民主党政権の新成長戦略で赤字解消は困難(どうみる?財政赤字(18)山家悠紀夫さんに聞く) | くろすろーど

くろすろーど

国公労連オフィシャルブログ★貧困と格差なくし国民の暮らし守る行財政・司法へ

 ――民主党政権の新成長戦略で財政赤字は解消していくでしょうか?


 山家 財政赤字を解消していくことは困難でしょう。なぜなら、財政赤字の解消には、構造改革路線から「国民生活第一」への政策転換が必要ですが、民主党政権は構造改革路線に回帰してしまっているからです。


 ◆強きを助け弱きをくじく法人税減税


 財政赤字を解消していくためには、構造改革でつくられた「強きを助け弱きをくじく不公平税制」を転換して、「負担能力に応じた負担」を求めなければなりません。ところが、民主党政権は6月18日に閣議決定した「新成長戦略」に、「法人税減税」を明記しました。「法人税減税」は「強きを助け弱きをくじく不公平税制」の根幹であり、自公政権時代に実施されてきた構造改革路線そのものです。


 ◆民主党政権と財界のエールの交換


 この「法人税減税」を明記するまでの過程には、民主党政権と財界のエールの交換がありました。民主党政権が2009年12月に閣議決定した「新成長戦略(基本方針)」には、「国民生活第一」ではなく「成長第一」として、「規制緩和」「民間活力の活用」「FTAの推進」などが明記されましたが、この段階では、「法人税減税」までは明記されていませんでした。


 これに対して、今年4月に経団連が「豊かで活力ある国民生活を目指して――経団連成長戦略2010」を発表し、「基本方針で打ち出された方向性は、概ね、経団連の考え方と一致している」と評価しながら、企業の国際競争力の強化の重要性と、そのための「法人実効税率の引き下げ」の必要性を強調します。


 ◆政治主導でなく財界主導


 そして今度はこれに民主党政権が応えます。今年6月に閣議決定した「新成長戦略」に「法人実効税率を主要国並みに引き下げる」という語句を挿入したのです。この過程は、民主党政権と経団連によるエールの交換と言えるでしょうし、「政治主導」ではなく「財界主導」と言えるでしょう。


 「国民生活第一」は、どこにいってしまったのでしょうか?


 2009年9月、鳩山政権発足に先だっての連立政権の政策合意には、「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策をはじめとした相次ぐ自公政権の失政によって国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している」、「連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置づけ、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる」と明記するなど、基本的な立ち位置の認識について、構造改革路線から「国民生活第一」へという政権交代の背景を一定正しくとらえていたと評価できるものでした


 ◆日本経済が悪い原因は「政治的リーダーシップの欠如」?


 ところが、いまの「新成長戦略」は、その立ち位置から自公政権の構造改革路線とほとんど同じものになってしまっています。たとえば、「新成長戦略」の第1章の冒頭に「90年代初頭のバブル崩壊から約20年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠たる不安に萎縮している」とした上で、この章の結びに「これまで、日本において国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に最大の原因がある」、「日本の将来ビジョンを明確に示した上で国民的合意を形成し、リーダーシップを持って目標に向けて改革を推し進める」などとしているのです。


 さきほど紹介した連立政権の政策合意にあった「自公政権の失政によって国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している」という立ち位置と、「新成長戦略」の「政治的リーダーシップの欠如に最大の原因がある」という立ち位置はまったく違います。完全に自公政権の構造改革の誤りは視野からはずれてしまっています。


 しかも、日本経済が悪い原因を、政策が悪かったわけではなく、「政治的リーダーシップの欠如」にあるとしているのです。小泉政権にリーダーシップが欠如していたとはとても言えません。強力なリーダーシップのもと、構造改革をどんどん進めたために、日本経済が悪くなりました。この認識が、「国民生活第一」と言っていた民主党の政策のもとになっていたのですが、とんでもない認識へと変わっています。


 ◆「国民生活第一」から「財界第一」の構造改革へ回帰


 「新成長戦略」にあるように、「90年代初頭のバブル崩壊から約20年」にわたって、「政治的リーダーシップの欠如」によって、「改革が進まなかった」としているわけですから、「新成長戦略」の内容が、自公政権時代の構造改革路線と同じであってもなんの問題もないことになります。


 「強きを助け弱きをくじく不公平税制」をはじめとする構造改革路線によって、財政赤字は悪化し続けました。この構造改革路線を転換しなければいけないのに、わずか1年もたたないうちに、民主党政権は、自公政権の構造改革路線への批判から「政治的リーダーシップの欠如」批判へと立ち位置を変え、「国民生活第一」から「成長第一」「財界第一」の構造改革路線に回帰してしまっているのです。


(つづく)


 《※この記事は、連載「どうみる?日本の財政赤字(山家悠紀夫さんに聞く)」の「(1)孫子の代まで借金漬け?」 「(2)国の財政と家計は性格が違う?」 「(3)日本がギリシャのようになる?」 「(4)国民を黙らせる「呪文」?」 「(5)公務員人件費が高いから財政赤字が増えた?」 「(6)社会保障費が財政赤字の原因?」 「(7)赤字の原因は大型公共事業?」 「(8)法人税減税・高額所得者減税が赤字を拡大?」 「(9)賃上げが赤字減らす?」 「(10)最賃アップと派遣法改正が必要?」 「(11)強きを助け弱きをくじく税の転換?」 「(12)「日本の法人税は高くない」と経団連幹部が証言」 「(13)法人税の増税が必要」 「(14)軍事的には小さな政府が必要」 「(15)日本の消費税負担はすでにスウェーデン並み」 「(16)経団連が大企業の内部留保を還流すべきと提言」 「(17)非正規雇用改善・賃上げ成長戦略が財政赤字なくす」 のつづきです。》


(聞き手・編集=国公労連・行革対策部 井上伸)