どうみる?財政赤字(12)-「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言(山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 《※連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 「(11)強きを助け弱きをくじく税の転換?」 のつづきです。》


 ――法人税についてはどうすればいいのでしょうか?


 ◆「負担能力に応じた負担原則」で法人税引き上げが必要


 山家 税制における「負担能力に応じた負担原則」というのは、負担能力の高いところにきちんと負担してもらうことです。それには、これまでお話した証券優遇税制の是正、所得税・住民税の最高税率の引き上げ、そして、大企業に対する法人税率の引き上げが必要です。


 菅政権は、法人税減税をやろうとしていますが、国民に対しては財政赤字だから消費税を上げなければいけないと言って、大企業に対しては財政赤字で大変だけれども法人税は下げなければいけないと言う。国民の暮らしが大変だから消費税を上げず、大企業は余裕があるから法人税を上げるというのなら話はわかるのですが、まったく逆のことをやろうとしています。


 ◆法人税減税の議論は前提が間違っている
   「日本の法人税は高い」という前提のウソ


 いまの法人税減税の議論の前提には大きなあやまりがあります。日本の法人税は非常に高いように言われていますが、下のグラフにあるように大企業の公的負担はむしろ低い。そもそも法人税を減税しなければいけないという根拠がないのです。
 以下、いくつかのデータを紹介して、法人税減税ではなく、法人税の引き上げが必要であることを指摘しておきます。


 ▼日本の法人負担は低い
 【法人所得課税と社会保険料の法人負担の国際比較(財務省、2006年)】

くろすろーど-国際比較


 上のグラフは、財務省のホームページに掲載されている「平成22年度税制改正の大綱」の「参考資料 法人所得課税及び社会保険料の法人負担の国際比較に関する調査(2006年3月)」です。


 企業は、どこの国でも「法人税」と「社会保険料」を負担しなければなりません。「企業の負担」を問題にするなら、「法人税」だけでなく「社会保険料」を合わせた「企業の公的負担」を国際比較するべきです。そうすると、上のグラフにあるように、自動車製造業の「企業負担」は、フランス41.6、ドイツ36.9、日本30.4、アメリカ26.9、イギリス20.7で、日本は先進5カ国中3位です。情報サービス業の「企業負担」にいたっては、フランス70.1、ドイツ55.7、アメリカ46.7、日本44.2、イギリス39.3と、日本は5カ国中4位です。「法人税」の負担だけで比較しても、情報サービス業と金融業では、日本企業はアメリカ企業よりも負担が軽くなっています。このことからも「法人税が高いと国際競争力が低下する」とか、「企業が海外に出て行ってしまう」などという主張がまったくのデタラメであることが分かります。


 ◆法人税の表面税率だけ見ても日本はアメリカより低い


 法人税をめぐるもう1つの大きな問題は、日本経団連が「高い」と批判している「法人税の実効税率」は、実際に企業が負担している税率とは大きくかけはなれて低いという点です。


          ▼法人所得課税の実効税率の国際比較(財務省)

くろすろーど-法人税


 上のグラフは、財務省のホームページで紹介されている「法人所得課税の実効税率の国際比較」です。このグラフだけを見ても、日本の法人税の実効税率はアメリカより低いので、「日本の法人税は他国より高い」と言い立てるのがおかしな主張だと分かるのですが、日本経団連などはこの問題ではなぜかアメリカだけ除いて、ヨーロッパ諸国とだけ比べて「日本の法人税は世界最高だから下げろ」などと主張しています。


 この上のグラフだけを見るとアメリカさえ除けば確かに日本は高く見えます。ところが、日本経団連の税制担当幹部は、正直に「日本の法人税は高くない」と明言しています。それを示すのが下のグラフです。


     ▼主な大企業の実際の法人税負担率
      【損益計算書(2003~2009年度)から経常利益上位100社】

くろすろーど-実際の法人負担



 ◆日本の法人税は高くない、法人税減税の理屈はない、
  ――日本経団連の税制担当幹部が明言


 日本の経常利益上位100社の実際の法人税負担率は、平均で33.7%しかありません。日本の法人実効税率は40.69%なのに、なぜこんなに低くなるのでしょうか? そのことについても日本経団連の税制担当幹部が正直に解説してくれていますので最後に紹介しておきます。


 ▼阿部泰久・日本経団連経済基盤本部長「あるべき税制論議とは?」(税の専門誌『税務弘報』2010年1月号掲載)より[※カギカッコの中は原文そのままの引用で、( )の中は前後で説明しているものを補足しています]


 「私は昔から日本の法人税は、みかけほどは高くないと言っています。」

 「(日本の法人税は)表面税率は高いけれども、(研究開発減税や租税特別措置など)いろいろな政策税制あるいは減価償却から考えたら、実はそんなに高くない」
 「税率は高いけれども税率を補う部分できちんと調整されている」
 「(日本の法人税は)今でも断言できますが、特に製造業であれば欧米並み」
 「(製造業では)実際の税負担率はおそらく30%台前半」
 「欧米の普通の国に比べて高いという実証データはありません」


 ▼阿部泰久・日本経団連経済基盤本部長「抜本的税制改革の諸課題」(『国際税制研究』2007年No.18掲載)より


 「日本は40%台に下げたと言いながら、その間、他の国がもっと税率を下げてしまったので、調整が必要だというのは建前的な発言」
 「日本で本当に国際的に活躍している大企業の実際の税負担率は、実効税率=表面税率ほど高くありません」
 「ただちに法人実効税率を下げなければならないという理屈はあまりない」


(つづく)


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)