経団連が大企業の内部留保を還流すべきと提言(どうみる?財政赤字(16)山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

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 ――「大企業の内部留保を日本経済に還流させる必要がある」との指摘は、少しずつですがマスコミも報道し始めていますね。


 ◆マスコミも無視できない
  税の負担能力が格段に高まる大企業の実態


 山家 大企業を中心とした企業部門は、税の負担能力が格段に高まっています。財政赤字を解消していくために、負担能力が高まっている大企業に負担をしてもらうのが本筋だということは、マスコミも無視できなくなってくるでしょう。そして、労働者の賃金引き上げや法人税増税などによって、大企業の内部留保を社会に還流させれば、内需が拡大して日本経済が活性化するという正論も無視できなくなると思います。


 ◆小泉政権時代から大企業は実質的な大減税という
  「国家の恩恵」を受け続けてきた


 私も先日、週刊誌『AERA』(朝日新聞出版発行)からコメントを求められました。その『AERA』(11/15)の記事のタイトルは「菅政権に騙されるな 日本の法人税は高くない」というもので、期せずして先日のブログのタイトルと同じでした。(※「どうみる?財政赤字(12)-「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言」


 その記事では、小泉政権時代にすでに「大企業は、実質的な大減税という『国家の恩恵』を受け続けてきた」として、「たとえば研究開発に投資した費用の一部を税額控除できる制度が04年度から拡充された。このため、法人税の負担率が10%程度軽減される企業はザラ。銀行もずいぶん助けた。不良債権の処理課程で出た大赤字。この赤字分を次年度以降に繰り越して黒字分を相殺する優遇策が、やはり04年度に拡充された。三菱東京UFJや三井住友、みずほをはじめ法人税ゼロ銀行が続出した。これらの実質大減税のため、企業利益は上がっても法人税収はそれほどは増えない構造となった」とし、加えて「企業が税以外に支出する社会保険料と合わせた企業負担率を国際比較してみると、日本企業の負担は決して高くない」、「情報サービス業にいたっては日本の44.2%に対してフランスは70.1%だ。課税所得に対する比率で、他業界も軒並み日本の方が低い」と指摘しています。


 ◆企業に眠る200兆円
  キャッシュリッチが生む悪循環


 それから、金融投資情報の週刊紙『日経ヴェリタス』(第136号、10月17日~23日、日本経済新聞社発行)は、1面トップから4面まで、4ページにわたって「企業に眠る200兆円」を特集しています。それぞれのページには、「キャッシュリッチが生む悪循環」、「設備投資・人件費の抑制→消費低迷→デフレ」、「企業の過剰貯蓄はデフレスパイラルを加速する」などの見出しを打っています。


 ◆デフレ、円高――

  「カネ持ち企業は自ら生み出した状況に苦しんでいる」


 本文では、「日銀の資金循環統計によると2009年度末、民間非金融法人(企業部門)の預貯金は203兆8,685億円とかつてない規模」、「東証1部上場企業(金融を除く1,538社)に限っても手元資金は過去最高の68兆円。インドネシアとマレーシア、フィリピンの計3カ国の株式市場をまるごと買える」と指摘しながら、「企業の懐に眠る巨額の資金。投資に回らず、雇用機会の創出にも結びつかない」として、「雇用者報酬は1990年代後半のピークから低下傾向にあり、09年度は253兆円と97年度より26兆円少ない」、「92年度に51兆円あった家計の資金余剰は昨年度11兆円に縮小。70年代に20%を超えていた家計の貯蓄率は最近は2~3%だ。金利低下も進んで、家計が預貯金から得る利子所得は住宅ローンなどの利払いを差し引くとマイナスだ」と指摘した上で、家計が落ち込み、企業に過剰貯蓄が生じることで、デフレや円高を招き、「カネ持ち企業は自ら生み出した状況に苦しんでいる」と記事を結んでいます。


 ◆人件費抑制→消費低迷→企業が内部留保を強化
  企業の過剰貯蓄がデフレスパイラルを加速する


 この記事の中で、デフレスパイラルとして、「人件費抑制→所得増えず→消費低迷→デフレ→企業業績を圧迫→将来の資本不足への不安→企業が内部留保を強化→人件費抑制…」の悪循環が指摘されています。


 この「キャッシュリッチが生む悪循環」、「企業の過剰貯蓄はデフレスパイラルを加速する」ということが、記事の結論です。この悪循環を打開するためには、労働者の賃金引き上げなどで、大企業の内部留保を社会に還流する必要があるということです。


 日本経済新聞社の週刊紙がこうした特集を組むように、日本経団連も、このことを自ら指摘せざるをえなくなっています。


 ◆経団連が、国内経済の活性化に向け、
  内部留保の一部を国内に還流させるべきと提言


 日本経団連が今年7月20日に発表した提言「『新成長戦略』の早期実行を求める~民主導の持続的な経済成長の実現に向けて」の一節を最後に紹介しておきます。


 「海外の成長の果実を国内に還元し、わが国の成長につなげるという視点も重要である。海外現地法人の内部留保残高は、2008年度には19.6兆円と2004年のほぼ倍の水準となっており、とくにアジアでの増加が著しい(図表16)。現地で再投資を行い、競争力を強化することは重要であるが、国内経済の活性化に向け、内部留保の一部を国内に還流させ、新たな成長が期待される分野への前向きな投資と雇用の創出に結び付けるためのインセンティブ拡充について、取組みを強化すべきである。」

くろすろーど-経団連内部留保


(つづく)


 《※この記事は、連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 「(11)強きを助け弱きをくじく税の転換?」 「(12)「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言」

「(13)法人税の増税が必要」 「(14)軍事的には小さな政府が必要」 「(15)日本の消費税負担はすでにスウェーデン並み」 のつづきです。》


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)