夜鳥 (創元推理文庫)/モーリス ルヴェル
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今回は、フランスの小説家モーリス・ルヴェル(1875-1929)の短編集『夜鳥(よどり)』を紹介します。
作者のルヴェルは、邦訳のほとんど全てが戦前という、いわゆる忘れ去られた作家です。本書は、その戦前の訳を現代仮名遣いに改めたもので2003年に出版されました。ルヴェルは、本書で復活したといっても過言じゃないと思います。もし、本書が出版される前からルヴェルを知っていたとしたら、相当なマニアでしょう。
ですが戦前は、少なくとも探偵小説界では注目を集めていたようで、本書には、江戸川乱歩や夢野久作のルヴェルに対する礼賛文が収録されています。つまり、乱歩好きや久作好きにはたまらない作品群なのです。
本書には31編の短編小説が収録されていますが、そのほとんどが5~10頁程度ですので、ショート・ショート集といってもいいかもしれません。
各編は、広い意味では恐怖小説にジャンル分けされる作品になると思いますが、幽霊とか妖怪とか、そういった超常現象とは全くの無縁で、人間の闇の部分を描いた暗く切ない話が多いです。
さて、雰囲気を伝えるために、「幻想」と題された一篇をネタバレありで紹介します。
「幻想」では、たった一時間でもいいからお金持ちになりたいと願う乞食が盲の乞食に出会います。乞食は自分よりも境遇の悪い盲の乞食に同情し、なけなしのお金を使って、盲の乞食に食事をおごります。
盲の乞食は、目が見えないので乞食をお金持ちと思い込み、一方、乞食は、人におごったことで、あたかも自分がお金持ちになったような幻想を抱きます。ですが、食事を終えると、乞食は自分が本当に無一文になったという現実にかえってしまい、盲の乞食と分かれると、河に身投げをして死んでしまうのです。
盲の乞食は、身投げした人が、おごってくれた人とは気づかずに、とぼとぼと歩き去るところで話は終わります。
う~ん、この話の息苦しいまでに切ない雰囲気が全く伝わっていませんね(苦笑)。でも、まあ読んでみてください。損はしませんよ。それは請け合います。