しておきます。

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 以上、見てきたような「優遇税制」により、大企業・高額所得者には減税が、庶民には負担増が続くことで景気の悪化もまねき、全体として大きく税収が落ち込み、財政悪化をまねいているのです。

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くろすろーど-金持ち減税


 【※上のグラフは、株取引や配当などの金融所得と国税負担率をグラフにしたもので、所得が1億円を超えたところから国税負担率が下がって行き、所得が高くなるほど国税負担率が低くなっています。加えて、所得が1億円を超えると所得に占める金融所得の割合が増加し、たとえば50億円の所得がある人の74.7%は株取引などの金融所得です。株の配当や譲渡益にかかる税率(各国2010年1月現在の数字)は、アメリカ27.6%、ドイツ26.375%、フランス30.1%、イギリス32.5%(譲渡益は18%)に対して、日本は10%という他国の3分の1という異常な低さなのです。】


(つづく ※山家さんへのインタビュー記事は隔日掲載です)


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)