非正規雇用改善・賃上げ成長戦略が財政赤字なくす(どうみる?財政赤字(17)山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 ――経済成長との関わりでは、財政赤字の問題をどう考えればいいのでしょうか?

         ▼一般政府の債務残高の国際比較(対GDP比)

くろすろーど-債務残高



くろすろーど-債務残高の表


 山家 上のグラフは、財務省のホームページに掲載されている「一般政府の債務残高の国際比較(対GDP比)」です。日本の2010年の債務残高は、対GDP比で199.2%にまで増えています。


 ◆日本だけが雇用者報酬が減りGDPが伸びず

くろすろーど-雇用者報酬


 上のグラフは、主要国の名目GDPと雇用者報酬の伸び率です。1997年からの10年間で、日本の雇用者報酬だけがマイナスになっています。そして、日本のGDPだけがほとんど伸びていません。賃下げや雇用破壊で、国民が貧困になって、「経済成長が止まった国」に、日本はなっているのです。


 ◆GDPが伸びないと財政赤字を2重に悪化させる


 GDPが伸びない状況は、財政赤字に2重の悪影響をもたらします。


 1つは、GDPが伸びず、国民が貧困になっていくわけですから、所得税をはじめとした税収が落ち込んで、財政赤字を悪化させます。


 2つめは、GDPが伸びないと「対GDP比で見る財政赤字」の重みが増してしまうということです。


 ◆イギリスやフランスは日本より債務残高が多いが
  GDPが伸びているから財政赤字が大きくならない


 OECDのデータで、1990年を100とした場合の2008年の各国の「一般政府の債務残高」を名目値で見ると、多い方から、イギリス351.3、フランス331.2、日本283.6、ドイツ263.7、アメリカ241.3、イタリア237.7、カナダ201.8です。債務残高を名目値で見ると、日本は欧米諸国とあまり変わらないのです。イギリスとフランスは、日本より債務残高が多いのです。


 名目値で見ると、イギリスとフランスは、日本より債務残高が多いのに、なぜ日本のような大きな財政赤字にならないのでしょうか。それは、上のグラフにあるように、イギリスは68.5%、フランスは49.6%もGDPを伸ばしていますから、「対GDP比で見る財政赤字」は、あまり増えないのです。日本だけGDPが伸びていないため、「対GDP比で見る財政赤字」の重みが増していっているのです。


 賃下げや雇用破壊で国民を貧困にする国は、財政赤字も悪化させてしまうことになるのです。貧困をなくすことは財政赤字をなくすことにつながっていくのです。


 ◆日本に必要な成長戦略は賃上げと労働者派遣法改正
  「デフレも、格差拡大も、消費低迷も、円高も、財政赤字拡大も
   すべての問題の原因は、賃金が上がらないことにある」


 最後に、新日鉄系シンクタンクのチーフエコノミストも、労働者の賃金引き上げこそが成長戦略に必要だとする論文を発表していることを紹介しておきます。以下、『週刊エコノミスト』(2010年10月26日号、毎日新聞社発行)に掲載されている「景気浮揚 日本に必要な成長戦略とは「賃上げターゲット」政策だ」(北井義久日鉄技術情報センターチーフエコノミスト)からの一部抜粋です。


 「参議院選挙中における菅直人首相の消費税を巡る発言以降、将来の財源確保と財政赤字解消のために消費税増税は避けられないとの議論が目立つようになった。一方で、景気の先行きが怪しくなってきたなかで、追加経済対策の議論が始まり、日銀は追加金融緩和政策を決めた。同じような光景をこの十数年間、何度見てきたのだろうか。なぜ同じような議論を、何度も繰り返すのだろうか。その理由は、日本経済にとって最も重要な問題に関する議論がすっぽりと抜け落ち続けてきたからである。日本経済の最大の問題点は、賃金が上がらないことである。」


 「2%の経済成長を確実にすることが必要だ。そのためには、賃金を上げて個人消費を増やさなければならない。90年代半ば以降、日本の賃金はほとんど上がっていないが、米国の賃金はコンスタントな上昇を続けている。この差が日米の個人消費の動きに決定的な影響をもたらしている。」


 ◆賃上げ余力は十分


 「賃上げ余力は十分(中見出し)」「経常利益率は70年代以降の平均水準を超えている。これ以上、収益を拡大するために賃金抑制をすることは日本の経営者の独り善がりな発想だ。収益のパイの分け前を労働者へ分け与えるべきタイミングに既に入っている。」


 「賃上げをしないと、円高と個人消費の低迷が生じて、結局企業も損を被ることになる。なぜなら、賃金を上げないから個人消費が増えず、需要不足だからデフレになる。さらに、デフレで日本製品の価格が下がるので、それが円の価格競争力を高める。企業は円高になって困るといっているが、賃金を上げないことで、自らその原因を作っている。企業経営者も安定的な内需の拡大を求めているのだから、賃上げが一番効果的な手段となることに気付いてほしい。」


 「具体的な進め方としては、まず、企業の雇用調整能力(経済情勢に応じた雇用増減余地)を著しく高めた非正規労働者に関する規制緩和の流れを逆転させる必要がある。先の通常国会に労使の合意を得て「労働者派遣法改正案」が提出されたが、継続審議とされてしまった。改正案には、製造業派遣の原則禁止、登録型派遣の原則禁止、違法派遣に対する「みなし雇用義務」、専ら派遣の規制強化(特定企業だけを対象とした派遣業務の禁止)などの項目が含まれており、規制緩和から規制強化に舵を切ったものとして評価できる。規制強化の動きに合わせて、派遣社員を直接雇用に切り替える動きが大企業を中心に既に出ており、まずは改正案を早急に成立させる必要がある。」


 ◆「新時代の日本的経営」から決別


 「「新時代の日本的経営」から決別(中見出し)」「政府が賃上げターゲット政策を打ち出せば、確実に賃金は上がるようになる。なぜなら、日本で賃金が上がらなくなった最も重要な原因は、日本政府が企業の人件費削減要求を認め、企業に有利な方向に労働市場のルールを変えたことにあるからだ。その象徴が95年に当時の日本経営者団体連盟(日経連、現日本経済団体連合会)がまとめた「新時代の『日本的経営』」いう報告書である。」


 「日本政府は、この日経連の要望を受け入れ、労働者派遣法の改正、解雇規制の実質的緩和(早期退職制度の導入等)、会社分割の法制化などを相次いで実現させ、労働市場における交渉力を著しく企業に有利な方向にシフトさせた。結果的に、日本の労働慣行は大きく変化するとともに、賃金はほとんど上昇しなくなった。日経連の目標はほぼ100%達成された。しかしその副作用として、個人消費の伸び悩み、慢性的なデフレ・円高懸念が企業を苦しめている。さらに、株主・経営者・従業員の3者を比較してみると、賃上げ抑制が本格化し始めた00年代に従業員だけが割を食っている。例えば、法人企業統計によれば、資本金10億円以上の大企業の1社当たり経常利益は、00年度を100として07年度には164に増えており、1社当たり配当は293、1人当たり役員給与は126(統計に段差があり実態は180以上と推測される)にそれぞれ増えているが、1人当たり従業員給与は98にとどまっている。日本企業はそれなりに収益を増やしているが、その成果は株主と役員にだけ配分され、従業員に果実は行き渡っていない。」


 「正規・非正規の間の大きな処遇の格差は縮小せず、若年労働者への教育訓練がおろそかになってしまった。このような歪んだ状況を変えない限り、安定成長など望むべくもない。成長の果実はバランス良く配分されなければならない。」


 「デフレも、格差拡大も、消費低迷も、円高も、財政赤字拡大もすべての問題の原因は、賃金が上がらないことにある。健全な日本経済を再び取り戻すために、中期的な経済目標としてゆるやかな賃上げを中心に据える必要がある。」


(つづく)


 《※この記事は、連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 「(11)強きを助け弱きをくじく税の転換?」 「(12)「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言」 「(13)法人税の増税が必要」 「(14)軍事的には小さな政府が必要」 「(15)日本の消費税負担はすでにスウェーデン並み」 「(16)経団連が大企業の内部留保を還流すべきと提言」 のつづきです。》


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)