ヴィーナス・プラスX (未来の文学)/シオドア スタージョン
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作者のスタージョン(1918-1985)はアメリカのSF作家です。SFの王道路線ではありませんが、一般的な評価はかなり高いですね。作者の名前を冠する「スタージョンの法則」なんてものもあります。
「スタージョンの法則」は、「SFの9割はクズだが、あらゆるものも9割はクズである」というもの。要するに、駄目な作品でジャンルを評価すると、全てのジャンルが駄目になっちゃうから、そんな評価方法は意味がないよって意味だと解釈しています。
さて本作は1960年に出版されたSF小説で、ジェンダー・ユートピア小説の嚆矢として有名です。
ジェンダー・ユートピアを説明するために、ちょっと、用語解説をしますね。
先ず、ジェンダーから。ジェンダーは、社会的性差または社会的性別なんて訳され、セックスと対を成す言葉です。セックスというのは、生物学的な性別のことで、要するに、体の構造による男女の違い、また、男女そのものを指します。それに対してジェンダーは、社会的・文化的に決定された性別のことで、簡単にいえば、男は外で仕事をして女は家を守るといったような、男女に関する一種のステレオタイプです。
わざと分かりづらい例を、古事記から引用すれば、「吾が身は、成り成りて成り合はざる處一處あり/我が身は、成り成りて成り餘れる處一處あり」がセックス、「女先に言へるによりて良からず」がジェンダーです。
とはいえ、ジェンダーは、生物的な性別と社会的な性別とを合わせた男女の違いという意味でも使用されることもありますし、女性の意味で使用されることもありますので、ちょっと注意が必要です。結局は、文脈から判断する感じ。
次にユートピア。ユートピアはこのブログでも何回か紹介していますが、トーマス・モアというイギリスの人文主義者の造語で、一般的には理想郷という意味で使われています。ただ、文学では、もう少し限定的な意味で使われていまして、主に平等を旨とする特定の体制を維持するために人を徹底的に管理する社会または世界といった感じで掴んでおけば、あまり問題ないかと思います。
ということで、ジェンダー・ユートピアは、男女間が平等な社会という感じになります。ただ、また面倒くさいことに、ジェンダー・ユートピアは、女性にとっての理想郷、つまり、完全に女尊男卑な社会という意味でも使用されることがあったりもします。
でようやく、ヴィーナス・プラスXの話になります。
ヴィーナス・プラスXは、二つの別々な話が交互に語られるタイプの構成です。このブログで紹介した中では、マリオ・バルガス=リョサの『楽園への道』が同じ構成です。
一つ目の話では、チャーリーという男が目覚めると、自分が知らない世界にいることに気付きます。この世界というのが両性具有のレダム人が生活する未来で、男女に別れている人間は死滅しています。チャーリーは、レダム人から頼みごとをされるのですが、メインとしては、レダム人の風習や世界観を描くことにある感じです。ただし、最後の方で、物語は急展開していきます。
二つ目の話は、当時のアメリカの一般家庭の生活が描かれていて、ジェンダー問題を浮き彫りにするような会話がメインです。
一つ目の話はSF的な要素もあってか、結構読ませますが、二つ目の話は、やりたいことは分かりますが、思想書ではなく小説として見れば退屈かなと。まあ、ユートピア文学というのは、基本的に退屈なものですが。
おススメとは言いづらいですが、読んで損することもないかと思います。っていかんなぁ。本当は本の素晴らしさを伝えたいのに、これでは・・・